ローマ編## 第四話:『氷結の魔獣と、市場に消えた肉体密室』前編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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では、参ります!!
## 第四話:『氷結の魔獣と、市場に消えた肉体密室』
### 前編:市場の胃袋、冷え切った依頼人と消えた肉塊
夏の朝特有の、湿気を含んだ重苦しい空気がダ・ヴィンチ探偵事務所の窓から忍び込んでいた。室内の空気は油絵の具の匂いと、長年放置された古い羊皮紙の埃で濁っている。
俺はいつも通りのヨレヨレの白いシャツの袖をまくり上げ、机の上に散らばった錆びた時計の歯車や、中身の干からびたインク瓶を、ただの錆びた虫眼鏡で覗き込んでは溜息をついていた。
「ダヴィンチさん、またそんなガラクタを弄って。一階のマルコ店長が、今月の家賃の支払期限は今日までだって、さっきから下ですごい顔をして怒っていますよ!」
事務所の扉を開けて入ってきたのは、我が事務所の記念すべき最初の助手であり、白銀の美しい髪と猫耳を持つ見習い騎士の少女、フランチェスカちゃんだ。彼女の頭頂部にある銀色の耳は、事務所の財政危機を反映してか、心なしか元気がなくペタンと横を向いている。彼女の背負った革製の旅鞄からは、下町の香辛料の匂いと、長旅で付着した街道の乾いた砂の匂いが微かに漂っていた。
「おお、お嬢さん。そう怒りなさんな。おじさんの固有スキル【画家】が、数日間のスランプの空白を経て、今朝ようやく脳細胞の奥底で解禁されたんだよ。ほら、見てごらん。お前さんのその白銀の髪の周りに、朝の光が反射して、美しい『純白の光のデッサン』がネオンのように輝いて見えるだろう?」
俺は自分の両目を大きく見開いた。おじさんの視界が、一瞬にして現実のモノクロームを脱ぎ捨て、極彩色の魔力のレイアウトへと変貌する。
しかし、その瞬間に激しい偏頭痛が俺の脳を襲った。
「う、うぐぐ……頭が、おじさんの貧弱な脳細胞が、この過剰な情報量に耐えかねてズキズキと割れそうだぜぇ!」
俺は油絵の具のシミだらけのシャツの上から額を押さえてその場にしゃがみ込んだ。解禁されたスキル【画家】は強力だが、決して万能の神の力ではない。視界に飛び込んでくる世界の線の乱れや魔力の波長が、ろくに鍛えていないおじさんの生身の脳へ一界に流れ込んでくるため、制御を誤れば一瞬で脳の回路が焼き切れてしまう不完全な異能だった。
「ダヴィンチさん!? 大丈夫ですか!? やっぱり、急に強力なスキルを使いこなすなんて、あなたのようなうだつの上がらないおじさんの肉体には負担が大きすぎたんです! 無理をしないで、私の手を掴んでください!」
フランチェスカちゃんが慌てて俺のヨレヨレのシャツの袖を引っ張り、その華奢な肩で俺の体を支えようとした。しかし、見習い騎士である彼女自身も、まだ経験が浅く、おじさんの急な体調不良に慌ててその綺麗な足元を机の脚にぶつけ、あいたたた、と涙目になっている。完璧な英雄には程遠い、未完成の少女の姿がそこにあった。
「ははは、不甲斐ないおじさんで悪かったねぇ、お嬢さん。だがね、事件の絵の具ってのは、こっちから探しに行かなくても、向こうから勝手におじさんのパレットに飛び込んでくるものさね」
俺が言葉を終えるのと同時に、探偵事務所の木扉が、内側の真鍮製ラッチをガタガタと激しく軋ませながら乱暴に押し開けられた。
「おい、ダヴィンチ! 頼む、お前のそのヨレヨレの頭脳で、うちの一族の危機を救ってくれ!」
