21 ヴァレン:女騎士
◆ヴァレン・ベスナー
私は幼い時から剣一筋に生きてきた。周囲からは剣に愛されし者とか剣に選ばれし者なんて言われてきたが、そうではない。私は剣に憑りつかれし者だ。
ただただ強くなる為に生きてきた為、私の周囲には人が少なかった。
それでも同じ派閥であるテレサやセシル、ミレイが居てくれたことは非常に有難かった。
中でもテレサは親友と呼べる存在で、お互いが変わり者だったのも相まってベストパートナーとも言えた。
私が男ならテレサを嫁に貰ったと話せば周囲が騒ぎ立て噂へと発展したのだが、最初に私が男だったらと前置きしているのを無かった事にするのは勘弁して欲しかった。
私は王都の学校を卒業した後、騎士科へは進まず王宮の要請に従って王宮騎士となった。女性の騎士は男性に比べて数も少ない上に、同年代の男性には負けない私のように強い者は皆無だった。
私の仕事は、女性王族の護衛と王太子殿下への指南がメインであった。
ある時、まだ十歳にも満たない王太子殿下に求婚されたときは焦ったが。
私より強くなった時に考えますと答えを濁した。
年の差も当然だが、王太子妃ということは王妃になるという事だ。私に務まるわけがない。
それから護衛や魔物の大討伐で功績をあげた私は、男爵を叙する事になったのだが、私は陛下に一度確認した。
「私を王太子妃にするつもりではないでしょうね?」
「子供の戯言であろう。そのつもりはないから安心しろ。」
という事で、男爵位を賜る事となった。
それからも王宮騎士としての日々を過ごしていたある日、ついに父親が亡くなった。
男爵領の大討伐で怪我をして、ここ数年は特に体調が悪かったと文で知ってはいたが。
私は王宮騎士を辞し男爵領に帰ることにした。
「ヴァレン、実家へ帰るのか?」
王宮で声を掛けてきたのは同僚のスタルヒン・タルトンだった。
「ああ父が亡くなったからな。」
「そうか・・・。私と結婚してくれないか。」
「は?貴殿は何を言っている?私はベスナー領に帰るのだぞ?」
「私も一緒に行く。」
私は頭を抱えた。
「貴殿は副団長の内示が出ていなかったか?」
「内示だから断れる。」
断れるわけがない。
「タルトン伯爵家はどうする?」
「私は三男坊だ。家なんて関係ない。」
「話にならないな。家の事、王宮騎士の事、もう一度良く考え直すんだな。」
私はそう締めくくって、王都を後にした。
ベスナー家に戻った私は、父親の葬儀を終えベスナー男爵を継いだ。
私の後継は親戚から養子をとるつもりだったのだが、スタルヒンが何やら一団を連れて男爵領を訪れた。
椅子も机もない広間に一団と私が話し合う。
「ヴァレン男爵、なんとかスタルヒン殿を説得してください。」
見知った王宮騎士が私に言ってくる。
「一体、なんだと言うんだ。こんな大勢で来て。」
「知らん。私は王宮騎士を辞めただけだ。」
「一方的に辞表を提出しただけではないですか。」
「何故、それで辞めれないんだ?そんな決まりは王宮騎士にはあるまい。」
「スタルヒン殿、いずれは団長と目されているんですよ?それを勝手に。」
「それなら男爵も同じだろう。」
「同じではありません。男爵には男爵領があります。」
「ふむ、確かにな。しかしもう私は貴族でもない。何にも縛られる事はあるまい。」
「ちょっと待て、スタルヒン。家はどうした?」
私は気になってしまって本人に聞いた。
「好きな女性が出来たので王宮騎士を辞めると伝えたら、縁を切ると言われたので切っただけだ。」
「私が受け入れなかったらどうするつもりだ。」
「男爵領の兵士の一人として雇ってくれ。」
「貴殿がそこまでバカだとは思ってなかったな。」
「仕方なかろう。そこまでのいい女に惚れたのだ。」
私は生まれて初めて顔が熱くなるのを感じた。
「待ってくださいスタルヒン殿。本当にタルトン伯爵家が?」
「うむ、確認してみるといい。」
王宮騎士の面々は確認の為、一旦、王都へ戻った。
その後、半年間も揉めに揉めた。
タルトン伯爵家は、あっさりとスタルヒンを切り捨てたのだが、王家と王宮騎士団が納得がいかず半年後に漸くスタルヒンの退団が認められた。
「改めて申し込みたい。ヴァレン、私と結婚して欲しい。」
「田舎も田舎のベスナー男爵になるというのか?」
「それこそ今更だろう。今の私は平民のただのスタルヒンだ。」
「全く呆れた奴だ。」
こうして私は、意外にも結婚した。
二人の息子にも恵まれて、幸せな日々を送ることとなった。
あと結婚していないのは親友のテレサか。
と思っていたのだが、あっさりとジャンビット家に嫁いでいった。
暗黙の了解というかテレサの子供嫌いは誰もが知るところ。実際、うちの子供たちもテレサの事は怖がっているし。
ということはジャンビット家は、伯爵家の次男が継ぐのだろうと思っていた。
が、驚くべき事にテレサが妊娠し出産した。
その時、私は親友の為に子供を預かろうと決意した。
私が王都の学校に入るまで育てて、立派な跡取りにしてやろうと。
元々伯爵令嬢であるテレサがお茶会を開催できないことを悔しく思っているのは知っていた。ジャンビット家は、子爵家ではあるが、これといった特産があるわけでもない。しかも大討伐の魔物の価値が低い。その為、大討伐自体が領地の予算を逼迫していた。
幸いベスナー家の魔物討伐は、それなりに黒字になっており領の予算問題には発展しなかった。これというのも親友のテレサのお陰でもある。
テレサが自身のスキルと知識で惜しげもなく鑑定してくれたお陰だ。
我が領のようにテレサのお陰で助かった領地も多い。
テレサ自身のジャンビット領では、素材運用が出来なかったのは皮肉とも言えた。
そんなテレサから文が届いた。
可愛らしい封筒で、文からはいい匂いがした。
しかもお茶会の招待状だった。
確かジャンビットは今が大討伐の時期だったと記憶している。
私は心配になって、早めにジャンビットに向かおうとしたのだが、スタルヒンから止められた。大討伐の時期だから予定外の訪問は控えるべきと。
全く、その通りだと思い私は開催日に合わせて出発することにした。
ジャンビットに着いてテレサとその息子を見た時に私は驚愕した。
あの子供嫌いのテレサがすぐ傍に息子を控えさせている。
しかも距離感が仲の良い母子にしか見えない。
そんな事があるのか?
