【ティワナク編】第一翼:楽園の不協和音 * ** #### 第一章:天上の翼、地上の牙
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新しい翼の始まりです 【ティワナク編】第一翼:楽園の不協和音 * ** #### 第一章:天上の翼、地上の牙
よろしくお願いします。私が思うより長〜い作品になりました♪文章力0の私ですが、AIさんが頑張ってくれてます。
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#### 第一章:天上の翼、地上の牙
万物の調和は、美しき数式によって支えられている。少なくとも、私がトスカーナの乾いた土を踏み、フィレンツェの工房で煙に巻かれていた頃までは、それが世界の絶対の真理であった。
私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。画家であり、科学者であり、時には人の心の闇を暴く探偵であり、夜の静寂の中でまだ見ぬ世界を紙の上に紡ぐ小説家でもあった。30歳という、肉体と知性が最も美しく噛み合うその盛りに、私は世界の理から弾き出され、大気の密度すら異なる異界の空へと墜落した。いや、それは墜落ではなく、新たな創世の夜明けへの、あまりにも劇的な「転生」であった。
バサリ、と重々しい羽音が鼓膜を震わせる。
私の背に生えているのは、フィレンツェの画布に描き殴ったどの天使のそれよりも、強靭で、密度が高く、金属的な光沢を放つ純白の翼だった。私が30年の記憶を保持したまま、この50万年前の超古代――後に「ティワナク」と呼ばれることになる並行世界の地に目覚めた時、私はこの世界を統べる神聖なる「鳥人族」の第一王子、レオナルドとしての肉体を得ていたのだ。
標高三千八百メートル。アンデス山脈の広大な高地盆地に築かれた天上の要塞都市ティワナク。
ここはかつて、宇宙の彼方から墜落したという鳥人族の始祖たちが、その圧倒的な魔導科学と、この星に満ちる生命エネルギー『マナ』を用いて築き上げた、幾何学的な巨石文明の極みであった。
地上を見下ろせば、本来の地球人類はまだ言葉も持たぬ原始的な猿人に等しい状態であり、粗末な集落を作って怯えながら暮らしている。しかし、このティワナクの城壁の内側だけは別世界だった。鳥人族が高度な遺伝子操作によって知性を与え、急速に進化させた「獣人族」と、より精緻な肉体を与えられた「人族」が、巨石の家々を秩序正しく行き交っている。
鳥人族は絶対的な神として君臨し、彼らを導くために「10の戒律」を与えていた。神の血を穢さず、マナを私的に用いず、許可なく他族の領分を侵さぬ完璧な秩序。それが、このティワナクが何万年もの間、絶対的な平穏を維持してきた数式であった。
だが、変化のない完璧な数式ほど、一度狂いが生じた時の歪みは大きい。
私がこの地で「前世の記憶」と「万能の知覚」を完全に覚醒させたのは、奇しくも、この完璧な楽園が崩壊へと向かう「大犯罪」のちょうど1年前のことであった。
「……また、そのような危険な崖の縁で、大気の流れをスケッチしておられるのですか」
背後から掛けられた声には、硬質な警戒心と、それ以上の深い冷徹な響きが混ざり合っていた。振り返るまでもない。私の網膜に映る影の輪郭、あるいは空気の微細な振動だけで、それが誰であるかを私の知性は瞬時に理解する。
そこに立っていたのは、漆黒の毛並みを持つ豹の獣人であった。
しなやかな四肢は、どんな名匠が鍛え上げた鉄よりも強靭な筋肉で覆われ、腰には『マナ』の刻印が刻まれた双振りの湾刀を帯びている。彼の名はシザル。
獣人族の中でも暗殺と斥候、隠密性に特化した「黒豹族」の若き戦士であり、本来なら鳥人族の王子である私の前に姿を現すことすら許されない下層の亜人であった。
しかし、私とシザルとの出会いは、王宮の退屈な儀式の場ではなく、ティワナクの城壁の外、魔物が徘徊する「不毛の荒野」における最悪の摩擦のなかであった。
半年前、私は自らが設計した「滑空理論」を検証するため、王宮の防人たちの目を盗んで単身、城壁の外の未開の渓谷へと飛び出した。
前世のフィレンツェで夢想した鳥の飛翔を自らの純白の翼で実践する快感に浸っていた私は、科学者としての没頭のあまり、その渓谷が地底から這い出してきた魔物「岩鬣蜥」の巣窟であることに気づくのが遅れた。
体長五メートルを超える巨躯、巨石を一撃で噛み砕く顎を持つ魔物の群れに囲まれ、いくら強力なマナを秘めているとはいえ、実戦経験のない私の白い翼は、大気の乱れに囚われて自由を奪われかけた。
その時、崖の影から音もなく躍り出たのが、一本の黒い稲妻――シザルだった。
