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海風の街 ライフストーリー  作者: SPECIAL BAY


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3/9

流湾、映画館へ行く (第3部)

映画が始まった―


流湾(るわん)、陽呼子(ひよこ)、

鮫郎(さめろう)、佳夏(かなつ)の

4人は映画館のスクリーンに注目した。


真っ暗な場内に

大きな効果音と大迫力の光が

溢れていた。


今日、陽呼子の誘いで見に来た

映画の内容は

ヒューマンドラマで、


簡単にいうと

主人公が多くの困難の中で

とある出会いがあって

そこから人生が変わったという

物語である。


流湾は都会の景色を歩く

主人公に注目して

ストーリーを想像しながら見ていた。


しかし、

映画の途中で

流湾はスクリーンよりも

横に座る陽呼子の方が気になってきた。


映画の内容も相まって

なんだか、陽呼子が本当に横にいるのか

分からない感じがしてきたからだ。


流湾はそっと横の席を

気づかれないように見てみた。


しかし、暗闇で全く分からない。


ちょうど、映画も明かりが暗いシーンで

これ以上、横をみても分からないし、

怪しい人だと思われそうである。


そのため、横をみることはやめた。

きっと、陽呼子は真剣に見ているのだろう。


唯一、分かることは

右隣の鮫郎が映画の最初からポップコーンを

ずっと食べていることだけである。


鮫郎は違う映画を見ているんじゃないかと

思うくらいにおいしそうに

ポップコーンを食べていた。


その姿が光に浮かぶたびに

流湾もポップコーンを買えばよかったと

少し後悔した。


そんなことを思いつつ

もう一度、

映画に集中することにした。



映画も終盤―



流湾は一つの作品の終わりを感じていた。

エンディングには人気のシンガーである


『フカヒレ』がこの映画のために

書き下ろした『青夜街』が流れていた。


エモーショナルな旋律に

劇場の観客は包まれていた。


流湾は涙もろいので泣いていた。

とりあえず、どんな作品でも

誰かがいなくなってしまうなどのシーンを見ると

泣いてしまうのだ。


単純だなと思われるかもしれないが

涙は自然に溢れる・・。


流湾は恥ずかしいのですぐに涙を乾かそうとした。

あまり乾かずに焦る。

気付かれないように急いで涙を拭った。


スクリーンの映像がぼやけていた。


ふと、また隣にいる陽呼子が気になった。

陽呼子は何を感じたのだろうか?


そっと横を見た。

やはり暗くてあまり表情は見えない。


今、変に目が合うのは気まずいので

陽呼子の表情を探るのは諦めた。


右隣にいる鮫郎は

ポップコーンがなくなり

仕方がなく口を開けて座っていた。

(眠ってはいない。)


佳夏の様子は遠くて見えなかったが、

たぶん、エンディングの雰囲気を

楽しんでいると思う。


そして、映画は幕を閉じた―



映画館を出た仲良し四人組は

映画の感想などを話していた。


流湾はもう少しコミカルで

明るい映画が見たい気分だったが、


陽呼子が満足そうな顔で

「おもしろかった~」といっていた。


その反応をみると

確かにおもしろく感動するシーンが

たくさんあったように思えてきた。


それに映画の最後の方のシーンは

陽呼子との出会いを

思い出すようなシーンもあって


隣の陽呼子もあの冬の日を思い出して

同じお守りを

握っていたらいいなぁとも思った。


本当はもっと陽呼子が

分かるシーンがあっても

よかったとは思いつつも

その映画の評価は上がった。



次に4人は鮫郎の圧に押されて

ゲームセンターに入った。


鮫郎は嬉しそうな顔で

クレーンゲームの方へ向かっていく。


そして、クレーンゲームの台の前に立って

高らかに宣言した。


「よし、獲るぞ!」


「おう!」


佳夏だけが元気よく反応した。


流湾は陽呼子が喜びそうな

ヒヨコのぬいぐるみのクレーンゲームがないか、

店内を探してみることにした。


鮮やかライトが流れ星のように

キラキラと流れている店内。


そのきらめく星と飛び交うUFOを

横目に歩いていた。


そんな僕の斜め後ろ。

ずっと陽呼子がはぐれないようについてきていた。


なぜか分からないが

陽呼子は何も言わずに

流湾の行く方へついてくる。


その様子は他人から見れば

まるで恋人同士である。


手を繋ぐことができれば

誰が見ても恋人同士になる。


流湾は急に緊張してしまった。

陽呼子がついてきている。


ただそれだけで頭がいっぱいになる。

もっと近づいて欲しいような

離れて欲しいような

変な気持ちになってしまった。


流湾はいつもより

緊張した感じで話しかけた。


「陽呼子・・、このお菓子に

マスカット味なんてあったんだね・・。」


陽呼子もクレーンゲームの景品の

お菓子を見ながら言った。


「あっ。本当ね・・。

見たことないかも・・。」


なんだか陽呼子の様子もおかしかった。

いつもより落ち着きなく

手を動かして緊張している様子である。


しかし、この緊張感は少し悪くないと思えた。

ポジティブにも捉えられるためである。


それは陽呼子も恋人同士みたいになっている状態に

緊張しているという説である。


そう考えるとチャンスでもあるように思えてくる。

流湾はこの状況になんだか燃えてきた。


急に流湾は自信を持ったように

陽呼子に言った。


「陽呼子!

