サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編] 第二話:小さな事件②&③(狂う色彩と、六人の容疑者)
新しいローマ編の始まりです。
応援よろしくお願いしますね♪
サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編]
第二話:小さな事件②&③(狂う色彩と、六人の容疑者)
サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編]
第二話:小さな事件②&③(狂う色彩と、六人の容疑者)
聖天使城へと続く「聖天使の橋」のふもとにたどり着いた時、俺たちの目の前には、白大理石の美しいはずのアーチを侵食する異様な光景が広がっていた。
本来ならば気高く白い輝きを放ち、巡礼者たちの心を洗うはずの石畳が、まるで熟しすぎた毒果実が潰れたような、不気味な黄緑色にじわりと染まっていたのだ。
俺は脳内の万能スキル【画家】を白黒のトーンに固定したまま、陰影の歪みを注意深く観察した。
色彩情報を排したモノクロームの視界であっても、その黄緑色に染まった領域だけは、光の屈折が不自然に歪み、空間そのものが波打つようにブレて見えた。
「うわああっ! な、何だこれ! 足元がぐにゃぐにゃして、まっすぐ歩けないぞ!」
トビーが最初にその黄緑色の石畳に足を踏み入れた瞬間、まるでひどく泥酔したかのように千鳥足になり、その場に激しく転倒した。
「トビー、大丈夫!? 触っちゃダメよ、何だかすごく嫌な魔力の揺らぎを感じるわ!」
リリィが慌ててトビーの襟首を掴んで引きずり戻したが、彼女自身もその領域に近づいただけで、平衡感覚を失いかけて視線を激しく彷徨わせた。
「おじさん、これって空間が歪んでいるの? 僕、見てるだけで頭がクラクラしてきたよ」
ガウルが大きな手で自分の頭を押さえながら、黄緑色の境界線を怯えたように見つめた。
これこそが、第二の小さな事件、すなわち「変色する巡礼路」だった。
大天使の剣から「緑の光の波長」が強引にねじ曲げられ、この橋に過剰に蓄積されているため、光の屈折率が狂い、視覚から入る空間認識と脳の平衡感覚に致命的なバグを引き起こしているのだ。
俺がそう説明していると、俺のコートの胸元から顔を出したウララちゃんが、サファイアブルーの瞳を細めて不快そうに鳴いた。
「ふにゃあん!」
フランチェスカの腕の中で、極上のグレーの長い毛並みを震わせたペルシャ猫のキララちゃんも、お腹の白い毛を黄緑色の光に晒さないように丸まりながら、ライバルであるウララちゃんに負けじと鋭く鳴き返した。
「みゃあ!」
「ウララもキララも、この歪んだ光の波長を敏感に嫌がっているわね。レオナルド、このままじゃ一般の巡礼者たちが橋を渡ることもできないわ。どうにか解決できないの?」
フランチェスカが見習い騎士としての正義感から、焦れったそうに足を踏みならした。
「ルカ、お前の出番だ。お前の結晶体に宿る純粋な魔力を使って、この歪んだ緑の屈折を一時的に『偏光』させて中和するんだ」
俺がルカの肩を叩くと、結晶族の少年は力強く頷いた。
「うん、やってみるよ! 僕の結晶に、歪んだ光の波長を一度吸い込ませて、別の方向へ逃がせばいいんだね!」
ルカが両手を前に突き出すと、彼の透き通るような結晶の身体が、眩いばかりの純白色の光を放ち始めた。
ルカがゆっくりと黄緑色の石畳に近づき、その光を大理石へと照射すると、不気味な黄緑色のノイズがキチキチと音を立てて弾け、一時的に元の白い輝きを取り戻していった。
「す、すごいっす! ルカ坊のおかげで、足元がちゃんとまっすぐに見えるようになったっすよ!」
コップが恐る恐る足を踏み出し、今度は転ばずに歩けることを確認して大はしゃぎした。
「これで一時しのぎにはなったな。だが、根本的な原因である『光の略奪』を止めなければ、ルカの魔力が尽きた瞬間にまた歪み始めるぞ。先へ急ぐぞ」
俺たちはルカが作った光の道を通り抜け、ついに聖天使城の巨大な白亜の門を潜り抜けて、城の内部へと立ち入った。
