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## 第八話:『贋作(がんさく)の街ローマと、鏡の国からの暗殺者』前編

二話目の投稿です。

誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。

途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。

作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。


## 第八話:『贋作がんさくの街ローマと、鏡の国からの暗殺者』前編

長くなってしまいました


よろしくお願いします

では、参ります!!


## 第八話:『贋作がんさくの街ローマと、鏡の国からの暗殺者』

### 第一部:鏡面に映る偽りの街、忍び寄る硝子の凶刃

## 第一章:9月のカンヴァス、溢れかえる偽りの傑作アート

9月に入り、ローマの街には心地よい秋の風が吹き始めていた。

カフェのテラス席には、芸術の秋を楽しもうと、他国からやってきた画学生や美術商たちで溢れかえり、街全体がどこか浮き足立った華やかな色彩トーンに包まれている。

だが、そんな華やかさの裏で、下町の『老いたる跳ね馬亭』に持ち込まれたのは、最高に不気味な『黒い絵の具のバグ』だった。

「――ダヴィンチさん、これを見てください。今日の午前中だけで、ローマの主要なオークションハウスから3作、さらに聖堂の保管庫から2作、全く同じ『万能の天才・ダヴィンチの初期の傑作』が発見されました。言うまでもなく、すべて贋作です。」

跳ね馬亭の特等席。

新しくダ・ヴィンチの正式な『助手』となった結晶族の少年・ルカが、半透明の美しい指先で、数枚の精巧な美術鑑定書をテーブルに並べた。彼の胸の結晶の核は、事件の難解さを示すように、深く静かな論理の青に明滅している。

「ははは、おじさんの若い頃の絵かい? 人気者は辛いねぇ。だが、おじさんの筆癖サインをここまで完璧に模倣リペイントできる奴なんて、この時代にそう何人もいないはずなんだがねぇ。」

俺は冷たいカフェラテを啜りながら、眼鏡の奥のスキル【画家パレットマスター】の左目を細めた。

「笑い事じゃありません、ダヴィンチさん。鑑定書データを再計算しましたが、これらの贋作に使われている絵の具のブレンド、そしてキャンバスの経年劣化の偽装技術は、現在の最高峰の魔導技師でも不可能です。非論理的です。まるで……本物の絵画を『鏡に映して、そのまま現実へと引っ張り出した』かのような???」

「――お待たせしましたぁ! マルコ店長特製の、秋の栗入り特大パンセットです!」

そこへ、大きなトレイを両手で抱えたフランチェスカが、元気いっぱいの声を響かせてやってきた。

前回の時計塔でのお留守番(恐怖の肝試し)から解放され、すっかりいつもの調子を取り戻した彼女は、自慢の白銀の猫耳をピョコピコと嬉しそうに揺らしている。

「もー、ルカくんは生真面目すぎますよ! 芸術の秋なんですから、ダヴィンチさんの偽物が出回るくらい、お祭りの余興だと思えばいいんです! ほら、焼きたてのパンを食べて、一緒に捜査に行きましょう!」

