## 第八話:『贋作(がんさく)の街ローマと、鏡の国からの暗殺者』後編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
後編です。
よろしくお願いします
では、参ります!!
## 第八話:『贋作の街ローマと、鏡の国からの暗殺者』
### 第三部:白き病棟のサスペンス、消えゆく白銀の鼓動を繋げ(手術編)
## 第七章:白き聖域のパニック、天才画家の解剖学
「どけっ! 邪魔をするな! おじさんが執刀する! この子の身体の構造を世界で一番理解しているのは、お前たち凡庸な医師じゃない、このおじさんだッ!」
ローマ中央魔導大病院、最深部にある特別手術室。
白い大理石の床に、俺の荒々しい怒号が響き渡り、集まった一線級の魔導医師たちがその威圧感に気圧されて後退りした。
手術台の上には、血に染まった紺色のドレスを無残に切り開かれ、純白のシーツに横たわるフランチェスカの姿があった。
胸元には、鏡像の俺が放った硝子の槍が貫いた、悍ましいどす黒い傷口。彼女の自慢の白銀の猫耳は、生命力の枯渇を示すように完全に白濁し、力なくベッドの脇へと垂れ下がっている。心臓の鼓動を刻む魔導時計の針は、今にも完全に停止しそうなほど、か細く不規則なテン律を刻んでいた。
「ダヴィンチさん、医師たちを追い出しても、僕たちだけでは設備の稼働計算が足りません! 非論理的です!」
手術室の重い鉄扉を背中で閉めながら、ルカが叫んだ。彼の半透明の結晶の身体は、緊迫感で青く激しく明滅している。
「ルカ、お前さんのその精密な『光の屈折眼』で、お嬢さんの体内の魔力ラインを1ミリの狂いもなくスキャンしなさい! おじさんがかつて描いた『解剖図譜』の線を、この子の肉体に直接リペイント(縫合)するんだ!」
俺は返り血に汚れたタキシードの袖をワイルドに引きちぎり、手術用の銀色のメスと、魔導インクを充填した特製の医療用ニードルを両手に握りしめた。
「お嬢さん、お前はおじさんを庇って、その身を投げ出してくれたんだ。天才画家のプライドに賭けて、お前という『最高の傑作』を、こんな真っ白なキャンバス(あの世)で未完のまま終わらせてたまるかよ!」
俺の左目【画家】が、黄金色のリミッターを完全に突破して燃え上がる。
フランチェスカの皮膚、筋肉、血管、そして魔力の通り道(経絡)のすべてが、鮮やかな光の補助線となって俺の視界へとデッサンされた。真夜中の、命を繋ぎ止めるための孤独な聖戦が、いま始まった。
## 第八章:硝子の呪いを摘出せよ、結晶の光と万能の執刀
「――メス。ルカ、傷口の奥にある『硝子の呪詛破片』を光の全反射で浮かび上がらせろ!」
「了解! ――『結晶魔術・ミクロ・プリズム』!」
ルカが指先から放った極細の純白のレーザーが、フランチェスカの胸の傷口の奥へと差し込まれた。光の屈折により、肉の奥深くに突き刺さったまま、彼女の心臓を蝕んでいた『鏡の国の暗殺者』の不可視の硝子破片が、青白く妖しく浮かび上がる。
「見えたぜ、!! なんて陰湿なタッチの呪いだ!」
俺の静かな、しかし超高速のメス捌きが始まった。
肉を裂き、血管を魔導クランプで止血する。その一連の動作には、一寸の迷いも、1ミリのブレもなかった。俺がかつて人間の死体を幾度も解剖し、筋肉の付き方や内臓の配置を研究し尽くした『万能の解剖学』の記憶が、今、彼女の命を救うための絶対的な指針となっていた。
「チ、チ、チ、チ、チ、チ」
心音を刻む魔導時計の針が、一段と弱くなる。
「ダヴィンチさん! 硝子の破片が心臓のメインギヤに接触しました! 破片を摘出する瞬間、ショックで心音が完全に停止します!」
ルカの声が悲鳴に変わる。
「レオ! お前さんの出番だ! 体内の蒸気圧を最小にし、お前さんのゼンマイの微弱な振動で、お嬢さんの心臓を外側から一定のリズムで叩き(マッサージし)続けなさい!」
「ガウッ!」
満身創痍のからくりライオン・レオが、手術台の脇へと這い上がり、その温かい真鍮の前足を、フランチェスカの露出した胸骨の上へと優しく添えた。カチ、カチ、カチと、レオの精密な歯車が、人間の心臓と全く同じ一定のテン律で微振動を開始する。
