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第1話

「……欲しいんだよね」

「何を?」

「恋人」


 私がそう切り出すと、目の前に座る凛は、一瞬だけきょとんとした顔をして、それから、何を言い出すんだと言いたげな瞳を、じろりとこちらに向けた。


「いきなりなんなの?」

「しゃーないじゃん、思っちゃったんだからさあ」


 私がそう、半ば愚痴るようにこぼせば、凛は呆れたように一口、目の前に置かれた日替わり定食の白身フライに口をつける。その様子をちらりと覗って、私も、自分のカレーにスプーンを差し込んだ。

 そうして私がカレーライスを頬張っていると、彼女はまた、じっと私を凝視しはじめる。その様子が、また何か言いたそうで、私はスプーンを持つ手を止めた。


「杏奈はさ、何で恋人欲しいの?」


 なんで、かあ。

 私はちょっとだけ考える。それから、その——あまりにも単純で、馬鹿げているようにも思える答えを、小さく呟く。


「だって、大学生になったから」

「は?」


 凛は何を言い出すんだ、と、あるいは、全く意味が分からないと言うように、彼女は声を上げて首をかしげた。その様子にちょっとだけイラッときて、私は反論する。


「……大学生になったら、恋人とか作って、恋愛するものじゃないの?」

「杏奈のその価値観はどこから来たの……」


 しばらく、凛はどうしようもないことに悩むように、こめかみをぎゅっと押さえて小さく唸り声を上げていたけれど、不意に、諦めたような顔を私に向けた。


「つまり、杏奈は大学に入ったら恋人ができると思ってたってこと?」

「そう! 高校のころの友達とかも、デートの写真とかあげててさ。なのに全然できる気配もなくって……」

「なるほどねえ」


 私がそう、私にとっては切実な悩みを打ち明けると、凛は顎に指を当てて、私を見透かすようにじっと私の瞳を射抜いた。その仕草に私が身構えると、凛はじゃあ、と前置きして、微笑を浮かべる。


「じゃか、今は別に好きな人がいるってわけじゃないんだ」

「うん……。どうやって作るんだろうね、恋人って」


 私は彼女に問いかけてみるけれど、凛はそのまま口をぎゅっと結んでしまって、何を考えているのか察することもできなくなってしまう。だから、私もじっと黙って、彼女の言葉を待つ。


「じゃあさ」

「……なに?」

「あたしと付き合うっていうのは、どう?」


 私が凛と?

 凛はいきなりびっくりするようなことを言い出して、私はじっくりと考え込んでしまう。凛と付き合ったら、どんな風になるんだろう。恋人になって、それで……。

 しかしその予想図は一向に明確にはなってくれなくて、私は彼女の声でまた現実へと引き戻される。


「……まあ、冗談だから」


 それは凛のいつも通りの声で、私は実のところ、少しだけほっとした。


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