私は驚きのあまりに一瞬言葉を失ってしまったが、何故かジャンビットに居た御大に、まずは挨拶をした。
そして肝心の息子だが、大人しくて賢そうというのが第一印象だった。
お茶会の会場に入ると目を奪われた。
なんだこの会場は?
セシルとミレイまで、周囲を隈なく見渡していた。
「皆、座ってちょうだい。まずは軽食にしましょう。」
テレサに言われた私たちは着席した。
軽食はパンに具材が挟んであるサンドだった。
私は、まずは紅茶に口をつけて、そして固まった。
これは何なんだ?紅茶なのか?
セシルとミレイも同じように固まっていた。
テレサと奥方様は何食わぬ顔で紅茶を飲んでいた。
真っ先に反応したのはセシルだった。
「これは紅茶なのですか?」
「ええ、そうよ。」
「テレサ、水はジャンビットの水なのか?」
私も思わず聞いてしまった。
「いえ、違うわね。」
「そうか。」
茶葉どうこうもあるだろうが、やはり水が違うのか。
普通、水には必ず薬品が入っている。
これが入ってないと腹痛や病気の原因になるからだ。
煮沸だけでは、不完全なため過去の人達が導き出した叡智とも言える。
その叡智の水は、苦みと渋みが必ず残る。これはどうしようもないもので私たちはそれが当然のように育ってきた。
しかし、この紅茶にはそれがない。
「テレサ様、教えてくださいまし。」
ミレイがそのように言った。
「どうしようかしら?お母様。」
「あなたの友人なのでしょう?問題ないわ。」
「そうね。これは息子レイリーのスキルで出したものよ。」
「確かユニークスキルだったか?」
「ええそうね。100Pショップというスキルよ。」
「なるほど、ショップか。」
「テレサ様、水も茶葉も両方ですか?」
今度はセシルが聞いた。
「ええ。」
「なるほど。」
少し思い当たる事があったのだが、まずは食事をしてからと思い直した。
そしてサンドを口にしたのだが。
「美味いな。これもスキルなのか?」
「いえ、材料は普通のものよ。ただ鶏肉を燻製にするチップはレイリーのスキルね。」
「燻製か・・・。」
「テレサ様、この部屋の飾りなんかもそうなんですか?」
「ええ。」
ミレイの問いにテレサは頷いた。
その後、近況報告や情勢なんかの話をした。
私はデザートタイムが始まる前に懸念事項を話すことにした。
「奥方様とテレサに聞いてもらいたい事がある。」
「改まって何かしら?」
「王家がレイリーのユニークスキルを探っている。」
「王家が?」
テレサの眉が上がった。
「王家のどなたかしら?」
奥方様が聞いてきたので。
「そこまではわかりません。ただ私だけではなく主人の方にも話が入ってきているので動いているのは間違いがないかと。」
「どこからかレイリーの情報が?いえそんなことはないはず。」
私は不安そうな声を上げるテレサを安心させるために。
「かなり早い段階から動いているから、ユニークスキルと判明した後からだろう。」
「なるほど、教会と王家にはユニークスキルの情報が上がりますからね。」
奥方様がそう言った。
「テレサ、もし王家がレイリーを要求してきたら、どうするつもり?」
「拒否するに決まってるわ。」
奥方様の質問にテレサは即答した。
これなら私がレイリーを預かる必要もないな。
あの子供嫌いが立派な母親になったと感慨深かった。
「一度派閥内の意志を纏めておく必要があるわね。」
奥方様の言葉に私たちは頷いた。
「伯爵家でお茶会を開催するというの?」
「ええ、その通りよ。いいでしょ?本来ならレイリーの5歳の義が終わったら顔見世に来るものよ。」
「お父様もお母様も、もう顔を見たでしょう。」
「ゴーシュやヒルダだって顔を見たいでしょ」
ゴーシュはテレサの兄の名前で、ヒルダはその嫁でヒルデガルトの呼称だ。
「レイリーのスキルを使用する気?」
「いいじゃない。伯爵家には魔物素材は有り余ってるもの。」
「はあ、わかったわ。」
渋々だがテレサは頷いた。
「レイリーを呼んできてちょうだい。」
テレサが後ろで控えてた侍女につげた。
あの侍女は伯爵令嬢時代から傍に居た確かリサだったか。




