3-4 レティシアの提案
レティシアはふと気がついた。実際にリリアに出会ってからは、あの夢を見ていないのだ。それにリリアの人となりは、リリアに接するごとに夢に出てくるルビアとは違うという思いを強くした。
(うつむいて不安がるのはよそう。アルにもリリアさんにも失礼だもの。お父様はいつもおっしゃっている「先手を打て!味方を作れ!」って。私にもきっとできる。何かあっても対処できるように。誰かが味方してくれるように。)
◇
声楽の授業は1年生の女子全員が受けている。
ここでもリリアは変わらなかった。一番早く来て、半円形に椅子を整え、ピアノの蓋を開け教師の教本を準備した。目立つこともなく粛々と授業をうけている。
授業が終わり、生徒達はわらわらと帰り支度を始めた。レティシアは、思い切ってみんなに声をかけた。
「皆さん!少しだけ時間を頂けませんか?お話したいことがあるの」
生徒達はいぶかしげに元の席に座った。
レティシアは、すぅ~と深呼吸をした。
「あの、私たちクラスは違うけれど、こうして1年生の女子全員が週に一度集うでしょう。せっかくだから、皆さんと仲良くなりたいし、困ったことや改善したいことを話し合いましょうよ。全部うまくいくとは思わないけれど、自分達でできないことは、先生やご父兄に相談して良い方向へ変えていけたら素敵だと思いませんか?」
「え~」
「そんなの無理よね」
「めんどうだわ~」
あちこちでざわめいたが、一人が手を挙げて立った。サラ・ベイルだ。
「はい!全面的に賛成!まだまだ女子が高等教育を受ける機会が少ないなか、私たちは恵まれてここに集っています。この学園に私たちで歴史を残しましょうよ。僭越ながら、このサラ・ベイル、皆様の手となり足となり、口となって、困りごとの改善につくします!」
サラは、みんなを見回すと声のトーンをかえた。
「ねえ、みんな!ぶっちゃけ、最初はお話会でいいのよ。そのうち課題が見えてくるでしょ。」
そして、ひときわ大きな声で言った。
「さて、皆様!いかがしょうか?」
何だか話しが大きくなったが緩急おりまぜ見事な演説だ。生徒達から温度差はあれ拍手がおこった。
「サラさん、見事なスピーチだったわ、ありがとう。」
レティシアは、力強い味方ができて嬉しくなった、と同時に少し肩の力が抜けた。
「皆さん、毎回でなくていいの。何かあったときはこの声楽の授業の後で話し合いましょうよ。いきなりここでお話するのに抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。運営係に私と…サラさん、なってくださる?」
「もちろんよ!」
サラの元気な声が、生徒達を味方にしていく。
「ありがとう、じゃあ二人のどちらかに声をかけてくださいね。私が教室の使用許可を頂いておきます。皆さんから何かあるかしら?」
二人の生徒から質問があったが特に問題ではなかった。
レティシアが、生徒達を見渡すと、従姉妹のメリンダがふてくされているように見えた。
「メリンダ、貴女も協力してくれるでしょう?」
メリンダは急に声をかけられて返事ができなかった。
「メリンダは、私の従姉妹なのよ。ねえ、メリンダ」
「まあ従姉妹だったの」
「あら知らなかったわ、あまり似ていらっしゃらないわね」
どこかからかそんな声がして、レティシアは少しおどけて言った。
「そうなの。私と違ってメリンダはとっても綺麗なの。それにメリンダはナイスバディなのよ!ねえ、メリンダ」
「ま、まあ、レティったら」
メリンダはまんざらでもない。
「まあ」
「やだ~」
年頃の少女たちだ、こういう話は盛り上がるのである。
「それで今日は私から提案があります。呼び名のことだけど、この60人の間では名前で呼び合うことで統一しませんか?父親の爵位を気にして呼びかけられなかったりする場面がよくあるわ。それだと心を開いて話し合えないでしょう。皆さん、どうかしら?私のことは、レティシアでも、レティシアさんでもいいわ。もちろん、ニックネームで呼び合っている人はそれでいいのよ。」
これには全員から大きな拍手がおこった。
「ありがとう。では今日はこの辺に致しましょう。皆さん、ごきげんよう」
口々に挨拶があって解散となった。
サラが駆け寄ってきて、レティシアの手をとり勢いよく上下に振った。
「レティシアさん、すごいわ。私、こういう事したかったのよ。これからも宜しくね。イェ~イ!!」
「?」
サラは、レティシアにもハイタッチを求めた。サラの後ろでリリアが微笑んでいた。




