4-2 事情聴取
男が走り出した時、運営本部の面々は総立ちになった。
「レティ!!」
アルバートはレティシアに走り寄った。
だがレティシアは押し倒され、リリアが刺されるのを目の当たりにした。ほんの一瞬だったのだろうが、アルバートにはスローモーションのようにゆっくりと見え、どさりとリリアが倒れて我に返った。
「コ、コックス嬢!」
リリアの制服が、赤く染まっていく。
(ど、どうしたらいいんだ?!)
アルバートは呆然と立ち尽くした。
ウォルター公爵レナードは、真っ青になった妻を支えながら叫んだ。
「医者だ、それから警察を呼べ!」
「まずは止血だ!待機の医者を呼んでくれ」
学園長は教師に指示を出しながら、厳しい顔で壇上にかけあがった。
「来賓、ご父兄の方々、このようなことになってしまい誠に申し訳ありません。学園祭はひとまず中断します。お子様とともに、どうかお引き取り願います。状況がわかり次第、説明の場を設けますが、生徒が関わっておりますので、どうかご内密にお願いします。」
学園長は一呼吸おいて少し柔らかい表情となった。
「生徒諸君、ショッキングなことが起こってしまったが、しっかりするように。今伝えたとおり他言はしないようにね。それから一週間は休園とするが外出は控えて欲しい。寮生の諸君、寮監に迎えに来るよう連絡している、全員一緒に帰るように。生徒会役員は残って欲しい、ああ、設営はそのままでいい。では解散しよう。」
すすり泣く生徒や真っ青になった妻を抱きかかえて家族が連れ立って帰っていく。誰も声を発しない。
かわって医師、看護師、警察が慌ただしく駆けつけ、リリアと男は病院に運ばれた。
レティシアは捻挫をしているらしく包帯を巻かれた姿で母ルイーズに寄りかかっている。
為す術もないアルバートにレナードは声をかけた。
「アルバート、大丈夫か?」
「は、はい大丈夫です。」
「しっかりするんだよ。家令のセバスを寄こすから何かあったら頼りなさい。今日はセバスと一緒にウォルターに帰ってくるんだよ。一人になっちゃいけない。ポートフォード邸には連絡しておくよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「レティは連れて帰る。心配するな。」
「はい…」
「アルバート……」
エドガーが顔面蒼白で寄ってくるとアルバートの肩を力なく叩いた。
「ど、どうなるんだ…」
今にも泣きそうなサイモンが、ジャックとともにアルバートたちに合流した。
◇
警察の現場検証のあと、アルバート達生徒会の四人は教師とともに事情聴取を受けた。
一人一人会議室に呼ばれる。食堂が急ごしらえの控え室になった。食堂の職員が気を利かせて残り物を出してくれたが誰も手をつけない。
「僕はエドガー・グラントです。父兄が来られる正門の役員でした。役員は参加者名簿の確認をする者2名、入場証を受け取る者2名で、僕は全体を見ていました。最初は名簿の確認をして入場証を受け取って、一人一人確認できていたんです。
でも開演時間が近づくと、わーっと人が押し寄せて、「早くして」だの「自分の親だから間違いない」だの言われて…。入場証は確実にもらいました。でも名簿の確認はできなくなったんです。すみません。
…入場証?ああそれは僕たちで手作りしました。あらかじめ参加者を申請してもらって名簿を作り、その人数分だけ。偽造のことも考えて、先生に学園印を押してもらいました。だから、申請人数以上は来ていないと思います。ごめんなさい、ちゃんと確認できていれば…。
…事件のときは、運営本部の後ろの方で入場証と名簿を確認していました。歌を聴きながら。だからその、現場は見てないというか…叫び声が聞こえて、本部の人が一斉に立ったので、それでわかりました。」
「僕はジャック・ミラー、食堂の役員を5人でやっていました。芝生広場の向こうに中庭があって、その奥が食堂です。だから食堂には外から行けるんです。でも日差しを避けるために外廊下を通る人もいました。外廊下に面している美術室や音楽室は全部鍵をかけていました。食堂の隣がトイレと化粧室だから、道を聞かれる事が多くて午前中はそんなでバタバタしました。ランチタイムはどんどん人が押し寄せて、何が何だかわからなかったです。
…怪しそうな人?わかりません。もっと注意深く見ておけばよかったです。すみません。
…午後からはサイモンと会場の後ろの方で立っていました。は、はい、見ました。後ろ姿だけど、いきなり男が走り出して、ウォルター嬢が倒れて、それからコックス嬢が…」
「サイモン・ハワードといいます。広場の役員を5人でやりました。観客のトラブル防止と気分を悪くした人がいないか見るためです。最初は皆さん間隔を空けて座っていたのですが、だんだん人が増えてきたので前に詰めてもらったんです。
ステージは僕たちが作ったから、それも作品のひとつだったから、そばで見て欲しいという思いもあって…ステージのすぐそばまで詰めてしまいました。もっと前を開けておけば防げたかもしれません…すみません。
…男を見たかって?わかりません。見たかもしれないけど、僕、こんなことが起こるなんて夢にも思わなくて、楽しんで欲しいってことばかり考えていて…。
…午後はジャックと会場の後ろでいました。ちょっと緊張がとけて…うううっ、わぁ~」
「僕はアルバート・ポートフォードです。学園祭の運営委員長でした。申し訳ありません。こんなことになってしまって、コックス嬢にどう謝っていいのかわかりません。僕が甘かったです。
安全については何度も先生と話し合いをしました。盗難などがないように会場は芝生広場と食堂だけにして、それ以外の立入りが出来ないよう警備を頼みました。
…人の出入りですか?正門はある程度時間がたったら閉めて、遅れて来る人の確認は警備の人にお願いしました。役員にも学園祭を楽しんでもらいたかったから…。それ以外の門は完全に閉めていました。
…荷物のチェック?そんなこと、思いつきもしませんでした。そうですね。荷物のチェックをしていれば防げたかも…。
…事件が起こった時は運営本部にいました。会場全体を見渡してはいましたが午前中うまくいったので…警戒を怠っていたかもしれません。男が立って、レティ、あの指揮をしていたレティシア・ウォルターに向かっているって思ったから咄嗟に駆け寄りました。でもコックス嬢がレティを避けてくれて、そのかわりにコックス嬢が…はい、目の前で見ました。もう頭が真っ白でどうしていいかわかりませんでした。」
四人は自責の念で憔悴しきっていた。




