SIDE:M
拝啓
ペロフスキー神父様
いま、わたしは新しい部屋にいます。白くて、静かで、とても合理的な場所です。
窓があります。
空は見えますが、開きません。
最初から、そういうものだと分かりました。
ベッドと机と、椅子があります。
高さも、距離も、まるでわたしのために誂えられたようにぴったりでした。ベッドのマットレスは柔らかくて、雲の上で寝ているような気持ちになれます。
お風呂とトイレもついています。洗面台もあります。
教会や寮では全部共同だったから、なんだか落ち着きません。
贅沢な悩みだと思います。
だからきっと……すぐに慣れると思います。
……たぶん。
わたしを部屋まで案内してくれた制服の人たちは、優しくも冷たくもありませんでした。
質問には、すべて正確に答えてくれます。
答えられないことは、最初から答えないと決めているみたいでした。
それは、合理的だと思います。
わたしは、こういう場所に来たことを、怖がるべきだったのでしょうか。
それとも、安心すべきだったのでしょうか。
どちらなのか、分かりません。
神父様。
「暮らせそうか」と聞かれました。
わたしは「集中できます」と言いました。
嘘ではありません。
でも、あれは質問への返事として、正しかっただけで、わたしの気持ちそのものではなかった気がします。
ですから、今、考えています。
わたしは、ここで、「一人」になるのだと思います。
でも不思議なことに、完全に一人だ、という感じはしません。行動や感情がモニターされているからではありません。
わたしに「暮らせそうか」と聞いた担当の制御官は、必要なときは同行すると言いました。
「暮らせそうか」も「同行する」も、その言い方は規則の説明ではありませんでした。軍規や条文が人になったような人なのに、あのときだけは違いました。
たぶん、あの人は、無意識だったのでしょう。だからきっと何も覚えていないし、覚えていたとしてもいつか忘れてしまう言葉だと思います。
でも、わたしには約束みたいに聞こえました。
約束じゃないのに……。
約束……。
いまはとても悲しい言葉に思えます。
神父様が持たせてくれたご本は、この白いお部屋に全て持ち込めました。
でもお人形だけは担当の制御官にお預けしたのです。
わたしがわたしの源泉と仲良くできるようになったら、返してくださいとお願いしました。
制御官は、再評価の後に決めると言いました。
あれも、約束だと思っていいのでしょうか。
……わたしがちゃんとできたら、忘れずにいてくれるのでしょうか。
だから今夜はエドヴァルド・ヘルマンの『場と対称性――自然法則の沈黙について』の三章を少しだけ読み返しました。
力とは果たして何か。
それをわたしは確認したくなったのです。
でも……やっぱりまだ、わたしには理解できませんでした。
いつか分かったとき、わたしはわたしの力を本当に自分のものだと言えるのでしょうか。
神父様。
ここは、悪い場所ではありません。悪い人も……たぶんいません。
それでも、今夜は、誰かに話しかけているふりをしないと、自分の考えが、どこへ行くのか分からなくなりそうです。
この手紙は、送りません。
頭の中だけで、書いています。
けれど、もし神父様がここにいらしたら、わたしに、何と言うのかだけは、知りたいのです。
敬具。