「これだから脳筋の獣人は困ります。この事件の裏には、もっとドロドロとした人間模様の歪さが視えているというのに」

ルカが冷たく突き放すが、フランチェスカは「むー!」と頬を膨らませながらも、おじさんのタキシードの袖をグイと引っ張った。

「ダヴィンチさん、とにかく街の画廊を調べてみましょう! 偽物を売っている悪党がいたら、私のショートソードで『対魔一閃』、お仕置きリペイントです!」

「ははは、頼もしいねぇ、お嬢さん。よし、ルカ、レオ、出発だ。ローマの街に隠された『鏡の裏側』を、おじさんたちの本気のデッサンで暴きに行こうじゃないかい!」

足元で「カチカチ、ファン!」と真鍮の尻尾を振るからくりライオンのレオを従え、俺たちは秋の陽光が降り注ぐローマの街へと繰り出した。

だが、この時の俺は、まだ気づいていなかった。

この『芸術の秋』のキャンバスが、やがて大切な仲間の鮮血で真っ赤に染まる、最悪の悲劇のレイアウト(構図)の始まりだということに •••••。

## 第二章:鏡の国からの足音、砕け散る硝子の暗殺者アサシン

街の画廊をいくつか回った夕暮れ時。

収穫のないまま、俺たちは人通りの少ない旧市街の『鏡職人の通り』へと差し掛かっていた。路地の両側には、無数の古びた鏡が並べられた店が軒を連ね、夕暮れの赤い光を不気味に乱反射させている。

「おかしいです。周囲の魔力波長が、急激に『反転』しています」

ルカが突如、胸の結晶を激しい『警告の赤』へと変色させ、歩みを止めた。

「キィィィィィン……」

突如、静まり返った路地裏のすべての鏡から、あの『闇の調律師』が放つものと酷似した、耳障りな魔力の摩擦音が響き渡る。フランチェスカの白銀の猫耳が、そのノイズを捉えてピキーンと直立した。

「ダ、ダヴィンチさん! これ、前回の時計塔の時と同じ、不気味なトーンです! お化けじゃなくて……何かが、鏡の向こうから……!」

「お嬢さん、おじさんの後ろに下がりなさい!」

俺がマスター・ブラシを構えた、その瞬間。

路地の突き当たりにある、ひときわ巨大な姿見の鏡の表面が、ドロリと黒い液体のように波打った。

そして、その鏡の破片を全身に纏ったかのような、顔も衣服もすべてが『鏡面』で形成された異形の暗殺者――**『鏡の国の暗殺者ミラー・スペクター』**が、音もなく現実の空間へと這い出してきたのだ!

「くつくつ……見つけたぞ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。貴様のその傲慢な画筆マスター・ブラシごと、我が鏡の世界の『真実の贋作』に変えてくれるわ……!」

暗殺者が両腕を掲げると、周囲のすべての鏡から、数十本もの『鋭利な硝子の刃』が突如として突き出し、俺たちの死角目がけて超高速で放たれた!

「ルカ! 光の障壁を! レオ、蒸気展開だ!」

「ガルルゥ」***プシュプシュプシュー***

「了解! ――『結晶魔術・反射防壁リフレクト・シールド』!」

ルカが瞬時に展開した水晶のバリアと、レオが吹き出した白い蒸気が硝子の刃を激しく弾き返す。だが、暗殺者の本当の狙いは、俺たちではなかった。

「ターゲットは、貴様の隣の、その小娘だ」

「え……っ!?」

不意を突かれたフランチェスカの目の前、大理石の床に映っていた『彼女自身の影』から、もう一体の鏡の暗殺者が、不気味な笑みを浮かべて音もなく飛び出してきた!!!

「お嬢さんっっっ!!!!!」

俺の絶叫が路地に響く。

お化けへの恐怖で一瞬だけ反応が遅れたフランチェスカの胸元目がけ、暗殺者の冷酷な硝子の凶刃が、容赦なく突き立てられようとしていた!



### 第二部:鏡像の死線、硝子に刻まれる4つの絶望(戦闘・悲劇編)

## 第三章:真鍮の咆哮、己の影を噛み砕く鋼鉄の獅子(レオ篇)

「ガガッ……ガルルルルル!!!」

夕暮れの赤い光が差し込む『鏡職人の通り』。その中央で、からくりライオン人形のレオが、真鍮のボディを激しく震わせながら激しく咆哮を上げていた。

レオの目の前。路地に並んだ巨大な姿見の鏡から、音もなく這い出てきたのは、レオと全く同じ真鍮のプレート、全く同じリベットの配置、そして全く同じ蒸気パイプを持つ**『偽りのからくりライオン(鏡像のレオ)』**だった。

