もう一つの 第九話:『葡萄畑の暴君と、偽りの新酒に隠された絵の具の罠』前編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作始めます。探偵物です。
設定がおかしいのはご勘弁くださいね!
当初から作品を見ていただき本当にありがとうございます。
大変励みになっております。
これからもよろしくお願いします。
では、参ります!!
もう一つの 第九話:『葡萄畑の暴君と、偽りの新酒に隠された絵の具の罠』
前編:燃えるような豊作の色彩、傲慢なる新領主の弾圧と不完全な異能の歪み
9月。夏の終わりのねっとりとした熱気がようやく去り、ローマの北方に広がる緩やかな丘陵地帯は、文字通り【鮮烈なルビー色と深紫色のパレット】へと塗り替えられていた。
一年に一度、下町の住民から近郊の農夫までが、すべての仕事を放り出して極彩色の歓喜に沸き返る最大のイベント――『葡萄の収穫祭と新酒の宴』の季節がやってきたのだ。
しかし、そんなお祭り騒ぎのカンヴァスの中心にあるべきダ・ヴィンチ探偵事務所の古ぼけた大理石の床の上では、おじさんが今月もまた、干からびた油絵の具のチューブのように無残に転がって悶絶していた。
「――う、うぐぐぐっ! 頭が、おじさんの貧弱な脳細胞が、またしても色彩の過剰な情報量に耐えかねてズキズキと割れそうだぜぇぇぇッ!!」
俺はヨレヨレの白いシャツの胸元を乱暴にむしり取り、油絵の具のシミだらけの額を両手で押さえながら、情けない声を上げて床をのたうち回っていた。
「ひゃははは! お嬢さん、笑っちゃいけないよ。秋の葡萄畑ってのはね、空気中に発酵した魔力の糖分が漂っていて、おじさんの固有スキル【画家】のレンズが、周囲のすべての匂いや魔力を『過剰な蛍光の紫色』として強制的に視覚化しちまうのさね! 脳みそが、数万色の絵の具のノイズで、一界に焼き切れちまいそうだぜぇぇぇッ!!」
「もう! ダヴィンチさん、何が『ひゃははは!』ですか! 呆れた大暴走なんですから、しっかりしてください!」
事務所の扉を開けて入ってきたのは、我が事務所の優秀な見習い騎士であり、白銀の美しい髪と猫耳を持つ少女、フランチェスカちゃんだ。彼女の頭頂部にある銀色の耳は、おじさんの毎度お馴染みの不甲斐ない醜態に、呆れ果てたようにヘナヘナと横を向いていた。彼女の胸元からは、愛猫キララちゃんが「にゃあ」と情けない声を上げて顔を出し、お嬢さんの軽装鎧の隙間で身を縮めている。懐のウララまでもが、俺の脳から漏れ出る魔力のノイズに機嫌を損ねて、ゴロゴロと青い静電気の火花を散らせていた。
「ダヴィンチさん、そんなところで転がっている場合じゃないんです! 一階のマルコ店長が、今年の収穫祭の仕入れのために、テヴェレ川上流の『ヴィニャ・ヴェッキア村』へ行くって、もう馬車の準備をして下ですごい剣幕で待っていますよ! ほら、早く立ち上がってください!」
フランチェスカちゃんが慌てて俺のヨレヨレのシャツの袖を引っ張り上げようとした。しかし、見習い騎士である彼女自身も、急な俺の暴走に慌ててその綺麗な足元を机の脚に思い切りぶつけ、「あいたたた……!」と涙目を浮かべてその場にしゃがみ込んでしまった。完璧な英雄には程遠い、一人の未完成な少女の姿がそこにあった。
だが、そんな俺たちのドタバタ劇を切り裂くように、探偵事務所の木扉が、内側の真鍮製ラッチを壊さんばかりの勢いでバンッ!と乱暴に押し開けられた。そこに立っていたのは、顔中を真っ赤に腫らし、仕立ての良いはずの衣服をドロドロの葡萄の皮で汚しきった、大市場の解体庫の責任者――**【ジロー】**だった。
