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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
120/135

111話 失敗

台風前に急いで執筆中。

もうすぐ三章終わるので頑張ります。


 それは、昔の話になる。


 転生したハジメが意識を取り戻したのは、生後一年ほどのことであった。

 ハジメはまず、意識が戻ってから初めに行った行動は周囲の状況の確認であった。

 その時、運が悪くハジメのお守りをしていた乳母がハジメの寝るゆりかごから離れていた。

 そのため、ハジメは自らの足にて周辺の探索をしようとした。

 幸い、満一歳を過ぎたハジメは成長が早く、既に二本の足にて立つことが可能であった。

 何とかゆりかごから滑り落ちるように脱出し、地面に転げ落ちる。

 身に着けていたおむつがクッションとなったおかげで何とか事なきを得たが、なかなかスリルな体験を経たハジメは涙目になりつつ、次の行動を見据えた。

 ゆりかごの足に手を付き、よろよろと立ち上がる。

 ハジメは思った。


――動きにくいと。


 あたりまえだ。

 二本の足にて立ち始めたばかりの赤子である体は、記憶的にはつい先ほどまで成人男性であったハジメにとって動きづらいと感じて当たり前であった。

 しかし、ハジメはそう考えなかった。


――ああそうだ。魔法を使えばいいな。


 そうして、発動されたのは身体強化の魔法であった。

 この世界にて、この赤子が初めて使った魔法は身体強化であった。


 だが、身体強化の魔法には欠点があるのだ。

 それは、魔法を受け取る器に対する負荷が大きい事だ。

 通常、身体強化の魔法を使えば、使わない状態と比べると早く疲れてしまう。

 度合いによっては多少の誤差で収まる欠点ではあるが、度合いというものが重要であった。

 例えば、度が過ぎる筋力の強化を施せば、その力に骨が耐えきれず骨折と言う結果に陥る。下手をすれば、筋肉そのものが自らの力でずたずたに引き裂かれるといった結果につながることもあった。

 だからこそ、身体強化の魔法とは、自らの力量をしっかりと把握することが重要であったのだ。


 そう、だからこそ、ハジメは間違えた。


 前は、英雄と呼ばれた歴戦の戦士。だが、今は頭を小突かれただけで瀕死になりえるような赤ん坊だ。

 そんな状態で、英雄であったころの強化をその体に施してしまえば、いったいどんな結果になるだろう。


 そして、少しばかり席を外していた乳母は、ハジメの悲鳴によって部屋へと戻された。




「病状は……『回路破損』……。いえ、そんな言葉ではこの状態は表せません。これは、もっとひどい……『回路裂断』と言うべきものでしょう。まことに言いづらいものではありますが、御子息はもう、一生、自らの肉体に対する魔法を使うことができません」


 それが、ハジメの両親に告げられた言葉だった。

 もちろんながら、王族であるハジメは様々な施設へと運ばれ、治療を行ったのだが、『回路裂断』と申告された病状は治ることはなかったのだ。


――――――――


 ハジメは、自らの肉体に対する魔法を使えない。

 幸いであったのは、放出系と呼ばれる体外に対する魔法を使えることと、魔力回路以外の身体機能は無事であったことだ。


 だが、身体能力を強化する類の魔法をハジメは使えない。回復魔法ですら、効きが悪い程度ではあるが支障が出ている。


(ああ、身体強化なんて使えるならとっくに使てるさ。回路裂断はそんなに甘くない)


 回路裂断。それは、何時かにリーリャの陥った回路破損のその先である。

 回路破損とは、身体機能として存在する魔力を循環させる、魔力回路と言う部分が異常をきたすことを指す。

 多くの場合は、特定の魔法行使に支障をきたしたり、痛みを伴うなどの、言ってしまえば魔法が使えなくなるといった体の怪我だ。

 だが、その多くは数日経てば自然治癒する。リーリャの症状は魔力破損としては規格外のモノであったが、それでも数か月ほどの期間で自然治癒した。


 しかし、回路裂断は治らない。

 自らの身に余る魔法を使い、ズタズタになった魔力回路は、その効果を発揮できなくなったのだ。

 そも、赤子の時点では、魔力回路の耐久性など知れたものだ。赤子の柔肌よりもか弱い魔力回路に、ハジメの天災のような魔力が流れたのだ。無事なはずがなかった。


(回復も、身体強化も、エンチャントも俺は受け付けない)


