天空都市のコーデックス:5章マチュピチュ編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作です。探偵物です。よろしくお願いします。
では、参ります!!
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新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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### 第5章:血塗られた祭壇
#### 1. 絶頂のデッドエンド、あるいは血の幾何学
崩れ落ちた緑色花崗岩の門扉から立ち込める白い石粉を払いながら、私が一歩その「聖なる密室」に足を踏み入れた瞬間、網膜に飛び込んできたのは、私の知るいかなるフィレンツェの解剖室よりも凄惨で、同時に奇妙なほど整然とした「死の幾何学」だった。
部屋は、一辺が約六メートルの正確な正方形をなしていた。壁面を構成する白い花崗岩の巨石は、外側の壁よりもさらに執拗に磨き上げられ、血紅色の太陽光を台形の窓から浴びて、鈍い反射を部屋全体に投げかけている。
その部屋の中央に置かれた、天然の巨石から直接削り出された「四角い祭壇」――その上に、最高神官トゥパックはいた。
「……フム。これは、解剖学的な『限界値』を超えているな」
私は眼鏡のブリッジを押し下げ、祭壇へとにじり寄った。私の天才的な観察眼は、死体のディテールを一瞬で数値化し、脳内のキャンバスに素描していく。
トゥパックは、純白のヴィクーニャのチュニックをまとい、祭壇の上に仰向けに横たわっていた。しかし、その白い布地は、彼の胸元から溢れ出た大量の「青黒い血液」によって、見るも無残に染め上げられていた。彼の長く垂れ下がった耳たぶの、あの純金製の巨大な円盤飾りは、石の床に「ジャラリ」と冷たい音を立てて転がっている。
何より異様なのは、彼の胸部を垂直に貫いていた「凶器」だった。
それは、長さ約三十センチメートル、鈍い光沢を放つ純銀製の「儀式用ピン(トゥプ)」だった。そのピンは、人間の胸骨という極めて強固な骨格構造を完璧に貫通し、心臓の左心室を正確に一撃で破壊していた。驚くべきことに、そのピンの頭部には、この天空都市マチュピチュの象徴である「コンドル」の翼が精巧に彫刻されており、まるでその巨鳥が神官の命を吸い尽くして羽ばたこうとしているかのように見えた。
「心臓貫通による、ほぼ即死。死亡推定時刻は……」私は死体の硬直度、および溢れ出た血液の粘度勾配を指先で測定した。「昨夜の午前三時から四時の間。まさに、外で地鳴りが最も激しく響き、液状化の第一波が棚田を襲った時間帯だ」
「そして、この部屋のどこを見渡しても、そのピンを突き刺した『犯人の手』が存在した痕跡がない」
ホームズが私の横に並び、床に膝を突いて、虫眼鏡を石の継ぎ目に押し当てた。彼の鷹のような目が、部屋の隅々まで走る。
「ダ・ヴィンチ、改めて確認するが、この部屋の唯一の出入り口は、僕たちがウルコ親方のハンマーで叩き壊した、あの内側からかんぬきが掛けられた門だけだ。床の石、壁の石に、新しく動かされた形跡はないかい?」
「ないね」私は壁の巨石の噛み合わせを指先でなぞった。「すべての石は、髪の毛一本すら通さぬ狂気的な精度で密着している。もし石を動かして侵入したなら、表面の微細な苔や、花崗岩の結晶が剥離しているはずだが、それがない。窓の幅は二十センチメートル。犯人が霧のように薄くならない限り、この部屋への出入りは不可能だ」
#### 2. 遺された黒い手稿、失われた未来の結縄
「おい! これは一体どういうことだ! トゥパック様が死んでいるだと!?」
背後から、防衛官カパックの地を這うような咆哮が響いた。彼の灰色の鱗が、恐怖と興奮で「逆立つ」ように細かく震えている。彼の部下である狼の亜人兵士たちも、神官の死体の放つ生臭い血の臭いに刺激され、顎からヨダレを流しながら「グルル……」と低いうめき声を漏らしていた。
「神々が……神々が神官長様をお打ちになったのだわ!」
仕え女の長キリャが、崩れ落ちた石の破片の上に膝を突き、両手で顔を覆って激しく泣き崩れた。彼女の胸元の銀のピンが、祭壇の上の凶器と不気味に共鳴するように輝いている。
「神の仕業だと? 笑わせるな」ホームズは冷徹に言い放ち、立ち上がった。「神は純銀のピンを使って、人間の心臓の左心室をこれほど正確に外科手術のように突き刺したりはしない。これは、明確な意志を持った『何者か』による、極めて冷酷な計画殺人だ」
ホームズはそう言うと、死体の右手の脇に転がっていた「もう一つの遺留品」に目を留めた。
それは、色鮮やかなアルパカの紐ではなく、完全に「漆黒の植物繊維」だけで編まれた、異様なキープ(結縄)だった。その黒い紐の束には、通常の数理記録とは明らかに異なる、不規則で狂気的な結び目が幾重にも重なっていた。
「ダ・ヴィンチ、これがあんたの言っていた、大洪水の『最終シミュレーション』のキープかい?」
私はその黒いキープを手に取り、指先でその結び目をなぞった。その瞬間、私の脳内に、恐るべき数式の破綻がフラッシュバックした。
