28 プレパ:俺が進むべき料理道
◆プレパ
いつの頃からだったろうか、いつの間にか料理人を目指していた。
授かったスキルも良かった。
ナイフ使いだ。
料理で使う包丁もナイフに含まれるようで包丁さばきも申し分なかった。
いつか王都で料理人になると小さい頃から夢見ていた。
田舎のジャンビットから王都までの道のりは長い。
馬車でも1週間以上かかる。
まあ馬車に乗るお金なんてあるわけもなし、俺は冒険者ギルドに登録した。
冒険者をしながら王都を目指す。
お金を稼ぎながら王都へ行けるので一石二鳥だった。
冒険者になってからもナイフ使いは役に立った。
王都に行くまでにパーティーの正式メンバーに何度か誘われたが、王都で料理人になるのが夢だと言って全て断った。
王都に着いて、まず向かった先は、評判の料理屋だった。
冒険者仲間から聞いたお奨めの店で、客入りも繁盛していた。
期待に胸を膨らませランチを注文した。
なんだこれは?
一口食べて思ったことがこれだ。
味が濃すぎる。
たまらず水を飲むも。
まずっ!
今まで飲んできた水の中で一番まずいと思った。
表情に出てたのだろうか?店員に話しかけられた。
「お客さん田舎の人?」
「あ、ああ、そうだ。」
「じゃあ王都の水は合わないかもね。」
「この水が普通なのか?」
「そうだよ。薬品類が田舎より濃くなってるからね。」
「そ、そうか・・・。」
都会の水は合わないと田舎では聞いていたが、この事だったか。
それから3日、王都に滞在したが、どこの料理屋も満足いかず俺は田舎へと戻った。
さて、田舎でどうするか?
実家は裕福でもなく兄弟も多い。
既に実家を出た身の俺に居場所はない。
仕事がなければ領都にでも行くか。
そう考えていたのだが、ジャンビットの領主様の屋敷で、料理人を募集していたので申し込んでみた。
申し込んだ人数も少なかったようで、俺はあっさりと職を得た。
子爵家の料理人に落ち着いた俺だが、それでもまだ夢はある。
いや俺だけじゃない、料理長や副料理長、それに他の料理人だって。
料理人なら誰しもが夢を見る勇者の世界の料理だ。
およそ300年前に黒の魔術師が書いた夢の料理本。
聞いたことも見たこともない素材が描かれており、いつか食べてみたい、いつか調理してみたいと思うのは仕方がないだろう。
俺が働きだして暫くして領主様が結婚する事になった。
その為、新たに料理人を補充したので、俺にも後輩が出来た。
領主様は俺たちとは比べようがないくらいハンサムだが、ジャンビットは田舎の中の田舎の為、今まで嫁のきてが無かったようだ。
奥様は伯爵家の姫様だ。それだけならいいが、なんとあの魔女様の弟子であらせられる。
魔女様とは、黒の魔術師の姉の通称だ。
「黒の魔術師関係の書は、奥様の目に入らないようにしてくれ。」
料理長から指示があり、俺たちは黒の魔術師関係の書を屋敷外に移した。といっても料理人が所持しているのは全て料理本だ。
まあ料理本と言っても、黒の魔術師は調理には詳しくないらしく、曖昧な表現が多い。その為、実現が不可能って話もあるが、材料の一部には事細かに図解してあるのもある。一番詳しく図解されていたのはライスというものだ。粒の形まで図に載っていた。
300年経っても未だに見つかってない時点で、この世界にはないと思われる。
奥様は子供嫌いで、いずれは伯爵家の次男様が後を継がれると聞いていたのだが、待望の跡取りが生まれた。
俺たちが見るようになったのは、よちよち歩き出した頃からであり、伯爵家から来た侍女のベルとリサの後をついて歩く姿は非常に癒された。
坊ちゃんは凄く気さくで優しい気性をしていて、俺たちにも気軽に挨拶してくれる。
後輩のボーンなんかは。
「子供って可愛いですね。俺も結婚して家庭を持とうかなあ。」
なんて事を言っている。
「お前なあ、自分の子供の時を思い出せ。」
料理長がそんな事を言ったので、俺も子供の頃を思い出してみた。
「悪さばっかりしてたような。」
ボーンが言う。
「そうだろう。うちの子たちも坊ちゃんくらいの時はそんなもんだ。坊ちゃんが特別なんだよ。」
料理長の言葉に酷く納得してしまった。
ボーンと同じく俺も悪ガキで、まずジッとしてることがなかった。
何もなくても走り回ってたイメージだ。
「男の子って大変ですか?」
「そうだな。まず目が離せないからな。うちは、かみさんの両親が面倒を見てくれたから助かったがな。」
ボーンの問いに料理長が答えた。
田舎あるあるだな。
まあそんな感じで、坊ちゃんは屋敷の中で人気が非常に高かった。
スキル授与の儀で坊ちゃんがユニークスキルを授かり落ち込んでいると聞いたときは屋敷中が心配の渦に巻き込まれていたのだが。
当の本人が翌日にはケロっとしていたので、心配は杞憂に終わった。
「レイリーが魚を捕りに行くから付き添いを頼みたい。」
ある日、領主様に呼ばれてそんな事を言われた。
「護衛ですか?」
「まあそれも含めてだね。」
「兵士の方は?」
「当然付けるよ。」
「俺いります?」
「プレパは冒険者でもあるんだろう。よろしく頼むよ。」
という事で坊ちゃんの魚取りに同行することになった。
坊ちゃんが川に落ちないよう細心の注意を心がけていたのだが。
見たこともない道具を使って魚を捕る坊ちゃん。
なにそれ?