「よし、抜くぞ。お嬢さん、耐えておくれよ!」
俺はピンセットの先端に全神経を集中させ、心臓の薄皮一枚に食い込んでいた硝子の凶刃を、ミリ単位の精度で引き抜いた。
***キィィィィィン!!!!!
摘出された硝子片が、空気中でパリンと激しく砕け散る。
と同時に、魔導時計の針が――完全に動きを止め、手術室に「ピーーー」という不気味なフラット音が鳴り響いた。
「心音停止! 蘇生術式が追いつきません!」
ルカが目を見開く。
「終わらせない、終わらせるわけないだろ、おじさんの筆は、まだ止まっちゃいないんだよォォォッ!!!」
俺は医療用ニードルを突き立て、七色の魔導インク(生命の絵の具)を、彼女の停止した心臓へと直接、豪快に描き殴った。心臓の形を、血管の繋がりを、魂のデッサンを、俺の指先の感覚だけで強制的に再起動させる!
「動け、動け、動け、動けっ!! お嬢さん、おじさんを置いていくなァァァッ!!!」
おじさんの絶叫と、レオの真鍮の咆哮、そしてルカの祈りにも似た結晶の輝きが、真っ白な手術室の中で一つに調和した、その瞬間。
***ーーーーーーーードクンーーードクンーードクンードクン、ドクン!
魔導時計の針が、小さな、本当に小さな音を立てて、再びカチリと未来へ向かって動き出した。
「ーーはぁ、はぁ、はぁーーーっ!」
俺はその場に崩れ落ちるように膝をつき、激しい汗を流しながら、マスター・ブラシを床へと落とした。フランチェスカの胸の傷口は完全に縫合され、どくどくと流れていた鮮血は止まっていた。
「や、やりました。心音、一定値で安定。命の灯火は、繋がりました、ダヴィンチさん」
ルカが自身の胸の結晶をホッとした綺麗な青色に戻し、深く息を吐き出した。
だが――。
手術台の上のフランチェスカは、傷口が塞がったというのに、その白銀の猫耳を力なく垂らしたまま、一向に目を開ける気配がなかった。彼女のガラスのような瞳は閉ざされたままで、ただ浅い呼吸を静かに繰り返しているだけだった。
「お嬢さん? ほら、おじさんの大手術は大成功(大団円)だぜ? 起きて、いつものヘタレな声を響かせておくれよ。」
俺が彼女の冷たい手を握りしめるが、返ってくる反応は何もない。
「鏡の国の呪いが、彼女の『精神のキャンバス(意識)』の奥深くに、まだ残っているようです。」
ルカが悲しげに眼鏡を押し下げた。
「命は繋ぎ止めましたが、意識は、、戻りません。彼女は、深い深い、眠りの迷宮へと囚われてしまいました。」
俺は静かに立ち上がり、月光が差し込む手術室の窓の外を見つめた。
フランチェスカは命を繋ぎ止めた。だが、その代償はあまりにも大きかった。
彼女をこの『眠り姫』の呪いから救い出すためには、次なるキャンバス――あの黄金色の収穫祭の裏に隠された、さらなる闇の調律師のパレットを暴くしかない。
「待ってておくれ、お嬢さん。おじさんが、絶対にその白い眠りのカーテンを開けてみせるからねぇ……」
俺は彼女の手を強く握り直し、静まり返った白い病棟の中で、次なる戦いへの、静かな、しかし絶対的な決意の补助線を心に描き直すのだった。
### 第四部:硝子の破片を片付けて、眠り姫に捧ぐ秋の決意(解決編)
## 第九章:天才の逆鱗、理性を焼き切った結晶の熱線
「――ルカ。片付けるぞ!」
手術室の静寂の中、俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷たく、そして酷く濁っていた。
床に落ちたマスター・ブラシを拾い上げ、血に汚れた先端を、魔導インクで満ちたパレットへと深く、深く沈める。
「わかりました、ダヴィンチさん。僕の計算回路も、現在、かつてないほどの過加熱を記録しています。非論理的に、腹が立っています。」
ルカの半透明の結晶の身体が、普段の静謐な青色から、激怒のカラー――禍々しいほどに鮮烈な『紅蓮の赤』へと変色していた。彼の眼鏡の奥の瞳は、標的を完全に駆逐するための照準器へと変貌している。
手術室の窓の外、月光を浴びた病院の屋上に、パリン、パリンと硝子が擦れ合う不気味な音が響いた。
