120話 予想外に予想外を詰め込むと常人は考えるのを放棄する
ゴーレムという存在の話をしよう。
この世界におけるゴーレムとは、操作可能な動く壁という評価が正しい。
基本的に、この世界では魂のある生物の創生は禁忌とされ魔法学界を中心として様々な国や連盟により禁止されている。
そのため、このゴーレムは事前に設定されている命令には従うが、厳密には魂のない生物として定められている。
「だから、今現在はケール先生が施した魔法と命令によってあのゴーレムは動いているわけだ」
「だから、あのずっとこっちに手を振ってるゴーレムの動きを止めるには、魔法的なアプローチ必須と……」
「そういうことですね。ただ、あくまで機能的な排除をするならば魔法が必要なだけで、行動を止めるならば、物理的なアプローチだけで機能不全は興すことができるでしょう」
「それもそうか。ゴーレムを構成するのはなにも魔法だけじゃないからな。となると、やれることは――」
「「「おおーッ!!」」」
「おっし、機能停止ぃ!!」
ゴーレムという存在に対しての攻略法を模索していた三人をしり目に、脳筋三人と姉様主義一人による体当たり攻略が、成功を収めていた。
「ちょ、ちょっとまって、もう終わったのか!?」
「おう、見ての通りよ」
サリアス、エイハローと共に攻略方法を模索していた最中の出来事に驚きで対応するストロット。そこに、傍観者の一人であったリーリャが自慢げにゴーレムであった残骸を指さした。
「これは……、クリウスの剣だよね?」
「噂じゃ、蒼剣の斬撃は魔を断つって話だけど、本当だったのかー」
他二人も呆れた様子でその光景を目にし、遠目にケールが走ってくるのを見て、ああ、こんなにはやくくりあできるものじゃなかったんだな、と察するのであった。
「んで、これをやったやつは?」
「俺だ。この剣を使った」
「魔剣か。確かに、これを使えば本人は魔法を使わずにゴーレムを攻略できるってわけか。はー……、なんでここのグループには五組在籍者が四人もいるんだよ……」
あまりの速攻クリアに目が飛び出んばかりに驚いたケール。どうやったのか、という話を聞くうちに、今度は学園の中でもエリートである五組が四人もいるという偏りに運命のいたずらを感じつつ、とりあえずどうしたものか、という思考の海へと旅立った。
「して、これならば合格だろう?」
「確かに合格だし、道具を使っちゃいけないなんて言ってない」
本来ならば、持参、もしくは土魔法で作ったナイフやこん棒を使ったゴーレムの核の破壊が、正規の攻略方法だった。
ゴーレムには、下された命令を統括する魔法式が描かれた、または付与されたコアが存在する。その部分を破壊すれば、機能停止に陥る。
本来ならば、この課題では、ゴーレムの核に対する知識と、それを発見するに至る時間が求められるものだった。ゴーレムの存在を知らずとも、一年生程度でも教えられる魔法学ならば、ゴーレムという魔法の核の存在に気づくこともできるかもしれない、という考えの元であったが、どうやら五組連中には通じない理論らしい。
クリウスの持つ蒼き剣の名はない。これは、クリウスの祖先がそれぞれ違った名でこの剣のことを呼んでいたために、二代前あたりから【名もなき蒼い剣】として扱われるようになった。酷い話である。
ともかくとして、この蒼い剣には、名前こそないが各代から使われてきた理由がある。それは、魔を切り裂く力を持っているからだ。
魔を裂くこの力は、ひとたび振るわれれば業火を熾す実体のない魔法すらも切り裂き無力化する。そしてこの度、ゴーレムに向かって振るわれたこの力は、ゴーレムを構成する魔法を細切れにして機能停止へと追いやった。
それが、今回の課題の攻略のしかた。そんな斜め上の攻略方法を取られたケールとしては、非常にめんどうくさい状況で、
「これで三時間は稼げると思ったんだよ……」
「いや、職務何ですからもう少ししっかりやってくださいよ」
「めんどくせー。だから、任せたガウィン」
「任された、ケール! とりあえず君は他のグループの様子を見ていてくれ。こっちは、私が対応する!」
めんどくさいと、同僚に放り投げるケール。しかし、同僚であったガウィンはその放り投げを喜んで受け取った。
「ではでは、私からの課題と行こう」
他のグループをケールに任せたガウィンが、七人の前に立ちはだかる。
「して、ガウィンが出してくれる特別課題ってことでいいのだな?」
「リーリャ君。その認識で正しい。そして、その課題とは!」
ガウィンが魔法を発動する。火属性専攻である一組の担任を受け持つほどの実力者であるガウィンは、中位の魔法も無詠唱で発動する。そして、ガウィンが発動した魔法の影響で、土俵の様にリーリャ達生徒を囲むように炎の壁が屹立した。
「要求は一つ。私が満足するまで、自由に打ちこめッ! 方法は問わない、私を倒しても構わない。それでは、行くぞッ!!!」
ガウィン、本気の戦闘である。
何故なら、相対する面子に問題があった。
自らが受け持つクラスの優等生。戦闘評価における二つ名を獲得している五組生徒。無防備であったとは言え、かつての試験において自分を火属性で行動不能に追いやった少女。
これだけの面子がそろっていては、生半可な課題は簡単に解かれてしまう。
ついでに言えば、戦ってみたかった。彼らがどれほど自分を熱くしてくれるのかに、興味があった。
「ふむ、まあ課題ならば仕方がないな【風之獣】」
「どうします、順番に挑みますか?」
「ガウィン先生は強いぞー。特に、防御能力がとんでもない。多分一年の一組総出で火属性魔法を撃っても勝てないだろうってぐらいにはな」
「なら、別の属性を使えばいいんじゃない? 一応私も五組だからなんでもできるぜッ!」
「あ、私も色んな戦い方できますから、試しに挑んできてくれませんか、クリウス。斥候ってことでお願いします」
「俺は捨て駒かよ!? まあ、丁度一人で戦ってみたかったから、いいけどよ」
しかし、そんな突然の戦闘に、六人は慣れた様子で対応した。
五組達の様に変人の扱いになれている者。元よりガウィンの突発的な提案に付き合わされていた者。そして、一万年の経験値からいきなりの戦闘行動だろうが見事に対応できる者。
六者六様の返答がおりなされる中で、たった一人だけ、こういった対応になれておらず、また五組のような変人の巣窟にも慣れていないメンバーが一人、困惑だけを浮かべて立ち尽くすのだった。
「……いや、どうしろと」
上級生ストロット。彼は、新たな経験を積むのだった。
四年三組は普通なんですよ。逆に先生含めて変なのしかいない一年勢がおかしいだけで、普通の一~四組は平穏なんですよ。五組は何処も変人だらけですけどね。




