## 第六話:『終末を告げる予言画(プロフェシー)と、消えた大富豪』
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
少し長くなりました。よろしくお願いします
では、参ります!!
## 第六話:『終末を告げる予言画と、消えた大富豪』
### 第一部:真夏のオークション、赤面の猫耳ドレス
## 第一章:8月の熱気と、血塗られた未来のデッサン
8月のローマは、街全体が巨大なオーブンのように煮えたぎっていた。
テヴェレ川から吹き込む風すらも熱を帯び、宿場町の『老いたる跳ね馬亭』でも、常連客たちが冷えた麦酒を片手に「今年の夏は異常だ」と口々に溢している。
しかし、そんな真夏の熱気をも一瞬で凍りつかせるような、奇妙で不気味な『依頼状』が、俺たちの元へと届けられた。
「――ダヴィンチさん、これ……ただの悪戯とは思えません。ローマ随一の商業ギルドの総帥、大富豪のボルゲーゼ男爵からの極秘の呼び出しです」
跳ね馬亭の二階の事務所。エアコンなんて便利な魔導具はないこの世界で、少しでも涼を取ろうと窓を全開にしながら、フランチェスカが真剣な表情で一通の黒い手紙を差し出してきた。
手紙の内容は、こうだ。
今夜、男爵の豪邸で開催される、世界中の珍品が集まる『闇の秘密オークション』。そこに、作者不明の古い不可解な絵画が出品されるという。その絵には、なんと**【今夜、そのオークション会場の密室の中で、ボルゲーゼ男爵が灰となって不審死を遂げる】**という、完璧なタッチの未来(予言)が描かれているらしい。
「自分の死体のデッサンがあらかじめ用意されている、か。そいつは随に悪趣味なパレット(演出)だねぇ」
俺は左手で冷たいアイスコーヒーを啜りながら、眼鏡の位置を直した。
単なる脅迫状なら聖騎士団に任せればいい。だが、男爵がわざわざ俺たち【画家探偵】を指名してきたのは、その予言画の筆跡から、常人には感知できない『強力な呪いの魔力』が放たれているからだった。
「バルド神父のネクロマンシー、そして水底の吸血鬼……。どうやら『黒のパレット』や『闇の調律師』の連中は、この夏の終わりに、ローマの経済の心臓部を直撃する特大のレイアウト(陰謀)を引いているらしいな」
「はい。ですがダヴィンチさん……今回の会場は、多種族の有力者や貴族しか入れない、超一級の社交場です。おじさんのいつものヨレヨレのコートや、私の見習い騎士の軽鎧じゃ、門前払いを食らっちゃいますよ?」
フランチェスカが白銀の猫耳を心配そうにピョコピョコと動かす。
「ははは! 心配しなさんなお嬢さん。社交界のドレスコード(構図)なら、おじさんが最高にエレガントで、最高に『お前を崇めたくなる』極上の衣装を用意してあるぜ?」
俺が不敵に笑いながら、事務所の奥から持ち出してきた特大の衣装箱を開けた瞬間、フランチェスカの猫耳が、驚きと恐怖でパキーンと完全に直立した。
## 第二章:白銀のプライド、フリフリの密使(潜入開始)
「――なぁァ、なんですかこれぇぇぇ!!! 背中が、背中がすっごくスースーして、落ち着かないんですけどぉぉぉー!!!」
夜。ローマの高級住宅街に佇む、大富豪ボルゲーゼ男爵の絢爛豪華な大邸宅。
馬車から降り立った瞬間、俺の隣に立つフランチェスカは、顔をトマトのように真っ赤に染め上げ、今にも泣き出しそうな声で半泣きになっていた。
そこにいたのは、いつもの凛々しい見習い騎士の姿ではなかった。
夜空の星を散りばめたような深い紺色のシルクに、職人が何重にも重ねた純白のフリルが揺れる、最高級の社交界用ロングドレス。背中は肩甲骨のあたりまで大胆に開いており、彼女の健康的な小麦色の肌が月光に妖しく映えている。
そして何より、その白銀の髪の間から覗く自慢の猫耳が、周囲の貴族たちの視線に晒されて、恥ずかしさのあまりにパタパタ、ピコピコと狂ったように高速移動していた。
「いやぁ、実に見事なデッサン(着こなし)だ、お嬢さん。普段の鉄くず(軽鎧)の中に、こんな極上のキャンバスが隠されていたとは、おじさんの芸術家としての脳細胞が歓喜のステップを踏んでるぜ?」
俺自身も、今夜ばかりはヨレヨレのコートを脱ぎ捨て、黒いシルクのタキシードに身を包み、髭を綺麗に整えていたが、フランチェスカのその可愛らしい弱点(パニック姿)を見るだけで、今夜の潜入捜査の報酬はすでに半分受け取ったようなものだった。
「お、おじさん! ニヤニヤしながら私の背中や耳を見ないでください! それに、この……ハイヒールっていうんですか!? 靴底に変な棒がついてて、歩くたびに足元がガクガクして、まっすぐ進めないんですぅけど!」
