101話 束の間の休息
「なんか、拍子抜けだの」
「まあまあ、相手側にも何かあったんだよ、きっと」
会場の観客席。その端の一角で戦いを眺め、少しばかり戦いの最後にがっかりしたリーリャをサリアスが宥めていた。
「さて、思ったよりも早く終わったな」
「そうだね、えっと、確か、予定変更があったから……、準決勝が終わったら、しばらく時間がありましたね」
「やることもないし、露店に行くぞ。そろそろ腹が減った」
「わかりました。それでは、行きましょうか」
そんな会話があり、会場から離れて露店の並ぶ校門前へ。
様々な店が一様に並ぶ中、リーリャは迷いなくとある店へと足を運んだ。
「来たぞ!」
「来たか、わが娘よ!」
リーリャが何故かテンション高く店へと声をかけると、露店の奥から更にハイテンションな声が帰ってくる。
ばさりと、店の奥の品置き場を仕切る幕を翻して女性が現れた。
もちろんながら、リーリャのことを娘と呼ぶこの女性は、リーリャの母親であるリナである。
親子二人が元気よく挨拶を交わしたところで、リナの後ろから新たな影が現れる。
「ああ、リーリャ! 会いたかったぞ!」
両手を広げて、リーリャを迎え入れようとする男が、一人。
一応ながら、リーリャの父親であるサイムなのだが、食欲に走るリーリャは軽く返事をした程度で、本題の昼食をリナへとねだりに行ってしまった。
「母さん、昼を食べに来たのだ。たからせてもらうぞ」
「いいだろうリーリャ。さあ、食べるがいいい!」
謎のテンションによって二人はヒートアップしていく中、サリアスは、サイムへと話しかけていた。
「あ、あの……」
「ん、ああ。サリアス君か」
サリアスとサイム。一応ながらモアラとクリウスも含めて、五年前に何度か顔を合わせている。
そのため、互いに面識があるのだ。そして、サリアスとしては、その何度かの顔合わせで、リーリャに振られて落ち込むサイムを何度か見ているために、今日もこのダメな男を気の毒に思い、こうやって慰め程度に声をかけるのだ。
「大丈夫ですか? それに、お店の方に人が並んでますけど」
「あ、ああ。そう言えば、そうだった。ありがとう、サリアス君。君も奥に行ってリナにパンをもらってきなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いいよ、リーリャの友人だしね。準決勝は見れなかったけど、決勝の時間が伸びてくれたおかげでそっちの方は見に行けそうだよ。決勝もがんばってね」
「はい。頑張らせていただきます。それでは」
「ああ、それじゃあ」
そう、二人は会話を交わして、さっさと先に店の奥の一幕に入っていったリーリャ達を、サリアスは追いかけた。
サリアスが店の奥に入れば、そこは布で仕切られた小さな部屋になっていた。
机が一つ。椅子が三つ。机の上には茶色い包装紙に包まれて、籠に置かれたパンが並べられていた。
今作られたばかりと思えるような香ばしい匂いを漂わせるパンに、サリアスの食欲が刺激される。
何とか、こぼれそうになった涎を引っ込めて、小さな部屋を観察すれば、奥にパンを焼くようなのか簡易的な魔導窯が用意されていた。
おそらく、事前に作って魔法的な処置をして保存しておいた生地を、この窯で焼き上げて店に並べているのだろう。
そう予想して、もう一度机に目を向ける。
そこには、先程スルーしたリナと、無我夢中にパンを頬張るリーリャが木の椅子に座っている。
そこで、部屋にサリアスが入室したのに気づいたリナが、顎で空いている木の椅子を指し、座るのを促した。
促されるままに、サリアスは座り、パンを手に取って齧る。
「あ、おいしいですね、これ」
「そりゃそうよ。これで十年以上食べてますから」
そうして、自信満々にリナはサリアスとリーリャがパンを食べるさまを眺めていた。
「それで、調子はどうなの?」
三つ目のパンをサリアスが平らげたところで、リナが会話を切り出した。
なお、リーリャは今もパンをむさぼっている。
「いい調子ですよ。リーリャさんも病み上がりではありますが、以前と同じように魔法が使えてますし、連携も問題はありませんでした。決勝の相手は、あのハジメさんですが、負けるとはこれっぽっちも思ってないよ」
「あー、そっちか……。まあ、調子がいいのはいい事だ。そんな君にはこれを上げよう」
「あの、リナさん。これで四つ目のパンなんですが……」
「食べ盛りなんだから、じゃんじゃん食べなさい! ほら、リーリャもくったくった」
「おう、貰えるならたらふく貰おう」
こうして、リーリャはたらふくパンを頬張り続けた。
しばらくして、リナに促されるまま六つ目のパンを食し、「もう、無理です……」とサリアスがギブアップしたところで、リーリャも満腹を訴えて、そのぽこりとでたお腹をさすっていた。
椅子に座ったリーリャが食の余韻に浸る中、少しばかりリナが表情を変えてサリアスに声をかけた。
「ねぇ、サリアス君」
「……は、はい。何でしょう」
リナの声に、顔を青くしたサリアスが、少しばかり俯き気味に応えた。
「楽しい?」
リナは、サリアスに向けて一言、そう聞いた。
今、過食と言う状態異常に陥っているサリアスにとっては、少しばかりその問いかけに対する返事が遅れてしまう。
返答ともいえないうめき声をあげ、項垂れているサリアスを見て、リナは微笑んだ。
「ふふ、楽しそうでよかったわ」
リナはそんな言葉をこぼし、リーリャもその言葉に肯定する。そんな、昼過ぎをリーリャ達は過ごしたのだった。
「それじゃ、大会頑張ってね」
食後の休憩も終わり、サリアスの体調も回復したところで、リーリャ達はリナの出店を後にした。
手を振って見送るリナに、リーリャも大きく手を振って見送られる。そんな微笑ましい光景にサリアスが顔を緩ませる。
「では、行こうか」
手を振り終えたリーリャが、サリアスへと手を差し出した。
少しばかりきょとんとしてしまったサリアスであったが、すぐに何故手が差し出されたかを理解した。
「……はい、行きましょうか」
少しばかり、胸の鼓動が早くなる。
だけど、サリアスは一歩を踏みだすために、その手を取って……。
――――――っ!
「むっ……?」
そこで、取ろうとした手は引かれてしまった。
取ろうとした手が引かれてしまったために、寂しくも空を切ったサリアスの手が、握られた。
急にどうしたのかとサリアスがリーリャに問いかける。
「あの、どうしました?」
「……叫び声がした。行くぞサリアス。何か、いやな予感がする」
こうして、遂に魔竜の影が、表世界へと姿を現す。
物語、後半戦です。
しかし、ストックが切れてしまいました(;;)
申し訳ありませんが、毎日投稿が途切れてしまいます。
次回投稿は一週間後の9月27日を予定しております。