「鳥人族の王子が、このような肥溜めで死なれては、下層の俺たちの連帯責任にされる。大人しく私の背中の影に隠れていなさい」
シザルはそう言い放つと、双振りの湾刀を抜く暇もなく、野生の五感を極限まで研ぎ澄ませて魔物の群れのなかに飛び込んだ。彼の動きには一切の無駄がなかった。
重力の影響をまったく受けないかのように壁を走り、岩鬣蜥の強固な皮膚の隙間、もっとも脆弱な関節の結合部へと、鋭い爪を正確に突き立てていった。
しかし、魔物の数はあまりにも多すぎた。一匹の巨大な個体が、シザルの死角からその凄まじい尾を振り下ろそうとしたその瞬間、私の頭脳のなかで、前世の「解剖学」と「力学」の数式が爆発的に噛み合った。
「シザル、3歩下がって頭を下げろ! 力の作用点が君の首筋に向かっている!」
私は叫ぶと同時に、右手を掲げて周囲のマナの密度を急激に上昇させた。
「――大気の層よ、我が指先を支点として、黄金比の螺旋を構成せよ」
私の純白の翼から放たれたマナが、突進する魔物の進路の空気を急激に圧縮し、目に見えない巨大な「空気の壁(傾斜面)」を作り出した
。物理学における傾斜の原理だ。突進していた岩鬣蜥の巨体は、その空気の斜面に乗り上げる形で強制的に軌道を上方に逸らされ、自らの質量と速度を制御できずに、そのまま崖の向こうの深淵へと滑り落ちていった。
「な……魔法陣も詠唱もなしに、大気の密度を書き換えたというのか……!?」
静まり返った渓谷の中で、シザルは初めてその琥珀色の瞳を驚愕に見開いた。彼は鳥人族を「空の上から見下ろすだけの高慢な鳥ども」と蔑んでいたが、目の前にいる王子が、自らの知るいかなる魔導とも異なる『理(科学)』を操る異端の天才であることを、その瞬間に理解したのだ。
「私は現象を数式で表しているだけさ、黒豹の戦士。君のその無駄のない筋肉の動き、そして影に溶け込む隠密の歩法……それもまた、きわめて美しい物理の調和だ。どうだい、私の『探偵』としての助手に、そして小説の主人公になってみないかい?」
私は崖の縁で純白の翼を優しく羽ばたかせ、彼に向かって手を差し伸べた。
シザルはしばらく私の手を見つめていたが、やがて不敵な笑みを浮かべ、その黒い手を重ねた。
「……面白い。魔法を理屈で語る奇妙な王子殿。あなたのその退屈しのぎの悪巧みに、私の牙を貸して差し上げましょう」
それ以来、シザルは私の私的な「影」となり、王宮の目を盗んであらゆる調査を共にする唯一無二の相棒となった。
「ははは、手厳しいな、シザル」
現在の時間へと意識を戻した私は、王宮のテラスの縁から振り返り、黒豹の相棒に向かって苦笑いを浮かべた。
「だがね、科学者としての私の目が、このティワナクの美しさの裏にある『歪み』を捉えて離さないのだよ。完璧な規則であればあるほど、それが破られようとする時のエネルギーは爆発的になる」
私は懐から、独自の合金技術で鍛え直した真鍮製の万年筆を取り出し、自作の手記に鏡文字で気流のデータを書き加えた。
「最近、下層街のあちこちで、これまでは決して交わることのなかった他族の若者たちが、深夜に秘密の集会を開いているという報告がある。猛虎族の力自慢、山猫族の斥候、そして人族の技術者……彼らを結びつけている不穏な糸の正体を、私は探偵として突き止めねばならない」
「すでに私の部下たちが、下層街の動向を探っています」シザルは影のなかで腕を組み、琥珀色の瞳を細めた。「ですが、彼らを動かしているのは、単なる王宮への不満だけではないようです。もっと泥深く、呪術的な『何か』が、下層の血を沸き立たせている」
「呪術的、か。それは私のもっとも嫌う、非科学的な言葉だね」
私は純白の翼を力強く一閃し、テラスから夜の天空へと飛び上がった。
「行くよ、シザル。私たちのタイムリミットは、あとちょうど1年だ。それまでに、この美しい楽園の裏に隠された不協和音の正体をすべて解き明かし、私の小説のプロットを完璧なハッピーエンドへと導いてみせる。まずは、下層街の最も深い混沌のなかへ、潜入を開始しようじゃないか!」
「御意、我が気まぐれな主。お供しましょう、世界の果てまで」
黒豹の影が、私の白い翼が描く月の影に溶けるようにして、静まり返ったティワナクの夜の街へと躍り出ていった。神話の時代が終わり、人間の科学の時代が始まるための、激動の1年の幕が、いま静かに上がろうとしていた。
ティワナクの夜空を滑空する感覚は、前世のフィレンツェで何度もノートに描き殴った鳥の飛翔理論を、自らの肉体で直接証明していく極上の実験のようであった。
大気は標高三千八百メートルという高地ゆえに希薄だが、マナの密度がそれを補うようにして翼の裏側を押し上げている。
私は翼の角度をコンマ数度単位で微調整し、空気抵抗を極限まで減らしながら、上層の整然とした巨石建築群から、混沌のるつぼである下層街へと静かに下降していった。
