104話 欠損
弔い。
その行為の対象になりえるものは複数存在する。
だが、一律に言えることは、『死者』に関係するものを、または死者本人を慰める行為を指す。
「人とは、最も身近に起きたことを覚える」
「人とは、できなくなったことを悔やむ」
「死とは、生物の終わり。故に、それを他の手で汚されたものは、その事実を悔やみ、そして、汚したものを恨むだろう」
それは、その竜は、少しの勘違いから道を外した。
「故に、『弔竜』は、その名のもとに、断罪をする」
――――――
悲鳴の聞こえた方角へと駆けたリーリャを待っていたのは、最悪の現場だった。
人の四肢であっただろうモノがそこら中に散らばり、傷つき、這いつくばった男たちがうめき声の大合唱を上げていた。
「お、おい。大丈夫か!」
惨劇の中、その惨劇を演出するものへと、リーリャは駆けよった。
「あ、ああ。大丈夫だ……、ひっ、なんだよこれっ! どうなってんだ!」
リーリャが駆け寄った人物は、駆け付けたリーリャの近くにいた男だ。
その男は、自分を心配するリーリャの声に気を取り戻し、返答を返している最中に自らの状態を確認するために下を向いた。
だが、それが問題だった。
「な、なんで、俺の体がねぇんだよ!」
その男の下半身は、すっぱりと切り取られていた。
だが、問題だったのはその男の下半身が無くなっている事ではなかった。
その男が、下半身をなくしているにもかかわらず、生きている事だった。
それは、周囲に倒れている人達にも同様のことが言える。
あるものは胸から下を失い、動けないでいる。あるものは、片足を失いながらも、何とかこの場から逃げようとしている。
あるものは、首だけになりながらも、うめき声を上げ続けている。あるものは、這いつくばって自らのなくしたパーツを埋めるように、散らばっていた体の一部を集めていた。
しかし、その光景にはあるはずの血の匂いがない。なぜなら、彼らは一様に体の一部を切り取られているにもかかわらず、一切の血を流していないのだから。
「これは、魔法か……?」
リーリャが分析する。
過去に蓄えた魔法の知識を持つリーリャとしては、人間の体を出血を伴わずに切り取る方法ならば、心当たりはある。
例えば、火を使った斬撃。剣などの武器を、火属性の魔法にて熱し、切ると同時に切り取った部分の傷口を焼き塞ぐといった方法だ。
だが、この方法ではどう考えても即死であろう傷を負ったものがいるにもかかわらず、生きているこの状況の説明ができない。
ならば、と次に出てきたのは、幻覚を見せる類の魔法だ。体を切り取られたにもかかわらず、生きているという幻覚を魔法の力によって見せている可能性だ。
それならば、今目に見える範囲にいる被害者の全員が、痛みからの叫びではなく、体を切り取られたというショックに喘いでいる理由にもなる上、近くに横たわる首だけの男が生きている理由にもなる。
だが、その考えはすぐに、違うと判断された。
何故なら、ここに倒れている男たちならまだしも、後から悲鳴を聞き駆け付けた筈のリーリャ達も魔法の術中にいる説明がつかない。
故に、考えられるのはただ一つだけとなった。
「切った後も、こうやって生かし続ける魔法、か」
それは、拷問にも近い残虐な魔法だ。
その考えに至ったリーリャも、背筋に寒いものを覚え、そして、その魔法の被害者となった者たちが横たわる道の先を見た。
大通り。それも、この露店の並ぶ、先ほどまで活気のあった大通りをまっすぐ進めば。
「この先には、学園がある」
そう。この惨劇を作り出した魔法使いは、確実にクラマキナへと進行しているのだ。
「……! り、リーリャさん!?」
そして、リーリャは再び駆けだした。
ついでに、その突然の行動にサリアスは後れを取り、遂にはリーリャを見失ってしまった。
「……あ、えっと。この人たちどうしたら……」
後れを取った理由は単に、サリアスが道端に転がされている男たちのことが心配になったからだった。
また更新とまります……申し訳ございません。




