2-5 晩餐会、ウォルター家の人々
アラン達が王都見物をした夜、ウォルター一家とポートフォード侯爵父子との晩餐会が催された。アルバートとレティシアの婚約の宴と、領地に帰るアランの送別を兼ねたものだ。
アランとアルバートが正装をして控の間に臨むと、ウォルター一家と、何やら大きな箱と銀の傘のようなものを持った男が2人待っていた。
「お待たせして申し訳ない」
とアランが言うと、ウォルター公爵夫人ルイーズがにこやかに応えた。
「いえ、こちらも準備が整ったところです。晩餐の前に記念写真を撮りたいと思いまして、今日は写真技師をお呼びしておりますの。アルバート君とレティの大切な日ですもの。ではお願いいたしますね。」
そして技師に指示されるまま、7人は笑ったりすましたりして写真に収まったのだった。
晩餐会のテーブルには、華やかな花々がセンス良く飾られ、小さな花のブーケがそれぞれのカラトリーのそばにも置かれていた。
全員が着席したのを見計らってレナードが挨拶に立った。
「すでに知ってのとおりアルバート君とレティシアの婚約が整った。誠にめでたい。ポートフォード侯爵には、若い頃からお世話になりっぱなしだが、両家のなお一層の交流と繁栄を願い、末永く宜しくお願い申し上げる。さて挨拶はここまで。うちは堅苦しいのが嫌いでね、大勢呼んでお披露目する家もあるようだが、こういう形にさせてもらった。ああ、そうだ、新聞の広報には載せるつもりだよ。何というか他家への牽制だな。レティのお祝いだから料理人も腕をふるってくれたよ。どうか堪能して欲しい。」
続いてアランが挨拶をして、大人はシャンパン、子どもはジュースで乾杯した。
ガーデンパーティー以来、アルバートは一度もレティシアに会っていなかった。今夜も席は隣同士だったが、心構えは先日とは全く変わっていた。
(こんなことになったけど、レティシアはどう思っているのだろう?)
レティシアは、桃色の生地に金糸で細緻な刺繍が施されたドレスに、共布の細いリボンを複雑に髪に結い、小ぶりのエメラルドのペンダントをしていた。上質でありながら年相応の装いで愛らしかった。
(刺繍のドレスかわいい、僕の金髪を意識してくれたのかなぁ。そういえばブローチのお礼言ってなかった…)
アルバートは嬉しくなって、勇気を振り絞った。
「あ、あの、てんとう虫ありがとう!こ、これから宜しくお願いします」
レティシアはにっこり笑って頷いた。
「このスープ、我が家の自慢なのよ。前日から仕込むのだって。おいしい~」
といかにも美味しそうな顔をした。
「そ、そう」
アルバートもスプーンを手にした。金色に透き通ったスープは優しい味だった。
ルイーズが口を開いた。
「アル君、あら、もうアル君でいいでしょう。レティ、おめでとう。これからゆっくりお互いを知っていけばいいのよ。アル君、これからウォルター家を我が家だと思って、遠慮せず何でも相談してちょうだいね。お勉強のことも考えてありますよ。今日は7歳のルバートの晩餐会デビューでもありますの。アラン様、ルバートの出席を許してくださって、ありがとうございました。ル一、マナー頑張ったものね。」
それまで真剣な表情でナイフとフォークと格闘していたルバートは、自分にスポットが当たったと思い、いつもの調子に戻った。
「はい!僕、一生懸命マナーの練習をしました。侯爵様、アル兄さまを僕の兄さまにくださって、ありがとうございます。」
「ルー!違うぞ。アルバートはレティと婚約したんだ。おまえの兄にもらったんじゃない。いやまあ義兄にはなるが…。侯爵様、申し訳ありません。ルバートは何でも自分の都合のいいように解釈するんです。」
とレイモンドが釈明した。
「はははは、それも一つの才能だね。レイモンド君、ルバート君、アルバートと仲良くしてやってくれ。レティシア嬢、宜しく頼むね。」
そうして晩餐はなごやかに過ぎていった。意識してかしなくてか、主役のアルバートとレティシアの話題はほとんど出なかった。
◇
アランは翌日、ポートフォード領へと旅立った。
アルバートは、父を見送って所在のなさに本でも読もうとしたところ、コンコンとドアがノックされた。誰か父に用事があったのだろうかと慌ててドアを開けると、ルバートの満面の笑みがあった。
「こんにちは、アル兄さま、僕のお兄さまになってくれるんでしょ。」
「いや、まあ、そう?だけど…」
「僕、嬉しいなぁ~。レイ兄さまは、ちっとも遊んでくれないんだ、僕を赤ちゃん扱いするんだよ。ねぇ、お庭でかけっこしようよ。」
ルバートがアルバートの袖をしきりに引っ張っていると、ルバートの従者が駆け寄ってきた。
「ルバート様、ずる休みはいけませんよ。家庭教師の先生がお待ちです。」
「ちぇ! ねえ、お昼から遊んでね。誘いにくるからね。待っていてね。」
従者に引きづっていかれながらもルバートは言い募った。
午後、ルバートはきっちりやってきた。相変わらず満面の笑みである。アルバートは、自分より幼い子供とどう接したらいいのかわからなかったが、全く心配はいらなかった。
ルバートは、アルバートと手をつないでは走り、立ち止まっては植込みを覗いたり木に登ったりして、いちいち小さなことに驚いて笑った。そうしてアルバートは半日振り回されたが、(何だか、楽しい)と思うのだった。
その翌朝も、ドアがノックされた。今度はレイモンドであった。
「アルバート、君、馬には乗れるかい?」
「あの、少しは。まだ遠乗りしたことがないんだ。」
「そうか、練習がてら乗りにいこう。心配ない、馬丁に賢い馬を選んでもらうさ。ルバートには内緒だよ、あいつはまだ乗れないからな。ではまた午後に。」
レイモンドとアルバートは、厩舎の周りを何度が周回したあと、なだらかな道を選んで馬を走らせた。
二人で出かけたと聞いてルバートが悔しがったのは言うまでもない。アルバートは心地よい疲れで、今日も(何だか、楽しい)と思ったのだった。




