32 悪魔の囁き
目を開けるとそこは知らない部屋だった。
ああ伯爵家の母上の部屋か。
と対面のソファーを見ると何もない。
ん?
3度見しても何もない。
これは夢なのか?
「坊ちゃま、お嬢様がビーズクッションを補充しても構わないと。」
リサが言ってきたので、夢ではなかった。
「根こそぎないんだけど?全部、お婆様?」
「奥様とヒルデガルト様です。」
おのれ、お婆様と伯母上か。
しかし、お婆様は1万Pもくれたので、許そう。
おのれ、伯母上、許せん。
「シマエナガ君は1羽ずつ?」
「はい。」
ぐぬぬぬ、シマエナガ君に手を出すとは許せんぞっ。
とりあえずシマエナガ君を2羽召喚して、失われた物を全て補充していく。
「母上は?」
「恐らく奥様の部屋だと思われます。」
「そう。」
「軽く屋敷内を見て回られますか?」
「うん。」
リサに案内してもらい周辺を散策。
ちょっとしたスペースにソファーがあるのだが、そこに生贄君を発見した。
「い・・・マーカス君、こんにちわ。」
生贄君って言いそうになっちゃった。
「貴様、何歳だ?」
「5歳だけど。」
「私は10歳だっ。兄上と呼べ。」
しょっぱなでマウントをとってきやがった。
「なんでだよ。それでさあマーカス。」
そんな奴は呼び捨てで十分だ。
「えっ、呼び捨て、何で?」
「あのさあ、未来の話をしようか?」
「何だ突然。」
「大人になった時のね。」
「今、関係あるのか?」
「大ありだよ。ぼくは子爵家の嫡男なんだけど。」
「そんなの知ってる。」
「将来は子爵だね。その時、マーカスは?」
「・・・。」
「無爵だよね。」
「無職みたいに言うんじゃない。」
「似たようなもんだよね。」
「全然似てない。私は騎士となって伯爵家を盛り立てるんだ。」
「ふーん。」
「ふーんって。」
「爵位は欲しくないの?」
「ぐっ・・・。」
「欲しいんだ。」
「そりゃ誰だって欲しいだろ。」
「僕の手を取れば爵位が手に入るって言ったらどうする?」
「なっ、なんだとっ!」
「マーカス、それは悪魔の囁きですよ。」
突如、伯母上が登場した。
「えっ、悪魔の囁き?」
「いきなり、酷いじゃないですか悪魔の伯母上。」
「えっ、えーっ、何で私が悪魔なのかしら?」
「ぼくのシマエナガ君に手を出しましたね。」
「シマエナガ君って何ですの?」
「母上の部屋にあった一番大きいビーズクッションです。」
「ああ、あの白いの。」
「許せません。」
「お儀母様も取りましたのよ。」
「お婆様はいいです。」
「えっ、依怙贔屓ですわ。」
「違います。お婆様は1万ポイントくれましたから。」
「ポイント?」
「魔物素材です。」
「なるほど、魔物素材を渡せば許してくれますの?」
「高価であれば。」
「わかりました。後程用意させましょう。」
「それなら水に流します。」
俺がそう言うと伯母上は俺を抱っこした。
「あの・・・今はマーカスと大事なお話が・・・。」
「ふふふ、うちの子たちみたいに暴れませんわ。」
「母上、悪魔の囁きってなんですか?それとよその子を抱っこするのはどうかと。」
「じゃあ、あなたが代わりに抱っこさせてくれますの?」
「嫌ですよ。私はもう10歳ですよ。」
「5歳の時も嫌がってましたわ。」
「お、男なら誰でも嫌がります。」
「レイリーを見てみなさい。」
「貴様、何で嫌がらないんだ?」
「ジッとしてないと危ないからだよ。」
まったくマーカスは何を言ってるんだか。
「それで悪魔の囁きのことでしたわね。」
「はい。」
「レイリーはあなたにジャンビット家を継がせようと画策してますのよ。」
「なんで私がジャンビット家を?」
「元々はそういう話でしたの。」
「初耳です、本人が初耳っておかしいでしょ。」
「レイリーが生まれたので、その話はなくなりましたのよ。」
「貴様、何て恐ろしい事を・・・ジャンビット家には叔母上がいるというのに。」
「あれ?苦手なのうちの母上が。」
「マーカスだけじゃありませんよ。アドルも苦手としてます。というか付き合いが長い分、アドルの方が苦手としてるでしょうね。」
とりあえずマーカスの懸念事項はわかったので、安心させる為に説明しておく。
「恐らくだけど、マーカスが継いでくれるなら、僕は他の場所に住むだろうし、母上もきっとついて来ると思うんだ。」
「なるほど、じゃあ・・・じゃないっ!危ない、こいつ口がうまい。」
「違いますよ、マーカス。あなたがチョロすぎるのです。」
「くっ・・・。」
「まあいいや、その話はまた今度にしよう。」
伯母上に邪魔されない時に。
「今度はない。はっきり断るっ!」
「まあまあ、そんな事言わずに。飴をあげるから。」
そう言って俺は飴ちゃんをマーカスに渡した。
「何だこれは?」
「お菓子だよ。こうやって袋を破って食べるんだ。袋は勝手に消えるからね。」
「き、消えたっ!なんでだっ・・・。」
「レイリー、私にもくださいませ。」
伯母上が言ってきたので、伯母上にも1個あげた。
「なんだろ、フルーツっぽい味がして甘い。何だこれは?」
「飴だよ。」
「もっとくれ。」
「また今度ね。」
「甘くて美味しいわ。そうだ、レイリーはうちの子になればいいのですわ。」
「ジャンビットはどうするんですか?」
「わかりました。マーカス、チェンジですわ。」
「チェンジとは?」
「あなたがジャンビット家の子になりなさい。」
「ぜーーーーったい嫌です。叔母上がいるじゃないですか?」
「あなたも、もう10歳なのだから聞き分けなさいっ!」
伯母上・・・結構無茶な人だった。