フランチェスカはドレスの裾を両手でギュッと掴み、生まれたての小鹿のように膝を震わせながら、俺の差し出した左腕に必死にすがりついてきた。見習い騎士としての剣技や身体能力は超一流だが、この『社交界の礼装』という特殊な環境の前に、彼女の防御力は完全にゼロ(むしろマイナス)へと叩き落とされていた。***イヤー実にいい***
「おっと、エスコートされる時は、もっと優雅に微笑むもんだぜ、マイ・レディ。ほら、会場に入るぞ。多種族の有力者(容疑者たち)が、お前という『新しい美術品』の登場を今か今かと待ち構えているからねぇ」
俺たちは華やかな音楽が流れる、大理石のオークション会場へと一歩を踏み出した。
会場の最奥に厳重に安置されていたのは、問題の『予言画』だった。
そこには、重厚な鉄の扉で閉ざされた密室の中、まさに今夜の主役であるボルゲーゼ男爵が、恐怖に顔を歪めながら、足元からじわじわと『不気味な灰』となって崩れ落ちていく瞬間が、恐ろしいほどリアルな筆致で描かれていた。
俺が【画家】の左目を凝らすと、その絵の表面から、ドロドロとした黒い魔力のトーン(魔力の癖)が、まるで生き物のように周囲の空気を侵食しているのが見えた。
「……間違いない。これはただの脅迫画じゃない。絵そのものが、この館のレイアウト(構造)を書き換えるための『呪いの発動キー』だ。フランチェスカ、ドレスの裾に気を取られてる場合じゃないぜ。死の秒読み(カウントダウン)は、もう始まっていやがる」
### 第二部:密室の灰、予言通りに消えた富豪(事件勃発編)
## 第三章:疑惑のシャンパングラス、社交界の歪んだパレット
「おやおや、ボルゲーゼ男爵。そんな不気味な絵画を飾り立てて、我々を脅かそうという底意地の悪い演出かな?」
シャンパンの泡がパチパチと弾けるオークション会場の片隅で、贅沢な毛皮を羽織った初老の貴族 -ロドヴィコ伯爵が、嫌味な笑みを浮かべながらボルゲーゼ男爵へグラスを向けた。彼の細い瞳の奥には、ローマの流通網を独占する男爵への激しい嫉妬と、どす黒い独占欲のトーンが隠しきれずに渦巻いていた。
「ふん、ロドヴィコ。お前のような審美眼のない男に、この絵の真の価値(恐怖)は分からんさ!!」
主役であるボルゲーゼ男爵は、仕立ての良い紫色のローブの襟元を苛立たしげに緩めながら、冷たく言い放った。彼の額からは、8月の熱気のせいだけではない、冷たい脂汗がじわじわと流れ落ちている。
「ダ、ダヴィンチさん……あの伯爵も、その周りで愛想笑いを浮かべている商人たちも、みんな目が笑っていません。まるで男爵が本当に灰になるのを、今か今かと楽しみに待っているみたいです……」
俺の左腕にしがみついたまま、ハイヒールをカタカタと鳴らしているフランチェスカが、高級ドレスの隙間から白銀の猫耳をピコピコと細かく動かして、俺の耳元で囁いた。彼女の優れた聴覚は、きらびやかなオーケストラの演奏の裏で交わされる、貴族たちの醜い陰口や、欲望に塗れた密談のノイズを正確に拾い集めていた。
「ははは、社交界ってのはいつだって最悪の色彩のブレンド(泥仕合)さ、お嬢さん。みんな他人の不幸という最高に美味な絵の具を求めて集まっているのさ。だが、見ておくれ。あの男爵の背後に立っている、お抱えの魔導技師の男……あいつの魔力の筆跡が、さっきから妙に震えているねぇ」
俺が顎で指し示したのは、男爵のすぐ後ろで古びた魔導書を抱えて平伏している、青白い顔をした青年技師だった。
「男爵閣下、まもなく予言の時刻、午後九時でございます。安全のため、予定通り呪術防壁を施した『絶対密室の書斎』へお隠れください」
技師の男が、震える声で告げる。
「ああ、分かっている。おい、そこの探偵。お前たちも書斎の前の廊下を厳重に見張れ。もしあの予言がただの悪戯なら、明日、お前たちに最高のワインを樽ごと奢ってやるが……もし本当なら、お前のその万能の左目で、呪いの発動を止めてみせろ!」
男爵はそう吐き捨てると、複数の厳重な鍵がかけられた鉄扉の奥――館の最上階にある、窓一つない頑強な書斎へと足早に消えていった。
## 第四章:午後九時の秒読み(カウントダウン)、完全密室の崩壊
「……チク、タク、チク、タク、チク、タク……」
頑丈な鉄扉の前。廊下には、不気味なほど冷徹な柱時計のn音だけが響いていた。
フランチェスカはドレスの長い裾を少し持ち上げ、ショートソードの柄にいつでも手をかけられるよう、慣れないハイヒールを踏ん張って警戒の姿勢を取っている。背中が大きく開いたドレスのせいで、廊下の冷気が肌に触れるたびに、彼女の白銀の猫耳がビクッと過敏に跳ね上がっていた。