しかし、城内に入ってすぐに遭遇した第三の小さな事件、すなわち「狂ったステンドグラス」は、事態がさらに深刻であることを俺たちに突きつけてきた。
中央礼拝堂の入り口に差し掛かった時、そこからはすすり泣く信者たちの声と、神官の威圧的な声が響いていた。
見上げると、かつて大天使の奇跡を称えて美しく青く輝いていたはずのステンドグラスから差し込む光が、床に落ちた瞬間に、まるで這い回る不気味な「黒い影」のように色を失っていた。
その影のような黒い光が触れた礼拝堂の花瓶の白百合が、一瞬にして炭のように真っ黒に枯れ、崩れ落ちていく。
「神を畏れよ! 大天使の怒りは、この美しい青きステンドグラスさえも黒く染め上げたのだ!」
痩せこけた体躯に豪華な法衣をまとった神官ヨハンが、両手を天に掲げて、集まった信者たちを激しく脅しつけていた。
「ひ、ひえええ! 触れたら命まで吸い取られちまう! やっぱり天使様の呪いなんだ!」
巡礼者のハンスが、おばあさん召喚士のエルザの陰に隠れながらガタガタと震え上がった。
「ヨハン神官! あなた、神聖な礼拝堂で信者を不安に陥れて、一体何を売りつけているのですか!」
フランチェスカが、ヨハンが信者たちに配っている不審な青い紙片を指差して鋭く問い詰めた。
「これは大天使の怒りを鎮めるための、神聖なる『青の護符』だ。これを持たぬ者は、たちまちあの黒い影に命を奪われ、石と化すであろう。見習い騎士よ、神聖な儀式の邪魔をするな」
ヨハンは不敵な笑みを浮かべ、信者たちから不当な額の金貨を回収し続けていた。
「嘘をおっしゃい! その護符、ただの安い青色染料を塗った紙きれじゃない! おじさん、この神官、絶対に怪しいよ!」
トビーが神官ヨハンを指差して大声を上げた。
「ああ、トビーの言う通りだ。ヨハン、お前が配っているその護符の青色は、光の波長を遮断して、周囲の魔力感知を狂わせるための『偏光塗料』だな。お前は聖水が凍りついた事件や、このステンドグラスの異変をあらかじめ知っていて、この詐欺の準備をしていたな?」
俺が冷徹に指摘すると、ヨハンは一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに傲慢な態度を取り直した。
「フン、異端の絵描きが何を言うか。私は神の警告を伝えているだけだ。これ以上の不敬は、衛兵隊長に通報するぞ」
ヨハンがそう言い放った時、背後から重々しい甲冑の音が響き、衛兵隊長ヘンリックが数人の私兵を従えて現れた。
「ここで何をしている、探偵ダ・ヴィンチ。そして見習い騎士フランチェスカ。城内は現在、魔力災害による特別警戒中だ。不審な動きをする者は、誰であれ即座に地下牢へ連行する」
ヘンリックは冷酷な目で俺たちを睨みつけ、腰の長剣に手をかけた。
ヘンリックは警備シフトを急に変更し、聖剣安置室の「光の強さ」を細かく記録している不審な動きを見せていた。
「ヘンリック隊長! 礼拝堂のこの異常な光景を見て、何も思わないのですか!? それに、あなたは聖剣安置室の警備シフトを急に変更したそうですね!」
フランチェスカが食い下がった。
「シフトの変更は、防衛上の観点から私が決定した正当な軍事措置だ。見習い風情が口を挟む領域ではない。大人しく引き下がれ」
ヘンリックは冷たく言い放つが、俺の【画家】の目は、彼の懐から覗く一枚の羊皮紙に、安置室の「光の強さ(輝度パース)」を細かく記録した座標グラフが描かれているのをしっかりと捉えていた。
「おやおや、皆さん、そんなに殺気立たないでください。城主閣下がお待ちですよ」
廊下の奥から、カストラック城主の若き秘書官シモンが、優雅に歩み寄ってきた。
彼は高価な「偏光グラス」を目元に常に身につけており、そのレンズ越しに俺たちの様子を観察していた。
彼は地下の秘密のプリズム室に頻繁に出入りしているという噂のある、きわめて怪しい人物の一人だ。
「シモン秘書官! あなた、その偏光グラスは一体何のために身につけているのですか? 城内はそんなに眩しくないはずですが」
リリィがシモンの顔を覗き込んで尋ねた。
「これは最先端の流行だよ、ハーフエルフの嬢ちゃん。それに、私は光の刺激に弱くてね。城主閣下への謁見の前に、くだらない言い争いで時間を潰すのはやめていただきたい」