「た、助けてくれ、ダ・ヴィンチ! フランチェスカのお嬢ちゃんも、頼む! ヴィニャ・ヴェッキア村が、あの強欲な新領主のせいで、めちゃくちゃになっちまったんだッ!!」
ジローは、その巨体をガタガタと激しく震わせながら、床に這いつくばって絶叫した。
「ジローさん!? 一体何があったんですか、その顔の傷は……!」フランチェスカちゃんが涙目を拭いながら、慌てて彼の分厚い肩を支えた。
「ウ、ウバルド伯爵やチェーザレが失脚した後に、あの村の土地の全権利を格安で買い叩いて乗り込んできた、新しい強欲貴族の**【アンジェロ男爵】**という男さ……! 奴は村の伝統ある古い葡萄の木を『効率が悪い』と言ってすべて根こそぎ引き抜き、自分が他国から密輸した『謎の急速成長魔力絵の具』を畑の土壌に大量に撒き散らしやがったんだ! その結果、葡萄は一晩で巨大化したが、畑からはおぞましい冷気の魔力残香が立ち込め、抗議した村長や俺たちは、男爵の私設傭兵どもにボコボコにされて追い出されたんだよぉぉぉッ!!」
ジローの言葉を聞いた瞬間、俺はマントの隙間から、自分の両目を細めてスキル【画家】の視線を彼の衣服へと向けた。
彼の衣服の裾には、通常の人間には絶対に見えない、どす黒い怨念のような【赤紫色の冷気魔術の残香】が、飛び散ったインクのように不気味に浮かび上がっていた。
「なるほどねぇ……。あの強欲な悪党どもが消えても、カンヴァスの裏には次から次へと新しいドブネズミ(強欲貴族)が湧き出てくるってわけだ。お嬢さん、剣のサビを落としなさい。今回の事件は、前回の幽霊船の事件と、構図が『まったく同じレイアウト』を孕んでいるのさね。犯人は、魔物の力を使って、自然の恵みを強欲に塗り替えようとしている。下町の川の次は、実りの丘のパレットを、おじさんたちのインクで綺麗に修復してやらなきゃいけないのさね!」
「はい! 悪党のやり方は絶対に許せません! 私、全力で行きます!」
フランチェスカちゃんは白銀の剣を引き抜き、その刃が朝日に鋭くきらめいた。こうして、俺たちは一階で待っていたマルコ店長の荷馬車に飛び乗り、漆黒の魔力霧が立ち込め始めたヴィニャ・ヴェッキア村へと急行した。
ヴィニャ・ヴェッキア村の広大な葡萄畑には、異様なまでの静寂と、鼻を突くような発酵した酸っぱい生臭さが立ち込めていた。
本来なら、秋の朝日に輝くはずの葡萄の葉は、すべて何百年も海底に沈んでいたかのような、不気味な灰色の霜に覆われている。収穫祭の真っ只中であるにもかかわらず、その畑の周囲だけは、吐く息が白く凍り付くほどの異様な冷気魔法の残香が、ねっとりと渦巻いていた。
「ダヴィンチさん、足元が急に滑りやすくなっています。気を付けてください!」
前方を歩くフランチェスカちゃんが、白銀の猫耳を周囲の不気味な凍りつく音に向けて過敏にピクピクと動かしていた。
「ひゃはは、大丈夫さね、お嬢さん。おじさんのこの安物の靴は、下町のドロドロのヘドロで散々鍛え上げられているからねぇ。それよりも、耳を澄ますんだ。スキル【画家】による魔力探知が、この冷気の霧のせいで情報のノイズが多すぎて上手く焦点が合わないんだよ。ほら、右側の通路が【鮮やかな赤色】に見えるから、てっきり温かい新酒の樽があると思って進もうとしたら、ただの『錆びた鉄格子の反射』じゃないかい! うぎゃあ、おじさんの生身の額をまたしても思い切りぶつけちまったよぉぉぉッ!!」
「またですかーーーッ!? ダヴィンチさんの大バカ者! 前回の幽霊船の時と、全く同じ失敗をしてるじゃないですか、しっかりしてください!」
