7-4 メリンダの結婚、僕の旅
僕の旅の最初の目的地は北部の町ブナンだ。
実は、サラさんからレティ姉に、メリンダが結婚するという手紙が届いた。メリンダは誰にも知らせるなと言ったらしいけど、サラさんとしてはそういう訳にもいかない。
その頃には、僕たちもメリンダがバーナム叔父さんの子供ではないと、誰に聞くでもなく知っていたから、お祝いはしてあげたかったけど立場的に難しかった。それで人畜無害な僕が行くことにしたんだ。
僕は王都の中央駅から初めて列車に乗った。始発に乗れば夜にはブナンに到着する。毎日新しいビルが建っていると言われる王都を抜けると、丘陵地の畑、そして大森林地帯だ。その途中に学園都市リンデンがある。
(ああ、ここでアル兄やレティ姉は生活しているんだなぁ)
さらにまた森林を通り抜けると北部地域にはいる。少しずつ町並みが賑やかになり、ひときわ活気のあるリーズ駅に停車した。北部最大の港湾都市サンプール行きの列車待ちだ。
(ここで下車すればリリアさんに会いにいけるのか…)
やがて静かに列車は動き出し、ついにブナンの駅に到着した。今夜は駅前の宿に泊まって、明日はメリンダの結婚式だ。
◇
翌日、僕は駅でサラさんと待ち合わせをして、町の教会に連れて行ってもらった。僕はなんと言っても王都の貴公子だから、すれ違う人みんなが僕を二度見したよ。メリンダもここに来た当初はこんな感じだったのかなと思ったりした。
サラさんは、メリンダの花嫁姿を見るなり、飛びつかんばかりに駆け寄った。
「メリンダ、おめでとう!!とっても綺麗よ」
「ありがとう、サラ。」
メリンダは花のように笑った。
メリンダは、サラの後ろにいる僕を見てもすぐ僕だとは気がつかなかった。そりゃそうだろう、メリンダがバーナム家を出た頃、僕はまだ小さかったから。
背の高い、自分で言うのも何だけど、男前の青年がルバートだとわかると、メリンダは、急に表情が強ばってけんか腰で言った。
「何しに来たのよ。」
僕は、メリンダのあまりの変わってなさに笑いそうになるのを堪えてお祝いを述べた。
「メリンダ、結婚おめでとう!」
「あ、ありがとう」
メリンダも素直にお礼を言う気持ちはあるらしい。夫になる人に僕のことを知り合いだと紹介した。
メリンダの彼は、リサさんの会社の工場長で大男だと聞いていたけど、ほんとに黒髪黒目一見怖そうなゴリラのような大男だった。でもメリンダを見る目がとても優しかった。
僕はバーナム叔父さんから預かってきたお祝いをメリンダに渡した。
「メリンダ、義父上からのお祝いだ。色々思うところがあるだろうけど受け取ってくれないか?これはバーナムの貝から捕れる珠でできたペンダントとブローチだ。義父上が日常に使ってもらえるようにって大げさじゃないものにしたんだ。」
僕はちょっとメリンダの表情を伺った。うんうん、怒ってはいないみたいだ。
「メリンダが小さい頃に、義父上は、バーナムにしかないこの貝から真珠みたいな珠ができることを発見して、ずっと養殖の研究をしていたんだよ。真珠と違ってこれはピンク色なんだ。大きい珠ほど濃いピンクオレンジになるんだけど、小さめの淡いピンクがかわいいんだ。ようやく量産の目処がたって、これからバーナム・ピンクというブランドで売り出す。これは第一号の品だ。メリンダに似合いそうな色を義父上と僕で選んで作ってもらったよ。」
メリンダは、おそるおそる箱から中身を取り出すとボロボロと涙をこぼし始めた。
「メリンダ、義父上はメリンダのこと、嫌っても恨んでもいないよ。ただ跡取りにできなかっただけだ。ずっと幸せを祈っていると伝えて欲しいって。」
「…ありがとう」
メリンダはさらに泣き出したので、せっかくの花嫁姿が台無しと周りが慌てだした。
大男がメリンダに、せっかくだからペンダントとブローチをつけて式を挙げようと言ってくれた。
木造の簡素な教会の小さな結婚式だった。会社の人だろうか、近所の人だろうか、素朴な人たちが、大男とメリンダを優しく見守っていた。
いつもフリフリの豪華なドレスを着ていたメリンダを知っている僕としては、その花嫁衣装は質素だったけど、ピンクのペンダントとブローチがメリンダを美しく引き立てていた。
(メリンダ、さっきメリンダが変わっていないと思ったことは撤回するよ。メリンダは、ここで幸せを見つけたんだね。)
◇
僕は旅装に着替えてブナンからそのまま旅に出た。色白の貴公子だった僕も1ヶ月経った頃には日焼けをして、どこの誰ともわからない様相となった。
バーナム領の西北部はずっと海岸線で、点在する島の向こうの外海で急に深くなり豊かな漁場となっている。多くの種類の魚介類が捕れるけど領内の消費にとどまっていた。交通手段が発達した今、魚介類を売り出したいところだけど、エルディア王国では牛や羊を食べてきたので、魚介類を食べる習慣があまりない。
僕の旅の目的のひとつ、というかバーナム叔父さんとの約束のため、国内の漁村や農村の食事情を見て回ることにしている。
大きな街には銀行もあって、バーナム叔父さんは、そこに寄れば金銭の不自由はないように手配してくれていたけれど、僕は、行く先々の漁業や農業を手伝って家に泊めてもらった。
僕は結構、絵が得意なんだ。泊めてもらったお礼に家族の絵を描いてあげると喜ばれたよ。でも野宿をすることも度々で、商店をみつけると干し肉とか豆を買って2,3日分の食料を持って旅を続けたんだ。
エルディア王国は南北に背骨のように長い山脈がある。その東側は、あまり平野がなくて切り立った海岸線だ。ところどころに集落があるだけで、文明から取り残されたように人々が生活している。
僕はその東側も丁寧に見て回った。集落の雰囲気もまちまちで、よそ者の僕が行くと、とても歓迎してくれる所もあれば、石を投げられて殺されるかと思う所もあった。
集落が離れているので、下手に歩き回るととんでもない所で野宿をする羽目にもなる。ある場所でもらった品を別の場所で差し出したりして、集落の人を味方につける方法もだんだん覚えていった。
ずっと南下して南東の領ではシャンバル帝国との国境沿いを歩いた。何となく食べ物もシャンバルの影響を受けているようだった。
その後南西のポートフォード領にはいった時には正直ほっとした。アル兄のお父上アラン様に会った時には気が抜けて熱を出し、そのまま1ヶ月も滞在した。
もちろん山岳地帯も歩きまわり、バーナム領に帰ったのは1年半後だった。
記録は大きな町に入る度バーナムに送っていたので、帰ってきてからそれらをまとめる作業に数ヶ月を要した。
僕は「地域別、食料調達の現状について」「海岸線沿いの町村の漁業と生活について」の二つの論文を大学に提出して課程認定をもらった。その分野において大学卒業とみなしてくれるものだ。
(義父上、僕、結果出せたかな?)