シモンは不敵な笑みを浮かべながら、手にした金の懐中時計を弄んでいた。
俺は彼の衣服の裾に、地下の秘密プリズム室の壁に塗られている特殊な「反射調整用石灰」の微粒子が付着しているのを見逃さなかった。
「ふん、胡散臭い奴らばかりっすね。あっしの商人としての直感が、全員が真っ黒な嘘をついていると言っているっすよ」
コップが俺の背後に隠れながら、小さな声でぼやいた。
「ああ、彼らの嘘は、それぞれ異なる『色彩の歪み』となって俺のキャンバスの上に浮かび上がっているよ」
俺はそう呟き、カストラック城主のいる謁見室へと進んだ。
謁見を終えた後、俺たちはさらに手がかりを求めて城の厨房周辺を調査することにした。
そこで遭遇したのは、厨房の巨大な食材倉庫で、何やら怪しげな樽を必死に隠そうとしていた、恰幅の良い料理長オットーだった。
「おい! そこで何をしている! 厨房は関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
オットーは太い腕の汗を拭いながら、俺たちを威圧するように怒鳴った。
彼の倉庫には、光を吸収する「漆黒の塩(魔導塩)」が大量に貯蔵されている。
「オットー料理長。お前がその樽の中に大量に貯蔵している、光を完全に吸収する『漆黒の塩(魔導塩)』は何のためだ? 料理の味付けにしては、あまりにも不気味な魔力の匂いがするが」
ガウルが樽の隙間から漏れ出る漆黒の塩を指差して言った。
「な、何のことだ! これは隣国から仕入れた、最高級のスパイスだ! 秘書官のシモン様も、この仕入れの予算を快く承認してくださったんだぞ!」
オットーは顔を真っ赤にして弁明するが、その漆黒の塩は、光の屈折率を狂わせるための精錬触媒そのものだった。
そこへ、暗闇から工具袋を抱えた魔導技師デュポンが、静かに姿を現した。
「料理長、その者たちと無駄話をするな。ダ・ヴィンチ殿、私は炉の点検で忙しい。部外者は速やかに立ち去っていただこう」
デュポンは精密な「分光レンズ」を指先で器用に弄びながら、冷ややかな視線を俺に向けてきた。
「デュポン。お前が炉の点検と称して、絶えず測定しているその光の波長……。大天使の剣から奪った光のエネルギーを、一体どこへ送るつもりだ?」
俺が鋭く問いかけると、デュポンは不敵な笑みを浮かべてレンズを工具袋に仕舞い込んだ。
「科学と魔導の融合だよ、天才ダ・ヴィンチ。お前の時代遅れの絵筆では、理解できない未来の構図さ」
デュポンはそう告げると、オットーを連れて倉庫の奥へと消えていった。
「レオナルド、これで確信が持てたわ。彼らは全員、それぞれの役割を持って、大天使の光を組織的に盗み出しているのね!」
フランチェスカが長剣を構え、怒りに満ちた声で言った。
「ああ。修復職人のバルドが夜な夜な撒いている『光を反射しない特殊な顔料』も、彼らの悪事を外部の目から隠すためのカモフラージュだったわけだ」
俺はウララちゃんをコートの中で優しく撫でながら、中庭の隅で怯えている老人バルドを見つめた。
バルドは俺たちの視線に気づくと、泣きそうな顔をして両手を振った。
「私、私は本当に、デュポン様に言われて『壁の汚れを隠す絵の具だ』と信じて撒いていただけでございます! まさか、これが大天使様の光を奪う片棒を担いでいたなんて……!」
バルドは床に膝をつき、必死に許しを請うた。
「もういい、バルド。お前が騙されていたことは、俺の【画家】の目が証明している」
俺はそう言い、城の最深部へと続く暗い階段を見つめた。
六人の容疑者たちの思惑、そして城の至る所で起きている奇妙な光の異変。
これらはすべて、異なる事件に見えて、地下に眠る巨大な「擬似太陽炉」を起動させるための一枚の巨大な設計図として繋がっていた。
「みんな、行くぞ。彼らの歪んだ傑作を、俺たちの手で完全に描き直してやるさ」
俺の言葉に、フランチェスカ、ルカ、そして少年探偵団の全員が力強く頷き、暗闇の先へと進むのだった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。
ローマ編も追加しています。17時投稿です!
よろしくお願いします。 短めです




