第4話
夕ご飯を食べながら、私が動画サイトを流し見していると、凛からのメッセージが届いた。
『今から通話できる?』
いいよ、と返す暇もなく、彼女からの着信がスマホを鳴らして、私はそっと画面に指を滑らせてそれを受け入れた。——今日、あの告白の後、凛はいつも通りに戻ったけれど、でもこの電話は、たぶん、そういう電話なんだろうな。私はそんな予感を抱きながら、もしもし、とイヤホンのマイクに話しかける。
「あ、もしもし、ごめんね」
電波に運ばれた彼女の声は、いつもよりやわらかくて、……それはきっと、その声をイヤホン越しに聴いているから、というわけではないのだろう。
「ううん、全然」
「杏奈は今何してたの?」
「えっと、ご飯食べてた」
「ほんと? あたしも」
ねえ何食べてたの、なんて聞いてくる凛の様子は、明らかに昨日までとは違っていて、——だって、ご飯中に電話を掛けてくるなんて、今までの凛ならしなかったはずだ——、きっとそんなことをしてくれるのは、私が凛の恋人になったからなのだろう。
それは、……凛が私に恋人らしいことをしてくれるのは、すごい嬉しい。だけど、私は……。
「唐揚げ食べてた」
「手作り?」
「ううん、近所のスーパーで買ったやつ」
しかし会話は、私の思案を置いてどんどんと進んでいく。だから私はつい、そんな分かり切ったことを聞いてしまったのだ。
「私たち、恋人になったんだよね」
「うん、……どうしたの?」
途端に、凛の声は深刻さを隠しきれなくなって、しかし彼女は、きっとそれを悟らせないように、今までの穏やかさを精いっぱい保とうとしたのだろうことがはっきりとわかるような、そんな声で私にそう聞き返してきた。しまった、と思いながら、しかし、テンポのいい会話の裏でぐるぐると回っていた思考が、私に言葉を止めるのを許さない。
「恋人って、何するんだろう、って思って」
私は、せっかく凛と恋人になって、恋人が何をするのかがまったく分からなくなってしまっていた。
「私が恋人が欲しいって言って、凛がなってくれて」
「うん」
「それで、凛は恋人らしいこともしてくれて」
「……そうだね」
「じゃあ、私は、何をすればいいんだろう」
しかし彼女は答えない。その通話の向こうに、小さなノイズが聞こえるような気がして、そのしんとした空気に耐えられなさそうになったころ、凛はぽつりと、聞き逃しそうな声を発した。
「もし暇だったらさ、あたしの家来てよ」
それは、彼女の家への誘いだった。