その偽物の目は、本物のレオが持つ温かい真鍮の輝きとは異なり、冷酷な硝子の破片が怪しく光る不気味な赤色に染まっていた。

「ガルゥゥゥッ!」

本物のレオが、床の石畳を真鍮の爪で激しく引っ掻き、火花を散らしながら一直線に突進した。背中の大ゼンマイが超高速で回転し、体内の蒸気ボイラーが限界まで熱せられ、白い煙がパイプから勢いよく吹き出す。その一撃は、鋼鉄の防壁をも一撃で粉砕するほどの質量を持った突進だった。

だが、鏡像のレオは、本物と寸分違わぬタイミングで床を蹴り、全く同じ軌道で突進し返してきたのだ。

*****ドガァァァァァン!!!!!*****

真鍮と真鍮が正面から激突し、激しい金属音とともに、火花が路地裏の暗闇を真っ赤に染め上げる。

反動で互いに数メートル後退するが、からくりの構造が完全に同一であるため、受けるダメージも全くの同等。本物のレオが右の爪を振り下ろせば、偽物も同時に右の爪を突き出し、互いの爪が空中でガチガチと噛み合って火花を散らす。

「カチ、カチ、ガガガ……!」

本物のレオは、かつておじさんがフランス王へ献上した際の実戦データを引き出し、基本の突進から『変則的な噛み付き』へとシフトした。相手の懐に潜り込み、真鍮の強固な顎で偽物の首元の蒸気パイプを噛み砕かんと、鋭く顎を開く。

しかし、鏡像のレオはその動きすらも完璧に予期していた。

偽物は、本物が顎を開いた瞬間に、自身の背中の蒸気弁を意図的に開放し、超高圧の黒い蒸気を正面へと噴射したのだ。視界を奪われた本物のレオの顎が、虚しく空を斬る。

「ガウッ!?」

視界の消えた本物のレオの側頭部に、鏡像のレオの強烈な左爪が叩き込まれた。

ガシャァン! という鈍い音とともに、本物のレオの真鍮のプレートが歪み、数枚のリベットが弾け飛んで石畳の上を転がった。体内のギヤが悲鳴を上げ、回転速度が急激に落ち始める。

『鏡の国の暗殺者』が作り出したドッペルゲンガーは、本物の肉体的な疲労や機械的な摩耗を無視して、常に100%の出力で動き続けることができるのだ。戦いが長引けば長引くほど、からくりであるレオの歯車は摩耗し、絶対に勝てない計算レイアウトになっていた。

「ガルルル……ガガ、プシュー……」

本物のレオの口から、弱々しい白い煙が漏れる。対する鏡像のレオは、傷一つない美しい真鍮のボディを夕日に輝かせながら、じりじりと本物を追い詰めていく。

「レオ! 自分の限界の計算デッサンに囚われるな! お前はただの機械じゃない、ダヴィンチさんの『情熱』が込められた作品だぞ!」

離れた場所から、自身の戦闘に追われながらもルカが叫んだ。

その言葉が、レオの内部の『感情の魔導回路』に火をつけた。

レオは、おじさんが設計図にも描かなかった、完全に『計算外の暴走』を選択した。背中のゼンマイのストッパーを、自ら内側から噛み砕いて破壊したのだ!

「ガガガガガガガガガオォォォォォォォンッッッ!!!!!」

ゼンマイが狂ったように超高速で逆回転を始め、レオの全身の隙間から、赤い熱線のような魔力の炎が噴き出す。それは機械の寿命を縮める、命を賭した『ガラクタの超奇跡』。

鏡像のレオの硝子の瞳が、初めて本物の「計算外の動き」に、一瞬だけ停止した。

本物のレオは、自らの真鍮の身体が摩擦熱で溶け出すのも構わず、光速を超える速度で弾丸のように飛んだ。偽物が防御の爪を掲げるよりも早く、その強固な真鍮の顎で、鏡像のレオの胸元にある『魔力のコア』を、バリバリと凄まじい音を立てて噛み砕いたのだ!

