第2話
「……凛と付き合う、か」
私は、授業が終わって一人暮らしのアパートに帰ってからも、昼休みのあの彼女の言葉を忘れることができていなかった。あのとき、凛の言葉にすぐ返事をできなかったのは、じっと考え込んでしまったのは、確かに、凛が恋人になることが、——別に嫌ではなかったからだった。
じゃあ、凛と付き合ってみる?
「でも、冗談なんだよね」
また私はひとり呟く。それは彼女があのとき、確かに声に出したことだった。
もし、本当に冗談だったら、なんて、私はそんなことをずっと考えてしまうのだ。凛はあんな大事なことを、冗談で言うような人じゃないことは分かっているのに、しかし私は、その言葉にずっとこだわってしまう。
——もし、凛のその告白が、冗談だったとしたら。凛との関係は——。
『あしたの日本近代史概論、休講だって。見た?』
私がそうくよくよと悩んでいると、携帯が一度鋭く震えて、画面を見れば凛からのメッセージが届いていた。
『ほんと? ラッキー』
私はすぐに彼女とのトーク画面を開いて、指をすべらせるとそうやって入力した。既読は間もなく付いて、でしょ、と返信が返ってくる。
『凛は午後から?』
『うん。たしか二限あったよね杏奈は』
『でも自主休講するつもり』
『マジか、じゃあこの前言ってたとこ行こうよ』
『いいね』
……このやりとりの時間も、やけに心地よくて、私はまた、あの凛の言葉を恐れる。
——もし、凛のその告白が、冗談だったとしたら。それなのに、彼女の提案にうなづいてしまったら。凛との関係は——。
きっと、今のままでさえいられなくなってしまうのだろうことは明白だったし、それは嫌だと、私は思ってしまった。
「——凛と付き合ったら……」
そして、思考はまたそこへと逆戻りしてしまう。
別に彼女と付き合うのが嫌なわけではないのは確かで、しかし、そこに大きな恐れを感じているのも、また否定しようがない事実だった。
だって、別に凛の恋人になるのもいいなとは思うけど、凛じゃなきゃ嫌って訳でもない……、そんなことに私はようやく気づいて、ため息がふと漏れ出てしまう。
——ああ、結局私は、恋人がいるという立場を手に入れたいだけなんだ。