俺はスキルの色の意味を完全に読み違え、霧の中の鉄格子に正面から額を強打し、ひゃはは、と情けない声を上げてその場にしゃがみ込んだ。解禁されたばかりの俺のスキル【画家】は、このように脳細胞にかかる負担と環境のノイズによって、常に致命的な【色彩の誤認】を引き起こす不完全な異能だった。「そんなものさ」と笑うにはあまりにも不器用な欠陥だが、これがおじさんの生身の限界なのさね。
泥を拭いながら、涙目になったフランチェスカちゃんにヨレヨレのシャツの袖を引っ張られて立ち上がった俺たちの目に、畑の奥からまさに「地獄絵図」が飛び込んできた。
畑の広場に設置された巨大な木製のワイン搾り樽(タラップのような構造だ)の周囲で、数十人の村人たちが全員、肉体や生命力を綺麗に消失させ、真っ白に乾燥した【白骨死体】となって転がっていたのだ。彼らの骨には、刃物で傷つけられた痕跡も、激しく争った形跡も一切ない。まるで、一瞬にして生命力だけを外部から根こそぎ吸い尽くされたかのような、異様な死に様だった。
「ひ、ひえええっ!? 本当に全員が骨だけになっています! 前回の幽霊船の時と、まったく同じ殺され方です! 一体どんな魔法を使えば、こんな開けた葡萄畑で一瞬にして人間が骨に変わるんですか!?」
フランチェスカちゃんはその圧倒的な恐怖のパースペクティブの前に、一歩も前に進めず、白銀の猫耳をヘナヘナと力なく垂れ下げて立ちすくんでしまった。
「落ち着け、お嬢さん。構図をよく見るんだ。この白骨たちの配置には、明確な『パレットの意図(意思)』が隠されているのさね」
俺は床の泥に這いつくばり、錆びた虫眼鏡を葡萄の根元に近づけた。
固有スキル【画家】の目を限界まで凝らすと、白骨死体たちの足元から、中央にある男爵の豪華な仮設天幕に向けて、通常の人間には絶対に見えない【漆黒の粘液質の魔力線】が、一本の太い筆跡のように真っ直ぐに伸びているのが見えた。そしてそれは、前回の事件と同様の「今も乾かない不気味な黒い絵の具の足跡」の実体だったのだ。
「おい、貧乏探偵! 突っ立っていないで、早くその奥にある呪いの正体を突き止めんか! 私はこの村の地下倉庫にある、時価数百万ゴールドの『最高級新酒の原酒樽』を回収しなければならないのだ! 下民の命などどうでもいい、早く私の利益を安全な場所へ運び出す命令を下させろッ!!」
背後から、ウバルドやチェーザレと瓜二つの傲慢な声を張り上げて、アンジェロ男爵が自らの恐怖を隠すように、私設傭兵たちを引き連れて俺たちの背中を突き飛ばした。彼は仕立ての良い絹の外套に身を包み、傲慢な態度で下民を見下している男だが、その指に嵌めた無数の宝石は恐怖の脂汗で曇り、何よりもその顔が、まるで死人のように真っ白に燃え尽きていた。
「おっと、アンジェロの旦那。そんなに強欲の色彩を撒き散らすと、キャンバスの主(魔物)が目を覚ましちまうぜ?」
俺が不敵に笑った瞬間、中央の巨大なワイン搾り樽が、内側から激しい衝撃を受けてドガァァァンッ!!!!と内側の真鍮製ラッチごと吹き飛んだ!
吹き荒れる黒い霧の向こうから姿を現したのは、体長4メートルを超える、全身がドロドロとした漆黒の液体絵の具のような肉体を持つ、巨大な軟体型の魔獣――【怨嗟の魔液獣・葡萄完熟体】だった!
その魔獣の半透明の液体の胴体の内部には、これまでに喰らってきた人間の無数の白骨が、まるで標本のように不気味に浮かび上がっており、中心には真っ赤な魔力の眼球がギラギラと発光していた。魔獣は、アンジェロ男爵が纏っている「強欲の生霊の残香(赤紫色のカラーパス)」を感知するなり、おぞましい歓喜の咆哮を上げて、その無数の液体の触手を一斉に伸ばしてきたのだ!