鏡像の俺が遺していった、暗殺者の残党――硝子の自動人形どもが、まだお嬢さんの命を完全に刈り取るべく、白い病棟を包囲しつつあったのだ。
「お嬢さんの耳を、髪を、その小さな身体を血に染めて、それでも、まだ描き足りないってのかよ、三流の模倣犯どもが!!」
俺は手術室の扉を開け、ゆっくりと月光の下へ歩み出た。
右手の手袋を引きちぎり、露わになった【画家】の左手。そこから溢れ出る魔力は、もはや絵の具の域を超え、すべてを焼き尽くす黒い油煙となってローマの夜空を覆い尽くしていく。
「ダヴィンチさん、僕が光の屈折で敵の『死角』を完全に固定します。一匹も、ローマの塵さえ残さず、消去してください」
「ああ、1ミリのキャンバスも残さず、真っ黒に塗り潰して(グラデーションして)やるさ」
屋上に群がる数十体の硝子人形たちが、一斉に鋭い硝子の刃を構えて俺たちへと跳躍した。
だが、その速度は、今の俺たちの『怒り』の前には、止まっているも同然だった。
「――『結晶術式・最大出力・フォトン・アポカリプス』!!!」
ルカが両手を掲げた瞬間、彼の赤い結晶の身体から、街一つを蒸発させかねない超高熱の紅蓮のレーザー光線が、網の目のように屋上全体へ放射された。光の檻に囚われた硝子人形たちが、その熱量に耐えかねて、悲鳴のような音を立ててパキパキとひび割れていく。
「そこへ――おじさんの特大の『黒』をぶち込むッ!!!」
俺はマスター・ブラシを一閃させた。
描かれたのは、一筋の暴風。すべての色彩を拒絶し、物質の分子構造そのものを破壊して消し去る、漆黒の破壊魔術*****『万能消去』*****
**ゴオオオオオオオオオッ!!!!!**
轟音と共に、ルカの紅蓮の光に固定されていた硝子人形どもが、破片を撒き散らす暇さえ与えられず、一瞬で黒い消し炭へと変わり、ローマの夜風に吹かれて完全に消滅した。
後に残ったのは、硝子の呪いが完全にクリーンアップされた、綺麗な、ただの真っ白な大理石の屋上だけだった。
## 第十章:眠り姫のカルテ、葡萄の香る秋の決意へ
「はぁ……はぁ……」
ルカの身体の赤みが、徐々にいつもの論理的な青色へと戻っていく。屋上を包囲していた脅威は、一枚の贋作を破り捨てるよりも呆気なく、完全に片付いた。
俺たちは静かに、フランチェスカの眠る特別病室へと戻った。
部屋には、規則正しい魔導時計の「カチ、カチ」という音と、彼女の静かな寝息だけが満ちている。
「ダヴィンチさん、お嬢さんの入院手続き(カルテ登録)、および魔導結界による厳重な保護レイアウト、すべて完了しました」
ルカがベッドサイドの書類を整えながら、静かに告げた。
「ここなら、ローマのどんな闇の組織も手出しはできません。ですが、彼女が目覚める兆候は、やはりありません」
俺はベッドの傍らに椅子を引き、彼女の白銀の小さな頭を、そっと撫でた。
いつもなら「な、何するんですかダヴィンチさん! 髪が乱れます!」と、顔を真っ赤にして怒るはずの猫耳が、今はぴくりとも動かない。
「いいんだ、ルカ。お嬢さんは、おじさんを信じて眠ってくれたんだからな」
俺は立ち上がり、コートを羽織った。そのポケットには、お嬢さんが倒れる直前に俺に託した、あの【黄金色の収穫祭の招待状】が眠っている。
「お嬢さんをこんな退屈なベッド(キャンバス)に縛り付けている呪いの親玉、そのインクの匂いが、この招待状から微かに漂ってきやがる。――ローマの北、黄金の葡萄が実る、あの欺瞞のワイナリーからな」
「行くんですね、ダヴィンチさん」
ルカが眼鏡をキリリと指で押し上げた。その瞳には、もう迷いはない。
「僕も同行します。お嬢さんの看病(データ維持)は病院の信頼できる医師に任せました。これ以上、あの非論理的な闇の連中をのさばらせておくわけにはいきません」
「ガウッ!」
レオもまた、錆びた歯車を力強く鳴らし、俺の足元で鋭い牙を剥き出しにした。
「決まりだな。お嬢さん、おじさん、ちょっと出稼ぎ(お掃除)に行ってくるよ。お前が目を覚ましたとき、ローマの街が最高の色彩で満ちているように、極上の秋の景色を描き換えてきてやるからね」
俺は眠るフランチェスカに背を向け、ルカ、そしてレオと共に、月明かりの病室を後にした。




