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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
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108話 こども


「一人」


 その声は、静かにその場に響き渡った。


 リーリャは目を見開き、ポーロは無意識にバルカンを掴もうと手を前に伸ばしていた。

 だが、その手は届かない。なぜなら、ポーロは片足を失い、地に伏せているから。

 リーリャは、切り分けられるバルカンとは対になって戦っていたからこそ、一人で果敢にハンドグンドへと殴り掛かったバルカンに攻撃が集中したのだ。

 

 そも、バルカンには余裕がなかった。

 それは、リーリャが駆け付ける前から戦っていたのもあるが、それ以上にバルカンの精神は悲鳴を上げていたのだ。


 未だ成長期に入り始めたばかりの自分とは違う、育ち切った筋骨隆々の戦士たちが倒れる中、バルカンは次は自分の番かとハンドグンドの前に立ったのだ。

 だが、ハンドグンドの攻撃は確実にバルカンに届きかけた。それをポーロが身をていしてかばったのだ。故に、ポーロはその足を切り落とされ、戦場に立つものはバルカンだけになってしまった。


 戦場にて、自らの油断故に友人に傷をつけてしまった後悔。

 戦場にて、自らの先立ちとなるような大人たちが、誰もかなわずに敗北してしまった相手への恐怖。

 戦場にて、自ら一人だけが、立ち上がる孤独。

 戦場にて、自らがこの相手に負けた時、背後に座る傷負いの友人はどうなるかという不安。


 負は積み重ねられた。それは齢十二歳であるバルカンにとっては、上記の一つとっても重すぎるモノであった。

 そんなプレシャーの中、バルカンは自らを鼓舞した。


(俺がここで負けてどうすんだよ!)


 幸い、原理こそわからないが、自らの武器は相手の木の棒に切られることはなかった。


(俺が、ここで戦わなくてどうするんだよォ!)


 震える拳を握り締め、震える足を叩いた。


 精神はすり減り、それでもなお戦い続けたのは、ある意味奇跡とも言えよう。

 そして、それこそがバルカンの強さであった。


 だが、その空元気も時間切れだった。


 胴体。左腹部から入り、右肋骨から出て行ったその斬撃は、確かにバルカンの体を二分した。


「バルカンッ!」


 まだ生きている。

 だが、戦闘をできる状態ではないのは明らかだ。

 ショック故にか、疲れた末にか、バルカンはその意識を失っていた。

 だからこそか、ポーロはバルカンの敗北を噛みしめ、その上でそのバルカンの体へと駆けよりたい衝動をかみ砕いた。

 何とか動き始める腕を食いしばり耐え、ポーロは、唯一の頼みを唯一の戦えるものへと託す。


「リーリャ! そいつの力は『生き物を殺したことのある相手を切り刻む力』だ! だから、バルカンの新品のバットは切られなかった!」


 ポーロの出したその答えは、バルカンの昨日購入したばかりの新品の金属バットがヒントとなって得たものだった。

 バルカンよりも先に切り伏せられていった傭兵たちは誰もが歴戦とも言えずとも、その職にて食っていける者達ばかりだった。

 そんな者たちは、もちろんながら魔物と呼ばれるモンスターたちを殺した(・・・)事のあるものばかりであろう。

 それは、ポーロとて例外ではない。魔物と対峙した経験こそ少ないが、近いうちでは数か月前のサバイバルにて、黒いイノシシ――スローターボアを何匹か自らの魔法で屠っていた。

 そして、その記録は武具にまで及んでいたのだ。恐らく、生き物を殺した時に身に着けていた装備、使用した魔法等が『生き物を殺した』としてなんらかのカウントがされている。

 そして、そのカウントが溜まっている相手を、絶対に切ることができる。それこそが、ハンドグンドの能力であったのだ。

 故に、まだ一度も魔物どころか虫の一匹殺していない、バルカンの新品の金属バットは切断されなかったのだ。


 そして、ポーロのその予想を聞いたハンドグンドは動揺を示すように動きを一瞬止めた。

 その行動を見たリーリャは、そのポーロの情報が正しいものだと、直感する。


「感謝するぞポーロ!」


 一言、感謝を伝えたリーリャは、『二舞衣』解き、水を舞台から降ろした。

 今リーリャが纏うのは風。だが、今はそれで十分だったのだ。


 ポーロは視る。リーリャの動きを。


 真っすぐハンドグンドへと突撃したリーリャは、右手を前へと差し出した。

 無論、ハンドグンドは馬鹿正直に突っ切ってきたリーリャを迎え撃とうとするが、振り下ろした腕は途中で止められた。


「ああ、運よく、バットはこちらへと転がってきてくれた」


 リーリャの腕には、バットが装備されていた。

 バットを振るいなれているバルカンとは違い、両手ではなく片手で、それも逆手に持っての防御だった。

 それは、バットを使わないリーリャであったからこその持ち方。そして、右腕に装備されたバットに隠された攻撃が、ハンドグンドを襲った。


 左腕を使ったストレートパンチ。

 それは、この戦闘初めてのハンドグンドに対する有効的なダメージであった。


――そして、それは終わらない。


 リーリャの得意とする格闘術は、身に纏う魔法によって変わる。

 そして、今現在纏うのは風。それが得意とするのは、風の様に速い連撃による攻撃だった。


 一撃目は腹部へ。その攻撃は、肋骨に当たったのか枯れ枝を折るような音を響かせた。

 次に、一度足を軸に回転し、右腕にて逆手に構えられた金属バットの先に手肘うちの要領で頭部へと攻撃を加える。

 