息を弾ませて突入してきたのは、一階の酒場『跳ね馬亭』の店長マルコの従兄弟であり、下町の大市場の最奥にある『第一食肉解体庫』の管理責任者を務めている頑丈な男、ジローだった。彼の顔は、夏の暑さにもかかわらず、恐怖と寒さで完全に青ざめており、手にした大きなハンカチで額の脂汗を何度も拭いながら、文字通りガタガタと椅子を震わせて座った。彼の周囲には、極度の恐怖によって生じた酸っぱい体臭と、なぜか衣服の繊維の隙間から、吐く息が白く凍り付くほどの異様な冷気が立ち込めている。
「まあまあ、ジローの旦那。落ち着いて、まずはその事件の構図を一枚の静物画のように、順序立てておじさんに説明しておくれよ。お前さんほどの頑丈な男が、まるで冬の幽霊でも見たような顔をしてるじゃないかい」
俺が円卓の向かい側に腰を下ろすと、フランチェスカちゃんがジローの傍らにそっと寄り添い、騎士としての礼儀正しい仕草で温かい麦茶を差し出した。ジローはその温かいカップを両手で包み込むようにして、震える声で事件の異常なディテールを語り始めた。
「事件が起きたのは、昨夜の真夜中、ちょうど午前2時の鐘が鳴った頃だ……。我が市場が誇る最高の仕込み肉、合計五百キログラムが、文字通り『煙のように消え失せて』しまったんだ! その解体庫は、壁の厚さが1メートルもある強固な石造りの建物で、扉の鍵は内側から完全に閉まっていた。窓の鉄格子も一本も曲がっていない、完全なる『肉体の密室』だ! 人間が運び出すなんて絶対に不可能なんだよ! しかも、今朝になって扉の外から中を覗こうとしたら、中から地獄の底から響くような、おぞましい獣の『鼻息』と、バリバリと肉を噛み砕く音が聞こえてくるんだ……!」
「内側から閉まった密室、そして中から聞こえる獣の気配、か」
俺はジローの衣服の裾に視線を向けた。
固有スキル【画家】の視界の中で、彼の衣服の繊維には、通常の人間には絶対に見えない、空気中の水分を急激に凍らせる高位の冷気魔法が遺した『魔力の残香』が、鮮やかな【蛍光の青色】をした太い筆跡としてべっとりと付着していた。
「――っ! 見える、見えるぞぉぉぉ! 旦那の体から、鮮やかな青の顔料がドロドロと立ち上っていやがる! お嬢さん、剣を構えなさい。今回の事件は、泥棒なんて可愛い色彩の存在じゃない。血と氷の匂いを撒き散らす、本物の【魔物】が、市場のカンヴァスを自分の巣に塗り替えてやがるぜ」
「ええっ!? 本物の魔物ですか!?」
フランチェスカちゃんは腰の白銀の剣を引き抜いたが、その刃は寒さと恐怖によって、カチカチと微かな金属音を立てて震えていた。彼女は優秀な見習い騎士だが、本物の野生の魔物と対峙した経験はまだ数えるほどしかない。
「ジローの旦那、その依頼、このダ・ヴィンチが1000%の確率で引き受けた! お嬢さん、さっそく大市場の『消えた空白(現場)』を、おじさんの生身の五感と解禁されたスキルでデッサンしに行くとするぜぇぇぇッ!!」
俺たちはジローを先頭に、不気味な冷気が路地裏に渦巻く下町の大市場へと急行した。
## 第二章:大市場の冷気、隔離された石造りのカンヴァス
大市場メルカートの最奥に位置する第一食肉解体庫の前には、すでに数人の市場関係者が集まり、遠巻きに建物を眺めながらお互いに顔を見合わせて囁き合っていた。夏の始まりであるにもかかわらず、その建物の周囲だけは、吐く息が白く凍り付くほどの異様な冷気がねっとりと渦巻いており、近づく者の肌を刺すような緊張感が漂っている。
「ダヴィンチさん、足元を見てください! 石畳の表面が、まるで冬の池のように薄く凍り付いています!」
前方を歩くフランチェスカちゃんが、白銀の猫耳を周囲の不気味な地鳴りのような音に向けて過敏にピクピクと動かしていた。彼女の胸元では、愛猫キララちゃんが寒さに耐えかねて、小さな毛玉のようになってお嬢さんの服の内側に潜り込んでいる。さらに、おじさんのヨレヨレのシャツの懐に潜り込んだウララまでもが、ゴロゴロと不機嫌な音を立てていた。
