古代ナスカからムーへ
第2話ダビンチは世界遺産のナスカから謎の大陸ムーへと移ります。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
当初から作品を見ていただき本当にありがとうございます。
大変励みになっております。
これからもよろしくお願いします。
では、参ります!!
地表がまだ引き裂かれた傷口のように赤く、海が沸き立つ粘土のようだった時代。およそ六千五百万年前の地球には、後世に呼ばれるような「自然の秩序」など存在しなかった。ただ混沌と、原始のスープが地球という揺り籠の中で無目的に対流しているだけだった。そこへ、最初の影が落ちた。
南米大陸の西端、のちにナスカと呼ばれることになる広大な台地は、当時、星々の交差点であった。大気圏を割って降りてきたのは、一種類や二種類の知的生命体ではない。数百に及ぶ、互いに全く異なる進化を遂げた多種族の宇宙人たちだった。彼らの宇宙船は金属の塊ではなく、あるものは結晶化された光であり、あるものは重力をねじ曲げる生体組織であり、またあるものは幾何学的な純粋思考の投影だった。
彼らがこの若い惑星に集まった理由は、植民でも征服でもない。純粋な「耕作」と「競い合い」である。遺伝子という名の無限のキャンバスに、いかにして自らの存在を刻み込めるかという、超越者たちの壮大な遊戯が始まろうとしていた。
ナスカ高原の赤茶けた土壌には、無数の「線」が刻まれた。それは後世の人類が想像したような滑走路ではなく、数百の種族がそれぞれの居住区と実験場を区切るための、分子レベルの障壁の痕跡であり、天空に向けた自らの家紋であった。
「この星の粘土は、実によく馴染む」
そう呟いたのは、珪素を基調とした身体を持ち、半透明の結晶の衣をまとった「リリト・アン」と呼ばれる種族の記録官だった。彼らの頭部には眼球がなく、代わりに空間の歪みを感知する三対の触角が、ナスカの希薄な大気を震わせていた。
リリト・アンの足元には、巨大な培養槽が広がっていた。彼らが担当したのは「空」である。彼らは地球の原始大気に含まれる窒素と二酸化炭素を効率よく吸収し、かつ推進力を得られる軽量な骨格を設計した。彼らが解き放った最初の試作生命体は、皮膚が極薄のガラス繊維でできた半透明の飛翔体だった。それは太陽光を浴びて虹色にギラギラと輝きながら、上昇気流に乗ってナスカの空へと舞い上がっていった。のちの翼竜の、それが遥かなる原型であった。
一方、ナスカからわずかに数キロメートル離れた谷間では、全く異なる光景が広がっていた。そこに拠点を置いたのは、液状の肉体を持つ「ズ・グラ」という種族だった。彼らは固体としての形を持たず、常に環境に合わせて自らを変化させる。彼らが愛したのは、ドロドロとした原始の海と、湿った陸地の境界線だった。
ズ・グラの居住区は、巨大な水銀の湖のように見えた。彼らは自らの細胞の一部を切り離し、それに地球の過酷な熱水噴出孔の成分を混ぜ合わせ、泥の中に撒いた。
「骨はいらぬ。殻もいらぬ。ただ貪り、増殖し、流動するものを作れ」
ズ・グラの意思が泥の中で響くと、無数の多足生物や、触手を持つ這行生物が誕生した。彼らは節足動物の先祖であり、三葉虫の歪な親類たちだった。それらは陸地の湿った岩肌を覆い尽くし、ズ・グラたちの足(と呼べるものがあればだが)を潤すための生きた絨毯となった。
さらに別の領域、硬質な金属質の甲殻に覆われた「ドル・メド」という種族は、陸地の覇者を求めていた。彼らは重力制御技術を用いて、本来の地球の重力では維持できないほどの巨体を維持する遺伝子コードを組み立てた。彼らの実験場では、山のような巨体を持つ爬虫類的な生命体が、地響きを立てて歩行していた。それは彼らにとっての「愛玩動物」であり、同時に土地を平らにならすための「重機」でもあった。
当時のナスカの生活風景は、奇妙な静けさと、暴力的なまでの生命の創造に満ちていた。
宇宙人たちの生活は、夜にその真価を発揮した。地球の自転速度は現在よりも速く、一日が短かった。夜が訪れると、ナスカの地上に描かれた幾何学模様の線が、青や緑、紫の光を放ち始めた。それは地中深くに埋め込まれた生物発光エネルギーのネットワークだった。
宇宙人たちは、互いの領域を侵さないという絶対的な契約を結んでいた。彼らは夜になると、自らのテラス(浮遊する磁気プラットフォーム)に集まり、自らが作り出した生物たちの声を聴いた。
リリト・アンの結晶の身体が、夜風に吹かれてチリンと涼やかな音を立てる。彼らの頭上を、自作のガラス鳥たちが、生物発光の尾を引いて渡っていく。それはまるで、生きた流れ星のカーテンのようだった。
「ドル・メドの作った歩行生物は、少々粗暴が過ぎるな。我が鳥たちの巣を、今日も三つ踏み潰した」
リリト・アンの外交官が、通信波で隣接区画に不満を伝える。
「あれはただの地ならしだ」と、ドル・メドの側から硬質な精神波が返ってくる。「不満があるなら、君たちの鳥の高度を上げればいい。我が巨獣たちの皮膚は、君たちの生命体が発するレーザー放射にも耐えられるように強化してある」
