2-2 父親たち
中庭でガーデンパーティーが行われている頃、ウォルター邸のサロンでは、アルバートの父アラン・ポートフォード侯爵と、レティシアの父レナード・ウォルター公爵、レナードの実弟でメリンダの父ロバート・バーナム伯爵が、豪奢なソファで懇談をしていた。
レナードがアランに向かって言った
「アルバート君とレティシアの件、受けてくれてありがとう」
「いや、こちらこそ。こんな嬉しいことはないよ。」
レナードとアランは、かつてリンデン大学の学友だった。公私ともに苦楽を共にし何でも気さくに話し合える仲だ。
「ゴルドとの戦争では、君のポートフォード領は国防の最前線だった。筆舌に尽くしがたいものがあっただろう。国を代表しても、私個人としても、感謝に堪えない。アラン、本当にありがとう。領内の復興の具合はどうだ?」
「ああ、戦時中は、当たり前だが領内は軍事一色だった。海岸線はどこもひどい有様だ。国も派兵してくれたが、領の壮健な男はほとんど駆り出したよ。そのせいもあって農業も壊滅状態だ。港湾整備、農業政策、やらないといけないことは山積みだ。」
「ポートフォード領を抑えられたら、王都エルシードに剣を突き付けられたも同然だからね。アラン、ほんとによく持ち堪えてくれた。深謝する。」
レナードは立ち上がるとアランに向かって深々と頭をさげた。
「ありがとう、レナード。捨て駒にされたようで苦い思いもしたが、君にそう言ってもらえると救われるよ。」
「ああ10年だからな。長かったな。その分、君にも、君の領地と領民にも、報いたいと思っている。これは国益にもつながることだしね。」
「わが領は、良くも悪くもエルド海をはさんで、ゴルド共和国とシャンバル帝国と相対している。これからは友好を願いたいよ。」
「そうだね。皮肉なことに、戦争で我が国の技術力は飛躍的に発展したよ。鉄道は、ブナン、リーズ、サンプール間の産業鉄道に加え、王都からリーズまでの中央線ができた。王都エルシードの中央駅は、わがウォルター家の土地を提供したんだ。次は、君の領のサウスポート港まで西ルートを計画している。王家の承認はすでにとってある。あとは議会決定を待つだけだ。」
「そうなると、わが領の人や物資の輸送は飛躍的によくなるな」
「ああ、そうしてみせようじゃないか。これは極秘なんだが、ゴルドで石油が見つかったんだ。おそらく世界的にみてもトップクラスの埋蔵量らしい。」
「セキユ?」
「ああ、私は門外漢でよくわからないがね、石炭にかわるエネルギーらしい。ゴルドと友好条約を結んだのも、これが関係しているのさ。ゴルドは石油はあっても採掘する技術がない。それで、うちから技術者を派遣して共同開発をすることになった。その見返りとして向こう50年間、産出量の40パーセントを独占的に確保できる。そのかわり我が国への賠償金も50年の分割払い、それから食糧援助が条件だ。」
「なるほど、それで鉄道と港か!」
「そうだ!ポートフォード領には、いくつか良港があるだろ?ますます重要になるよ。一括して賠償金をもらえない分、国の補償も多くは出せない。そこでウォルター家から資金援助を申し出たんだ。」
「ありがとう、どうしたって復興には金がいる。恩に着るよ。」
「いやウォルター家は、今となっては金融・投資が生業だ。ウチだって十分に利益をみこんでいるさ。」
そこまで話すと、二人は示し合わせたようにブランデーに口をつけた。しばらくの沈黙ののち、レナードが再び口を開いた。
「子供たちの婚約に関係なく援助はさせて欲しい。ただ純粋に、アルバート君との縁は結びたいと思っているんだ。レティシアは強くて心根の優しい子だ。世の中の動きにも敏感で時々ドキッとすることを言うよ。我ながら親バカだが…」
「いやぁ~レティシア嬢は、ほんとに利発で可愛らしい、うちのアルバートにはもったいないよ。アルバートは、やんちゃが過ぎるくらい元気な子だったのだが、妻エイダが亡くなって、すっかり塞ぎこんでいる。妻のことも、アルバートのことも、家庭を顧みなかった自分のせいだ。」
「そんな風に自分を責めるんじゃないよ、あの状況じゃあどうしようもないさ。奥方のことは残念だったな。あらためてお悔やみを申し上げる。」
「ありがとう。すまない、妻のことで立ち直れないのは私の方かもしれない。」
「そうすぐに気持ちを切り替えられるわけもないさ。ところで、アルバート君をうちに預けてもらう件は、考えてくれたか?」
「ああ、婚約のことは本人同士が会ってからと思って話してないんだが、こちらにお世話になることは本人も了解している。しばらく預かってもらえると嬉しい。正直なところ、復興でアルバートに構ってやれる状況じゃないんだ。」
「うちは男の子が二人いる。長男レイモンドは面倒見がいいし、ルバートは末っ子でちゃっかりしているが、アルバート君にとっても弟ができたみたいでいいかもしれないよ。」
「そうだね。宜しく頼む。それにしてもお互いの子供のことを話すなんて、大学時代には想像もしなかったな。」
「それもそうだ!」
「「ははははっ…」」
ひとしきり笑ったところで、レナードは、二人の会話を静かに聞いていたロバートに目線を移した。それを見たアランは、兄弟に向かって言った。
「さて、バーナム伯爵も久しぶりの公爵邸だと伺っているよ。ご兄弟で積もる話もあるだろう。私はこれで失礼させて頂こう。」
「いやぁ、ポートフォード侯爵、これからは私も身内同様。どうか宜しくお願いします。」
「そうだね、また君ともゆっくり語り合いたい、宜しく頼む。」
「有意義な語らいができたよ、ありがとう、アラン。滞在中は遠慮なく好きに過ごしてくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ、レナード。私も楽しかった、では失礼する。」
アランはにっこり笑うと、おもむろに立ち上がり静かにサロンを後にした。