**バギィィィィィン!!!!!**

鏡像のレオは、胸からひび割れ、ただの砕け散った硝子の破片となって床へと崩れ落ちた。

本物のレオは、全身から猛烈な煙を吹き出し、ギヤをカチカチと切なく鳴らしながらも、見事に己の影との死闘に勝利したのだった。





## 第四章:冷徹なる屈折、光の檻に偽りの知性を閉じ込めよ(ルカ篇)

「……やはり、非論理的です。僕と全く同じ波長、全く同じ結晶構造の存在が、目の前に立つなど」

結晶族の少年・ルカは、自身の正面に立つ『偽りの結晶の少年(鏡像のルカ)』を睨みつけ、胸の核を激しい『論理の青』から『警戒の赤』へと変色させた。

鏡像のルカは、本物と全く同じ、半透明の美しいダイヤモンドのような身体を持っていたが、その瞳の奥には、すべてをあざ笑うような漆黒の魔力の炎が揺らめいていた。

「ルカ。僕の計算に狂いはない。君の放つ光の軌道も、その美しい魔術のプロセスも、すべて僕の身体が『全反射』して君へと還してあげるよ」

鏡像のルカが、本物と全く同じ冷徹な声で囁いた。

「僕の偽物が、僕の口調で喋るな。不愉快です。『結晶魔術・プリズム・レイ』!」

本物のルカが両手を掲げると、彼の指先から、数千、数万の超高密度の光のレーザーが放たれ、路地裏の空間を網の目のように埋め尽くした。それは触れるものすべてを分子レベルで焼き切る、結晶族の究極の攻撃魔術だった。

しかし、鏡像のルカは一歩も動かなかった。

偽物の身体が、まばゆい金色に輝いた瞬間、本物の放った数万のレーザーが、偽物の水晶の肌に触れた瞬間に完全に『屈折・反転』し、そのまま倍の威力となって本物のルカへと跳ね返ってきたのだ!

「くっ、、、! 『反射防壁リフレクト・シールド』!」

ルカは咄嗟に自身の前に光の盾を展開したが、自らの全力の魔術の直撃を受け、シールドはパリン! と派手な音を立てて粉砕された。その衝撃でルカの身体は激しく後ろへと吹き飛ばされ、石畳の上を何度も何度も転がった。

「あ、う……っ!」

ルカの右腕の美しい半透明の結晶に、パキパキと不気味な亀裂クラックが入る。結晶族にとって、身体の破損はそのまま魔力と生命力の低下を意味していた。

「無駄だよ、ルカ。君の思考の速度も、次の一手の確率も、僕には100%視えている。君が光を放てば、僕はそれを反射する。君が防御すれば、僕はそれを透過する。君に僕を倒す論理デッサンは、最初から存在しないんだよ。」

鏡像のルカが、静かに歩み寄ってくる。偽物の足音が、シャリ、シャリ、と冷酷に響く。

ルカは必死に頭脳を回転させた。

(僕のすべての魔術を完全にトレースし、反射してくる。ならば、僕がこれまで使ったことのない、僕の『計算の範疇を超えた魔術』を組み立てるしかない。だけど、そんな非論理的なことが、この僕にできるのか!??)