「ふむ、結界や魔術の気配じゃない。これは野生の魔物が放つ、純粋な生物としての冷気魔法の残香だねぇ」
俺はマントの隙間から、自分の両目を大きく見開いてスキル【画家】の出力を調整しようとした。
市場の地面、古いオーク材の台座、そして食肉解体庫へと続く石畳の上には、先ほどジローの衣服に付着していたものと同じ【蛍光の青色】をした太い筆跡が、のたうつ大蛇のように真っ直ぐに解体庫の扉へと伸びている。
「うぐっ、やはりこのスキルは色の情報量が多すぎる。お嬢さん、ちょっとそのランタンをこっちに近づけて、光の角度を床に対して斜め15度に変えておくれ。光と影のコントラスト(明暗法)を強調して、情報のノイズを削ぎ落とすのさ」
「はい! これくらいですか? 腕がプルプルしますけど、頑張ります!」
お嬢さんが真剣な面持ちでランタンを掲げ、白銀の猫耳を集中させる。彼女の必死なサポートのおかげで、俺の脳細胞にかかる負担が僅かに和らぎ、視界のパースペクティブ(遠近法)が正常に定着し始めた。
俺は鉄扉の表面にスキル【画家】の視線を向けた。厚さ三十センチを超える頑丈な鉄の扉の表面には、内側から激しく叩きつけられたような、巨大な【赤紫色の打撃痕】の魔力光が、まるで飛び散ったインクのように不気味に浮かび上がっていた。
「なるほどねぇ……。ジローの旦那、この解体庫の扉の鍵は、内側から閉まっていたと言ったが、本当に外からの侵入の形跡は一切ないんだね?」
「ああ、間違いない! この扉は内側の頑丈な閂を落とさない限り、外から鍵をかけただけでは完全に固定されない特殊な構造なんだ。今朝、俺たちが外から鍵を開けようとしたが、内側の閂が引っかかっていて、びくともしなかった。人間が中に入って鍵を閉め、そのまま外へ消えるなんて絶対に不可能なんだよ!」
「物理的な密室のレイアウト、か。だが、構図が完璧であればあるほど、犯人が残した『最初の一本の線』が目立つものさね」
俺は鉄扉の前で這いつくばり、地道に、泥臭く、この錆びた虫眼鏡と指先の感覚だけで犯人の筆跡を追いかけ始めた。スキル【画家】は魔力の流れを見せるが、物理的な構造の盲点までは教えてくれない。頼れるのは、長年の画家の経験で培った観察眼だけだ。
「フランチェスカちゃん、剣の柄をしっかり握っておきなさい。おじさんがこれからこの扉の外側の補助鍵を回す。内側の閂がどうなっているか、この生身の五感で直接確かめてやろうじゃないかい」
「は、はい……! いつでもいけます、ダヴィンチさん!」
お嬢さんは白銀の剣を両手で構えたが、その膝が微かに笑っているのを、おじさんの目は見逃さなかった。俺は管理人の男から合鍵を受け取り、幾重にも噛み合った金属のラッチをギチギチと回して、重い鉄扉を外側へと力任せに引っ張った。
## 第三章:肉体密室の崩壊、襲い来る氷結の巨獣
俺が鉄扉を引いた瞬間、解体庫の内部から、地上のあらゆる寒波を凝縮したかのような、凄まじい【氷結の暴風】が、俺たちの顔面に向けて一直線に吹き抜けた!
「――ぶひゃあああああッ!!!」
凍てつく白煙の向こうから響き渡ったのは、鼓膜を激しく震わせる、狂暴極まりない巨獣の咆哮だった。
市場の解体庫の広い室内の天井には、無数の鋭い氷の鍾乳石がびっしりと狂い咲き、吊るされていたはずの牛の半身肉はすべて、何者かによって無残に噛み砕かれ、床には赤黒い血と氷の結晶が混ざり合った地獄絵図が広がっていた。そしてその部屋の中央に君臨していたのは、体長3メートルを超える、全身が硬質な青い氷の鎧で覆われた巨大な猪の怪獣――【氷結の魔獣グラキエス・ボア】だった!
