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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は競う
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92話 スコール


 二つ名。

 それは、大勢の人々に認められた人物の功績や優れた実力を現したものだ。

 その多くは、『蒼剣』の持ち主の様に、その人物の分かりやすい特徴捉えたものや、『夢喰』の様に、その人物の得意とする事を二つ名としたものだ。


 それでは、『火葬』とは、如何にして付けられたものか?


 それは、畏怖の証だった。


 焔に巻かれる悪鬼。それこそが、『火葬』の二つ名を得た当時のエンキだった。



 ……

 …………

 ………………



 耳がキンキンと突然の爆発に対しての準備不足を訴える。

 パラパラと体に吹き飛ばされた砂や小石が当たる感覚を覚えながら、サリアスは爆発の中心地を見つめていた。

 突然の出来事に、サリアスは驚愕と困惑を示し、


「いたた、かなり飛ばされてしまったな」

「リ、リーリャさん!?」


 そして、ぬっと背後から現れたリーリャに更に驚愕の声を上げた。

 魔道具の保護があるために外傷こそないが、その魔道具には大きな亀裂ができてしまっている。

 とっさとはいえ、事前に防御の構えをとっていたことが幸いし、体を守りつつ、背後へ吹き飛ばされることによってダメージを軽減することに成功していた。

 こういった爆発は、熱や爆風によって飛ばされる礫などの対処さえしっかりしていれば案外ダメージが少なかったりするのだ。

 とはいえ、魔道具の亀裂を見ればそれなり程度のダメージを受けていたことがうかがえる。


「大丈夫ですか!」

「おお、魔道具のおかげでかすり傷一つないわい」

「そ、そうですか……しかし、あれは……?」


 リーリャの心配をしつつ、その視線を正面の爆心地へと向ける。


 爆心地。もちろんながら、爆発の起きた中心にいるのは、爆発を起こしたエンキその人以外にあり得ない。

 だが、そこにいたのは似ても似つかない、禍々しい焔を纏った鬼だった。



――――――――――――



「ほぅ」


 一言、観客席に座っていた生徒が声を出した。

 本来ならば、この動いた戦況の中、湧き上がる歓声に消えるような小さな声だった。


「あれ、知ってるの?」


 だが、近くに座っていた少女が、その声に反応を示した。

 少女の名は、エイラ。そして、声を上げた生徒の名は二―ベルトだ。

 五組に所属するエイラだからこそ、同じ五組に所属する彼の表に出した反応に興味を示したのだ。



「まあな、エンキとは何度ともなく交わりあったのだから、知っていて当たり前だろう」

「気持ち悪い言い方ね、そんな言い方をしているからいつも喧嘩になているんじゃなくて?」

「ふっ、彼の一撃はいつもいい味をしているのだが、あの状態はさらに最高になるんだ」

「聞いてないみたいね」


 慣れた態度で二―ベルトの相手をしつつ、エンキのあの状態について話を聞きだす。

 エイラとしては何故この男はこうにも気持ち悪いのかと、甚だ疑問に思っている。


「あれはな、やつの感情が怒りに振り切った時に発動する、やつの魔法だ」

「怒りに振り切った時……?」

「ああそうだ、まあ、今回の場合は好きなだけ暴れていいって話だからな。たぶんあの魔法が発動するラインは相当下がってると思うぞ」

「そうなの……、それで、あの魔法はどんな効果があるの?」


 呆れつつも、エイラは詳細な情報を求めた。

 なお、二―ベルトが全く下がっていないエンキのガチギレラインを、常日頃から反復横跳びしていることについては触れないでおいておくとする。


「あの魔法は、言わばエンキの本気だ。あれを発動したあいつは……、」


 かっこつけるように焦らして、一つ呼吸を挟む二―ベルト。

 その視線の先には、まるで鬼のような角の形を表した焔を纏う鬼がいた。


「鬼そのものだ」


 鬼、場所によってはオーガなどと呼ばれる魔物。

 荒い気性と剛力によって周囲を破壊する暴力の塊のような存在だ。

 そして、その姿を見たものは、一様にエンキをそう例えた。



――――――――――――

 