「……違う。これは、大洪水の予測ではない。これは……『選別の門』を起動するための、時空幾何学の制御コードだ。トゥパックは、今日の太陽祭の最初の光がインティワタナを叩く瞬間に、このキープの結び目を解きほぐすことで、マチュピチュ全体の質量を反転させ、自分たちだけを別の位相へと転移させるつもりだったのだ」
私は黒い紐の最後の結び目を見つめた。その結び目は、途中で「鋭い刃物」によって、不自然に切断されていた。
「見てくれ、ホームズ。このコードは完成していない。誰かが儀式の途中でトゥパックを殺害し、この『脱出のパスワード』を強奪したか、あるいは、儀式そのものを阻止するために、キープを切り裂いたんだ」
「なるほど」ホームズはパイプに火をつけ、紫色の煙を祭壇に向けて吹きかけた。「犯人の動機は二つに絞られる。一つは、トゥパックの『脱出計画』を横取りし、自分がその新世界への切符を手に入れるため。もう一つは、自分たちを見捨てて逃げようとした神官長への、絶望的な復讐。……いずれにせよ、犯人は今も、このマチュピチュの都市の中にいる」
#### 3. 容疑者の血痕、あるいは黄金の擦れ跡
ホームズは死体の周辺から一歩離れ、祭壇の裏側の暗がりに目を向けた。そこには、大量の「純金製の器や盾」が、乱雑に積み上げられていた。クスコ朝廷から秘密裏に運ばれたという、あの消えた帝国の財宝の一部だ。
「ウルコ親方、ちょっとここへ来てくれ」ホームズが手招きする。
「な、なんだよ、探偵」禿頭の石工ウルコが、ハンマーを重そうに持ち直しながら近づいてくる。
「あんたは昨夜、腰痛で小屋から一歩も出ていないと言ったね。だが、この積み上げられた黄金の盾の表面を見てほしい」ホームズは仕込み杖の先端で、一枚の黄金の盾の縁を指し示した。「ここにあんたの作業場特有の、あの『黒曜石の削り粉』が微かに付着している。それだけじゃない。この祭壇の下の床板には、あんたがいつも履いている、あの肉厚なリャマ革のサンダルの『泥の跡』が、うっすらと残っているんだよ」
「なっ……!?」ウルコの顔が瞬時に硬直した。「それは……俺は、トゥパック様に呼び出されて、神殿の床の強度を直すために、昨夜の『夕方』にここへ来たんだ! その時の泥が残っていただけだ!」
「夕方の泥にしては、湿気度が高すぎるな」ホームズは冷酷に追いつめた。「昨夜の午前三時、液状化の第一波が来た瞬間の、あの硫黄を含んだ赤土の成分と完全に一致している。あんたは昨夜、トゥパックが一人で密室に籠もる直前、あるいは籠もった『後』に、この部屋にいたんだ」
「違う! 俺は殺してねえ!」ウルコが激昂し、ハンマーを振り上げようとした。
「動くな、ウルコ!」防衛官カパックがブロンズの斧をウルコの首元に突きつける。「貴様、やはり黄金を狙って神官長様を殺したのか! この裏切り者が!」
「カパック防衛官、あんたも人のことを言えた義理ではないぞ」
ホームズの声が、今度はカパックに向けられた。
「何だと……!?」
「あんたの右腕の鱗の間、そこに付着しているのは何だ? トカゲの亜人の粘液にしては、随分と粘り気がある。ダ・ヴィンチ、あれを解剖学的に検証してくれ」
私はカパックの手首に虫眼鏡を近づけた。彼の灰色の鱗の隙間に、微かに「深紅色の繊維」が挟まっていた。それは、現地のアルパカの毛ではない。最高級の、ヴィクーニャの金糸混じりのチュニック――まさに、トゥパックが着ているものと全く同じ繊維だった。
「これは……トゥパックの衣服の繊維だ」私はカパックを見上げた。「カパック、君は昨夜、トゥパックの身体を激しく掴むか、あるいは彼と激しい『揉み合い』を起こしたな?」
カパックは縦に割れた黄金色の瞳を激しく見開いた。彼の長い尾が、動揺を示すように「ピクリ、ピクリ」と不自然に跳ね上がる。
「……俺は、昨夜、トゥパック様に直談判しに来たんだ。民を見捨てるなと、水路の補強に兵を回してくれと、神殿の扉越しに訴えた。その時、トゥパック様がほんの一瞬だけ門を開け、俺の胸ぐらをつかんで『亜人どもはここで地面を支えて死ね』と言い放ちやがったんだ! だから俺は、怒りに任せてその腕を振り払った! 繊維がついたのはその時だ! 俺が中に入った時には、かんぬきはまだ掛かっていなかった!」
「誰もが嘘を言い、誰もが部分的な真実を語っている」
ホームズはパイプを口にくわえ直し、深く煙を吸い込んだ。
「密室の中で死んだ最高神官。部屋の鍵は内側から完璧に掛けられていた。容疑者全員に動機があり、現場にはそれぞれの痕跡が残されている。……だがね、ダ・ヴィンチ。すべての物理的痕跡を線で結んだ時、この『不可能』を可能に変える、ただ一つの『悪魔的な幾何学』が浮かび上がってくるんだ」
外では、ウルバンバ川の地鳴りが「ゴゴゴゴゴ……」とさらにその音量を増していた。大洪水によるマチュピチュ崩壊まで、残された時間はあとわずか。十人の容疑者たちの悪意が、この血塗られた密室の中で、いよいよ臨界点に達しようとしていた。
【第5章:血塗られた祭壇・了】
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
この作品を読んでくださる方がいていただけて、とても、うれしくありがとうございます。頑張って新しいアイデアを入れ込んでいきますので、よろしくお願いします。新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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