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追放された付与術士は、拾った奴らを食わせるためだけに無双する ~消えない付与を重ねてたら、誰も越えられない七層も越えていた~  作者: 自ら


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第33話「生存者」

走った。走ると決めるまでに、間は要らなかった。

三歩ごとの検めは、走りながら目でやると決めて、列の並びだけは崩さなかった。先頭のボルグが杖の音で床の生きを拾い、ニナが灯りを高く掲げ、殿の俺が三人ぶんの装備の照りを目の端で数える。悲鳴は一度きりで、あとは軋みの圧だけが道に詰まっていた。声が続かないほうが悪い。それは塔の中でも外でも変わらない。

曲がりを二つ越えた先が、崩れていた。

天井の石が落ちて、広間へ抜ける口を半分塞いでいる。落ちた石の手前に、折れた剣が転がっていた。根から三寸を残して折れ、刃の側は石の下に見えない。剣の主は壁際にいた。ゲイルだ。右の足が変な向きに投げ出され、壁にもたれた上半身へ、カリンが覆いかぶさるように膝をついている。俺たちの灯りが届くと、カリンは振り向いて、それから声を出さずに口だけ動かした。動いた口の形は、助けて、ではなかった。早く、だった。

近づいて、膝をついた。カリンの手当ての道具は使い切りに近く、布は裂いた外套で足されていた。血の匂いは思ったより薄い。出血よりも、塞がらないことのほうが、この場の主な敵らしい。

「足と、あばらです」と、カリンは手当ての手を止めずに言った。治癒師の声だった。震えを仕事の言い回しで縛った声だ。「石が落ちて、庇った剣が折れました。塞いでも……塞いだ端から、開くんです。この層が、張りを食べます」

言われて傷を見ると、脛の裂けた口の縁に、治癒の張りの照りが浮いては薄れていた。張った端から食われている。カリンの術が浅いのではない。層が深いのだ。張っては食われ、また張る。この治癒師は、埋まらない穴に水を注ぐ仕事を、悲鳴のあとからずっと一人で続けていたことになる。手の甲の筋が張り詰めて、指先だけが正確に動いていた。

ゲイルの目は開いていて、灯りの中で俺を見た。見て、口を一度開き、何も言わずに閉じた。閉じたままでいい。しゃべるとあばらに障る。言いたいことがあるなら、あばらが着いてからでも言える。

「他は」と訊いた。訊きながら、崩れの周りへ目を回した。倒れている者は他にいない。灯りの外へ続く足跡もない。

「二人です」カリンは手を動かしたまま答えた。「最初から、二人でした」

それで、道の乱れの読みは全部ついた。二人で七層へ上がる届けを、組合は形の上では止められない。隊の頭数の規則は登録の時のもので、挑む日の頭数までは、紙は数えない。列の跡が二人分、装備が順に体から離れ、荷袋が落ち、縄が刃物で切られた。数えるのは後でいい。助けるかどうかを考える段は、俺には最初から抜けている。目の前で人が倒れていれば起こす。腹が減っていれば食わせる。誰の隊の誰かというのは、起こしてから考えればいい事柄だ。

先に済ませることを済ませる。

「ニナ、袋を」

ニナが預かりの荷袋を下ろして、口を開けた。麦の板と水袋を出し、まずカリンの手へ押しつける。カリンは意味が分からない顔をした。

「落とし物だ。返す」と言った。「食え。お前が倒れると、こいつを塞ぐ手がなくなる」

カリンは板を二つに割って、半分を口に入れ、半分をゲイルの口元へ運んだ。ゲイルは一拍おいて、噛んだ。噛む音だけが、しばらく崩れの前に続いた。人が物を噛む音は、悲鳴の残った通路では悪くない音だ。噛めるうちは、担げる。俺はその間に折れた剣の柄を石の下から検分して、使えないと見切り、代わりの算段へ移った。石をどける手間は、掛けない。どけて出てくるのは折れた刃で、折れた刃は誰の役にも立たない。

担ぎ具は、縄と桟の木で組んだ。

崩れの端から桟の木を二本引き出して、長さを見比べ、節の位置で選び直した。荷を吊る木は、太さより節の場所で決まる。縄で井の字に縛り、背負いの輪を作る。ボルグが結び目の順を口で指図し、ニナが縄を送り、俺は要の結びの脇へ滑り止めと食い込み止めを刻んだ。速さを先に取ったから、崩しは浅い。浅いことは分かって刻んだ。ここで手間を取るのと、浅い線で行くのと、目方を比べて浅いほうを取った。ゲイルを輪へ移すとき、あばらの側を下にしないよう、カリンが体の向きを指で示した。移し終えると、ゲイルの息は荒く、それでも悲鳴の形にはならなかった。

「私が前を持ちます」とカリンが言い、ニナが首を振って自分の帯へ縄を回した。「あなたは傷を持ってください。持ち場は、それで二つです」

カリンはニナの顔と、帯に回された縄の慣れた掛かり方を順に見て、それから頷いた。治癒師の目は、人の手際を見分ける目でもあるらしい。頷いてから、自分の道具を腰へ寄せ直し、傷の側へ場所を移した。

担ぎの背は、俺が入った。重さは肩で受け、揺れは膝で殺す。ゲイルは俺より背があるから、輪の吊りをこぶし一つ下げて、足の側が地を擦らない高さに合わせた。ボルグが先頭で、道はこの男の音の返りが選ぶ。並びが決まって、残るのは向きだけになった。

戻るか、進むか。

戻れば、渡った抜けがある。縄と支点は生きているが、担ぎ列で渡る幅ではない。渡すなら吊りの支度を組み直して、担いだ男を一度輪から下ろし、渡してからまた載せることになる。下ろすたびに、あばらは揺れる。進めば、道は図の外だ。濃い側へ向かうことになるのは、圧の向きが教えている。ボルグは杖の先で来た道を指し、それから先の暗がりを指して、どちらにも首を振らなかった。二年前の図はとうに尽きている。ニナは手控えを開いて、水と灯りの油の残りを数え直した。数え終えた目が、俺のほうを見て、答えを待つ形で止まる。カリンは傷口へ手をかざしたまま、どちらでも、早く、とだけ言った。張りを食われながら塞ぎ続ける手当てに、長い持ち時間はない。

肩の上で、ゲイルの重さが一度、傾いだ。カリンが傷を押さえ直し、ニナが前の縄を張り直す。傾ぎは戻ったが、戻した手の数だけ、この列の余裕が薄いことも分かった。向きを決める。決めようと息を取った。

そのとき、軋みが一段、深く鳴った。

耳ではなく、骨の芯で鳴る音だった。今までの圧の下に、もう一段の底がある。全員の足が同時に止まって、ボルグの杖だけが床を突かずに宙で止まった。ニナの灯りが、誰に言われたのでもなく担ぎ縄の結びへ寄る。刻んだばかりの線の端が、結びの際で、糸のほつれみたいに白く浮いていた。


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