「言葉にすれば、鬼と言った様相だな」

「ああ、その通り。彼もあの状態の自分のことを鬼と表しているよ」


 感想とばかりに言葉を発すリーリャに、肯定を示した言葉が飛ぶ。

 首を向ければ、いつの間にかそこにはオーレルクスが立っていた。


「それでは、第二ラウンドと行こうか」


 腰を低く落とし、拳を前に構えるオーレルクス。

 奥を見れば、爛々と目を輝かせ、怒りに染まった表情を見せるエンキがこちらへと歩みを向けていた。


「サリアス、援護、頼むぞ」

「はい、頑張ってください、リーリャさん」


 絶対の信頼をもって、サリアスに背中を任せるリーリャがオーレルクスに掴み掛り、戦闘が始まった。

 掴み掛ると言っても、オーレルクスは上半身に何も着ていない。故に、しっかりと握ることができる箇所と言えば、腕や足の末端部分になる。

 もちろんながら、肩や首などを掴み、引き寄せて打撃を与えることもできるのだが、リーリャは掴みを起点としてエンキに投げようという目論見なのだ。故に、しっかりと握ることのできる手首を狙う。


「握手をご所望かい?」


 だが、相手も近接戦を得意とする魔法使い。特に、オーレルクスは他二名を含めて毎日のように格闘戦と称して模擬試合をしている。

 かの三人組は、こと対人においては、二か月のブランクがなかったとしてもリーリャの遥か上を行く存在なのだ。

 そんあオーレルクスは、掴み掛ろうとしたリーリャの手を、握手をするように逆につかんで見せた。


「信条は捨てられないが、君の本気も見たいからね。卑怯だけど今回は二人でやらせてもらうよ」


 不意につかまれた右手。そして、体勢を崩されるように投げられる。

 その先にいたのは、鬼――エンキだった。


「ブチかますぞオラァッッ!!!」


 大きく腕を振りかぶり、正面に真っすぐ振り下ろす。

 リーリャに振られた必殺の一撃は、放り投げられたリーリャが避けることのできない速度で放たれるが、それを阻害するように魔法が飛んできた。

 地面から生えてきた氷が、大きくリーリャを吹き飛ばしエンキの拳から遠ざけた。


「ねぇ、僕がいるの忘れてないですか?」


 そう、この戦いは二対一ではなく二対二。風の魔法を使って一時的に高く飛翔していたサリアスが、下から生えてきた氷によって上へ打ち上げられたリーリャを受け止めて、ゆっくりと地面に着地する。


「それに、リーリャさんも慢心しすぎだと思います。なんで、魔闘付与使わないんですか……」


 地面にリーリャを下ろしつつ、呆れたように頭を抱えるサリアス。

 魔闘付与というリーリャの特魔法を何故使わないのか、という疑問をリーリャにぶつけるが、リーリャは何を言っているかわからないといった表情でそれに返事を返した。


「使ってるぞ、魔闘付与」

「え?」


 そう、リーリャは別段、魔闘付与という得意技を使わないでいたというわけではないのだ。

 そもそも、魔闘付与とは魔法を体に纏う魔法。身体能力を上げる魔法とは、原理が少し異なっている。

 そして現在、リーリャが使っている魔闘付与は『全視之鷹』という名がつけられたもの。

 その魔闘付与が纏うのは、探知魔法。極限にまで範囲を圧縮した探知魔法を体に纏い、半径一メートル未満とい極小範囲のみ相手の行動を予測するという魔闘付与だ。

 格闘を専門とする二人を相手にするために使っているのだが、今のところは相手の攻撃を回避する程度のことにしか使うことができていない。


 と、これだけ説明することはあるのだが、現在試合の真っ最中であるために、すべての説明を省いて一言。


「行くぞサリアス、相手は目の前だ!」

「え、え!?」


 既にこちらへ向かってくるエンキを理由に誤魔化した。


「とは言え、どうするかの」


 今回の相手は、二人とも完全なインファイター。

 近距離による拳や足による打撃戦を得意とし、また対人戦における読みや防御もある程度の経験がある。

 本来ならば、魔法で遠距離的な攻撃で対処するものなのだが、それをしようにも範囲の限られている会場ではそこまでの距離を広げることはできない。

 ならば、リーリャが魔法使いを守る盾の役割をする必要があるわけだが。それでも先に言った様に二対一という圧倒的な不利な局面に陥ってしまう。

 

