98話 控室にて
リーリャが目覚めたのは、それからしばらくたった後であった。
魔力を使いすぎた反動で、気を失ってしまったようで、試合終了の合図を聞いたところでリーリャの記憶は途絶えていた。
自分が寝かされていたソファーから起きあがれば、同じ部屋にサリアスがいたことに気づいた。
「あ、リーリャさん。おはようございます」
「う、む。おはようだ。もしかしてだが、我は気絶していたか?」
「魔力の使い過ぎと、緊張が解けたからだと思います。まあ、あんな魔法を使っているのだから当たり前、といいたいですね」
「うむ、やはり問題は多いか。とにかく、と」
横になっていたソファーに腰を掛けなおす。
そうして、リーリャはサリアスに少しばかり自らの状態を確認したところで、次に自分で気になることを確認する。
視線の先は、自らの足。気にするところは、ここ二か月間自らを苦しめていたと言っても過言ではない【回路破損】の確認だ。
リーリャとしても、試合の最後で使ったあの魔法――『二重羽衣』。あの魔法はあの場で思いついたものだ。故に、ゆっくりと腰を据えて制御や代償について調べたわけではない。
故に、あの魔法を使用した脚部の魔力回路を確認した。
「……なんとか、無事なようだな」
回路は壊れていなかった。
その事実にほっと胸をなでおろしたところで、サリアスがリーリャ用の飲み物を用意して、目の前の机に置いたところだった。
「はい。レットリア産の薬草をいくつか混ぜたお茶です。疲れた体に効きますよ」
「ふむ、ありがとうな。では早速」
目の前に出された濁った緑色の液体を、リーリャはサリアスが出したものだから、となんの疑いもなしに呑みこむ。
ほのかに香る苦みと、直接的な甘みが混じり合い何とも言えない調和が出来上がっている液体を、下の上で転がすように味わい、嚥下する。
今回ばかりは一口で飲み干すことのなかったリーリャが、二口目とカップに口をつけたところでサリアスが口を開いた。
「リーリャさん。あの最後の魔法は何だったんですか?」
率直な疑問の提示。
気になるからこそ、サリアスはこの場でリーリャに問いかけた。
そして、隠す必要もないリーリャは正直にあの魔法のことを説明するために、目に映った現象の説明から始めた。
「……ずずず…………、ふぅ。して、あの魔法のこと、だったな」
飲みかけだった茶をすすり、間を置いてからリーリャはサリアスへ問いかけるように説明をする。
「始めは、『二舞衣』からだな。あれの原理は、確か話していたよな?」
「あ、はい。リーリャさんの、その『魔法を纏う魔法』を、体の部位ごとに切り取って別々で構築することで、一つの体で複数の『魔法を纏う魔法』、を発動させる形態でしたよね」
過去にリーリャに説明された魔闘付与の『ニ舞衣』について説明して見せる。
そこで、リーリャは得意そうに笑って、あの時のことを話す。
「そうだ。二舞衣は別々で発動させる『魔闘付与』であった。だが、我の眼前に展開された魔法を見て、もしかしたら、と思ったのだ。そして、何とか発動にこぎつけることができたのが、あの魔法だ」
思い出すのは、目の前に映るクリウスの顔。
視線を見、体幹を観察し、軸を予測したあの場でのとある魔法。
「あの時、最初からクリウスは己に身体強化の魔法を使っていた。そして、後からモアラの身体強化の魔法が使われた」
そこで、サリアスも気づいた。
つまり、モアラとクリウスがやったことは、魔法の上から魔法を重ねて、その上どちらの効果も打ち消されることなく共存していた。
そこで、リーリャは「我もできるのでは?」と考えたということだ。
「そして、編み出されたのが『魔闘付与:二重羽衣』というわけだ」
「あ、そういう名前なんですね。それはそうと、魔法の重複による強化ですか……。あの、もしかしてですが」
「ああ、魔力の消費がバカにならないな。それこそ、あの試合の最後の数秒だけで魔力がすっからかんになった上、おそらく万全な状態であったとしても数分持つかどうか」
「やっぱりですか。あまり乱用はしないでくださいよ」
「ああ、分かっておる」
心配するようにサリアスはリーリャを見つめる。
しかしながら、自らの行動に気づいたサリアスが顔を赤くしながら誤魔化すように手元にあった茶を呑み込んだ。
「ああ、そう言えばリーリャさん。決勝戦が午後に延期になるらしいですよ」
「む、何かあったのか?」
「はい、リーリャさんの消耗が激しそうなので、回復のために決勝まである程度時間をとるらしいです」
「そうか、確かに、まだ魔力が回復しきっておらん。ありがたく休憩させてもらうとするが、しばし暇になってしまうな」
「準決勝の第二試合を見に行くというのもありますが、どうします?」
「む、その手があったな。とはいえ、第二試合が終わったら午後になるまで再び暇になってしまうな、まあ、そうしたら露店の方でも見に行くとするか」
「ええ、そうしましょうか」
そうして、二人は午後まで何をするか、と言う話で少しばかり盛り上がったのであった