簡単に魚を捕る坊ちゃん。
それを確保して下処理する俺。
「坊ちゃん、その道具は何ですか?」
「これ?釣り道具だよ。」
「釣り?」
「こうやって魚を獲ることを釣りって言うんだよ。」
いや、そんなん聞いたこともないんだけど。
帰り際、ローンウルフの死体をスキルで一瞬に消滅させた時はビックリした。
なにそのスキル・・・。
道中で貰った飴も甘くて美味しかった。
でだ、帰ってからが苦労の始まりだった。
坊ちゃんが鬼になりなさった。
釣った魚を3枚に卸した後に、坊ちゃんが見たこともない道具を取り出してこういった。
「これはね、毛…じゃなくて小骨取りの道具なんだ。見ててね。」
台に乗った坊ちゃんが小骨を器用に取っていく。
えっ、全部取るの?面倒くさくない?
俺は小骨は別に切ればいいんじゃないかと思ってるのだが。
坊ちゃんが見本を見せた後、俺たちも続く。
料理長と副料理長は器用にこなしていく。
「こんなもんかな。」
俺も何とか半身を終えると。
「見せてみて。」
坊ちゃんにそう言われ、半身を渡した。
坊ちゃんは、指でスーッと小骨があるゾーンをなぞっていくと。
「駄目だよ、ほら残ってるじゃん。」
そう言って、小骨を抜き上げた。
えー・・・一本くらい・・・。
「なにやってるんですか、プレパさん。」
後輩のボーンからも詰められる。
「いや小骨の一本くらい噛めば良くね?」
「その一本が喉に刺さったらどうするんですっ!」
いや、だからしっかり噛めば・・・。
「ボーンは刺さった事あるの?」
「はい、坊ちゃん。あれは非常に辛かったです、パンを呑み込もうが、飲み物を呑み込もうがいつまでも喉に・・・。」
「それは非常に辛かったね。よし、小骨を集めて焼いてからプレパに呑み込んで貰おう。そうすればプレパも判ってくれるだろうからね。」
「それはいいですね。」
いいですね、じゃねえよっ。いや坊ちゃんそれ拷問ですよ。
「次から、次からは丁寧にやりますから、それだけはご勘弁を。」
「一本も残したら駄目だからね。」
「はい、わかりました。」
「ボーンはさすがだね。残りは無いよ。」
「はい。」
こいつは小骨を親の仇かなんかと思ってんのか・・・。
「よし、ボーンを小骨取り隊の隊長に任命するよ。」
「はいっ、ありがとうございます。」
「特にプレパを監督するよう頼むよ。」
「わかりましたっ!」
楽しそうですね坊ちゃんたち・・・。
それから坊ちゃんは、燻製小屋を作らせて、燻製というものを俺たちに教えてくれた。この頃から俺たち料理人は、確信していた。坊ちゃんはアレだ。
だが誰一人、それを口に出すものは居なかった。
俺たちは燻製を極めるべく試行錯誤してみたが、坊ちゃんのスキルで出すチップに匹敵する物を見つけることは不可能だった。
魚は坊ちゃんが釣りに行く暇が少ない為、仕入れては小骨を取り除き燻製を作っていく。魚だけでなく他の肉でも試したりした。
試行錯誤を料理人全員が楽しんでいた。
中には合わない物も当然あったが、それはそれで料理人たちで笑いながら食べた。
そのうち奥様が坊ちゃんの部屋で寝起きするようになった。それを聞いても料理人たちは何も思わなかった。
この世界では勇者や黒の魔術師は危険人物の代名詞だ。
坊ちゃんが同じという事になれば、どういう扱いを受けるかわかったものではない。
屋敷内の使用人で、それを口にする者は一人も居なかった。
坊ちゃんが熱を出して寝込んだ時、お粥なる物を温めるように指示された。
そして、坊ちゃんたち3人分のお粥を皿に移した時、厨房に沈黙が訪れた。
これライスやん・・・。
しかし一同、誰も声を発することなく、お粥なるものは運ばれていった。
奥様と坊ちゃんが伯爵家へ出向かわれる事になった。
領主様に呼ばれたが、予想はついていた。
「プレパ、レイリーに付き添ってくれ。」
「畏まりました。」
もはや疑問すらない。
俺たち料理人にとって坊ちゃんは夢の導き手だ。
そんな坊ちゃんを守るのは吝かではない。
俺が進むべき料理道は、坊ちゃんの傍にあるのだから。




