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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
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95話 青と白と黒と青


 新人大会三日目。


 波乱の一日が幕を開けた。


「え、ドタキャン……?」

『非常に申し訳ないのですか、突然の来客に王自らが対応せざる負えなくなってしまい、予定通りそちらへ向かうことができなくなってしまいました……』


 波乱の始まりは、クラマキナ王国のバックにつくレットリア王国の王の来訪という一大イベントの中止から始まった。

 理由を聞けば、三大国である『リーリフル竜国』からの来訪者が来ており、その対応に王自身が対応しなければいけない事態となってしまっているとのこと。

 その報告を王宮魔導士の通信部隊である同僚から話を聞き、あんぐりと口を開ける学園事務員。

 本来ならば、新人大会の三日目では王自身が会場に訪れ、決勝の戦いを観戦するという仕来りがあったのだが、それができそうにないとなるといろいろ問題がでてくる。


「それでは、優勝の栄光に関しては……」

『あの王様、「そっちに我が息子がいるのだからそいつにやらせろ」とかおっしゃりやがりましてね……』

「ハジメ様ですか……」

『何か問題が……?』

「いえ、ハジメ様自身が大会に参加しているため、もしかしたらそのまま優勝してしまいそうで……」

『えぇ……』


 最初こそ取り繕っていた会話だったが、途中から同僚同士の気安さを持った口調に変わって行く通信。

 本来ならば、大会の優勝者には王直々に栄光という名の何らかの勲章を下賜するのだが、もしハジメが優勝してしまうと自分で自分に物を上げるという痛い人になりかねない。

 とはいえ、代役をとるにしても学園長であるジョーゼフですら分不相応なのだから、頭を抱えたくなってくる。


『……それじゃあ、切りますよ』

「え、あの、ちょっと!?」

『ツー、ツー……』

「あの人ホントに切りやがった!?」


 そして、問題は学園側に丸投げという形でその日は始まったのだった。



―――――――――――



『はい、それでははじまります。準決勝、第一試合です!!!!!』


 リラの声に、観客たちが歓声を上げる。

 大きな歓声と共に、会場のひとつの入り口から二人の人物が現れる。


『その舞は人々を魅了する、変幻自在の魔闘舞踊、リーリャと!!!』

『あらゆる魔法を使いこなす蒼の片割れ、『蒼賢』の名をもらいし若き賢者、サリアスよ!!!』


 自身満々に胸を張って登場するリーリャだが、明らかにリーリャの後ろにいたサリアスが姿を現した時の方が歓声が多い。

 もちろんながら、実績のあるサリアスが相方であるために、リーリャの評価が少しばかりしっかりと見られていないのもあり、次いでいえば若き才能を射止めたい少女たちの黄色い声援もあるためだ。