その時、ルカの脳裏に、数日前の時計塔で見た、おじさんのあの破天荒な『絵画魔術』の光景が蘇った。

あのおもしろおじさんは、論理も、確率も、世界の法則すらも完全に無視して、ただの『情熱の筆一閃』で空間そのものを静物画へと変えてみせたのだ。

「そうですね。ダヴィンチさんの助手を名乗るなら、僕も少しは、あの人の『非論理的めちゃくちゃ』を見習わなければなりませんね。」

ルカは立ち上がり、残された左腕を天へと掲げた。

彼の胸の核が、これまでに見たことのない、七色の魔導インクが混ざり合ったような『混沌の輝き』を放ち始める。

「何をする気だ? そんな乱れた魔力回路では、魔術が暴発して君自身が砕け散るだけだ!」

鏡像のルカが初めて表情を崩し、警戒のトーンを強めた。

「暴発? いいえ、これは『芸術』です。『結晶魔術・カオス・パレット』!!!」

ルカが放ったのは、光のレーザーではなく、自らの魔力をあえて不規則にひび割れさせ、空間の光そのものを『乱反射の渦』へと変える、予測不可能な光の嵐だった。

光は規則正しい直進を捨て、鏡の通りのすべての鏡をデタラメな角度で跳ね回り、クラッシュし、爆発的なエネルギーとなって空間を満たしていく。

「な、何だこの光の軌道は!?? 計算が、計算ができないっ!!!」

鏡像のルカが、初めて自らの反射の計算を狂わせ、頭を抱えて叫んだ。

「論理の裏側へ、沈みなさい」

本物のルカの放った、計算不能の七色の光の奔流が、鏡像のルカの美しい結晶の身体を正面から完全に飲み込み、その存在を塵一つ残さず、美しく霧散させたのだった。

「ふぅ。やはり、芸術というのは最高に、非論理的です。」

ルカはひび割れた右腕を抑えながらも、静かに勝利の眼鏡を押し上げた。





## 第五章:砕け散る白銀、愛しき仲間を庇いし騎士の鮮血(フランチェスカ篇)

「いやぁぁぁぁぁッ!!! 来ないで、来ないでくださいぃぃ!!!」

路地の奥深く。

見習い騎士のフランチェスカは、涙をボロボロと流しながら、必死にショートソードを振り回していた。

彼女の目の前に立っていたのは、高級ドレスを着た、白銀の猫耳を不気味に直立させた

『偽りのフランチェスカ(鏡像のフランチェスカ)』だった。

偽物の肌は血の通わない青白い硝子のようで、その手には、本物よりも遥かに邪悪な黒いオーラを纏ったショートソードが握られていた。

「どうしたの? 本物の私。お化けが怖いからって、自分の影からも逃げ出すなんて、騎士の名が廃るんじゃない?」

鏡像のフランチェスカが、冷酷な笑みを浮かべて高速のステップを踏んだ。

「幽霊じゃなくて、自分の偽物なんて、もっと意味が分かりませんぅぅ!」

フランチェスカは恐怖を掻き消すように、裸足で床を蹴り、紅蓮の『対魔闘気』を全力で爆発させた。

「『第一楽章・緋色の輪舞曲ロンド』!!!」

嵐のような連続の斬撃が、鏡像のフランチェスカを襲う。

しかし、偽物は本物と全く同じ騎士のステップをさらに鋭く踏み込み、本物の剣の軌道をすべて自らの刃で完全に受け流し(パリィ)、その隙に本物の太ももへと鋭い突きを放った。

*****ザシュゥゥゥッ!!!*****

「痛っ!!?」

フリフリのドレスの裾がさらに切り裂かれ、フランチェスカの白い肌から真っ赤な血が噴き出す。

「う、嘘、、私の剣の癖も、闘気の流れも、全部読まれてる!?」

「当たり前でしょう? 私は貴方の『鏡』。貴方が右へ動こうと思えば、私の刃はすでにそこにあるのよ!」

鏡像のフランチェスカの猛攻が始まる。

黒い対魔闘気を纏った刃が、本物のフランチェスカのガードを次々と弾き飛ばし、彼女の肩、腕、脇腹を容赦なく切り刻んでいく。紺色のドレスは一瞬にして彼女自身の鮮血で赤黒く染まり、白銀の髪が恐怖と苦痛の汗で額に張り付いた。