魔獣の2本の巨大な牙は、解体庫の鉄のフックを容易に噛みちぎるほどに鋭く、その真っ赤な眼球は、侵入者である俺たちを完璧な獲物として捉え、ドロドロとした飢餓の粘液を床に滴り落としていた。
「ひ、ひえええっ!? 大きすぎます! こんな魔物、下町の市場の真ん中に出現するなんて、どんなレイアウトの狂いですか!?」
フランチェスカちゃんはその圧倒的な質量の前に、一歩も前に進めず、剣を構えたままその場に足がすくんでしまっていた。
「落ち着け、お嬢さん! 魔物の突進が来るぞ! 右の台座の影へ飛び込みなさい!」
俺が叫ぶのと同時に、氷結の魔獣がその巨大な蹄で大理石の床をバリバリと砕きながら、凄まじい速度で突進を開始した。
「キャッ!?」
お嬢さんは必死に右側へと身を躱したが、魔獣の突進が巻き起こした冷気の衝撃波に吹き飛ばされ、床の氷屑のなかに無残に転がり、その美しい白銀の鎧を泥と生血で真っ黒に汚してしまった。手から離れた剣が、カランカランと遠くの壁際へと虚しく転がっていく。
「ぐぬぬ、お嬢さん! 今すぐおじさんがスキルの色を塗り替えてやる! 待ってろよ!」
俺は脳細胞を襲う偏頭痛を無視し、スキル【画家】の出力を最大まで解放した。
「【パレット・シフト・赤の熱素】!!」
俺は自分のヨレヨレのシャツの袖に染み付いた、かつて絵の具の調合に使った可燃性の鉱物成分に魔力を通し、お嬢さんの転がった剣の刃に向けて、空中から『燃え盛る赤の魔力線』を一本の筆跡として力任せに走らせた。
本来なら、これで剣の表面に爆発的な熱のエンチャント(属性付与)が施されるはずだった。しかし、解禁されたばかりの俺のスキルは、あまりの寒さと偏頭痛のせいで、致命的な【色彩の混同】を起こしてしまったのだ!
「――あ、あれ!? おかしいねぇッ!! 赤の熱素を塗ったつもりが、魔物の冷気とパレットのインクが混ざり合って、ただの【粘り気のある黄色の油膜】になっちまったぜぇぇぇッ!!」
俺が放った魔力の光は、剣を熱するどころか、床一面に滑りやすい黄色の油の層を広げるだけの結果に終わった。
「ダ、ダヴィンチさんの大バカ者ーーーッ!! 何を遊んでるんですか、これじゃあ床がツルツルで立ち上がれません!」
泥まみれのフランチェスカちゃんが、床の油に足を取られて何度もズッコケながら、涙目で俺に向かって絶叫した。魔獣グラキエス・ボアは、そんなお嬢さんの隙を見逃さず、その巨大な牙を武器のように突き出し、彼女の華奢な肉体を粉砕せんと、二度目の突進の軸を合わせた。
「――ぶひょおおおおッ!!」
咆哮と共に迫り来る氷の死神。しかしその瞬間、魔獣の巨大な蹄が、俺がスキルミスで床に広げてしまった【黄色の油膜】の上に、完全に乗り上げた。
「――ぶ、ぶひゃっ!?」
どんなに強固な氷の鎧を纏っていても、摩擦係数をゼロにされた油の滑り気には逆らえない。魔獣の4本の足は、構図を完全に失ったデッサンのように前後左右へと派手に広がり、グラキエス・ボアはその巨体を激しく回転させながら、俺たちが突入してきた正面の『厚さ三十センチの鉄扉』に向けて、自らの質量と加速のすべてを乗せて大激突したのだ!
