表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リリアをめぐる物語  作者: 夢のまたゆめ
第二章 出会いと悪夢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/12

2-6 アルバートとレティシア  ~ハンカチ~

 

 アルバートは少し身体の発育が遅いらしい。

「しばらくは子どもらしく遊びなさい」

というルイーズのひと言で、午前中、レティシアと共に家庭教師について勉強したあとは、ルバートに引きずられて外をかけ回った。


 公爵夫妻は、どんなに忙しくても子ども達と朝食を共にして、前日の出来事や今日の予定を聞いてくれた。朝食に遅れることは許されず自然規則正しい生活となった。アルバートは、気さくなウォルター家にすぐ馴染んだ。




 アルバートは、婚約したからにはレティシアと何か特別な関係(それが何かわからないが)になると思っていたが、他の兄弟と同じようなものであった。


 ある日のことだった。

「時々、眠れないんだ」

何気なくアルバートが言うと、

「じゃあ、私が一緒に寝てあげる」

レティシアが真面目な顔で言ってきた。

(えっ!そんなこと…)


「じゃあ、僕も!」

とルバート。

(えっ!)


「しようがないなぁ~、僕もつきあうよ」

レイモンドまで参戦した。


 その夜、それぞれの部屋でいったん就寝し従者が退出した後に、3人がアルバートの部屋にやってきた。ルバートは満面の笑みで、レイモンドは親指をたてて、レティシアは少し恥ずかしそうに。


「手をつないだら、きっと寂しくないわ」

レティシアはアルバートの手をとってベッドに向かった。アルバートは心臓が飛び出しそうだった。


「じゃあ,僕も!」

ルバートはアルバートとレティシアの間にモゾモゾとはいってきて、二人がつないだ手のうえに自分の手をのせた。レイモンドは、アルバートのもう片側に横になって、さらに上に手を重ねた。


「あったかいね~」

ルバートが嬉しそうに言った。

アルバートは、母エイダが添い寝をしてくれたことを思い出した。


 アルバートのベッドは広かったが、さすがに4人は窮屈だ。ルバートは、すぐに寝息をたてて寝返りをうち始め、隣のアルバートとレティシアに無意識の攻撃をしかけてくる。

 レティシアは向きをかえてベッドの端に遠ざかっていった。アルバートは仕方なく反対側のレイモンドの方に寄っていった。眠気の片隅で(レティがベッドから落ちないように)と思いながら。


 もちろん翌朝には従者達に見つかって、ルイーズの大目玉をくらうことになった。4人の無謀な計画はたった一晩で終わったのだが、アルバートの心には温かな思いが残った。




「アル君、そろそろ本格的にお勉強をしましょうか。紳士たるもの全方向に優秀でなくてはなりませんよ。」

とのルイーズのひと言で、外国語や音楽などの授業が増えアルバートは俄然忙しくなった。


 その一つに体術の稽古があった。剣を振る時代ではなくなったが、心身の鍛錬のために武術を習う習慣は残っており、体術は護身のためにも人気があった。

 体術は王都にある道場に稽古に行くのだが、すでに習っているレイモンドと、アルバートとルバートの3人で、週に一度通うことになった。


 レティシアも習いたいと駄々を捏ねたが

「怪我をしてお嫁に行けなくなったらどうするの」

とまたもルイーズのひと言で却下になった。

(僕のお嫁さんになるのだから別にいいのになぁ…)とアルバートは思ったが口には出さなかった。


「体術はお腹がすくだろ?何か食べて帰ろう」

レイモンドの誘いで、稽古の帰りに3人は、チュロスという細長いドーナツの屋台に寄った。店の人から揚げたて熱々のチュロスを受け取り、立ったままかぶりつく。非常に行儀が悪い。アルバートは、罪悪感と高揚感を覚えた。

「工場が増えて夫婦共働きの労働者も多いから、家で食事を作る暇がないらしいよ。だからすぐ食べられる屋台がたくさんできるんだよ。」

レイモンドは年上らしく教えてくれた。


 その後、3人の体術後の立ち食いは習慣化し、帰りの馬車では、あれが美味しかった、こっちが良かったと盛り上がるのだった。




 その日は、レティシアがアルバートを誘ってピックニックをした。ピクニックといっても、庭の木陰にシートを敷いて二人でお茶会だ。


「あのね、お母様が刺繍をしなさいっておっしゃってね。私、『布も機械で織れるようになったから、刺繍だってそのうち機械化する。自分で刺す必要ないわ』って言ったの。そうしたらお母様が『レティが作る刺繍はレティにしか作れない』って。そしてね『自分で携わったこともなくて良いか悪いか判断できるの?』っておっしゃるの。(それもそうかも)と思って、刺繍をお母様に習っているのだけど…」


「ん?…だけど?」

「だけど…ねえ、笑わない?」

「えっ?うん、笑わない」

「絶対?」

「う、うん」

「じゃあ、こ、これ、差し上げるわ。初めて作ったから下手だけど…」


 レティシアは、乱暴にアルバートにハンカチを押しつけた。それにはエルフラウと盾らしきものが刺繍されていた。正直上手ではなかったが、レティシアが作ってくれたと思うと,アルバートは頬がもにょもにょして、思わず「ふふっ」と声が出てしまった。


「わ、笑わないで!」

「笑ってないよ。嬉しい、ありがとう。」

「お花だけだと女の子みたいで使えないでしょう。だから盾もいれたの。」

「ポートフォード家の紋章は盾と麦だよ。ウォルター家は剣とエルフラウか~、盾は僕で、エルフラウはレティだね。」


 アルバートは、何気にそう言ってレティシアを見たのだが、レティシアが顔を赤らめてうつむいてしまったので、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ったことに気がついた。


 そよと風が吹いた。

レティシアの長い髪が、わずかにそよいだ。

アルバートは、その髪に触れてみたいと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