「レオナルド様、これより先は『第4居住区』――猛虎族や巨熊族といった、血気の盛んな武闘派の獣人たちがひしめく領域です。王宮の光魔法の光が届かない、影の街です」
並走するように巨石の壁の隙間を音もなく跳ねていくシザルが、風に声を乗せて伝えてきた。彼の黒い毛並みは、夜の闇と同化し、肉眼でその輪郭を捉えることは探偵の私をしても容易ではない。
黒豹族の隠密歩法は、大気の摩擦音すら発生させない、力学的に完璧な消音システムだった。
「わかっているよ、シザル。完璧すぎる楽園よりも、そういう混沌のなかにこそ、真実という名の美しい絵画のピースが転がっているものさ。……おや、あそこの大通りの角、空気の対流が妙に不自然だね」
私は空中で大きく翼を広げてブレーキをかけ、一本の細い路地裏の屋根の上へと着地した。
そこからは、下層街の全景が見渡せた。
荒削りの岩と、巨大な地底魔物の骨を梁として組まれた粗末な家々。そこからは、青白いマナの排熱が陽炎となって不規則に立ち上り、下層の不揃いな石畳を怪しく揺らしている。
市場の広場では、昼間の活気は消え失せていたが、代わりに妙な緊張感が街の血管を流れる血液のように、ドロドロと路地裏を這い回っていた。
「……見てごらん、シザル。あの広場の隅に集まっている人影を。あれは王宮の近衛兵ではないね」
私が指し示した先には、普段は決して群れることのない異なる種族の亜人たちが、数人、身を寄せ合っていた。
一人は、灰色の剛毛と丸い耳を持つ、巨熊族の老職人。彼の無骨な手には、巨大な鉄槌が握られている。
そしてその隣には、眼鏡をかけた人族の若い技術者が、何やら幾何学的な紋様が描かれた真鍮の円筒を抱え、不安そうに周囲を警戒していた。
「あれは……下層街でも有名な職人たちです」
シザルが屋根の縁から身を乗り出し、鋭い五感で彼らの会話を盗み聞きし始めた。
「老熊はバルトロ。下層で最高と謳われる金属加工の鍛冶屋です。そして人族の小僧はマルコ。王宮の魔導回路の末端を調整するための、優れた指先を持つ技術者。なぜ、あの二人がこのような夜更けに……」
「科学者としての私の目が、彼らの持っている『真鍮の円筒』に釘付けだよ、シザル。あれは単なる魔導具ではない。音の振動を、マナの波形へと変換するための『共鳴管』の構造をしている。彼らは、王宮の鳥人族に頼ることなく、独自の『技術』を開発しようとしているんだ」
私は思わず、手記とペンを取り出し、彼らの配置と真鍮の機械の形状を素早くスケッチした。
前世のフィレンツェの工房でも、新しい歯車やレバーの仕組みを思いついた職人たちが、夜な夜なこのように集まっては、興奮気味に議論を交わしていたものだ。
種族が違えど、未知の知性を形にしようとする生命の躍動は、これほどまでに美しい。
「しかし、レオナルド様」シザルが低く唸った。「彼らの行為は、10の戒律の第四『他族の領分を侵すべからず』、および第二『マナの私的利用』に抵触する恐れがあります。もし神殿の神官たちに見つかれば、あの真鍮の機械ごと、一瞬で灰にされるでしょう」
「だからこそ、私たちが彼らよりも先に、この街の『不協和音』の正体を突き止めねばならないのさ」
私は手記を閉じ、純白の翼を硬く背中に折りたたんだ。
「シザル、彼らの会話のなかに、最近下層街で流行している『新しい噂』についての単語は出てこなかったかい?」
「……ええ。バルトロが怯えた声で言っていました。『大触の夜が近づくにつれ、地下の底から神の泉が湧き出る。それを飲んだ者は、鳥人族を超える力を得る』と。そして、すでに猛虎族の若者たちの数人が、その『泉の水』を手に入れて、肉体を異常に変異させている、と」
「神の泉の水、か」
私は立ち上がり、外套のフードを深く被り直した。
「小説のプロットとしては、きわめて不気味で、しかし最高に魅力的な伏線だね。その泉の水の正体が、単なる呪いなのか、あるいは未知の魔導科学の副産物なのか……探偵ダ・ヴィンチの頭脳が、それを解き明かしたくてウズウズしているよ」
私は路地の暗がりに向かって、静かに足を進めた。
「行こう、シザル。その『泉の水』を配っているという、下層街の最も深い混沌――バルカという猛将が根城にしている、噂の酒場『大牙の休息』へ。世界の均衡が崩壊を始める前に、すべての方程式の解を導き出すんだ」
黒豹の相棒は、私の背後で深く頷き、その漆黒の肉体を夜の影へと完全に同化させた。
私とシザル、種族を超えた二人の探偵の本当の潜入捜査は、この不気味な噂の糸を引くようにして、下層街の暗闇の奥深くへと、いよいよ本格的な一歩を踏み出したのだった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。
ローマ編も追加しています。17時投稿です!
よろしくお願いします。




