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第20話 奴隷都市

 奴隷都市へ続く列は、ほとんど進んでいなかった。


 門では兵士たちが一台ずつ荷馬車を止め、積み荷を確かめている。


 日が沈むまでに入れるかも分からない。


 リディアは前方の門を見た後、荷馬車の周囲にいる者たちへ向き直った。


「門を抜けた後は、二手に分かれる」


「一緒に捜さないのか?」


 稽古に加わっていた男が尋ねた。


「商隊から解放された者がまとまって歩けば目立つ。再び捕らえられれば、捜すこともできない」


 三人は互いの顔を見た。


 彼らも、この都市へ連れていかれた家族や知人を捜すためにここまで来た。


「そなたたちは三人で動いてくれ。私たちはアンナを捜す」


「見つけた後は?」


「その先も、そなたたちが決めればいい」


 三人はしばらく黙り、やがて頷いた。


「教わった通り、まず相手を見ます」


 稽古に加わっていた女が答える。


「ああ。それでいい」


 三人は荷物を分けて持ち、列の後方へ移った。


 同時に門をくぐらず、時間を空けて入るためだ。


「では、私たちは三人で入ろう」


「私は最初から数に入ってるのね」


 ミアが言った。


「違うのか?」


「違わないけど。一応、私にも聞いてほしかったわ」


「今からでも聞こう。ミアはどうする?」


「行くわよ。ここまで来て、二人だけで行かせられるわけないでしょ」


「そうか。助かる」


「本当に人へ頼る時だけは素直よね」


 三人は奴隷都市へ入る列へ戻った。


          ◇


 門へ着いた時には、空に薄暗さが広がっていた。


 槍を持った兵士が、三人を順番に見る。


「用件は?」


「人を捜しに来た」


「名前は?」


「アンナ。俺より少し年上だ」


 カイルが答えた。


 兵士は珍しくもなさそうに肩をすくめる。


「それだけで見つけるのは無理だな。どこへ売られたか分からないなら、中央市場へ行け」


「市場に行けば分かるのか?」


「運がよければな。買い戻すつもりなら、金も用意しておけ」


 カイルの表情が強張った。


 リディアは何も言わず、兵士を見る。


 アンナを人ではなく、買い戻せる品物として話している。


 だが、ここで争ってもアンナの居場所は分からない。


「中央市場はどこだ?」


「大通りを真っ直ぐだ。鐘塔が見えたら、その手前を右へ行け」


「感謝する」


 兵士はすでに次の者へ目を向けていた。


 門を抜ける。


 石壁の内側にあったのは、暗く荒れた町ではなかった。


 道の両側には宿や酒場、衣服や食料を扱う店が並んでいる。荷馬車が行き交い、商人たちの声が絶えない。


 建物も道も、これまで立ち寄った町より整っていた。


「随分と栄えているな」


「人を売って儲けてるからだ」


 カイルの声は低かった。


 大通りを進むにつれ、鉄の擦れる音が増えていく。


 脇道から、粗末な服を身につけた者たちが一列になって現れた。


 両手を鉄の輪でつながれ、その前後を鞭と剣を持った男たちが囲んでいる。


 道を歩く者は誰も足を止めない。


 店先で値段を交渉していた商人も、食事を運んでいた女も、当然の光景として見送っていた。


「全員が奴隷なのか」


「そうだ」


「誰も止めないのね」


 ミアが周囲を見回す。


「止めるどころか、ここでは兵士が守ってる」


 通りの角には武装した兵士が立っていた。


 兵士が見張っているのは、鎖につながれた者ではない。逃げる者や、奪おうとする者がいないかを見ている。


「まず、アンナを捜す」


 リディアは前を向いた。


「その後で、この都市のどこに奴隷が集められているのか確かめよう」


          ◇


 中央市場は、日が沈んだ後も閉じていなかった。


 いくつもの篝火が焚かれ、広場を昼間のように照らしている。


 食料や布を扱う露店のさらに奥。


 鉄柵で囲まれた一角に、人々が集まっていた。


 中央には木で作られた台がある。


 その上へ、両手を縛られた男が立たされていた。


「畑仕事なら二人分は働く! 病気もなく、逃亡歴もない!」


 台の横にいる商人が、大声を張り上げる。


 集まった者たちが値段を口にするたび、商人の表情が明るくなった。


 男の後ろには、次に売られる者たちが並んでいる。


 若い女。


 痩せた老人。


 まだ成人していないように見える子供もいた。


 買い手たちは、その手や歯を確かめ、品物を選ぶように値段を尋ねている。


 広場の端には兵士が立っていた。


 助けるためではない。


 売買を邪魔する者がいないか、見張るために。


「これが……」


 ミアが言葉を失う。


 リディアは答えなかった。


 屋敷にいた頃、大罪の紋章を持っているというだけで殺されかけた。


 その一方で、この都市では何の罪も犯していない者が鎖につながれ、公然と売られている。


 それを法も兵士も守っていた。


 剣の柄へ手が動く。


「待ってくれ」


 カイルが低い声で言った。


「アンナが見つかるまでは、騒ぎを起こしたくない」


「分かっている」


 リディアは剣から手を離した。


 一人を助けるために動けば、市場の商人たちは奴隷を別の場所へ隠すかもしれない。


 兵士が集まり、アンナを捜すことも難しくなる。


 ここで剣を抜くべきではない。


 そう判断しただけだった。


 目の前の売買を認めたわけではない。


 三人は檻や売り場を一つずつ見て回った。


 カイルは並ばされた者たちの顔を確かめ、何度もアンナの姿を捜した。


 だが、どこにも見つからない。


「ここにいないなら、すでに誰かへ売られたのかもしれない」


 ミアの言葉に、カイルが拳を握る。


「市場の周囲も調べよう。売られる前の者を置く建物があるはずだ」


 リディアは広場を出た。


 三人は市場を囲む通りへ入り、荷馬車の出入りする門や、鉄格子のある建物を捜して歩いた。


 市場から少し離れた頃、道の先から子供の泣き声が聞こえた。


 低い石造りの建物の前で、小さな子供が地面へ倒れている。


 片足には鉄の輪がはめられ、鎖の先を男が握っていた。


「立て!」


 男が鎖を強く引く。


 子供は立ち上がろうとしたが、腕に力が入らず、再び地面へ崩れた。


「商品にならねえだろうが!」


 男が鞭を振り上げる。


「その手を止めろ」


 リディアは男と子供の間へ踏み込んだ。

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