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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
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112話 蒼の兄弟


 鍔迫り合い。

 本来、耐久度に難のある細身の刀ではありえない光景であった。


(くそっ! どういう業物だよこいつの剣は!)


 クリウスは睨みを強め、相手の装備を確認する。

 鍔迫り合いの最中といえ、意識はある程度割くことができるように訓練されたクリウスだからこそ、できる芸当だ。


(防具の類はない。妙なふくらみがないところを見れば、相手の得物はこの太刀の一本だけ、か)


 観察をしたクリウスの思考には、一つ疑問が浮かぶ。


――なぜ、こいつは無傷なのか、と。


 ルティスが持つ剣は相当な業物だ。だが、それでも魔剣ではない。

 魔剣であれば、淡く魔力を纏っているからすぐに気が付くことができる。

 そして、それは着ている服も同様である。


(この男、何か突出するような装備を付けているわけじゃない)


 クリウスは思い出す。先の、この訓練場に入る前に見た巨大な魔法を。


 隕石、なんてお伽噺にしか聞いたと事の無いような天災を再現して見せたこの場にて、明らかに自らの踏み込める余地などなかったはずだ。

 だが、クリウスは偶然遭遇したサリアスの言葉に押されて、クリウスはここまで来た。


――『あそこで魔法が放たれるってことは、まだ誰かがいるってことだよ! ……もしかしたら、その誰かがあんな魔法のせいで死んじゃうかもしれない。だから、僕はあそこに行く。もしかした、僕にもできることがあるかもしれないから』


 何故、サリアスがあの時クリウスにそんなことを言ったのかは、クリウス自身がわかっていた。

 それは、魔法に対してクリウスのその手に持つ蒼き魔剣が有効な手段になりえるからだ。


(だが、来てみればあの魔法は全部ハジメの奴のもんだった)


 そのおかげか、クリウスが先に見た隕石の様な魔法に対する恐怖はすっかりとなくなっていた。

 だが、それと同様でありながらも、ねちねちと、どこに潜んでいるかわからない恐怖をクリウスはルティスから感じていた。


 何故なら、クリウスが恐怖した魔法を受けて、この男は傷一つなくこの場に立っているのだから。

 相手を観察するために冷やした頭が、冷静になったせいか確実な恐怖を自らに訴えかけてきたのだ。


――この男は、危険だと。


 だが、それでもクリウスにはここにきて引けない理由がある。


(……コイツは明らかな前衛系。先程の攻撃からして、相当な技量と身体能力を持っている。俺ならまだしも、サリアスもモイラも為す術もなく切り伏せられる)


 それは、冷静な分析だ。

 魔法使いとしては異質な部類に入る剣士型の魔法使いのクリウスならばまだしも、純粋に魔法を放つことに特化したサリアスや、どれもそつなく平均的にこなすモアラでは、この相手は荷が重すぎるのだ。

 だからこそ、クリウスが前に立つのだ。


(ああ、そうだ! 俺はこういう時のために鍛えてきたんだよッ!!)


――誰かを、自分よりも弱気なくせに、いざとなったら誰よりも早く動く弟を守るために。

――誰かを、昔から、自分の近くにいてくれて、色んなことがありながらも、ずっと幼馴染でい続けてくれる女の子を守るために。

――誰かを、遠くとも、近くとも関係ない。共に学び、競い合った友人を守るために。


――誰かを、


 だからこそ、クリウスは笑った。

 いつかの、いずれ自分が打倒すべき強大な存在がやっていたように、笑って見せた。


 そして、剣の握りが強くなる。

 足に力を込め、思い切り相手の太刀をはじき返した。


 上に打ち上げられた己の剣に引っ張られ、ルティスは後ろへとたたらを踏む。

 空いた胴へとクリウスは蹴りを加え、相手を強く弾き飛ばし、自らも後方へと移動することで大きく距離を取った。


「サリアス! 跳ねるぞッ!!」

「わかってるよクリウス!『蒼式:コールドスペース』」


 クリウスの合図に合わせ、サリアスが魔法を発動させた。

 その魔法は、新人大会でクリウスに対して放たれた魔法。

 魔法はクリウスやルティスを多い囲み、その温度を氷点下までもっていく。


 呼気が白くなる。大きく、深く呼吸をしたクリウスが白い煙の様な息を大きく吐き出し、肺の中身を入れ替える。

 吸い込んだ空気はあまりにも冷えていた。体の芯まで凍り付きそうな空気を取り込んで、小さく、魔法を発動した。


「『蒼式:アクア』」


 跳んだ。

 正面上へと、敵の頭上へと。


 中空は足場がない。故に、自らに向かって真っすぐ飛んできたとわかったルティスは迎撃の構えをとる。

 空からゆっくりと向かい来る敵を、必殺の間合いにて仕留めるため。

 腰を落とし、下段にて太刀を構え、対空を目的とした姿勢にて、太刀を振り抜いた。


「……ッ!?」


 それは、虚空を斬っただけに過ぎなかった。


――間合いの判断を誤った?


