第3話
お昼というには少しだけ早い、そんなころに、私は大学の講義をサボって、ターミナル駅の改札前に立っていた。約束にはまだ時間があって、私はスマートフォンをいじりながら、しかし、考えはまた、凛の告白のことに向かっていって、私の口からはため息が漏れ出る。
……あの言葉が冗談なんてものではないことは、分かりきっていて、しかし、私はその気持ちに応えるに値しないのではないかと思うのだ。だから、彼女のあの言葉なんてなかったようなふりをして、これからも、これまで通りやっていけば——。
——それで、本当にいいの?
「杏奈、だいじょぶ?」
そんなふうに考えを巡らせていると、凛が突然現れて、私を驚かせた。
「なんでそんなびっくりしてんの?」
凛はそう笑って、私の手を引く。行ってみたい、と二人で言っていた新しいショッピングモールは、平日の昼前なのに人でにぎわっていて、私たちはすごいねと目を見合わせて笑った。それから、その人混みの一人ひとりをそっとよけるように、彼女は上手に大きく広がった広場を抜けていく。
正面に大きく窓を広げた店の横を通り過ぎて、凛は、奥まったところにあるチェーンの喫茶店の前で足を止めた。少し時間がずれているからか、予想外にも、店の中は外に比べれば空いている。喉も乾いていたし、お茶を飲むのには賛成だったけど、凛はもっと店を回りたいんだと思っていたから意外だった。
「こんなとこで話すのもあれなんだけどさ」
カウンターでそれぞれの飲み物を受け取って、壁際のテーブル席に腰を落ち着けるとすぐに、凛はそう、小さな声でこぼす。それだけで、その続きの言葉が察せられて、私はそっと黙って彼女を待った。
「……昨日の、その、あたしと杏奈が付き合うって話なんだけど」
「うん」
「全然、聞かなかったことにしてくれてもいいんだけどさ」
「……うん」
「冗談なんかじゃ、ないんだよね——」
そんな、真剣な表情を見せられて、聞かなかったことにできるわけなんてなかった。でも、ただ恋人がいることを自慢したいだけの私が、彼女の告白に応える資格があるのかも、私には分からなかった。
「だから、さ……」
私は視線を彼女から外して、テーブルの下で両手の指を組み合わせた。そのままぎゅうと力を込めれば、はっきりとした痛みだけが、私をこの場所にとどめてくれるような気がした。
「——いいよ」
しかし私の口は、考える時間もくれないで、気づけばそんなことを声に出していた。
「ほんとっ?」
そう、安堵と喜びの混じったような声色で私に問いかける凛にうなづきながら、……でも、恋人が欲しいだけの私が、凛を不幸せにする理由もないじゃん、と、言い訳のような結論を出した。