こうした言葉の応酬は、彼らにとっての退屈しのぎのゲームに過ぎなかった。彼らにとって地球は、永遠に続くはずの壮大な庭園であり、実験室だった。
彼らの住居は、地球の素材で作られたものではなかった。ナスカの地表から数メートル浮いた場所に固定された、半透明のドームや、超空間を折りたたんだポケット次元の入り口が、彼らの私室だった。そこでは、彼らの故郷の星の重力、故郷の星の光、故郷の星の構成物質が完全に再現されていた。
ある者は、純粋なエネルギーのスープに身を浸して微睡み、ある者は、数万年分の星々の運行を記録した光の巻物をめくっていた。彼らの食料(あるいはエネルギー源)は、地球の生物を殺生して得るものではなかった。ナスカの線から吸い上げられる地球のマントルエネルギーと、宇宙から降り注ぐ宇宙線を変換した、純粋な結晶体や流体だった。
しかし、彼らが最も情熱を注いだのは、やはり昼間の「放牧」だった。
朝が来ると、各種族は自らの遺伝子生物たちを引き連れて、ナスカの中央にある「大競合場」へと向かった。そこは、どの種族の障壁も及ばない、完全に開かれた野生のエリアだった。
そこでは、ズ・グラの作った酸を吐く粘液生物と、ドル・メドの作った装甲を持つ爬虫類が戦わされた。あるいは、リリト・アンの超音波を使う飛行生物が、他の種族の作った巨大昆虫を狩る様子が観察された。
「見ろ、我が種族の適応力を。あの粘液は、硬質の装甲をも溶かす」
「だが、我が巨獣の再生速度には追いつくまい。ほら、瞬時に新しい皮膚が形成された」
宇宙人たちは、賭けを行っていた。通貨ではない。次にこの惑星に導入する「新しい遺伝子配列の優先権」を賭けて、自らの創造物たちの生存競争を楽しんでいたのだ。
当時の地球の空は、現在の青さとは異なり、わずかに紫がかって見えた。それは宇宙人たちの船が放出するイオン化された排気や、気候制御装置が作り出す特殊なシールドのせいだった。彼らの支配下において、地球は一度も「自然のまま」の気候を経験していなかった。雨は彼らが望む時に、望む場所にだけ降らされ、火山活動は彼らのエネルギー源として完全にコントロールされていた。
ナスカの地上には、彼らが使う道具や、実験の失敗作がそのまま放置されることもあった。ある種族が捨てたエネルギーセルの残骸は、周囲の岩石を異常に変質させ、のちに奇妙な鉱物組織を生み出す原因となった。また、ある種族が気晴らしに彫った岩壁の模様は、後世の知的生命体を永遠に困惑させる謎の遺物となった。
支配者たちの生活は、不変のままで何百万年も続くかのように思われた。彼らにとって、時間の流れは極めて緩やかだった。一つの生物種を改良するのに数千日を費やすことは、彼らにとっての「一瞬の作業」に過ぎなかった。
ある日、ナスカの管制センター(それは空間そのものを歪めて作られた、目に見えない尖塔だった)の警報が、すべての種族の精神ネットワークに冷徹な信号を送った。
「外宇宙より、未確認の質量体が接近中。軌道修正不能。衝突コース」
宇宙人たちは、パニックに陥ることはなかった。彼らにとって、小惑星の衝突など、技術的に回避するか、あるいは単に避難すれば済む程度の事象だったからだ。
「やれやれ、今回のゲームはここで終了か」
リリト・アンの記録官は、自らのテラスから広大なナスカの台地を見下ろした。そこには、今日も虹色に輝くガラス鳥たちが群れをなして飛び交い、地表では巨獣たちがのんびりと尾を振っていた。
「この星の粘土は気に入っていたのだがね。次の星を探さねばなるまい」
宇宙人たちは、未練を残さなかった。彼らにとって、地球に作った生物たちは、高度なプログラムによって動く「作品」であり、自分たちそのものではなかったからだ。彼らは速やかに自らの荷物をまとめ、超空間ポケットを閉じ、船のエンジンを始動させた。
数百の種族が、一斉にナスカの地から飛び立っていく。その瞬間、ナスカの地上に刻まれた線が一斉に強烈な光を放ち、大気を引き裂いた。それは、彼らがこの星を去る際に行った、すべてのエネルギーネットワークの強制シャットダウンの光景だった。
宇宙船の群れが、紫色の空を突き抜けて宇宙の彼方へと消えていく。その数時間後、天空から巨大な炎の塊が降り注いだ。ユカタン半島への激突。世界は炎に包まれ、宇宙人たちが丹精込めて作った巨獣たちも、ガラスの鳥たちも、そのほとんどが灰へと帰っていった。
しかし、彼らが去ったナスカの台地には、深き地層の中に、そして生き残ったごくわずかな原始の泥の中に、彼らが競い合って刻み込んだ遺伝子の断片が、消えずに残り続けた。
宇宙人が去り、支配が終わったあとも、ナスカの線は沈黙したまま、かつてそこにあった神々の狂宴の記憶を、星空に向けて無言で主張し続けている。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。