「うあ、あぁーっ!」

フランチェスカは力なく膝をつき、ショートソードを杖代わりにして、かろうじて身体を支えていた。全身から流れ出る血の量が多すぎ、視界が急激に白く霞んでいく。

「さあ、終わりよ。偽物は消えて、私が本物の騎士になるの」

鏡像のフランチェスカが、本物の脳天を叩き割るために、黒い闘気の刃を天へと高く掲げた。

(だ、ダメ、私、ここで死んじゃうの?? ダヴィンチさん、ルカくん、レオ、みんな、助けて•••••)

フランチェスカが絶望に瞳を閉じた、その瞬間。

「お嬢さんっっっ!!!!!」

路地の向こうから、ダ・ヴィンチの絶叫が響き渡った。

俺は自分の戦闘を力ずくでこじ開け、フランチェスカの危機を救うために、ボロボロになりながらもこちらへと必死に走ってきていた。だが、俺の後方からは、もう一体の『鏡像のダ・ヴィンチ』が、俺の背中を仕留めんと、鋭い絵の具の槍を構えて超高速で追尾してきていたのだ。

「ダヴィンチさん、危ないっっっ!!!!!」

その光景を見た瞬間、フランチェスカの心の中から、お化けへの恐怖も、自らの怪我の痛みも、すべてが完全に吹き飛んだ。

「私、私の大切な人を、これ以上傷つけさせないっっっ!!!!!」

フランチェスカは、残された最後の力を振り絞り、大理石の床を爆発的に蹴り上げた。

彼女が向かったのは、自らの偽物ではなくーダ・ヴィンチの背後に迫っていた、偽物のおじさんの刃の軌道だった。

*****グサァァァァァァァァァッッッ!!!!!*****

凄まじい肉体の破壊音が、静まり返った路地に響き渡った。

「――がはっ!!」

フランチェスカの口から、大量の鮮血がドボリと溢れ出た。

彼女の小さな身体は、俺の身代わりとなる形で、鏡像のダ・ヴィンチが放った巨大な硝子の槍によって、胸元を完全に深く、深く貫かれていたのだった。

「お、お嬢さ、、、、ん!?」

俺が振り返った視界の中で、白銀の猫耳の少女が、血に濡れたドレスを翻しながら、ゆっくりと糸の切れた人形のように、冷たい床へと倒れ込んでいくのが見えた。

「あははは! 見事な自己犠牲だ! だが、これでチェックメイトだな、ダ・ヴィンチ!」

2体の鏡像の暗殺者たちが、血に染まった路地裏で、勝ち誇ったように邪悪な笑い声を響かせたのだった。





## 第六章:万能の画筆マスター・ブラシの怒り、血塗られたローマの夜(ダヴィンチ篇)

「よくも、よくもおじさんの、最高に大切な『傑作フランチェスカ』を、そんな汚い偽物の絵の具で傷つけてくれたねぇ。」

ローマの夕闇が完全に夜へと反転した、その瞬間。

俺の口から漏れ出たのは、いつものおちゃらけたトーンではなかった。地獄の底から響くような、絶対的な『神の怒り』の重低音だった。

俺の正面には、俺と全く同じタキシードを纏い、全く同じマスター・ブラシを握る『偽りの天才画家(鏡像のダ・ヴィンチ)』が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「くつくつ、怒るがいい、本物の私よ。だが、貴様の怒りのデッサンなど、すべて私にはお見通しだ。貴様が『静物画』を描けば、私も『静物画』で相殺する。貴様に私を倒す筆癖サインなどない!」

