3-7 生徒会
それぞれの夏休みが過ぎ、レティシア達は2年生になった。
王立学園では2年生が生徒会の運営をする。生徒会役員は、各課1名ずつ、教師と先輩の推薦と本人の承諾で決定される。
商業経営課はアルバート、法律課はジャック・ミラー、歴史文化課はエドガー・グラント、工業技術課はサイモン・ハワード、そして教養課からはリリアが選ばれた。リリアは固辞したが、サラに叱咤激励され、しぶしぶ引き受けた。紅一点である。
生徒会では、アルバートが会長で、それ以外の役職は固定せず事案ごとに担当者を決めることとなった。しかし自然、分析が得意なジャックが課題を抽出し、サイモンが文書化し、アルバートと人当たりのよいエドガーが渉外を引き受けた。
リリアは、自分から発言することはなかったが、議事内容を的確に把握し資料を揃え、サイモンを手伝って遅くまで書類を作成した。そしていつも一番に来て、生徒会室の整理整頓をし、お茶を用意して喜ばれた。リリアはどこにいても変わらなかった。
◇
「今日は遅くなってしまったね。コックス嬢、寮まで送るよ」
すっかり暗くなった窓の外をみてアルバートがリリアに声をかけた。リリアは一人で大丈夫だと断っていたが、ジャックが話しに割ってはいった。
「ぼ、ぼくがコックス嬢を送るよ」
「なんだ、なんだ、ジャック、コックス嬢にラブか?」
「そ、そんなんじゃないよ。…アルバートにはレティ姫がいるだろ、誤解されたらいけないと思って。」
「まあまあ、じゃあ、4人で交代したらどうかな。コックス嬢、これから冬に向かってますます暗くなるよ。遠慮せずにナイト達にまかせたまえ。」
エドガーのその言葉に乗じて、4人の男子生徒は交代でリリアを寮まで送っていくことになった。
ジャックが、初めてリリアを見たのは半年前、廊下ですれ違ったときだった。
(あの少女だ!)
ジャックは戦慄した。
「三角関係から公爵令嬢が断罪される」…ジャックが小さい頃たびたび見た夢だ。
夢を見始めた当時、夢の登場人物は彼の全く知らない人達だったが、あまりにも夢がリアルで怖くなった。父に話すと誰にも言ってはいけないと固く口止めをされ、以来、胸の奥に沈めている。
しかし、高等部に進学すると夢の登場人物が実在することを知り、あれは本当におこることかもしれないと不安が蘇った。そのキーマンがリリアだ。
ジャックは、そのリリアと生徒会の運営を一緒にすることになってしまった。
(いや、夢の中の少女は確かルビアという名前だったはず…)
そう思いながらも、ジャックは、当事者アルバートとリリアを前にして警戒を怠らなかった。ジャックは正義感の強い少年だったのだ。
◇
ある日の生徒会室でアルバートは4人を前に言った。
「何か学園の歴史に残せるものを企画したいのだけど、いい案がないかな?」
皆はしばらく思案しているようだったが、エドガーが口を開いた。
「それなら学園祭はどう?」
「ガクエンサイ?」
「うん、兄上が大学に通っているんだけど、大学祭というのがあるらしいよ。日頃の研究成果を展示したり、社会問題を学生視点で弁論したりするんだって。あとは、クラブ主催の出し物やバザー、軽食や飲み物を出す模擬店など、全部学生が企画運営するそうだよ。楽しそうだろう?」
「面白そう!」
「何だか大変そうだな」
「大学みたいにはできないよ。僕達でできる形でやってみたらどうかな」
「そうだね。じゃあまず、それぞれの課で開催の賛否を聞いてみてくれないか?あと企画のアイデアや、それから…そうだ、僕達だけでは人数が足りないから運営の協力をしてくれそうな人も聞いてみて欲しい。具体的なプランはそれから決めよう!エドガー、1年生のクラスを僕と一緒に回ってくれないか?コックス嬢、教養課の女子に話してもらえるかな?」
「あっ、はい。あのサラに手伝ってもらってもいいですか?」
「ああ、サラ女史なら無敵だ!頼むといいよ」
学園祭の開催は生徒たちに概ね好意的に受け入れられ、教師からは安全面に配慮するなど、いくつかの条件が出されたが了解を得られた。
開催はエルフラウの咲く6月と決まった。アルバートが運営責任者、生徒会3人の男子が部門責任者、リリアが庶務係として運営会が発足した。
授業の合間をぬって企画立案、費用の工面、各部門の調整など、やることは山のようにあり5人は毎日生徒会室に集った。
◇
アルバートはいつもと変わらず、朝はウォルター邸にレティシアを迎えに行ったが、授業の合間も放課後も生徒会のことで忙殺され、一緒にいる時間はどんどん減っていった。
レティシアは、リリアがアルバートの近くにいることに、どうしても心が張り詰めた。
男子生徒と冗談を言い合っているアルバートは幼い頃と変わらない。レティシアはそっと自分の唇を触れてみた。あの夏の日、プティ・エディの出来事は、アルバートの別の面を知った気がした。
(私は、どんどんアルを好きになっていく…)
それは泣きたいのに涙が出てこないような切ない思いだった。
一方、メリンダは1年たっても‘ストーリー’が一向に進展しないことに苛立っていたが、生徒会でアルバートとリリアの接点ができたことを喜んだ。
(いよいよだわ。でもリリアのあの様子じゃあルビアは別人なのかも…。こうなったら私が‘ストーリー’を進めるしかないわね。)
メリンダは、もはや‘ストーリー’が現実化することに執着しはじめた。




