4-11 アルバートとレティシア ~言葉にして~
七人が解散して、アルバートとレティシアはエルベ川沿いの遊歩道を歩いていた。
夕暮れの川縁は、等間隔にカップルたちが見つめ合ったり、ささやき合ったりしている。自分達もカップルなのだが、何となく場違いな気がして目のやり場に困る。
アルバートが、おもむろにレティシアの手を握る。レティシアが見上げるとアルバートは少し鼻にしわを寄せてレティシアを伺っている。照れているときの仕草だ。レティシアも照れ隠しに、わざと小さい子供のようにつながれた手を振ってみる。
「ねえ、アル」
「うん?」
「私ね、ずっと怖い夢をみてたの」
「夢?」
「うん、12歳…アルがポートフォードに帰った頃からずっと…」
「どんな?」
「うん、アルがね、他の女性と親しくなって私に冷たいの、そして去っていくの…」
「何だそれ。それでずっと悩んでいたの?」
「…うん」
「何でもっと早く言わないの?そんなことあり得ないよ。僕がやり込めてやったのに!」
「馬鹿ね、夢をどうやってやり込めるのよ。」
「そうかぁ~、レティ、辛かったんだね。」
「うん、でもたぶんもう終わったんだと思う。それにね、考えてみたらアルが、ほんとにやり込めてくれた…」
「どういうこと?」
「アルは、ずっとそばにいてくれたもの。ずっと…手を握ってくれていたもの。それなのに、私の心が弱かった…」
アルバートは、また少し鼻にしわを寄せて口元をほころばせた。
「何?」
「だって、僕が去っていくのが辛かったんだろ?嬉しいに決まっているじゃないか!」
「ば!馬鹿」
レティシアの頬が赤くそまる。話しが、レティシアの意図しない方にそれたが、自分が断罪されることは口にしない。少しだけアルバートに話して、少しだけ共有して、自分のなかで終わらせる、それだけなのだから。
「レティ」
「何?」
「もし僕がそんなことをしたら、レティの方から僕を思いっきり捨ててくれていいよ。」
「えっ?」
「そんなこときっとない!だって僕は、あのとき魔法にかかったんだ。」
「魔法?」
「そう、あの「てんとう虫」をもらった時から、僕はレティしか見えなくなった…」
「ま、まあ!」
アルバートはつないだ手を持ちあげて、レティシアの手に優しく口づけた。レティシアは、たまらなくなってその手を離し、急ぎ足で前に歩み出た。
エルベ川からは、黄昏時の優しい風が吹いている。
♪いつか言葉にできるでしょうか
想い続けたあなたの名前
いつか囁いてくれるでしょうか
優しい声で私の名前
レティシアは学園祭でリリアが歌うはずだったフレーズを小さな声で口ずさんだ。絹のように流れる美しい髪には、あのバレッタの小さな玉が揺れている。
アルバートは大股でレティシアに追いつき、肩を優しく抱くと木陰に連れて行く。
「ア、アル!」
「レティ、ずっと一緒って言っただろ?」
「ええ」
アルバートは、レティシアを抱きしめて髪に頬ずりをした。
「レティ、シャンバルに行っても休みには帰ってくる。」
「うん」
「レティ、何がしたい?」
「う~ん、またここに来たいわ」
「そうだね、今度は二人で来よう。思い出のプディングを食べようか?」
「そうね、楽しみ」
「それから?」
「それから…そうね、ポートフォードでプティ・エディを収穫したい」
「収穫?馬鹿だな~力仕事だよ、君には無理だよ。」
「そんなのできるわ!私だって守られるだけは嫌なの!」
「レティ、君はいつも僕を守ってくれているよ。」
「そう?」
「そうさ、レティ」
アルバートはレティシアを強く抱きしめた。
「アル…」
レティシアもアルバートの胸に顔を埋めた。
あの「てんとう虫」の出会いから、何千回、何万回、お互いの名を呼んだだろう。この先、どれほどお互いを呼ぶのだろうか。名を呼べば、それに応えれば、そこに育んだ愛が確かにあった。
でもアルバートは言葉にして伝える。
「レティ、君に心を置いていくよ、愛している」
そしてレティシアも、
「私もあなたに持っていって欲しい、愛しているわ、アル」
夜の帳が、唇を重ねる二人を包みはじめた。