このクレーンゲームのぬいぐるみを

とってプレゼントするよ!

見といてよ!」


陽呼子は急に変なテンションになった

流湾を見て不思議そうな顔をした。


しかし、その後、何かに気付いたように微笑んで

おもしろそうにクレーンゲームの方を見た。


大きな猫のぬいぐるみがあった。

流湾はそのぬいぐるみをゲットできるという

謎の自信で満ち溢れていた。


一発でゲットして驚く陽呼子の顔が浮かぶ。

そう思うとこれはやるしかない。


流湾は自信ありげに

100円玉をコイン投入口に入れた。


そして、愉快な音楽が流れる中、

アームが右に動くボタンを

クレーンゲームのプロであるかのように

しなやかに押した。


期待をのせたアームはゆっくりと右へ動く。

その後、後ろに動くボタンをまたかっこつけて押し、

ここだと思う瞬間に離す。


少しずれてしまった気もするが、

ゲットできる気がする。

祈りを込めた。


「よし、いけ~!!」


その願いの声とともに

見事にアームは猫のぬいぐるみの方へと進んでいき、


猫のぬいぐるみをしっかりと掴むという

想像していた展開になると思っていた・・。


なのに・・。


残念ながら

想像していた展開にはならなかった。


アームは猫のぬいぐるみを

避けるように降りていった。


アームは猫の手にあたった。

まるで猫のぬいぐるみは掴まれるのを

嫌がるようにアームをはじいた。


その結果、アームは猫を掴むことはなかった。

猫に嫌がられたアームは何も掴めずに寂しそう。


陽呼子が見る中、自信満々にやったのに

惜しくもないショボい結果である。


何も掴んでいないアームが

恥ずかしさを運んでくる。


少し動いた猫のぬいぐるみの表情が

僕のことをあざ笑っているみたいである。


そんな顔で見るな~!

陽呼子は笑っていた。


「流湾くん、ちゃんと見ていたよ~。

惜しかったね~!」


耳が熱くなるくらいに

恥ずかしくなってきた。

もう~~~。


さすがにこのままでは

終われないので、

もう一回、チャレンジすることにした。


今度は冷静に・・。

冷静に・・。


そう自分に言い聞かせて

コインをマシンにいれた。


今度こそは絶対に獲って

陽呼子に褒めてもらおう。


そう思ってアームを動かすボタンを押した。

ボタンに触れる手が震える。

失敗できない緊張感に満ちていた。


「よしっ! 今度こそ・・。」


集中する。


「次はこのボタンで・・。」


もっと集中する。


「慎重に・・。慎重に・・。」

これまでにないほど集中する。


「いくぞ!

・・・・・・・ん?

あっ! ちょっと!!」


そして流湾は・・


・・やらかした。


「あ~~。ボタン押し損なっちゃった!

アームが降りちゃう~~。待って~~!!」


ここで痛恨のミスである。

アームを後ろに動かすボタンを押すときに、

緊張で手が震えてしまって、

一瞬だけボタンに触れてしまったのである。


その結果、アームは猫のぬいぐるみどころか、

何もないところに降りた。


当然のように何も掴まなかった。

寂しいアームが

恥ずかしい気持ちだけを

運んで戻ってきた。


「なんで、こうなるの~~!!」


流湾は恥ずかしくて陽呼子の方を見られない。

そんな流湾を見て、陽呼子はまた笑っていた。


「ふふふ!

アームが猫ちゃんの前で揺れていて

ねこじゃらしみたいだったね!

でも、どちらかというと

遊ばれているのは流湾くん。

残念だね~。」


陽呼子はそう言ってまだ笑っている。

流湾は恥ずかしさのあまり、

この場所から走り去りたくなった。


目のやり場のない流湾は

赤く染まった顔で遠くの方を見る。


遠くの方で佳夏が

大きなお菓子をゲットして

鮫郎とハイタッチしていた。


「サメくん、ゲットできたよ~。」


「佳夏ちゃん、おめでとう!!」


楽しそうである。


「もう~。 僕も陽呼子と

ハイタッチしたかったのに・・。」


陽呼子はまだ笑っていた。


その後、ざっとゲームセンター内を見てまわった。

陽呼子が喜びそうなヒヨコのぬいぐるみも、

鮫郎が喜びそうな

サメ界のキングモンスターのぬいぐるみも、

佳夏が夢で見た魔法少女のフィギュアも、


ここのクレーンゲームの景品にはなかったので、

無駄なお金と自尊心は使わないと思い

クレーンゲームはしなかった。


流湾は後悔を残しつつも

ゲームセンターをあとにした―


(つづく)


読んでくださり、ありがとうございます!!

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