「――ぶ、ぶひゃあああああッ!!!」
魔獣の咆哮が響き渡る。
「ぎゃあッ!? 助けてくれ、私を食べないでくれぇぇぇッ!!」
アンジェロ男爵は、さっきまでの傲慢な態度が嘘のように、その場で派手に腰を抜かして泥だらけの地面の上を無残に転がり、高級な絹の外套を自らの小便と泥水で真っ黒に汚しながら、涙と鼻水を流して無様に絶叫した。
「ガハハハ! ざまぁみやがれ、この強欲男爵め! 天罰が下ったんだよ!」マルコ店長が背後から豪快に笑い声を上げたが、事態は一刻を争う。
「お嬢さん、魔物の突進が来るぞ! 右の台座の影へ飛び込みなさい!」
俺が叫ぶのと同時に、魔液獣がその巨大な液体の触手を、鞭のように激しい速度でアンジェロ男爵に向けて振り下ろした。
「キャッ!?」
フランチェスカちゃんは男爵を突き飛ばして身を躱したが、魔獣が放った絶対零度の冷気衝撃波に吹き飛ばされ、葡萄畑の氷屑のなかに無残に転がり、その美しい白銀の鎧の紐をブツブツとまたしても引きちぎられてしまった。手から離れた剣が、カランカランと遠くの岩肌へと虚しく転がっていく。
「ぐぬぬ、お嬢さん! 今すぐおじさんがスキルの色を塗り替えてやる! 待ってろよ!」
俺は脳細胞を襲う偏頭痛を無視し、スキル【画家】の出力を最大まで解放した。
「【パレット・シフト・赤の熱素】!!」
俺は自分のヨレヨレのシャツの袖に染み付いた可燃性の鉱物成分に魔力を通し、お嬢さんの転がった剣の刃に向けて、空中から『燃え盛る赤の魔力線』を一本の筆跡として力任せに走らせた。
本来なら、これで剣の表面に爆発的な熱のエンチャント(属性付与)が施されるはずだった。しかし、解禁されたばかりの俺のスキルは、あまりの寒さと偏頭痛のせいで、またしても致命的な【色彩の混同】を起こしてしまったのだ!
「――あ、あれ!? おかしいねぇッ!! 前回の幽霊船の時とまったく同じで、赤の熱素を塗ったつもりが、魔物の冷気とパレットのインクが混ざり合って、ただの【滑りやすい黄色の油膜】になっちまったぜぇぇぇッ!!」
「ダ、ダヴィンチさんの大バカ者ーーーッ!! 何を学習してないんですか、これじゃあ床がツルツルで立ち上がれません! 物語がかぶりすぎてます!!」
泥まみれのフランチェスカちゃんが、床の油に足を取られて何度も不器用にズッコケながら、涙目で俺に向かって絶叫した。
だが、おじさんの不器用な失敗は、時に計算を超えた神がかり的な構図を描き出す。
魔液獣は、そんなお嬢さんの隙を見逃さず、その巨大な触手を武器のように突き出し、彼女の華奢な肉体を粉砕せんと、二度目の突進の軸を合わせた。
しかしその瞬間、魔獣の巨大な液体の足元が、俺がスキルミスで床に広げてしまった【黄色の油膜】の上に、完全に乗り上げた。
どんなに強固な怨念を纏っていても、摩擦係数をゼロにされた油の滑り気には逆らえない。魔獣の液体の身体は、構図を完全に失ったデッサンのように前後左右へと派手に広がり、その巨体を激しく回転させながら、俺たちの立っている位置の真後ろ――すなわち、腰を抜かして泣き叫んでいた【アンジェロ男爵の肥満体】に向けて、自らの質量と加速のすべてを乗せて大激突したのだ!
「――ズガァァァァァンッ!!!!」
「ぶ、ぶほおおおおおッ!?!?(アンジェロ男爵の、この世のものとは思えない潰れたカエルのような悲鳴)」
魔液獣の強烈な激突を受けたアンジェロ男爵は、その巨体をピンボールの球のように地面の上で何度も激しくバウンドさせられ、自慢の高級な外套をズタズタに引き裂かれながら、広場に積まれていた【最悪に臭い発酵しかけた腐った葡萄のハラワタの樽(堆肥の山)】のなかに、頭から真っ逆さまに突っ込んでいった!
