93話 明日に備えて
「次の試合は明日か」
「そうですね。次の準決勝からは明日行われますよ」
「そうかそうか、ならばこれからは自由時間ということだな」
「はい、何をしましょうか」
三回戦第一試合を終えたリーリャ達は、今日行う最後の試合を終えて、控室で休憩程度に紅茶を嗜んでいた。
問題こそ多かったが、この戦いでリーリャが得たものは多かった。サリアスとしても、撃つ機会の少ない魔法を模擬戦闘で使うことができたためにいい経験になった、などと話し合いをする中、次は暇となったこれからの時間をどうするか、という話になった。
「……少しばかり学園を見て回るか」
「ああ、一応学校のスペースを一般開放してますしね。……僕たちからしてみれば今更なところばかりですけど」
リーリャが申し出たのは、今更ではあるが学園を回ってみないか、という提案であった。
この新人大会は、元をたどれば学園の新入生の力を外部へとアピールする目的で行われている。
そのため、ある程度の学園施設を一般公開することで、次の新入生となりうる人材、またはその親へと学園の良さを伝えるという外部的なアピールも新人大会のついでで行っている。
例を挙げるならば、例えば寮の食堂がこれに該当する。なお、一般開放されているのは男子寮の方である。
だが、昼を過ぎて、もう少し経てば空がオレンジ色に染まってくるような時間帯だ。さしてお腹が空いているわけでもないのに食堂に行くのも憚られるため、その候補にはバツをつけておく。
「食堂がダメなら、後は……」
「中庭、第一校舎、図書室だったか、他に解放されているのは」
中庭は校舎と寮を繋ぐ庭園のような場所。昼の必修時間を過ぎれば、よく生徒がそこにたむろしているのを見かける。
第一校舎は、リーリャ達一年生と二年生達の教室がある校舎だ。一年、二年の教室の他にいくつかの空き教室や研究室もあるが、当のリーリャ達としては今更な場所でもある。
図書室は、それ専用の塔が建てられる程に広い場所だ。リーリャ達でも流石の蔵書量に蔵書の一割も読み切っていない。
とはいえ、どの場所もリーリャ達にとっては見に行くとしても今更過ぎ、また、年の後半で行われるもう一つの祭りよりも見ごたえがないと聞いているために、どうしても行こうと思える場所がない。
「仕方がない、我の魔道具置き場にでも行くぞ」
「あ、何か見せてくれるんですか?」
「おう、お主がいなかった時に作ったものがいくつかあるぞ」
「それは楽しみですね」
そうして、一般開放とは関係なく二人の放課後は過ぎていった。
――――――――――
パスコンッ!
乾いた気の抜ける音を発しつつ放たれるコルク。
目測では必中のラインをとったはずなのだが、何故か左にそれる軌道。
「え~、今の当たったと思ったのに~!!」
「へっへっへっ、惜しかったねぇ嬢ちゃん」
「これ、よく見たら銃口左に曲がってますよね……」
「何のことかな~」
豪快に笑いながら、誤魔化す店主に、少しばかり責めるような視線を浴びせるリフィル。
実際、その手の人が見ればすぐにわかるほど銃口が豪快に曲がっているコルク銃が目の前にずらりと並んでいるのに、逆に清々しいほどの物を感じつつ、横でそのコルク銃に四苦八苦するテレサを眺める。
明らかに真っすぐ飛ばない銃を持って、何故か照準通りにねらいをつけるテレサに呆れながらも、後ろにいる友人たちに話しかけた。
「アイラちゃんもやる?」
「いえ、遠慮しておこうかと……、ミーラさんはどうです?」
「わ、わわわ私でしゅか!? さ、流石にこの出店は……」
目の前の射的の屋台を横目に、こんな詐欺のような出店はちょっと……、と引き気味のアイラとミーラ
逆に、リフィルたち三人は何故あんなにもテレサが楽しめているかが理解できない。
なお、後から楽しんできた理由を聞いてみれば、「雰囲気」とだけ答えたテレサであった。
「じゃあ次はどこ行こっか?」
そこに、射的のコルクをすべて使いきったテレサが次の店を探して三人と合流する。
「あ、終わりましたか」
「うん、それでミーラちゃんのお胸が恋しくなって……」
会話の流れを完全に無視しつつ、徐にミーラの背後に回るテレサ。
「はにゃ!?」
「ほふぅ……、やっぱりこれだよ~、ミーラちゃん~」
むんずとミーラの十二歳らしからぬ果実を鷲掴みにして堪能し始めたところで、リフィルから制裁が入る。
自らの魔法で作り出したハリセンを使ってテレサの頭をしばく。
「テレサちゃん。何やってるのかな……?」
「愛しお胸を揉んでいました!」
「あの動き、どうやったらあんなに意識の外側に出て行く動きができるんですかね……」
突然に掴まれ堪能された豊満な胸部装甲を両手で抱えて赤面したミーラを慰めつつ、アイラはそんなことを考える。
テレサは、ことセクハラにおいてはリーリャを上回る技量を発揮することがあり、度々その標的にされるミーラにはたまったものではない。
なお、何故ミーラを標的にするかと聞けば、『おどおどした巨乳とか揉まずにはいられないと思うよ』っと、彼女は真顔で答えた。
がやがやキャッキャと騒がしくなりつつある四人であるが、やはり今一つどこか盛り上がりに欠ける。
もちろんながらその理由は、テレサと比肩する騒がしさを持ったリーリャがいないからのことだ。
「リーリャさん、サリアスさんとイイ感じでしたよね」