「むぅ、ずるいぞサリアス」

「僕に言われましても……」


 しかしながら、そんな事情を知らないリーリャはサリアスの可愛らしい顔で嫉妬の意を示す。

 戸惑うサリアスを置いて、実況は次なる選手を呼ぶ。


『そして! もう一人の蒼。その剣は魔を断ち切る、魔断の剣。『蒼剣』のクリウスと!!!』

『清き白百合は恋い焦がれる。火も水も風も土もひっくるめた混沌の『白姫』、モアラよぉおおお!!!!』


 謎のテンションでもくもくと語り続けられえる前口上をBGMにして現れたのは、青髪の少年と、少年に連れ添う様に数歩下がっておしとやかに歩く白髪の少女だ。

 見れば、誰もが貴族同士の婚約を結んだ若き夫婦と言った華々しさを持った二人組の登場に会場の歓声が止まった。

 歓声を上げるのも不躾とも思える光景に、一同が沈黙する中、事は起こってしまった。


「お久しぶりです、お姉様」


 粛々としたモアラの声が、静かな会場に響いた。

 いつもは歓声のせいで聞こえないはずの選手の声が、静かな会場の人間達の耳に入り込んできたのだ。

 蒼の対決、白と蒼のタッグなどと囃されたことを考えていた会場の視線が、そのモアラの示した人物に向いた。


「昨日会ったろう、急にどうした?」


 畏まった態度のモアラと反して、悠々と返事をするリーリャに少しばかり驚きを隠せない。

 リーリャの周りにいる、ポーロやアイラなどと言った人物はこの二人の関係を知ってるが故に驚きはしないが、何も知らない会場の観客たちは何事かと目を疑っている。

 何故かといえば、もちろんながらリーリャが大した評価がされていなかったのが原因である。


「いえ、こうして正面に立って競いましょう、というのは五年ぶりですから」

「ああ、昔は球をけって遊んでいたからな。サリアスがどんくさくて我が一緒のチームに入ってやらねばならなかったことが懐かしいよ」

「リーリャさん……、そ、そんなこと、ありましたっけ……?」

「懐かしいな、どうせなら今から球でもけろうか? サリアスなら作れるだろ?」

「クリウスも冗談に乗っからないでよね!?」


 仲睦まじい様子の四人に、次に納得を示した。

 なるほど、だからあのサリアスに取り入ることができたのか、と。

 サリアスとペアを組み、順位を上げていった無名の少女に対して少しばかり嫉妬を覚える人間も多いのだ。なぜ、あの女なのか、と。

 だからこそ、元から仲が良かったという理由でサリアスとペアを組み、新人大会の上位へと上り詰めることができたのか、と納得した。

 しかしながら、次のモアラの一言、一行動でその話題は吹き飛んだ。


「……」

「む、どうしたモアラ」

「あ、まず――」

「お姉様ぁああああ!!! 流石にもう我慢できませんよぉおおお!!!」


 目を閉じて固まっていたモアラが、遂に暴走したのだ。

 理由としては、近距離で目を合わせ見つめ合うという状況と、少しばかりリーリャに対してモアラが風下にいたことで、愛しのお姉様の香しい甘さが鼻をくすぐったことが挙げられる。

 少しばかり前までは、誰も触れることのできないような神々しさを持った淑女であったモアラが、鼻息荒くリーリャに抱き着くという奇行に、だれもが目が飛び出るほど見開いて驚いた。


「お、おう。モアラ、これから試合うのだから離れよ」

「はぁ、はぁ。そ、そうですね……、た、立ち位置に戻らないといけませんよね……!」

「なぜ我の腕を引いて戻ろうとするのだ」

「あ、あれ? あ、あはは……すいません」


 そして、先のイメージをぶち壊すような失態など気にもしない様子で、実況は試合の開始を告げる。


『それでは、準決勝、第一試合始め!!!』


 そして、試合は始まった。

 

 リラの掛け声と共に動き出したのは、クリウス。逆に、リーリャは待ち構えるように構えをとった。

 縦に振り下ろされた剣を半身を引いて避けたところで、サリアスたち後衛組も魔法の発動を始めた。

 リーリャ達近接組とは違い、サリアスはワンテンポ行動を遅らせる。状況を俯瞰し、行動を選択する。


(しかし、モアラはどう動くんだ……?)


 そんなサリアスが警戒をするのは、現在絶賛戦闘中のリーリャ達を挟んで向かい側にいる、モアラである。

 リーリャの行動の行く末を眺めるように、杖を振るい、魔法を構築している姿が見て取れた。

 だからこそ、サリアスは不安を覚える。


(構築から見て、放出系……おそらく遠距離からの攻撃だけど、何が狙いだ?)


 サリアスにとっての疑問は、モアラの立ち位置にあった。

 前提として、モアラの戦い方を知っているサリアスだからこそ、疑問を覚える立ち回りをしているのだ。

 モアラの戦闘スタイルは、いわゆる万能型。近接も遠距離も補助も妨害も一通りの役割をこなすことができるという強みを持っている。

 しかしながら、近接に突出したクリウスに勝る力はなく、また遠距離であってもサリアスを超える技量を誇るわけでもない。

 故に、モアラの戦いには、戦い方が求められるのだ。

 一歩引いた補助然り、相手に合わせた妨害然り、何らかの形で、自らの有利ととれる状況へと事を運ばなければいけないのだ。

 だからこそ、今まで、模擬戦となった時はサリアスには近づき、強力な一撃を放つ近距離型として。クリウスには、距離を詰めさせない遠距離型として、相手に合わせた、その相手の苦手とする分野で立ち回っていたモアラである。