 それはつまるところ、魔法使いが劣る身体能力という欠点を魔法で補うことができないということであった。

 魔法使いの体では、魔法を使わなければ近接戦闘なんてできない。

 故に、ハジメは剣こそ持つが、それを振る間合いに入られた時点でハジメは負けている。そんな弱点がハジメには存在した。

 だからこそ、簡単にハジメは右腕を取られ、今、地に伏せている。


「まあ、今の結果がすべてだ。お疲れさま」


 膝をつくハジメの前に立ったルティスは、ここまで自らを足止めたハジメに対して敬意を示す。

 はたから見れば、勝者を愚弄するような物言いではあるが、ルティスにとっては、戦った相手を労うという意味での言葉であった。


 そして、ルティスが手に持った太刀が持ち上げられる。

 狙いは、もちろんハジメの首だ。数多の魔法を乗り越え、ルティスはハジメの首へとたどり着いたのだから、貰受けるのは自然な事であった。

 だが、まだハジメは屈したわけではない。魔力の急激な消費による疲労の中、足に力を入れて転がる様に地面を這った。

 間一髪。真横を通る真剣に息をのみ、転がりながらルティスから距離を空けることをもくろむ。

 簡易的な拘束も考えたが、この疲労の中では狙いなど付けられないと、今はルティスから離れることを優先した。


「いいあがきだ」


 とどめを外したルティスは顔は笑っていた。

 逃げるハジメを見て。自らの生に執着する姿に喜びを覚えたからだ。


(ああそうだ、あがけあがけ。人のために賭けられるほど、人の命なんて高くない)


 それは、ルティスにとっての過去を思い出させるものであった。

 今は関係ない。そう思考をルティスは整えて、目の前を見た。


 不幸なことに、短時間でルティスとの距離を空けられるほどの余力はハジメにはなかった。

 だからといって、ルティスは手を抜かない。降ろされた太刀は少しばかり地面を削りながら振り上げられる。

 目標はない。これは、次の動作のための振りだからだ。上へと上げられた太刀は勢いよく振られ、ルティスは回転する。

 遠心力を大きく働かせ、太刀を振り回された。

 回り、回り、動く。

 軸足を移し動く。

 技の名前はない。なぜなら、これは周囲へと自らの体を横に一回転させて切りつけるただの回転斬りを連続でやっているにすぎないのだから。

 だが、その動きは流麗なモノであり、磨き上げられた技はそれをただの回転斬りに収めなかった。

 回り切ったその太刀は、足掻くハジメへと振り下ろされた……。






 金属のぶつかる音が響く。

 それは、ハジメを切りつけたとなるとおかしな音であった。

 ハジメは、魔法使い故に鎧の様な重く、動きを阻害する魔法をつけない。それは、つけたところで重しにしかならないからだ。故に、ハジメは布と皮でできた衣服を着ていた。

 次に、ハジメが身に着けている装飾は皆無だ。そんな中、金属製のものなど存在しない。

 剣ですら、先ほど斬り飛ばされた右腕のおまけとして彼方へと放られたのだ。


「……ギリギリだったな」


 聞こえるはずの無い声が聞こえる。ハジメでも、ルティスでもない第三者の声だ。

 周囲の出入り口は戦いの初期に魔法によって封じていたはず。故に、この場にハジメとルティス以外の人間がいること自体がおかしかった。

 それに、先ほどまで天災とも見紛うような魔法が数々繰り出されていた場所だ、近づこうと思う人間なんて……、


「ハジメさん! 右腕が……」


 四人目の声も聞こえた。

 声の主はどうやらハジメたちを知るもののようだ。

 ああ、そのはずだ。なぜなら彼らは、ハジメとは同じクラスの三人(・・)だからだ。


「クリウスはそのまま敵を惹きつけてください! サリアス、私はハジメ様を後ろへと下げます!」


 この場において最適といえる指示をモアラは二人へと掛ける。


「言われなくても!」

「わかった、そっちも気をつけて!」


 了承の意が帰ってきたところで、モアラ達は動き出す。

 そして、当のハジメは、突然の援軍に対して、驚きを隠せずにいた。


「……お前ら、なんで……」


 そのつぶやきに、モアラは笑顔を添えて答える。


「同じ釜の飯、は少し違いますね。同じ卓を囲んで学んだ者同士です。それに、今は休んでください。ここからは、私達があれの相手をします」




一応ながらもう一度、前話である110話と109話が予約投稿で作者がミスり同時投稿してしまっているので、108話、109話を読んでいない方はそちらもどうぞ。

感想、ブクマ登録、評価していただけると幸いです。やる気が出ます!!

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