 だが、だからこそリーリャは前に出た。


「結局、やることは変わらないのだから、速めにやってしまうぞサリアス!」

「やるって、アレをですか? で、でもリーリャさんの魔道具罅入っちゃってますけど……、ってもう前に出てる!?」


 いつかに聞いた作戦。最悪の場合つかおうとリーリャが冗談程度に話していた言葉を思い出しながら、サリアスは頭を抱えた。


「あー、もうっ! わかりましたから、頑張って耐えてくださいよ!」


 そう言い、サリアスは手に持った杖を前に掲げ、いつになく気合を入れて詠唱を始めた。




(サリアスの詠唱が終わるまで三分そこらか?)


 サリアスを置いて前に爆走するリーリャ。もちろんながら前方にいる二人目掛けて走っている。

 使うとは思っていなかったが、それでもサリアスならばやってくれるだろうと信じて駆ける。

 おそらく、長くとも三分ほどでこの会場で使うには十分な魔法になりえると考え、戦い方の予測を立てる。


(おそらく、エンキの攻撃は単調なものが多かったから回避もたやすいだろう)


 容易い、とは『全視之鷹』を使わずとも避けられる範囲ということだ。

 故に、必殺とは言え当たらなければどうということはないので、『全視之鷹』を解除する。


(しかし、奴が力ならば、オーレルクスの奴は技。避けるというよりは奴の誘いに乗らぬようにせねばな)


 技故か、突然と行動を変えるその攻撃には少々厄介なものを感じる。

 先ほどの掴みも、カウンターとばかり放たれたのもあるが、突然蛇のような柔軟性をもって動き出した腕に翻弄されたおかげで簡単につかまれてしまったのだ。


(うむ、作戦のことも考えれば、やはり使うのはこれにするか)


「『水之蛇』」


 魔闘付与の中でも、慣れ親しんだものを。

 最初に練習を始めた四つの魔闘付与のうちの一つ、『水之蛇』。

 右腕を中心に、水魔法で作り出された蛇を模した魔法を纏う魔闘付与。

 他の魔闘付与とは違い、状況に合わせて右腕に巻き付いた蛇を変質させることによって汎用性を持たせた魔闘付与である。

 鞭のように蛇を振るい、エンキ達へとリーリャは切り込んだ。


「いいぞ! 素晴らしいっっ!!!」

「炎に水か、粋な真似しやがってっっ!!!」


 水を纏うリーリャに対し、謎にテンションを上げる二人。

 だが、確実に二対一の接触は始まったのだった。


 鞭から剣へ。

 中距離から近接へと入った戦闘に合わせて蛇の形を変える。

 半物質的な魔力による謎の硬さを誇る剣を用いて、二人相手に立ち回る。


 剣から盾へ。

 物理的な攻撃もあるが、器用なオーレルクスは突然不意を突いて火魔法を使ってくる。

 そのため、ある程度に熱を遮断する水の盾で防ぎきって見せる。


 盾から槍へ。

 挟み撃ちにだけは気をつける。挟撃の予兆を見せた瞬間に槍へと蛇を変質させ、大きく距離をとりつつ牽制をする。

 点での攻撃は防ぎにく、相手はたたらを踏んで避けようとする。


 掴まれてた時は針のように姿を変え、距離を縮められた時は短剣にして対応をする。

 汎用性に長けた『水之蛇』は、遺憾なくその力を発揮する。


「やりにくいなクソがっ!!!!」


 リーリャ相手に攻撃を一度も当てることのできないエンキがもどかしさゆえに声を荒げる。

 その感情の動きが原因か、体に纏った炎の熱量が次第に高くなっていった。


「僕も負けていられてないっ!!」


 そして、エンキの呼応するかのようにオーレルクスもその気迫を増し、身に纏う身体強化のレベルが上がる。


「ぬぅっ!?」


 紙一重の最小の回避によってエンキの攻撃を避けるリーリャだったが、その身に纏う熱を受け、ダメージを受けてしまう。

 蛇による防御と、危険に対して身を引く速さがあったからこそ、大きなダメージを受けなかったが、逆に言えばこれからはエンキの攻撃の一つ一つに大きな動きで距離をとって回避しなければいけないということだ。

 そして、


「甘い!」

「くっ……!」


 回避の起き上がりを攻め立てるオーレルクス。

 魔道具のことをもあり、回避に集中していたリーリャであったが、体制の立て直しも間に合わないタイミングに襲われては防御に回るしかない。

 蛇を腕に巻きオーレルクスの拳を受け止める。できるだけ衝撃を吸収するように、攻撃に合わせて背後へと転がるように受け身をとることで、なんとか魔道具へのダメージを最小限に収めた。

 そして、次の追撃に注意しつつ素早く起き上がり、二人へと再び体勢を整えた。


(そろそろ、か?)