 

 故に、サリアスは疑問を持った。


(遠距離魔法で、僕と戦うなんて、モアラらしくない)


 そう。現在、近距離を得意とするリーリャには、同じ近距離型であるクリウスが対応している。

 だからこそ、必然とサリアスとモアラが対面する形となるのだが、そこでモアラが選択したのは、サリアスの土俵となる、遠距離攻撃魔法であったのだ。

 相手と同じ土俵に降りるということをしないモアラだったからこそ、サリアスはその笑みに潜む裏に警戒をより一層強めた。


 そして、先に完成したのはサリアスの魔法。


「『蒼式:コールドスペース』」


 魔法の発動と同時に、詠唱に交えて指定した座標を中心に魔法が発動した。

 

 一瞬だけ、突然冷え込んだ空気にリーリャが体を震わした。

 そう、この魔法は、発動地点の周囲の気温を下げるというものだ。

 リーリャとクリウスの周辺の気温が、氷点下を超えて下がる。しかし、この効果はあくまで副次的なものだ。

 この魔法を下地に、サリアスの作戦は展開されるのだが、その前に、モアラの魔法が発動された。


(来たっ……!)


 魔法発動特有の魔力の集まりを感じる。

 集束は、モアラを中心として。

 放出系。それは、魔力を攻撃魔法へと変質させ、大砲の弾を撃ち出すように相手へと放出する魔法の一つの括りだ。

 つまり、モアラの魔法は遠距離的な攻撃魔法と考えられる。


(リーリャさんか、それとも僕か……)


 いったいどちらを狙ったものかを思案する中、魔法は完成に至った。



「ふふふ……」


 静かな笑い声が、耳に届けられる。

 サリアスとリーリャの争いの中、何故か届けられる声に、サリアスは気を取られる。

 目を向けた先には、もちろんながらモアラが立っている。

 そして、その手にはが構えられていた。半透明のそれは、すでに矢を番えている。


「『シルフの風矢』」


 魔力が鏃へと収束する。それは、強大な風の力をもって放たれた。


 例えるならば、小さなハリケーンと言ったところか。渦を巻く風の中心に添えられる矢が、暴風を従えて突き進んだ。

 その狙う先にいるのは……。


「なんでだよ!?」


 何故かそこにいるのはクリウスだった。

 リーリャとの戦闘をやめ、反転。驚きつつも、自らを狙う矢を迎え撃った。

 魔を断つ力を持ちい、蒼い剣は矢を一刀のモノに切り伏せる。

 矢は両断され、魔法としての威力を失ったが、それでも引き連れていた暴風はその威力御大きく減衰されただけで、まだその勢いを保っていた。

 人ひとり軽く持ち上げるような暴風の中、中心に立って魔を斬ったクリウスは、魔法の断たれた中心部が台風の目のような形になっていたために影響を受けず。

 そして、リーリャは移動能力に長けているために発動していた『風之獣』の力ゆえに、簡単に暴風を無効化してのけた。

 後方に存在するサリアスはもとより魔法の影響範囲外にいるために、何の問題もなかった。

 そんな、三者無傷の結果に終わった魔法であったが、モアラにとってはこれでよかったのだ。

 なぜなら……、


「っ!? 僕の魔法が全部吹き飛んでる!」


 そう、モアラの狙いとは、サリアスの展開した魔法を無効化することだった。


 そのため、サリアスは現在構築していた魔法の展開を途中で中止する。それは、あくまで展開していた魔法ありきの魔法であったためだからだ。


「自由には、させませんよ」


 ニヤリと、モアラが笑う。子供の悪戯が成功したような、それでいて、誰もが見惚れるような笑みをもって、サリアスを挑発する。

 そして、その前方に構えるのは、なぜか悔しそうにしているクリウスが、まだ始まったばかりだというのに負け惜しみの様な言葉を吐いていた。


「くそぅ、狙われたら斬るしかないじゃんかよ」


 何故かはわからないが、非常に悔しそうであった。

なお、モアラが風上に居た場合は自らの匂いをリーリャにぶつけていると言う興奮から気絶します

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