4-10 送別会、王城の塔
2年生の終業式の後、学園長室には、杖をついたリリアとそれを支えるコックス男爵、生徒会役員4人、レティシアとサラ、ウォルター公爵と、そして数人の教師が集まっていた。
「リリア・コックス嬢、日常からの学園への献身に対し『特別賞』を授与する。これは教師、2年生の生徒の総意だ。前例のないことだから、このような少人数での授与となった。退学するのは残念だが、学園で学んだことを誇りに思って今後の人生に活かして欲しい。おめでとう!」
「学園長様、ありがとうございます。」
リリアが学園長から賞状を受け取ると、温かい拍手がおこった。
「皆さん、大変お世話になりました。こんな名誉を頂いて嬉しいです。」
リリアは、晴れ晴れとした顔で集まった人達を見渡し、ぺこりと頭をさげた。
ウォルター公爵が皆に向かって声をかけた。
「皆さん、せっかくなので記念写真を撮りましょう、別室に写真技師を呼んでいる。どうぞそちらに。」
別室には2人の男が待っていた。以前ウォルター邸で記念写真を撮ったときより、はるかに小さなカメラを持って。技師の一人が人数を見ながら指図する。
「学園長は真ん中にお座りください。あと椅子席に女子生徒さん、ああ、あなた大丈夫ですか?賞状を持って学園長の横にお座りください。」
リリアは、サラの助けをかりて学園長の右隣に遠慮がちに座る。その横にサラ、レティシアは学園長の左隣に座った。その後ろに男子生徒、周りに大人たちが立った。
そうして、技師に指示されるまま、笑ったりすましたりして写真に収まったのだった。
撮影が終わるとウォルター公爵はコックス男爵に声をかけた。
「子供達はこれから送別会をするようだよ。私たちは男二人で茶会でもいかがかな?」
◇
アルバート達七人は、瀟洒なホテルの最上階のラウンジに来ていた。
「アル、こんな所知っていたの?」
「ああ、ずっと前父上と来たんだ。公爵様にお願いして席を予約してもらったんだよ。」
黒い制服を着た見目のよいウエイターが個室に案内してくれる。部屋に入ると全面の窓から王都が一望できた。雲ひとつない青空の下に、王都の街が広がっている。
「「「うわぁ~」」」
男子が窓にかけよって感嘆の声をあげる。だがここは高級ホテルだ。ウエイターの顔を気まずく見やって居住まいを正した。レティシアとサラはリリアを支えてクスッと笑い合った。
「さあ、みんなお腹空いたね。公爵様が好きなだけ食べなさいって。」
「じゃあ遠慮なく、どれにしようかな~」
七人はワイワイと上品とはほど遠い量の注文をしたが、ウエイターは、穏やかに礼儀正しく注文を受けてくれた。
ウエイターが去り七人だけになると、再び外の景色に目が行く。
「この景色をみんなで見たかったんだ!」
アルバートの視線は、遠方の王城に注がれている。
「王城の塔が見えるね。」
「ああ、7基」
「7基ね。」
「僕たちと同じだ。」
サラとリリアは、夏休みにエルベ川の遊覧船から見上げた塔だと気づき、お互いに顔を見合わせた。
「本当だ!真ん中の高いのは誰かな?」
「アルバートだろ?」
「いや僕かも!」
「何だ、エドガー、すごいじゃないか。」
「誰もであって誰でもないんじゃないか、誰にだっていろんな時があるさ。」
「そうだね、それぞれの位置でそれぞれの役割があるんだ。僕たちも同じだよ。」
「そうよ。」
「そうだね。」
「いつまでもこうありたいね。」
「ああ、7基ね。」
「うん、ほんとに。」
◇
「ねえ、ジャック、もう大学に行くんだから挨拶しなさいよ。」
サラが隣に座ったジャックの背中を叩く。
「え、ぼ、僕?…あの、みんな、色々ありがとう。楽しかったよ。元々父と同じ弁護士を目指していたけど、あのことがあって1日も早く弁護の仕事をしようと思った。ちょっと先に大学に行って待っているよ。アルバートもだろ?」
「ああ、僕も急遽卒業認定を受けたんだ。ジャックと違ってギリギリの成績だったと思う。1年シャンバル帝国に留学して危機管理の勉強をしてくるよ。レティと離れるのは淋しいけど二人で相談したんだ。ね、レティ」
「何だ、そのもう夫婦みたいなの。」
「ほんとだわ、じゃあ次、レティシアさん」
「私は…私はまずリリアさんに助けてもらった命だから、リリアさん、何度でもお礼を言います。ありがとう。」
レティシアの礼に、リリアは恐縮した様子で首を振る。
「悲しいことはあったけど、リリアさんやみんなと仲良くなれて嬉しかった。最終学年も、みんなと充実して過ごしたいと思っているの。」
「そうだね。僕はまだ、みんなみたいに何の目標も持てないけど、最後の学年を大事にしようと思っているよ。」
「いや、エドガーはその顔と口で生きていけるさ。」
「何だよ、サイモン、お前はどうなんだ?」
「うん僕も、3年も変わりなくエドガーやみんなとワイワイやっていたい。でも決めたこともあるんだ。大学はシャンバルの土木建築に進む。この方面はあっちが進んでいるからね。僕は今まで強度がどうとか、見栄えがどうとか、そんなことしか考えてなかった。あのとき思ったんだ。僕は人の安全を考えてなかったって。みんなが安心できるものを生み出せるようになるよ。」
「「「おう~!!」」」
パチパチとみんなから拍手がおこった。
「じゃあ、次、サラ女史、ああ、もうサラ女史はいいか。」
「何でよ。」
「もう何回も聞いてるよ。親の会社を継いで女性の地位向上をめざすんだろう?」
「ま、まあ、そうだけど」
「サラ女史には、そのまままっすぐ育って欲しいよ。」
「そうね、私、サラさんにたくさん助けられた。ありがとう。」
「そ、そんな…」
「ぼ、僕も、サラさんの志は、す、素晴らしいと思う…」
ジャックが真っ赤になりながらサラを見つめる。サラもまんざらでもなさそうだ。
「も、もう!じゃ最後はリリアね。」
「リリアさんは明日帰るのね。」
「はい、皆さん、ありがとうございました。色々楽しかったです。お元気で。」
「何言ってんのよ、今生の別れみたいに。また会えるよ、会いにいくよ。」
「そうだよ、残るのは4人になってしまったけど、また会おうよ。」
「そうだね。濃い2年間だったよ。ところで学園祭はどうなるのかな?」
「学園祭自体は好評だったよ。続けるかどうかは新しい生徒会に委ねるらしい。」
「そう、できたら続けて欲しいわね。」
「残った僕とサイモンで引き継ぎをする。ゴリゴリ押しておくよ。」
「「「ははははっ」」」
いつまでも話しのつきない七人だった。