「――ズガァァァァァンッ!!!!」
解体庫全体が地震のように激しく揺れ、凄まじい破壊音と共に、内側から鉄扉の閂が完全にへし折れ、扉が外側の市場の通路へと吹き飛んだ。魔獣はその衝撃で自らの頭部を鉄扉に強打し、目を回して床にドサリと横倒しになり、激しい鼻息を吐きながら一時的に気絶してしまった。
「は、ははは……助かった、んですか……?」
油と泥にまみれたフランチェスカちゃんが、壁際の剣を必死に拾い上げながら、腰を抜かした状態でポカンと魔獣を見つめていた。彼女の白銀の猫耳は、あまりの衝撃にヘナヘナと力なく垂れ下がっている。
「ひゃははは! 怪我の功名、これぞおじさんの『計算通りのミス(塗り残しの美学)』ってやつさね!」俺は頭を押さえ、偏頭痛の冷や汗を拭いながら立ち上がった。「だけどお嬢さん、おじさんの【画家】の目が、この魔物の肉体のレイアウトから、とんでもない『真実の輪郭』を捉えたぜ。……この魔物、どうしてこんな密室の解体庫の中に、昨日から【閉じ込められていた】と思うんだい?」
「え……? 閉じ込められていた、ですか? 自分で肉を食べるために侵入したんじゃないんですか?」お嬢さんが泥を拭いながら首を傾げる。
「いいや、よく見なさい。この解体庫には、外からの侵入経路(窓や隠し通路)は一切ない。だけど、床の隅にある【幅わずか五十センチの、下水へと続く排水溝の鉄格子】……あそこだけが、魔物の冷気でガチガチに凍り付いて割れている。……犯人はね、この巨大な魔獣をそのまま中に連れてきたんじゃない。昨日、まだ【手のひらサイズの小さな子供の魔獣(ボアの幼体)】の段階で、排水溝の隙間からこの部屋の中へと、肉の匂いを使って誘い込んだのさね!」
「あッ! 子供の魔物なら、あの狭い排水溝からでも入れる!」フランチェスカちゃんがハッと目を見開いた。
「そうさ。そして、この部屋には、豪商たちが仕入れた【五百キロの最高級の生肉】が、無防備に吊るされていた。……子供の魔獣は、その肉を文字通り一晩で『すべて貪り食った』んだよ。高位の魔物はね、大量の魔力と肉を摂取することで、わずか数時間の間に、一気に【大人の巨獣へと急速成長】する生態を持っているのさ! つまり、肉が煙のように消えたんじゃない、肉はすべて、この魔獣の『胃袋の中(肉体密室)』へと収まり、その結果、体が大きくなりすぎて排水溝から出られなくなり、この部屋の中に完全なる【肉体の密室】として閉じ込められていたのが、この事件の本当のデッサンさね! 犯人は、市場の利権を大暴落させるために、この成長の罠を仕掛けたのさ!」
「ぶ、ぶひょおおおおおッ!!!」
俺の推理が終わるのと同時に、気絶していた氷結の魔獣グラキエス・ボアが、その真っ赤な目を再び見開き、怒り狂って立ち上がった。部屋全体の冷気が一気に反転し、天井の氷の鍾乳石が、俺たちの頭上に向けて一斉に弾丸のように降り注ごうとする!
「お嬢さん、今度こそパレットの色を合わせるぜ! お前さんのその白銀の剣を、おじさんの本当のインクで真っ赤に染め上げなさい!」
俺は偏頭痛を気合でねじ伏せ、右手の指先を突き出した。
「【パレット・マスター・正真証明の赤の熱素】!!」
今度は完璧だった。俺の指先から放たれた純烈な赤の魔力光が、フランチェスカちゃんの剣の刃へと一瞬で吸い込まれ、白銀の刃が、周囲の氷をまたたく間に蒸発させるほどの【超高温の紅蓮の炎】を纏って激しく爆発した。
「――これなら、いけます! 下町の平和は、私が守りますッ!!」
泥まみれの見習い騎士の少女は、今度は一歩も引かなかった。彼女は紅蓮の炎の剣を両手できつく握り締め、突進してくる巨大な魔獣の牙に向けて、その身体をバネのようにしならせて正面から地を蹴った。
切り裂く紅蓮の軌跡と、砕け散る青い氷の鎧。
完璧すぎない一人の少女と、ヨレヨレのうだつの上がらないおじさんの知恵が、大市場の暗闇の中で、消えた肉体の密室の謎を完全に灰へと帰したのだった。
(第四話・前編 了)
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。




