100話 降参
100話!
……と、喜びたいところですが、割と細切れな作品なので、どちらかといえば文字数で喜ぶべきですかね……。
これからも、読んでいただければ幸いです。
シャマがハジメたちの背後に立つことができた理由は、至極単純なことだった。
それは、シャマにハジメたちが気付かなかった。ただ、それだけだった。
シャマは水に呑み込まれたときから、冷静に、静かに、真っすぐ土壁によって作られた陸地へと移動していた。
水浸しになった装備に辟易としつつ、土壁へと昇り、ハジメたちの背後をとったところで、ハジメの詠唱を邪魔るように攻撃をした。
その間数瞬、なんてこともなく。一連の動作はある程度運動のできる人間が少しくたびれながらやる程度の速さで行われたことだった。
それが、その異様なまでの認識のされなさこそが、このシャマの力であった。
「不味いな……」
そして、シャマが相対するのは、剣を正眼へと構えこちらへ向けるハジメだ。
小さくハジメがつぶやくと、次に腹から気合を入れるように声を上げた。
「サエリアァ! こっちは俺が抑える。お前は大剣のちびの方をやれ!」
「わかった!」
ハジメがサエリアへと指示を飛ばす。
サエリアは急いで氷の足場を水の上へと作り、先ほどの防御よりの立ち回りとは全く逆の、攻撃へと出る。
そして、それを見送る暇もなく、剣戟は始まった。
新人魔法使いのための大会のはずが、そこに響くのは剣の乾いた音。
ハジメが持つのは、王家の飾りがあしらわれたロングソードだ。まだ、成長途中のハジメからすれば少しばかり大きすぎるが、それでも、その剣を扱いきれる技量をハジメは持っている。
対するシャマが持つのは、国が預かる騎士学校の生徒故か、それなりに質のいい短剣を二本だ。両手で一本ずつ左右で二本。そうして構えられた双剣は嵐の様な連撃を見舞う。
手数の違いは、はっきりとシャマが優勢であることを語っていた。
右手の剣が、ハジメの胴を横なぎに狙う。数歩下がり、短剣のリーチからぎりぎり出ることで、それを回避する。
しかし、シャマが詰めるように踏み出し突きを狙う。剣で、突きの狙いを逸らしつつ、横にくるりと横に回転しつつ、回避する。
「『ウィンドウ』」
詠唱をすっ飛ばしての魔法発動。ハジメの得意技だ。
発動した魔法は、『ブリーズ』よりも強力な風を起こす魔法だ。指向性を持たせた風は、シャマを吹き飛ばそうと襲い掛かる。
が、シャマは風に身を任せ、後方へと跳躍した。風に逆らうよりも、自ら風に身を任せて跳躍したことで、空中での姿勢制御を成功させ、華麗に着地して見せた。
「……?」
一瞬だけ、シャマの表情が疑問を持ったようなものに変わる。
しかし、ハジメにはその表情にかまっている暇などなく、間合いが広がったのを機に、攻撃へと移った。
「『重力魔法……」
「――あ、降参します」
「――は?」
ハジメが遂に、持ちうる中でもかなり強力な魔法を解禁しようと構えたところで、その魔法に待ったが入った。
そして、突然の宣告に困惑する中、シャマは、先の言葉を裏付けるように、その首にかけた魔道具を取り、なんならとハジメの作った水の中に投げ捨てた。
その行動をやっと降参と受け取った実況が、声を張り上げて試合の結果を告げた。
『あ、えっとー、シャマ選手の降参を確認しました。よって、この試合は、ハジメ、サエリアペアの勝利となります!』
少しばかり、困惑しつつも、実況は仕事を進める。
『あー、それとハジメ殿下。会場の水何とかできます?』
少しばかり困ったようにリラが問いかけると、そう言えば、と足元を見てハジメが魔法を唱える。
「ちょっとまってくれ、今どかす。……『ヴォラティライズ』」
あまり慣れない魔法なのか、少しばかり魔力を練ってからハジメは魔法を発動させた。
すると、徐々に水が音を立てて消えていった。
水かさが、膝から少し下になったところで、サエリアが、土壁の下からハジメに声をかけた。
「何があったのー!? もうちょっとで勝ててたのにー!」
「おいシャマ! なんで降参しやがった! あとちょっとで勝ってたんだぞ!」
そして、サエリアの声にかぶせるようにして、テストラスの声も聞こえてきた。
二人が土壁の上にいる二人に文句を言い、あとちょっとで勝てたと告げたところで、隣にいる敵が行ったことに気づき、「違いますー! 私の方が勝ってましたー!」「はっ! あんな魔法俺に効くわけねぇだろ!」と何やら言い合いを始めた。
「……」
それを聞き流しつつ、ハジメはシャマの方を見た。
そこには、先ほどとの何か疑問に持ったような表情ではなく、何かに気づいき、その口をにやけさせていた。
「で、どうした降参なんてしたんだ?」
「いやなに、降参しないといけないからですよ」
そこで、ハジメは気になったことを正面から問いかける。
しかし、ニヤニヤとした顔を向けながら、シャマはその問いかけをはぐらかした。
はぁ、といつものようにため息をついたハジメは、下の二人のことも含め、面倒なことになりそうだと思い、青く広がる空を仰ぐのだった。