樽がバリバリと音を立てて粉砕され、アンジェロ男爵の全身には、ドロドロに腐った葡萄の皮と、強烈な悪臭を放つ家畜の糞尿泥水が、これでもかと大量に浴びせかけられた。彼は頭に腐った葡萄の蔓を乗せたまま、顔中を堆肥液でドロドロに染め上げ、さっきまでの傲慢さが完全に消え失せた間抜けな姿で、「ふ、ふぎゃあ……! 汚い、臭い、助けてくれぇ……!」と、鼻水を垂らしながら涙目で気絶してしまった。
下町の財産を貪ろうとしてきた強欲新領主が、自らの利益の目の前で、文字通り【最悪のゴミ屑】へと成り下がった、完璧な「ざまぁみろ」の瞬間だった。
「は、ははは……助かった、んですか……?」
油と泥にまみれたフランチェスカちゃんが、壁際の剣を必死に拾い上げながら、腰を抜かした状態でポカンと、腐った葡萄の山の中で気絶している男爵を見つめていた。
「ひゃははは! 怪我の功名、これぞおじさんの『計算通りのミス(塗り残しの美学)』ってやつさね! 前回の幽霊船の時とまったく同じ展開だけど、効果は抜群じゃないかい!」俺は頭を押さえ、偏頭痛の冷や汗を拭いながら立ち上がった。「だけどお嬢さん、おじさんの【画家】の目が、この魔物の肉体のレイアウトから、とんでもない『真実の輪郭』を捉えたぜ。……この魔物、どうしてこんな密閉されたワイン搾り樽の中に、昨日から【閉じ込められていた】と思うんだい?」
「え……? 閉じ込められていた、ですか? 自分で人間を襲うために侵入したんじゃないんですか?」お嬢さんが泥を拭いながら首を傾げる。
「いいや、よく見なさい。この搾り樽には、外からの侵入経路は一切ない。だけど、床の隅にある【幅わずか五十センチの、地下倉庫へと続く排水管の隙間】……あそこだけが、魔物の冷気でガチガチに凍り付いて割れている。……真犯人はね、この巨大な魔獣をそのまま連れてきたんじゃない。昨日、この村の倉庫に男爵が他国から『急速成長絵の具』を密輸した際、まだ【手のひらサイズの小さな子供の液状魔獣(フルイドの幼体)】の段階で、排水管の隙間からこの搾り樽の中へと、男爵が密輸しようとしていた『最高級の魔力生肉』の匂いを使って誘い込んだのさね!」
「あッ! 子供の魔物なら、あの狭い排水管からでも入れる! 前回の事件と、本当にまったく同じ構造です!」フランチェスカちゃんがハッと目を見開いた。
「そうさ。解体庫の事件も、幽霊船の事件も、すべて同じ『急速成長のデッサン』で動いている。犯人は、男爵の利権を大暴落させるために、この成長の罠を仕掛けたのさ!」
「ぶ、ぶほおおおおおッ!!!」
俺の推理が終わるのと同時に、アンジェロ男爵を押し潰していた怨嗟の魔液獣が、その真っ赤な目を再び見開き、怒り狂って立ち上がった。搾り樽の床の木板がガラガラと激しく崩落し、そこから葡萄畑のさらに奥深く、地下のワイン貯蔵庫へと続く**【未知の巨大な氷の迷宮(隠し通路)】**が姿を現したんだ! その奥からは、まだ何頭もの魔獣の遠吠えが響いてきやがる。
「お、お嬢さん、事件の本番はここからさね! この地下の奥に、この魔物を送り込んだ真犯人の本当のパレットが眠っているぜ!」
俺は偏頭痛を気合でねじ伏せ、右手の指先を突き出した。
「【パレット・マスター・正真証明の赤の熱素】!!」
今度は完璧だった。俺の指先から放たれた純烈な赤の魔力光が、フランチェスカちゃんの剣の刃へと一瞬で吸い込まれ、白銀の刃が、周囲の氷をまたたく間に蒸発させるほどの【超高温の紅蓮の炎】を纏って激しく爆発した。
「――これなら、いけます! 実りの秋の平和は、私が守りますッ!!」
泥まみれの見習い騎士の少女は、今度は一歩も引かなかった。彼女は紅蓮の炎の剣を両手できつく握り締め、突進してくる巨大な魔獣の牙に向けて、その身体をバネのようにしならせて正面から地を蹴った。
切り裂く紅蓮の軌跡と、砕け散る青い氷の鎧。
だが、崩壊する地下倉庫の奥から、さらなる冷気の渦が俺たちを飲み込もうと這い上がってくるのだった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。