 だが、ハンドグンドは動く。攻撃は受けどもその手に構えた必殺の武器が失われたわけではなかった。

 回転し、今現在片足立ちの様な状況になったリーリャは非常に不安定な姿勢にある。故に、単純な振り下ろしであろうと、攻撃に使われた金属バットと言う盾は間に合わず、避けることもままならない。

 だからこそ、右頬に加わる衝撃を無視してでも、リーリャへとハンドグンドは攻撃を試みた。


 だが、それはリーリャにとっては些細な事であった。

 回転する。右足を軸とした回転の中、リーリャはあまりにも遅い一振りに対策を講じた。

 回転する。その勢いは『風之獣』の力にて威力を増し、その勢いのままリーリャは空いた左足にて地面に埋まっていたものを掬い取った。


「なっ……石畳の一部を……!?」


 回転するリーリャは、学園前と言うことで整備された大通りの石畳の一部をはぎ取ったのだ。

 削り、掬われた石畳の一部はそこまで大きなものじゃない。だが、それでも木の枝を一時的に防ぐには十分だった。


「これで終わりだ」


 回転は最高潮へ。

 それは、風の力の乗った体術の中でも、最高の技ともいえる。

 あえて名をつけるとするならば。


――『風之獣:風車』


 その一撃はとてつもなく軽く、速かった。

 だが、それでもそのハンドグンドの小さな体には致命傷になるのではないかといえるほどの衝撃をもって放たれたのだ。


 風の力は解き放たれ、ハンドグンドの体は衝撃により宙を舞い、十数メートルと言う距離を飛行した。

 その体は学園の校門を飛び越え、敷地内へと侵入を許した。幸い校門周辺には人ひとりいなかったために、見知らぬだれかがハンドグンドにぶつかるといったことはなかった。

 飛んだ距離と同じ距離を滑走し、中庭に生えた木へとぶつかることでようやくその動きを止めた。

 

「が……あぎ……」


 声にもならない苦痛を口にする。

 そして、身に纏っていた布もボロボロとなり、ハンドグンドの顔は露になった。


「……お主……」


 その顔を見て、リーリャは少しばかり目をこわばらせた。

 そこには、リーリャよりも幼い子供がいたのだ。


「な……、何を、見る……」


 恨めしそうに。悔しそうに。怒りをあらわにしてそのハンドグンドと言う名の子供はリーリャを睨め付けた。

 しかし、どれだけ恨みのこと持った視線を注ごうとも、もう戦闘はできないだろう。

 何故なら、リーリャは先ほどの攻撃にて、何本もの何かが折れるのを感じていた。

 恐らく、人体にとって重要であろう器官にも傷がついている。

 だからこそ、リーリャはハンドグンドに対して、止めではなく拘束を選んだ。

 何よりも、相手が自らからよりも小さな子供だということに、先ほどの怒りもどこかへと霧散してしまったのだ。


 しかし、周囲の惨状を見ればいくら子供がやったことと言えど、相応の罪に問われることは間違いない。

 だが、それでも、リーリャは目の前の子供に、いつかの誰かを重ねて見てしまったのだ。


(ここで、殺すべきではない)


 故に、リーリャは間違いを犯した。


「だめだ! まだ油断するな!」


 そのポーロの忠告は遅すぎた。


「あぎ……あが……あは、あははははッ!!」

「なっ……」


 ハンドグンドの体が膨れ上がった。

 襤褸切れの様になったハンドグンドの身に纏う布は、その形をおよそ人とは言えない形へと変えて行く。

 ぼこぼこと布の内側は隆起し、遂には内側から破れ、そのハンドグンドの人ではなくなった部分を露にした。


 それは、竜の尾の様であった。

 もともと竜であったリーリャだからこそ、その発想に至ったが、それでもその考えは少しばかり外れていた。

 ゴキゴキと歪な音を奏で、ハンドグンドはその体を変えていった。


「なんだよ……それ……」


 ポーロは、あまりにも異常な光景に言葉をなくす。

 目の前に先ほどまでいた小さな子供の姿はそこにはなく、ハンドグンドは異形のモンスターへとなり果てていた。

 だが、それよりも早急な問題が一つ存在した。


「なんとな……」


 リーリャのつぶやきは、先の無くなった自らの左腕(・・・・・)に向けられていた。

 それは、ハンドグンドの変化の最中に、リーリャがハンドグンドに近づきすぎていた故に起こったことだった。

 ハンドグンドの変化の一端。竜の尾のように見えるモノが、リーリャを襲ったのだ。

 致命傷は避けた。だが、左腕を持っていかれた。まるで槍の様にリーリャの肩から下を穿ち、貫きちぎったのだ。


 ドサリ……、そんな音がリーリャの後方から聞こえる。

 それは、リーリャの左腕が地面へと落ちる音であった。


「あが……あは、あははははッッ!!!」


 そして同時に響くのは、その身を竜の様に変えたハンドグンドの咆哮だった。

 

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