――否。


――少年は、背後にいる。


――つまり、あの少年は空中で避けた?


――どうやって?


――斬られ……、


 戦いの刹那は一瞬にすぎない。その判断を誤れば、如何なる武人とて死という現実に直面する。

 だが、ルティスの判断は間違っていなかった。如何なる術を持とうとも、翼を持たぬ人が空を飛ぶとしても、高速で移動することなどできないから。

 

 体の内を剣が通る感覚が痛みとしてルティスの脳に響き渡る。


 空中には、足場となる瓦礫などなかったはずだ。そうなると――、


「……あ、そういうことか」


 礫が見えた。氷でできた、小さな礫だ。

 ゆっくりと落ちるそれをみて、ルティスは正面にいた筈のクリウスが一瞬にして背後に回ったからくりを見抜いた。


 それは魔法と、魔法の合わせ技であった。

 サリアスが先に発動した『蒼式:コールドスペース』。それは、周囲の気温を下げるという力を持っている。

 だが、それはあくまでも副次的な効果だ。

 本当の効果。それは、水分の氷結であった。

 この魔法の効果範囲に存在する水分を、凍らせる。それが、『蒼式:コールドスペース』の力。


 そこに、クリウスは水を発生させた。即席の足場として、空中での移動手段として。



 一閃。

 氷の礫を蹴り、敵の背後へと着地する。

 そして、手に持った剣は蒼い軌跡を描いて真横に振られる。


『人を殺すときは、一思いにやれ』


 父の教えに従った剣閃。

 相手の急所を斬る。

 首を、一番の致命傷を。


 薙ぎ払え。


「『蒼式:致命之一』」


 斬った。

 一閃にて、敵を葬るための技。

 魔法にて、腕、腰、足。剣の一振りに使う関節をただ一振りのために最大まで強化する。

 それこそが、剣技と一体になった魔法『蒼式』の新の姿であった。

 正しく、必殺の一撃。

 それは、ルティスの首を駆け抜けて、


――ルティスは微笑んだ。


 首を通り、振り抜かれた刃。

 だが、血はなかった。

 首を斬った。だが、血は出なかった。

 明らかな異常。咄嗟に後方へと跳び、空中を跳ねる。


「痛いなぁ、もう」


 首に傷はなかった。

 その事実に、クリウスの瞳が見開かれる。


 振り、斬った。確実に首を斬った。

 感触だってあった。肉を裂く感触だ。人にしては少しばかり硬い肉を裂いた。


(いや、人を斬ったの初めてか)


 だが、目の前の敵の首に傷はない。


(幻、か? いや――)


「『蒼式:アイススピア』」


 背後にいるクリウスに対してルティスは振り返った。それは、サリアスに対してルティスが背中を晒したことになる。

 だからこそ、魔法を放った。

 槍の様に鋭い先端が、ルティスを貫く。一本の細長い氷の槍に貫かれたルティスだが、顔色一つ変えずに剣を振るう。

 いつも通り、ルティスは自らの体に刃を入れた。

 いつも通り、身を削り、自分の中にある害あるものを排除する。

 終わった頃には、いつも通りの無傷のルティスが、何もなかったかのように立っていた。


「さ、もう一度だ」


 にこやかなルティスは、サリアスには声を、クリウスには顔を向けて太刀を構えた。




 舞うクリウス。氷の足場が光り、その動きの軌跡を空に描いていた。

 纏わり憑くサリアス。いやらしく、相手のすきを突くように魔法を繰り出し続ける。


「なあ、モアラ、だったな」


 そして、後ろではハジメの治療をするモアラだ。

 メインの治療は右腕の切断傷。ハジメが、斬られた傷を即座に止血したために出血による後遺症などは心配されなかったが。

 それでも傷口は傷口だ。止血だけしたとは言え、十分に傷がふさがったわけでもなければ、もう放置しても大丈夫な状態とはいかなかった。

 だからこそ、モアラは傷を洗い流したり、手持ちの清潔な布にて保護したりと応急処置をしていた。


 そんなモアラは、おとなしく治療を受けていたハジメが自らを呼んだことに少しばかり驚きを示した。


「何でしょうか?」


 返事を示しつつ、応急処置を進める。

 だが、耳はハジメの方をしっかりと向いていた。


「あいつを、倒す作戦がある」



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