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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
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97話 大技


 誰もが息を呑む攻防。

 それは、蒼い剣は空気を切り裂き。纏われる魔法は宙を舞う。

 魔法使い。それは、魔力を使い万象を再現するスペシャリスト。故に、会場にいる魔法を扱える者たちは皆、この戦いに見入っていた。


 片や、身体を強化するのではなく、魔法という現象を纏うことで力を得る異端の魔法使い。

 片や、魔を断つ剣を、愛する姫からの援護によって全力で振るう『蒼剣』の魔法使い。


(右、ストレート。左、横蹴り。右、回し蹴り。頭突き)


(縦振りから、横なぎか。一度引き、下段からの切込みと見た)


 お互いの読み合いは続く。

 防御されると分かったら、それを踏まえてフェイントをかける。

 隙がチラつけば、罠ではないかと気を引き締める。

 才能故の読みに、経験故の警戒が拮抗を成すこの戦いを、後続の魔法使いたちはただ黙ってみていた。


「すごいなぁ、リーリャさんは」


 サリアスは、ただ称賛の言葉を上げるしかなく、その瞳には憧れの文字が映っていた。

 一方でモアラと言えば、その目を爛々と輝かせて食い入って見つめている。

 もちろんながら、その瞳に映るのはリーリャであり、クリウスではないのだが、そこはご愛嬌と言ったところだろう。

 そんな二人は、今の決着よりも、目の前の戦いを選び、互いに杖を下ろしていた。


 故に、この戦いはリーリャとクリウスの物となる。


 縦に振られた剣を、風の力によって勢いを増した肘打ちで側面を叩き、軌道をずらす。勢いを増した体の回転は腰へと伝わり、ぐるぐると回し蹴りを見舞うが、それを鼻先を掠めるほどのギリギリの動きで回避する。回転を加えられたリーリャの体は、蹴りを回避されることを読み、次に拳を見舞うがそちらには剣で対処した。打ちつけられた拳は、肉と金属がぶつかり合ったというのに、甲高い音を立てて弾かれ合い、わずか数瞬の攻防に間を開けるように距離が空いた。


 拮抗する状況。


 ――の様に見えた。


「なんだ、よ……。これ……!」


 肩を震わせて呼気を吐き出し、疑問を吐露する。


(明らかに、俺が押されてる……)


 見るのは攻撃の比率。徒手空拳が相手とは言え、攻撃ができる隙、というものがリーリャは圧倒的に少なかった。


(対する俺は、咄嗟の回避でギリギリ……。まるで、俺の方が踊らされてるみたいだ)


 紙一重でリーリャの攻撃をよけ続けるクリウスの精神は、時間とともにすり減って行く。

 体力は互角、魔力で見ればリーリャが圧倒的に負けている。だが、精神的な優位で見れば圧倒的にリーリャが勝っていた。

 徐々に、煮え切らない戦いに、クリウスは焦って行く。


 だからこそ、切り札を切った。


「唸れ竜泉、荒れ狂え奇跡の雨よ、混濁とした渦は力となり、我が眼前の敵を呑み込む、故に、我は望む、故に、あなたは応じる、動を静に、導を制に、同を正に、やがて冷たく凍り付く……『蒼式・・……」


 詠唱を紡ぐ。蒼式の二文字が、これから放たれるものが効率が悪く、だが、強力な魔法であると示す。


 そして、ほんの少し前。時間にして数秒。クリウスに向かい合っていた少女も、選択をしていた。


(攻撃手段はあれど、決め手に欠けるな)


 徒手空拳であるからこそ、拳や脚。肩に頭。膝に肘に踵に指に、体の各所を使った連携を駆使し、クリウスを追い詰めていた。

 だが、それでも武器を持っているというクリウスのアドバンテージが故に、下手に懐に潜り込むこともできず、天才的で奇跡の様な反射神経をを持つクリウスは、致命的な隙を晒さない。


(やはり、風では決め手に欠ける。だがしかし、火はまだ我には扱いきれぬし……)


 どうするべきか、決め手に欠ける手札を読み、どれもこの状況に対して有効打になりえないという判断を下した。

 特に、『火』と『竜』は現在の消耗した状態では魔力的に考えても扱いきれるとは到底思えなかった。


 だが、そこでリーリャはとあるものが目に入った。


「……ああ、なるほど」


 新しいおもちゃを見つけたように少女は笑う。

 そこで、詠唱は重なった。


「笑え風よ、靡け風よ、我と共に歩もうぞ! 友は後ろについてくる、だから私は前を征く、風よ、風よ、風よ、風よ、部とは言わずに重ねて歩もう、あなたと私なら、きっとどこにだって行けるはず……」

「唸れ竜泉、荒れ狂え奇跡の雨夜よ、混濁とした渦は力となり、我が眼前の敵を呑み込む。故に、我は望む、故に、あなたは応じる、動を静に、導を制に、同を正に、やがて冷たく凍り付く……」


 ――『魔闘付与:二重羽織【嵐之獣】』

 ――『蒼式:氷続ける渦潮(アイスヴォーテックス)


 瞬間、周囲に水が発生した。

 水は、魔力によって生成されたモノであり、その魔法はクリウスを中心として宙に水を発生させていた。

 クリウスの持ちうる中で、最大の範囲を誇る魔法。『氷続ける渦潮(アイスヴォ―テックス)。それは、次の瞬間にはクリウスを中心として回り始めた。

 会場には、小さな海ができていて、そして、それはゆっくりと歪み始める。

 ぐるぐると、ぐるぐると、その内にあるものをすべてかき混ぜるような渦潮が出来上がった。


 だが、この魔法これで終わりではない。


 ゆっくりと、だが確実に渦潮が凍り始める。端から、水が凍り付くが、かまわず渦潮は回り続ける。

 凍り付いても、無理矢理動き続ける渦潮は、次第にシャーベット状の水に変わり、それでも、凍り、回り続けた。


 はたして、この渦潮に呑まれたものは生きていられるのだろうか。

 凍らされ、その氷を引きちぎるような勢いで渦潮は動くのだ。


 魔道具と言う防御があろうとも、皆がリーリャの安否を叫んだ。

 こうして、全力の防御魔法を使ったサリアスとモアラの周囲を残して、会場は渦潮に呑まれる。


 リーリャの姿はない。それもそのはずだ。


「今の我は、空を駆けるぞ」


 空から。クリウスの耳にそんな声が届いた。

 刹那。それは、一瞬だった。

 胴体胸部。クリウスは、右胸部から鎖骨に衝撃が加わった様な気がした。

 暴風が、自分の体を後方へと激しく吹き飛ばした様な気がした。

 そして、シャーベットの海を越えて、クリウスは壁へと激突し気を失った。

 落ちる意識の中、海の中心に立つ黒髪の少女が見えた。


 その少女は、風の魔力を纏い、片膝をついた。


(ああ、あいつも限界か)


 そうして、クリウスの意識は闇に落ち、決着はつく。


 最後のリーリャの攻撃によってクリウスのペンダントが破壊されたために、勝者は決まった。


「この勝負、勝者、リーリャ、サリアスペアです!!!」


 その言葉と同時に、ぱたりと、完成の中心にいた少女も気を失ってしまったのだった。

正直、もうちょっとどうにかならなかっただろうかという決着。

私の上ではこれが限界でした。

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