7-5 アップル・ビアで乾杯
大学の認定をもらって、僕が19歳になろうとしていた頃、バーナム叔父さんから驚くべきことを告げられた。
「ルバート、婚約者が決まったから来週にでも会いなさい。」
「えっ!決まった?」
何てことだ、本人抜きにして婚約者を決めるなんて。聞けばバーナムの有力貴族の長女、ジュディーという名で僕の1歳年上らしい。
バーナム叔父さんの祖母、つまり僕の曾祖母がバーナム家からウォルター家に嫁いでいるから、叔父さんも僕もバーナム家と血のつながりはあるけど、さすがに2代続いて養子だからバーナム領内の安寧のために決まった婚約らしい、他人事みたいだけど。
その彼女は、会ったこともない男と結婚するのでいいのか?僕はほら、結構イケてるけどさ、すごく醜男とか、すごく太っているとかだったらどうするんだろう?
翌週、バーナムの海辺の別荘、ウォルター家で毎年避暑に来ていた場所で、僕はジュディーに会った。ジュディーはブラウンの髪に青い瞳で朗らかな人だった。
僕はちょっとリリアさんを思い出した。雰囲気も性格も全く違うのに、ジュディーもやはり野に咲く花のようで、弱々しくもあり逞しくもあるように思えたんだ。
「初めまして、ルバート・バーナムです。」
「ジュディーです。宜しくお願いします。」
「あの、僕でいいんでしょうか?」
「ふふふっ、やっぱりルバート様は面白い方ね。私、一方的にルバート様を知っていたの。私も王立学園に通っていたのよ。学年が一つ下で成績がよくて生徒会長もしたのに、大学にもいかずあっさり2年で卒業した、伝説になっているわ。」
「えっ、ほんとに?」
ジュディーとは、浜辺を散歩したり、古い町並みを散策したり、水産試験場に行ったり、デートというより領地視察まがいのことをして過ごした。
ジュディーはバーナムのことが誰よりも好きな人だと思った。そしていつも、僕の旅行の話や将来の夢を楽しそうに聞いてコロコロ笑うんだ。
「私、ルバートに出会えて、ルバートのお話聞くだけで人生得したわ。」
「!!」
ジュディーのその言葉を聞いた時、僕は完全にジュディーに墜ちた。それから僕の判断の基準は、ジュディーが喜ぶかな?笑うかな?になってしまったんだ。
◇
そうこうするうち、アル兄とレティ姉も大学を卒業して結婚することになった。
「じゃあ、レティも、ルーも一緒に合同結婚式をすればいいわ。」
昔から、何事もウォルターの母上の一言で決まるんだ。
バーナム領でも、アル兄のポートフォード領でも、領民へのお披露目会を別に開催するから王都でやる結婚式は合同でいいんだって。
いや男はいいけどさ、女性は人生最大の主役の日でしょ?と思っていたのは僕だけで、母上とソフィア様とレティ姉、ジュディーでどんどん話しが進んでいった。
しかも王家から、王家の教会と大広間を使いなさいって言ってきた。まあウォルターとポートフォードとバーナムの結びつきを考えれば、王家も気を遣うよね。でも、気の小さい僕は、そこまでしなくてもと思わなくもなかった。
ひょっとして、母上が合同結婚式を決めたのはそこまで見越していたのかな?何と言ってもこれはウォルター公爵一門の権勢を誇ることになるんだから…母上、恐るべし。
王家の教会で厳かな結婚式を挙げた後は、王城の大広間で披露宴だ。大広間は豪華絢爛で目がチカチカしてどうにかなりそうだった。
アル兄と僕は、シルバーグレーの正装。僕は、ジュディーの瞳の色ブルーのタイにバーナム・ピンクのタイピンをした。
アル兄は、金にエメラルドの斑点を入れた、てんとう虫のタイピンをしていた。アル兄曰く「僕は初めてレティに会った時、てんとう虫の魔法にかかったんだ」って。意味分からないや。
デザインは違うけど、レティ姉とジュディーの純白のウェディングドレスには、腰から裾に向かってエルフラウの緻密な刺繍が施されていた。
レティ姉はアル兄の色ゴールドで、ジュディーはバーナムの色、淡いピンクで。レティ姉のドレスにもどこかに、てんとう虫の刺繍があるらしい。
ジュディーが「私のドレスの刺繍も秘密があるのよ。捜してみて?」って言うから一生懸命ドレスを見たけど僕には分からなかった。それでジュディーが指し示したものは、小さな二枚貝だった。
ジュディーと初めて会った日、浜辺を歩いて二人で見つけた貝だ。ジュディーが「一生大事にする」って持って帰ったっけ。僕は感激した。
(ジュディー、言うまでもなく僕は君を一生大事にするよ)
アル兄とレティ姉の学園時代の友人もたくさん来てくれた。王城なんて、一生に一度入れるか入れないかって場所だ。最初はみんなこちこちに緊張していた。
コックス男爵とリリアさんは、来られないかわりに素敵なプレゼントをくれたよ。コックス領で開発されたりんごの発泡酒、アップル・ビアだ。
披露宴の最初に、シャンパンの代わりにアップル・ビアで乾杯をしたんだ。
シャンパングラスはエルフラウのデザインがされていて、アップル・ビアを注ぐと色が変わって、会場からどよめきが起こった。
いつだったかウォルター家でりんごジュースを注いだジョッキグラスは、試作品だったんだって。これもどこかの領の特産品でウォルターの父が後押ししたらしい。
デザートはもちろん、プティ・エディのジュレだ。アル兄の父上アラン様は男泣きに泣いていた。それはアル兄が逞しく成長したからか、亡き夫人を思ってか…。
僕たちが一番驚いたのは、サラさんとジャック・ミラーが結婚していたことだ。
結婚式もお披露目もせず書類だけ出したんだって。しかも王都と北部ブナンに離れていて別居婚らしい、新しいね。
ジャックは王都の大手弁護士事務所で経験を積んでいる。将来北部で弁護士事務所を開くんだって。向こうはまだまだ弁護士も足りないし、何より人々の人権意識が低いらしい。
サラさんは、メリンダと一緒に紡績工場の女性達の組合を作った。その組合で自分達で資金を出し合って、赤ん坊や幼児に使ってもらえる柔らかい綿織物を作っているそうだ。
普通の織物の3倍は時間がかかるから量産はできないし、紡績工場の仕事と兼務で大変だけど、女性達が自信を持ち始めたって喜んでいた。
サイモン・ハワードはシャンバルの大学に留学したのち、大手の建設会社に就職した。あらためてそこからシャンバル帝国の建設会社に派遣されて、大規模建造物の研鑽を積んでいるところだ。将来はゴルド共和国の石油プラントに携わって、パイプでエルディア王国まで石油を送りたいんだって。そんな夢みたいな話しできるのかな?できるんだろうね。
(みんな、すごいや!)




