The number that has been already counted
遅くなりました。続きです。「私」の過去に返ってみました。
私は、あの頃を思い出す。毎日が動いていた、いや、実は動いていなかったあの頃をーー。
「ねぇユウ、この問題解けた?」
放課後の教室で、私は三角方程式の問題を指して言った。
「うん、解けたよ」
「本当!? 教えてもらえる?」
「うん、いいよ」
「ありがとう! sin2θの変換まではできたんだけどさーー」
成る程、ここかー、とユウは頷くとシャーペンの芯を出して説明を始めた。
帰り道、私は足元の小石を軽く蹴りながら言った。空は青く澄み渡り、そよ風が心地よい。
「中学生なのにね~、なんで数Ⅱの内容やってるんだろね~?」
あの三角方程式の問題は、ユウに教えてもらったお陰で何とか理解することができた。
「そりゃあ、田舎とはいえ東京の進学校だからじゃん。このぐらいやっとかないと、大学入れないよ?」
「まー、確かにthe capital of Japanだもんね~。しょうがないか」
自分で選んだ道でもあるしね、と愚痴をやめる。
「それにしてもさ、みんなすごいよね。あの問題すらすら解いてたじゃん」
何気なく呟いた言葉に、ユウが反応する。
「だって昨日やった……」
そこまで言ってユウは黙った。
「ん? どうしたの?」
「……ううん、何でもない。ごめん、今の忘れて」
「……そっか……」
私はそう呟きながら考える。昨日、何があったっけ。昨日、どうしても思い出せない。昨日……、
次の瞬間、私は轟音に飲み込まれる。
「えっ!?」
気がつくと、ユウがいなくなっていた。代わりに、視界の大半は土砂降りの雨を降らせる灰色の空と、黄土色に濁った川の水で占められていた。身体中がちぎれるように冷たい。私は、流されていた。
「誰か、誰か助けて‼ 助けて‼」
私の声も、荒れ狂う雨と風と川に押し流される。どんどん体が動かなくなる。呼吸がうまくできない。
「誰か……誰か……」
体が、沈んでいく。意識が、遠のいていく……。
「ーーーねえ、しっかりして‼」
目の前にユウがいた。
「気がついた? 良かった」
ユウはほっと息をついた。
「……怖かった。こんなこと今までなかったのに」
「?どうしたの?」
「……ごめん、何でもない」
「……」
私は、何も言うことができない。何かを隠しているユウに。無言のまま、並んで歩いた。さっきまで晴れていた空は、いつの間にか雲が目立つようになっていた。
来年度から受験生になります。今年度中に書ききりたいな~。