 攻防の中、リーリャの予想した三分が経過しようとしていた。

 時を訪れるのを、したり顔で迎えようとするリーリャだったが、戦いの最中、そんなリーリャににやりと笑うエンキたちの顔が見えた。


「やっぱり、時間稼ぎなんだろう?」

「あっちにいるのに何もしてなかったからな、わかりやすすぎるぞ」


 ついでに何か得意げに喋りかけてきた。


「まあ、わかるだろうな」

「ああ、あたりまえだ、しかし、だ。なぁ?」

「ああそうだな、兄弟。俺達ならきっと、耐えられるさ」


 自信満々に、これから起こるであろう出来事に対して自らの力を示すことを宣言した。


「ここで、俺達が耐えきれなければ、俺達の負け……」

「逆に、俺たちが耐え抜けば、俺達の勝ちだっ!!!

「ほぅ」


 宣言をする二人。

 実際、これからやるであろうことを知っている身としては、その極端な勝敗は間違っていない事も理解している。

 なぜなら……、


「聞いたぞ、その自信。ならば共に朽ち果てよう。来い、サリアスッッ!!!!」

「どうなっても知りませんよ!? 『へイルスコール』!!!」


 サリアスが、魔法を放つ。

 放たれた魔法は、上空に暗雲を作り上げ、目標へと向かって攻撃を開始した。


「来たなッ!?」

「耐え抜くぞ兄弟!!」

「ふぅ、逃げ場もないようだな……」


 大粒の雹が三人・・に向かって降り注ぐ。

 成人男性の拳ほどの大きさという下手な凶器よりも凶器している最悪の自然現象の一つが、三人を殺さんとばかりの勢いと密度で降り注いだのだ。


『ヘイルスコール』

 天候を操る様に雹を降らせ、相手へ事攻撃する上級魔法は、確実に三人へとその攻撃を届かせていた。


「くっ……流石に厳しいか……?」


 その中で、リーリャは水之蛇を氷結化させて自らの体を覆い耐えていた。

 限界まで伸ばした蛇を何層にも重ねることで耐久性を持たせた盾ですら、流星群の様に降り注ぐ同じ氷であるはずの雹に相手にして大きな音を立てて軋んでいる。

 一呼吸の間さえも気を抜くことのできない弾幕の中、終息が訪れる音が近づいていた。

 次第に、降り注ぐ雹に小ぶりのものが多くなる。拳程度の大きさだった雹も、次第にビー玉程度の大きさへと縮んでゆく。


「音が……、無くなったな」


 全力で魔力を行使し、氷の盾を維持し続けたリーリャは、肩で息をしながら、ゆっくりと蛇を水へと変質させた。

 もう盾に票が当たる音はしない。そとで雨が止んだのだ。そう、判断して解除した魔法の向こうでは、二つの影が立っていた。


「……気絶、しとるの」


 二人そろって片腕を天に突き上げるように立ったまま、二人は気を失っていた。

 スコールの最中、途中で魔道具のペンダントが壊れたおかげか、本来ならばペンダントによって防がれる攻撃をもろにその身に受けていて、全身が打撲や切り傷、擦り傷によっておおわれていた。

 だが、それでもその意思を曲げずに立つその姿は、自らの勝利を確信して耐え続けた意志の強さを感じる。


 こうして、三回戦第一試合はリーリャ、サリアスのペアの勝利で幕を閉じた。


『いやー、凄い熱い試合でしたね』

『男の友情っていいわ~、私もああいうのやってみたいものね』

『会長が言うとなんか違う意味に聞こえるのでやめてくださいね~、それでは、次の第二試合の選手は……』


 実況席の気の抜けるコメントを聞きつつ、リーリャ達の今日の試合は終わったのだった。

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