そんな中、ポロっと、今日の試合を見ていたアイラがそんなことを口にする。
その言葉を聞いた三人も、そのことに同意しつつ、二回戦ではその対戦相手となった二人が口を開いた。
「いやぁ、凄い信頼関係だったよね」
「そうそう。私がもらっちゃった氷の魔法も全然気が付かなかったしねー。それも、リーリャちゃん、サリアスさんがやることわかってた風だったし」
思い返してみれば、リーリャがサリアスに対して絶大なる信頼を置いて行動していた節を端々に感じる二人。
考えてみれば、リフィルとの一対一の対決も、絶対にテレサを対決に介入させないだろうという信頼をもって望んでいたのだろう。
「あの二人、今頃何してるんだろうね」
甘酸っぱい香りを感じつつ、四人の間では他人の恋路についての話でもちきりだった。
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「これなんかどうだろう?」
「いや、なんか重心がずれてんな。もう少しこう、手前によってる方がいいんだが」
「抽象的過ぎだな。それに、多少は我慢しとけ」
景気のいいお祭り騒ぎの中、何かに悩む集団が一つ。
文句を言いつつ、多少の振りを交えて品定めをするのは、今回の試合では現在ハジメ相手に一番の大立ち回りをしたバルカンだ。
その横では、雑多に置かれた品物からそれっぽいものを見つける作業をするポーロとフーゴルの姿があった。
その集団の目的はただ一つ、今回の試合で折れてしまった金属バットの代わりを探すことだった。
戦いの中、バルカンこそ耐えたが、それでも上級に類する魔法を受けた安物のバットは、その後の剣戟によりぽっきりと真っ二つになってしまっていたのだ。
しかしながら、筋肉をこよなく愛するバルカンがなぜ金属バットを使っているのか。
バルカン達の後ろで、全員分の飲み物を手に持って三人の様子を見ていたグレゴリーが、そんな疑問を覚えた。
なので、聞いてみる。
「そう言えばバルカン。君はどうしてバットを使っているんだい?」
その問いに、なかなか好ましい品が見つからない故に、重ねられた眉間のしわを指で伸ばしながらバルカンは答えた。
「うん? ああ、前にお前が審判した筋肉の大会あったよな? あんときに振ったんだが、なかなか使いやすかったんだよ」
「そういうことでしたか」
自らの疑問に納得をしたグレゴリーは、もう話はすんだと、後方にあったベンチへと腰を据える。
そうして、今も新品を探す三人を眺め続けるのだった。
「ふん、ようやく見つけたか」
「おう、付き合っててくれてありがとな」
時間としては短くも長くもない程で、バルカンはお目当ての品を見つける。
新品だが、バルカンにとっては扱いやすい代物であり、バルカンに付き合っていた連中としては、ここまで謎のこだわりを持って探し続けた甲斐があるというものだ。
友人の喜びに少しばかり気をよくして、祭囃子の中を歩く連中は、上機嫌なバルカンを先頭として祭りを楽しんでいた。
しかし、ここでポーロから提案が入る。
「どうせなら、その新品の調子でも見に空いてる訓練場にでも行くか?」
その言葉に、まず先にバルカンが食いつき、一行はその身を訓練場へと移動させることにしたのであった。
先日に予選の会場として使われていた、第三訓練場に赴いた四人。
誰もいないであろうと踏んで、学園の端の方に存在する第三訓練場に赴いたバルカン達であったが、訓練場には五、六人ほどの先客がいた。
「お、誰かいやがんな」
「珍しいな。わざわざ端の方にある第三に俺たち以外で足を運ぶ奴がいるなんてな」
珍しい、と感想をこぼす一行。
しかしながら、先客がいたとしても、その先客たちが埋めるスペース以上に訓練場は広い。
特段、問題もなくバルカン達は模擬戦闘の準備をするのだが、グレゴリーがとある疑問を持ち、それをつぶやくをうに吐き出した。
「あれ、装備がこの学園の物じゃないですね」
そのつぶやきに注目が集まる。
よくよく見てみれば、その先客たちが身に着けているものは、鎧であった。
それも、近接戦闘を主とする戦士などが扱うような物であり、彼らが身に着けている鎧の種類を考えれば、魔法使いを育成するこの学園にはおいてないような装備なのだ。
「ああ、そう言えば」
そこで、ポーロが思い出したかのように口を開いた。
「外国の方の騎士学校からのエントリーが確かあったな。たぶん、それの関係者だと思うが」
六組のまとめ役的な立ち位置にいるポーロは、事前にある程度の大会の情報を知っている。
その中に、外国らかの選手がいるという情報があったので、今その情報を思い出したのだ。
「へー、そうなのか」
「ほら、明日ハジメ様と準決勝で戦う相手だよ。小さい大剣使いと細身の剣士」
「ああ、あいつらか」
ポーロ発信の情報は、正しく三人の元に届けられ、三人は同様の二人の戦士を思い浮かべた。
そんな中、バルカンが妙な違和感を覚える。
「……?」
その視線は、自分たちよりも先に来ていた先客たちへと向けられているが、その詳細をバルカンは悟ることはなかった。
「どうした?」
「あー、いや。なんでもねぇ」
こうして、肩で息をするまで模擬戦を続けた三人を、優雅に紅茶を飲みながら見守るグレゴリーと言う構図で四人の時間は過ぎていった。




