3-3 アルバートとレティシア ~バレッタ~
レティシア16歳の誕生日は、家族とアルバートと晩餐会を催した。兄レイモンドは、エルディア帝国の大学に留学していたが、レティシアのためにわざわざ帰ってきてくれた。
学園や大学の話題でひとしきり盛り上がった後、それぞれがレティシアに誕生プレゼントを渡した。アルバートの順番になったとき、アルバートはレナードに願い出た。
「公爵様、僕はレティシアと二人きりでプレゼントを渡したいのです。どうか二人になる時間を頂けませんか?」
全員固まった。レティシアは真っ赤になってうつむいた。
ルバートも、さすがにここで何か言ってぶち壊してはいけないと黙った。いち早く立て直したレイモンドがアルバートの肩をパンパンと叩いた。
「アル、いつの間にそんな大胆なことを言えるようになったんだよ!」
公爵夫妻はお互いに顔を見合わせてから、ルイーズが口を開いた。
「いいわ。灯りはついているから二人でお庭を散歩してきなさいな。まだ寒いから上着を持っていきなさい。アル、節度は守ってね。しばらくしたら家令に呼びにいかせるわ」
アルバートは、嬉しそうにお礼を言ってレティシアの手をとった。
◇
何度も過ごした中庭を、夜二人で歩くのは初めてだった。今年も見事に咲いたエルフラウは、夜の静寂に沈んで、灯りの灯る辺りだけが白っぽく浮かんでみえた。
「寒くない?」
「ええ」
「突然あんな風に言ってごめん、二人になりたかったから…」
「………」
やがて馴染みのあるベンチまでくると、アルバートは、レティシアを座らせてその横に腰掛けた。
「おめでとう、レティ。プレゼント開けてみて」
「ありがとう、アル」
レティシアが、手に乗せられた包みを開けてみるとバレッタだった。
灯りにかざすと、つや消しされた細い糸状の金で、レース編みのように花模様が模られていた。花模様の真ん中辺りから細いチェーンが2本伸びて、その先にエメラルドと琥珀の小さな玉がそれぞれ並んで配されている。レティシアとアルバートの瞳の色だ。バレッタを揺らすと小さな玉はゆらゆらと揺れた。
「素敵!ありがとう。大事にするわ。」
「学園でもつけられるものしたくてさ。レティ、つけてもらえないか?」
レティシアはそう言われて自分で髪に留めようとしたのだが、アルバートはそれを奪って、レティシアの髪をすくい不器用にバレッタを留めた。
レティシアはされるがままじっとしていた。
アルバートが近くなって、
アルバートの匂いがして、
アルバートがそのままレティシアを抱きしめた。
レティシアがおずおずと自分の腕をアルバートの背中にまわすと、アルバートはさらに強くレティシアを包み込んだ。
「入学してからずっと気になっていたんだ。レティ、何かあるの?」
「………」
「何かわからないけど、ときどき避けられている気がして…」
「………」
「レティ、僕のこと、信じて」
「うん…」
レティシアは夢のことが頭をかすめた。
(ああ、私は、怖かった…だから、だから、アルにこんな思いをさせた…)
今度はレティシアがアルバートを強く抱きしめた。
「アル?」
「うん?」
「ごめんなさい…」
「うん」
「アル…」
「レティ」
「「…………」」
しばらく二人はお互いのぬくもりを感じていた。
そして、きっと同じように安心したのだろう。二人は同時に笑い出した。
「ふふふっ」
「はははっ」
それで良かった、それだけで今は良かった。