鏡像のダ・ヴィンチが、俺と全く同じマスター・ブラシを滑らかに構えた。

「お前みたいな『真実の贋作』に、おじさんの芸術の神髄を語らせるんじゃねえよ」

俺は眼鏡をバキリと音を立てて外すと、それを床へと叩きつけた。

左目の【画家ピットーレ】の奥で、千年の歴史の魔導インクが、ドロドロとした『漆黒の激昂』となって、かつてないほど激しく燃え上がっていた。

俺は右腕のマスター・ブラシを、自らの胸元 -フランチェスカが流した、床の真っ赤な鮮血へと深く浸した。

「おじさんはねぇ、他人の描いた偽物のレイアウトが、世界で一番大嫌いなんだよ」

「死ね、ダ・ヴィンチ! ***『万能の画筆・空間消去デリート・ライン』***!」

鏡像のダ・ヴィンチが、空間を丸ごと消し去る最恐の一筆を走らせる。

だが、俺の筆の速度は、その偽物の『計算』を遥かに超越していた。

俺は血塗られたマスター・ブラシを、夜空へと向かって、ただ真っ直ぐに、豪快に、そして誰よりも美しく描き殴った。

「お前ごときが、おじさんのパレットを模倣できると思うなよ。*****『神技・天地創造ジェネシス・カンヴァス』*****ッッッ!!!!!」

***ドバァァァァァァァァァン!!!!!

俺の一筆が走った瞬間、路地裏の空間全体が、巨大な『真っ白なキャンバス』へと完全に塗り替えられた。

鏡像のダ・ヴィンチが放った消去のラインも、周囲の不気味な鏡の迷宮も、すべてが俺の圧倒的な『画家の領域カンヴァス』の中に飲み込まれ、ただの白い背景(下地)へと強制的にリセットされたのだ。

「な、何だこれは……!? 空間そのものが、真っ白な絵の具で塗り潰された……!? 鏡の世界の法則が、機能しない……っ!」

鏡像のダ・ヴィンチが、初めて恐怖に顔を歪め、己のマスター・ブラシをデタラメに振り回した。

「贋作師よ、お前さんのデッサンには、一番大切なものが欠けていやがる。それはねぇ――。」

俺は真っ白な空間を音もなく歩み寄り、偽物の目の前へと一瞬で肉薄した。

「愛する仲間を傷つけられた画家の、この『命の色彩パッション』だよォォォッッッ!!!!!」

俺は血塗られたマスター・ブラシを、鏡像のダ・ヴィンチの胸元へと真っ直ぐに突き立てた。

ブラシの先端から放たれたのは、フランチェスカの紅蓮の闘気、ルカの七色の光、そしておじさんの漆黒の怒りが奇跡の調和ブレンドを果たした、絶対的な『真実の一撃』だった。

***ズバァァァァァァァァァン!!!!!

鏡像のダ・ヴィンチは、その圧倒的な色彩の密度の前に、自らの存在のデッサンを維持することができず、仮面ごと粉々に砕け散り、今度こそ完全に消滅した。周囲の真っ白な空間がガラガラと崩れ落ち、元の夜の路地裏へと景色が戻っていく。

「ダ、ダヴィンチ、、、さん、、、9」

ルカとレオが、満身創痍の身体を引きずりながら、俺の元へと駆け寄ってきた。

俺はすぐに血の海の中に横たわるフランチェスカの元へと膝をつき、彼女の小さな、冷たくなり始めた身体を抱き上げた。胸の傷口からは、未だにどくどくと赤い血が溢れ出ている。

「お嬢さん、 しっかりしなさい、お嬢さん!! おじさんの最高の発明品(医療キット)で、今すぐ止血するからねぇ!」

俺は必死に魔導インクで彼女の傷口を塞ごうとしたが、硝子の呪いの刃が残した傷は深く、彼女の白銀の猫耳は、力なく完全に垂れ下がったままピクリとも動かなかった。

「ダヴィンチさん、フランチェスカの心音データ、急激に低下しています。このままでは非論理的、です•••。こんなところで、彼女が、消えるなんて•••っ!」

ルカが水晶の目から、初めて大粒の涙(結晶)をこぼした。

「死なせない!!!おじさんが、絶対に死なせないぞ、お嬢さんッ!!!」

俺は彼女をしっかりと腕に抱き抱え、夜のローマの街へと向かって、爆速で走り出した。

背後には、砕け散った硝子の破片と、夏の終わりを告げる冷たい秋の夜風だけが、寂しく吹き抜けていたのだった。

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