106話 弔いの竜
予約投稿ミスで投稿時間少し遅れました、すいません。
現在多少ストックを作れたものの、まだ完結していない模様。このまま完走したい……。
それと、いつもいつも誤字修正ありがとうございます!
走った。
リーリャは、後ろのことなど気にせずがむしゃらに走った。
何があってもいいように、既に『風之獣』を発動した状態で移動している。
風のように走り去る大通りには、多くの死体の様になった人間たちがうめき声をあげて横たわっていた。
男女の比率が男に偏っているのは、おそらく戦える人間が前に出た結果なのだろう。見れば、体格に秀でた人間や、それなりの戦闘経験を積んでいるであろう手をしている人間が多かった。
だが、その誰もが一刀のもとに切り伏せられている。生きながらに死人の様にその身を地面へと無様に放り出していた。
サリアスとは違い、リーリャはそのすべてを無視して、前へと走った。
そして、学園の校門を前にして、その背は見えた。
小さい背が見える。子供の様にも、老人の様にも見えるその姿は、足先から頭まで全身をローブにて覆った不気味な人間が、誰かと斬り合っていた。
おそらく、あの全身をローブで覆った小さな人こそがこの大通りの惨劇を作った人間で間違いない。そう思えるほどの威圧感を、その小さな背に覚えた。
「っ!? リーリャ!」
得体のしれない威圧感。その向こう側からリーリャを呼ぶ声が聞こえてきた。
声の主を辿れば、そこにはリーリャのみ知った顔がいる。そして、よく見れば、ローブを着た人と切り結んでいた人間もまた、リーリャの知る顔であった。
「ポーロっ! それにバルカンか!」
バッドを両手に持ち、ローブを着た人間と切り結んでいたのはバルカン。そして、その後ろには右足を切断されたポーロが力なく壁にもたれかかていた。
ポーロの足は膝から少しばかり下を切断されており、この傷も例外なく血が滴ることなく切り取られたという結果だけがそこにあった。
そんなポーロをかばう様に、バルカンは戦っていた。そして、そのバルカンの相手をしているローブが、リーリャの存在に気づいたのか、斬り合いの中ちらりとだけリーリャを見た。
ぞわり。その視線を感じた時、リーリャの背筋に悪寒が走った。
ローブの手が止まり、そしてバルカンが一歩下がって警戒の姿勢を取った。
バルカンも、敵であるローブの力を警戒して、下手に踏み込めないでいるのだ。
しかし、そのバルカンを視界の外に置き、何故かあとから来たリーリャへとその目を向けた。
「……あなた。何をしたんですか?」
開口一番。ローブがリーリャへと向けたのは、問いであった。
しかし、その問いを向けられたリーリャはその突然の言葉に首を傾げるしかなかった。
「何をした、と言われてもな。少なくとも、それは我がお主に問いたいことだ」
そして、リーリャは警戒を目に宿し、構えを取った。
何故、どうやって、この惨状を作り出したのか。そう聞きたいのはリーリャの方であった。
しかし、その問答をする前に、リーリャはローブの中に見える敵意の色に気が付いた。
「まあ、いい」
ローブを着た人間は、剣をリーリャへと向けた。いや、よく見れば、その手に持っているのは剣と比べるにはあまりにも細く頼りない木の棒きれだった。
まるで、つい先ほど木の幹から折り用意したとばかりのそれをリーリャへと向けて、宣言をする。
「私の戦う意味のために、宣言させていただきます」
「私はハンドグンド。死した者達の未練を断ち切る、弔いを敢行する者。『弔竜』ハンドグンド。故に、私は、お前が許せない」
それは、リーリャにとって身に覚えのない殺意であった。
ハンドグンドは言う。
「お前は殺しすぎた。だから、私がその罪を弔おう」
「殺し、すぎた……?」
――――――
弔竜ハンドグンド。
彼は、人を見る時、その人間が殺してきた生き物の多さを見ることができた。
それが、彼の望んだ目であり、その目を頼って断罪を行う。
その目が赤く映した人間こそが、罪人であり、死者が最も恨むこの世界にあってはならないものとしてきた。
それこそが、彼の生きる理由であり、使命であった。
―――――――
故に。
(なんだ、あの人間は)
その目が移した真っ黒な程に血に汚れた人間を見た時、その使命はハンドグンドへと囁いた。
――あの人間は、絶対に生きていてはいけないのだと。
故にハンドグンドは相対する。
「私は、罪人を決して許さない。それほどに、人を殺し尽くしたお前を、絶対に許すことはできない」
リーリャへと、その宣告はなされた。
―――――――
「私は、罪人を決して許さない。それほどに、人を殺し尽くしたお前を、絶対に許すことはできない」
その言葉に、リーリャは過去に置いてきた記憶が久しく声を上げた。
――そして、竜は火を一吹きしました。ただそれだけで数千という命が崩れ去りました。
お伽噺の一節の様に、その声はリーリャの記憶を撫でた。
ああ、そうだ、と。リーリャは記憶の中から、最も忌々しいものを掘り当てた。
それは、リーリャが竜としての生を終える原因となった発端にさかのぼる。
とはいえ、それは特段追記すべきことではなかった。
簡単に言えば、娘を殺された竜がその力を一度振るったのが原因となり、人間たちが大挙を成して竜へと立ち向かった、それだけだ。
お伽噺の一節。結果は、多くの人間がその竜の吐く炎に焼き殺されたのだ。恐らく、事の全容を知っているモノならば、人の愚かさを非難するだろう。
だが、あくまでも人が敵意を向けたのは人ならざるものであり、被害だけで見れば、竜の娘一人に対して、あるいはその娘の住んでいた村の人間十数人ていど。対するは、万にも上る兵が犠牲として屍を重ねたのだ。
そして、竜の娘のことなど、今も昔も竜本人しか知らなかったことだろう。
だからこそ、史実に残る事実は、ただ一つ。
竜は、多くの人間の命を奪った。
それだけだ。
故に、当時の人間たちは竜こそが諸悪の根源とした。
そこには、哀れで愚かな一人の女の話など、なかったのだ。
「のう、お主」
故に、ハンドグンドの言葉は、少しばかりリーリャの神経を撫でた。
数字だけを。いや、細かな数字はわからないだろうが。だが、その被害の大きさだけでリーリャを判断したハンドグンドに対して、少しばかりの怒りを覚えた。
「お主は、なぜそんなに怒っているのだ」
聞いた。
「……お前が、生ける者を殺しすぎたからだ」
それは、過去の自らの怒りを否定されたようで、とてもじゃないが、リーリャはその言葉を許せそうになかった。
怒れる二人が激突するまでにそう時間はかからなかった。




