33 方向指示器は的確に
伯母上は俺を抱っこしながらソファに座ってた。
そこへ部屋に戻ろうとした母上が通りかかった。
「ヒルデガルト様、ひとの息子に何の用ですか?」
「チェンジですわ?」
「チェンジ?」
マーカスが物凄い勢いと速さで首を振る。
母上は俺を伯母上から奪い取ると俺に苦情を言った。
「全くあなたという子は、誰彼構わず抱っこされるんじゃありません。」
「暴れたら危険じゃないですか。」
「・・・。」
俺の正論に母上は何も言わなかった。
「あーん、テレサ様。返してくださいませ。」
「返すも何も私の子です。」
母上は俺を抱っこしたまま、ソファーに腰かけた。
「レイリー、また飴を配ってますね。」
「・・・。」
今度は俺が何も言えなくなった。
「甘くてとても美味しいですわ。」
「レイリー。」
俺はさっと1個飴を母上に差し出した。
なんとか補充を許して欲しいという下心もなくはない。
「明日は忙しくなりますよ。」
母上が俺に言った。
「えっと、誰がでしょう?」
何となく答えは判っていながら、念の為、聞いてみた。
「レイリーが。」
だよね。
「何をさせられるんですか?」
「まずは、姿見をお母様の部屋とヒルデガルト様の部屋に設置します。」
ぐへえ・・・。そう思うが声は出さない。
「姿見ですの?」
「ヒルデガルト様が不要であれば設置しませんが?」
「お義母様が設置されるなら、私も要りますわ。」
「他は・・・。」
なんか憂鬱や。
「伯爵家の魔物素材をポイント交換ですね。」
「やりますよっ!直ぐにでも。」
やる気が出てきた。
「明日と言ったでしょう。」
「はい。」
どんだけポイント入るんだろ、今からワクテカだ。
ちなみに母上が登場してから、マーカスは一切声を発することはなかった。
夕食時、献立はジャンビット家から持ってきた燻製の魚だった。
マーカスのナイフとフォークが、魚に向く事は無かった。
「マーカスは魚食べないの?」
俺が聞いてみた。
「小骨がある食べ物は嫌いだ。」
「ふっ、ふっ、ふっ。ジャンビットの魚の燻製に骨は無いよ。」
「そんなわけなかろう。」
「そんな事あるんだよ。ジャンビットでは小骨の1本も許されないからね。試しに食べてみてよ。」
「小骨が刺さったらどうするんだ、それに魚の匂いは嫌いだ。」
「じゃあまずは匂ってみてよ。」
訝しみながら匂いを嗅ぐマーカス。
心配しなくても燻製してあるから、魚独特の生臭さは皆無だ。
「魚の匂いがしない。魚かこれ?」
「じゃあ魚と思わず食べてみてよ。」
俺が信頼できないのか、細かく切り刻んで小骨がないかチェックしてる。
そして一口食べると。
「なんだこれ、うまい。」
マーカスは、そう言うと一気に魚を食べきった。
「テレサ様はいつもレイリーと一緒に寝てますの?」
「ええ。」
「ずるいですわ、今晩貸してくださいませ。」
「お断りします。」
「えー、そんな事言わずに。」
「私ですら一緒に寝たことないのに、ヒルダが先はありえないでしょう。」
お婆様がそんな事を言いだした。
「ヒルデガルト様が先とか、お母様、私はキッパリお断りしてますよ。」
「テレサ様、でしたら代わりにマーカスをお貸ししますわ。」
マーカスが壊れたおもちゃのように首を振り、全力で拒否ってる。
「あなたからも何とか言ってくださいまし。」
伯父上に飛び火する。
「そんなことより、マーカスが魚を食べきったぞ。えらいなあ。」
下手くそかっ。
指示器も出さずに思いっきりハンドルを切るんじゃない。
伯父上の発言は完全にスルーされ、夕食を終えるまで不毛な会話が続いた。




