日本呪術体系にむけての覚書
古来、邪なるもの、或いは強き霊力を有するものを封ずるに際し、これを術者の内へ取り込み、その力を奪ひ、あるいは弱める法は諸処に見られる。
ここにいう「取り込む」とは、必ずしも文字通り体内へ納むることのみを意味せず、呪具、依代、符、器物等を介し、その力を術者あるいは特定の器へ移す儀を含むものである。
されど、古き呪法の中には、封ずべきものの一部、あるいはその身そのものを食することによって力を取り込む例も散見される。
血、肉、骨、臓腑その他を口より体内へ納むることは、対象の力を己が内に留め、外へ働くことを許さぬための、最も直接なる方法と考へられたのであらう。
奈良県吉野郡水杜村に伝はる姫巫女の伝承も、この類例の一つと見ることが出来る。
同地の伝承において、巫女は大蛇を滅すること能はず、遂には己が身をもってこれを封じたりといふ。
また後世、姫巫女に見立てたる少女が蛇を食する祭事の存したことも、単なる故事の再演というよりは、封印を維持し、あるいは弱まりたる術を補ふための行為であった可能性を考ふべきであらう。
かかる方法は、極めて強き封じとなる反面、術者の肉体に甚大なる負担を与ふる。
対象の力が強ければ強いほど、その影響は術者自身にも及び、病、衰弱、精神の変調等を生じ、ときには術者の死をもって術が完成することさへあるといふ。
したがって、一度この法をもって成された封印を破ることは容易ならず。
古伝によれば、強き封印を解くためには、その成立に用ひられたものと同等、あるいはそれに準ずる術を必要とする。
その一法として記されるのが、いわゆる返しの法である。
すなはち封印を成したる手順を、その始めより終りまで逆に辿ること。
同じ場所、同じ物、同じ役を用ゐ、封じの際とは逆なる順に儀を行ふことで、結ばれた術をほどくものなりといふ。
もっとも、その実例について確たる記録は少なく、以上は伝承ならびに旧記より推察したるに過ぎない。
さらに文献に当たる必要これあると思ふが覚書として記す




