38 ふつうはスキルは選べない
「母上が迷惑をかけてすまんな。」
いつもの休憩所でマーカスが殊勝なことを言う。
「伯母上は遠慮がないよ。」
「今は燥いでおられるからな。」
「なんで伯母上じゃなく僕の母上の方が苦手なの?」
「母上は怒る事は無い。伯母上はいつも怒る。」
「なんで怒られるの?」
「屋敷を走ったり、やってはダメと言われたことをやるからだ。」
「そりゃあ怒られるよ。」
「子どもはそういうものだ。」
「僕は走らないし、ダメと言われたことはやらないけど?」
「5歳なのに老成してるな・・・。」
「してないよ。ぴちぴちの5歳だよ。」
「貴様は私に爵位を譲ろうと画策してたが、自分はその後、何をするつもりだったんだ?」
「そんなもん釣りだよ。のんびり釣りがしたいんだよ。」
「老成してるじゃないか。」
「そ、そうかな?」
「まあいい、とりあえず飴をくれ。」
そう言って差し出された手のひらは2つだった。
マーカスといつの間にか現れた伯母上の手のひらだ。
俺は大人しく飴を1つずつ渡した。
「ふふふ、ありがとうレイリー。私は怒りませんよ?」
何処から聞かれていたのか・・・。
「うちの母上も怒りませんよ。」
あんまりね・・・。
「レイリーはいい子ですわ。」
「どうも。」
「うちの子になりたいでしょ?」
「いえ、なりたくないです。」
「えっ、なんで?」
なんでって・・・。
「母上、レイリーが嫌がってるではありませんか。」
「嫌がってません。」
それ伯母上のセリフちゃうよ。
「そんなことより伯母上、お茶会はいつ開催でしょう?」
「今週中には決まります。」
正直、さっさと終わって欲しい。
そして釣りに行きたい。
「マーカスが釣りに行きたがってるので早く決めてください。」
「おいっ、ひとのせいにするんじゃない。」
「仲いいわね、二人とも。」
「同年代の知り合いはマーカスしかいません。」
というか子供の知り合いは居ない。
「こ、コイツ、私の半分しか生きてないくせに同年代にしやがった。」
「よかったですねマーカス。同年代の従弟が出来て。」
「いや別に、同年代の友人は居ますし。」
「な、なんですとっ!マーカスのくせに。」
「マーカスのくせにとは何だっ!」
いけねっ思わず口に出てしまった。
「マーカスに同年代の友人は存在しませんの。」
「なんだ架空の友人だったか。」
「違うわっ!母上、スレイが居ます。スレイが。」
「ああ、ベスナー男爵家の。でもマーカス、こちらが友人と思っていても相手方もそう思っているとは限りませんよ。」
伯母上の容赦のない一言。
「そ、そんなことは・・・ない・・・はず。」
マーカスも自信はないらしい。
まあ普通そうか。
相手がどう思ってるかなんてわからないし。
「スレイってヴァレン男爵の息子さんですか?」
「ええ、ヴァレン様の次男になります。マーカスと同じ年ですわ。」
「へー、強そうですね。」
「ふんっ、私の方が強いがな。」
「またまた~、そういうのいいから。」
「そういうのとは何だっ。実際に私の方が強いわっ。あやつは素質があるのにやる気がない。」
「へー。」
「スキルも剣術で申し分ないのに、ヴァレン様から逃げ回ってるイメージですわ。」
なんという宝の持ち腐れ。
まあ仕方ないよね。転生者でもない限りスキルは選べないし。
「貴様に・・・いや似てないか。キャスティングしてる時の貴様は集中力が半端ないし。」
何事にも集中力は大事っしょ。
「そうだマーカス、紅茶でも飲む?」
「私は紅茶は嫌いだ。コーラにしてくれ。」
「あれ?パンケーキ食べてた時は?」
「当然、ミルクだ。」
「マーカス、一度、ジャンビットの紅茶を飲んでみなさい。」
既に飲んでる伯母上が言う。
「うちの紅茶と違うのですか?」
「全くの別物です。母はもうレイリーなしでは生きられない身体になりました。」
何言ってるんだ、この人は・・・。
「むー・・・、じゃあ一度だけ飲んでみるか。」
という事でリサに紅茶を淹れて貰った。
お茶請けは100Pショップのいつものクッキーだ。
マーカスは紅茶を一口飲むとコーラの時のように首を傾げた。
「これが紅茶?」
「これが紅茶だよ。」
3人分の紅茶には砂糖も入っている。
「うまい。そしてクッキーも今迄食べたことがないくらいうまい。」
紅茶とクッキーに嵌っていくマーカス。
ふふふ、餌付け完了だ。
懸念点としては、将来、マーカスについてきそうな人もいるくらいか・・・。
「いちいちジャンビットから、水やシャンプーやらを運んで貰うのは面倒ですわっ!そうだわっ、レイリーがここに居れば運ぶ必要はありませんわっ。」
こういう発言はスルーするのが正しいと俺は学んだのでスルーした。
「レイリー、短い付き合いになるかもな。」
「いきなりなんだよ。」
「きっと貴様のスキルがバレた暁には、何処か知らない土地に攫われるだろうからな。」
「・・・。」




