2-7 書簡 ジェフリー・ミラーの報せ
ウォルター公爵様
突然に書状を差し上げる非礼をお許しください。私は、王都で弁護士をしておりますジェフリー・ミラーと申します。
この度はご息女レティシア様とアルバート・ポートフォード侯爵令息様のご婚約、誠におめでとうございます。
新聞広報を拝見致しまして、公爵様のご勘気に触れることは重々承知のうえ、かねてより懸念しておりました事柄をお伝えすべく、ペンを執った次第でございます。
私にはジャックと申します十歳の愚息がおります。
この愚息が、1年ほど前からレティシア様とポートフォード侯爵令息様のご婚約とその後のことを予知夢で見たと言い始め、最初は何を血迷ったことを言っているのかと一笑に付しておりました。しかし何度も真剣に申すものですから、一応話を聞いたところ、内容があまりのことで他言はしてはならぬと言い聞かせて今に至っております。
ところが、新聞広報の御両者様のフルネームが愚息の話と全く同じであったことに驚き、万一ことが起きる前にお知らせした方がよいと判断致しました。
愚息の話しは「御両者様が王立学園に御入学された後、身分のあまりよろしくない女子生徒がポートフォード侯爵令息様に近づき相愛となるのでございます。それを快く思われなかったレティシア様が何かとその女子生徒を貶める行為を繰り返し、最後は刃傷沙汰がおきて、レティシア様は罪を償われるため修道院に入られる」といったものでございました。
愚息は、御両者様との面識はなく、御貴族様の名を知る術は一切ございません。
この件以外は至って普通の少年でございます。将来は私と同じ法曹の道に入りたいと勉学に励んでおり、大学に行かせてやりたいと思っております。
御両者様のお幸せを切に願いますことは当然でございますが、愚息が、この件に無関係であったとしても「知っていた」ことで傷つくことを、親として恐れております。
弁護士でありながら、「夢」のような不確かなもののことで、このような書状を送ることに忸怩たる思いはございますが、心情お察し頂ければ幸いでございます。
公爵様のご判断によりご指示頂く事がございましたら、謹んでお受けする所存でございます。
「妄語」として罰せられることは覚悟のうえでございますが、どうか愚息の将来だけは、ご寛容にお取り計らいくださいますよう平にお願い申しあげます。
敬愛をこめて
ジェフリー・ミラー
◇
ジェフリー・ミラー殿
書状は読ませて頂いた。はっきり申し上げて非常に不快である。
しかし、ご子息の将来を思っての父親の心情は理解できる。私としても、娘にとっての障害の種は万に一つでも取り除いておきたい。
真偽を確かめたく一度ご子息に会わせて頂けないだろうか。信頼する部下と精神科の医師を派遣する。ご子息を疑っているわけではないが、専門家の意見も聞きたいのでご容赦願いたい。
法曹界に入るのであれば中等部から王立学園に進学するのであろう。成績優秀であれば奨学金が得られる。ご子息の資質を見極めたうえになるが、可能であれば私が推薦しよう。奨学金のための面談とでも言ってご子息を連れ出して頂きたい。勿論、この件を直接聞き出すようなことはしない。子細は部下から連絡させる。
失礼ながら貴殿のことも調べさせて頂いた。
労働争議も多い昨今、誠実な仕事ぶりと伺った。王都では物騒なことも頻発しているので身辺に気をつけられよ。ご健闘を祈る。
レナード・ウォルター
◇
レナードは、レティシアを愚弄するジェフリーの手紙など全く信用していなかった。しかしジェフリーは実績のある弁護士で、息子ジャックも、医師によれば特段異常は認められず有望と思われた。レティシアの件は別にしても、味方に引き入れて損はないと判断しジャックの推薦を引き受けた。
(レティシアを王立学園に進学させない選択肢もある。しかし、レティシアが進学を希望するなら、そんな戯れ言のために道を閉ざすこともないだろう。学園内の監視は強める必要があるが…)
レナードは、将来に思いを馳せた。