「ダヴィンチさん、本当にこの扉の奥に、男爵は一人でいるんですよね……???? 窓も通気口も、すべて聖騎士団の魔導結界で封鎖されています。誰も入ることはできません」
「ああ、完璧な『純粋密室』のレイアウトだねぇ。おじさんの左目で見ても、物理的な侵入経路は1ミリも存在しない。だが……」
俺は眼鏡を指先で押し上げ、書斎の扉の隙間から漏れ出てくる魔力の波動を凝視した。
おかしい。部屋の内部から、あの『予言画』と全く同じ、ドロドロとした黒い魔力のトーンが、急速に濃度を上げて膨れ上がっている。これは外部からの侵入ではなく、内側から『世界の構造』そのものが書き換えられているトーンだ。
――時計の針が、午後九時をカチリと指し示した。
「……ぎ、ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
突如として、鉄扉の奥から、鼓膜を狂わせるようなボルゲーゼ男爵の絶叫が響き渡った。
「男爵閣下!?」
「男爵!!」
廊下に控えていた青年技師や、階下から駆けつけてきたロドヴィコ伯爵たちが興味深く、目配せしていた。j
「フランチェスカ、扉を吹き飛ばしなさい!」
「はいっ! ……『対魔一閃』っ!!」
フランチェスカはドレスのフリルを激しくなびかせながら、渾身の闘気をショートソードに込め、重厚な鉄扉の鍵に向けて鋭い蹴りと一閃を叩き込んだ。
**バキィィィィィン!!!**
何重もの魔導鍵が破壊され、勢いよく開け放たれた書斎の室内。
しかし、そこに広がっていた光景は、誰もが予想し得ない、最悪の『予言画通りの完成図』だった。
室内には、争った形跡も、不審者の影も全くない。ただ、部屋の中央にある高級な革椅子の目の前に、男爵が着ていたはずの紫色の高級ローブだけが、不自然に床へと崩れ落ちていた。
そして、そのローブの襟元から、サラサラと音を立てて溢れ出していたのは――大量の、冷たい『灰』だった。
「そ、そんな……男爵閣下が、本当に……灰になって消えちゃった……!?」
フランチェスカが息を呑み、白銀の猫耳を恐怖でペタンと伏せた。
「ば、化け物だ! 予言の呪いは本物だったんだ!」
ロドヴィコ伯爵が腰を抜かし、青年技師は頭を抱えてその場にへたり込む。貴族たちの欲望のパレットは、一瞬にして底なしの『恐怖の黒』へと塗り潰されてしまった。
俺はゆっくりと床の灰へ歩み寄り、指先でその灰を少し掬い上げると、左目の【画家】のレンズを最大まで絞り込んだ。灰の奥から立ち上る、あの『闇の調律師』の影を感じさせる、冷酷で緻密な魔力の筆跡。
「……なるほどねぇ。人間を内側から灰に変える、最高の『時間差の絵の具(呪術)』か。犯人はこの社交界の人間関係の中に、最初から平然と混ざり合っていたというわけだ」
### 第三部:偽りのパレット、巨匠の怒涛の魔力鑑定(推理尋問編)
## 第五章:歪んだパレットの群像、擦り付け合う罪の色彩
「――おい! 探偵っ! なぜ男爵を守れなかった! お前たちが廊下にいて、鉄の扉が閉まっていたというのに、男爵が灰になったのは……お前たちが何か怪しい呪いでも使ったからじゃないのか!!!?」
大富豪ボルゲーゼ男爵が灰となって消え去った、窓一つない絶対密室の書斎。
床に崩れ落ちた紫色の高級ローブを指差しながら、ロドヴィコ伯爵が顔を真っ赤にして叫んだ。彼の声は激しく震えていたが、その瞳の奥には、長年のライバルであった男爵が消えたことへの、隠しきれない『安堵と好機』のトーンがギラギラと渦巻いている。
「ロ、ロドヴィコ伯爵! 滅相もないことを言わないでください!」
フランチェスカがドレスの長い裾を踏まないように必死にハイヒールを踏ん張りながら、白銀の猫耳をピキーンと直立させて反論した。
「私とダヴィンチさんは、男爵の依頼でここを見張っていたんです! 部屋の鍵を開けることもなく、中から呪いが発動するのを、この耳で……不気味な魔力の摩擦音を聞いたんです!」
「ふん、獣人の小娘の耳など、社交界では何の証拠にもならんさ!」
ロドヴィコ伯爵は鼻で笑うと、今度は部屋の隅で頭を抱えてガタガタと震えている青年魔導技師――ジュリアンへと冷酷な視線を向けた。
「おい、ジュリアン。男爵の呪術防壁を管理していたのはお前だな? お前が『闇の調律師』とやらの手先で、男爵の魔力タンクに細工をして、内側から灰に変える術式を仕込んだのではないか? 男爵が死ねば、お前がその膨大な魔導研究の予算を独り占めできるからな!」
「ち、違います! 私は、私は男爵閣下を本当にお慕いしていました!」
青年技師ジュリアンは、青白い顔に涙と脂汗をにじませながら、古びた魔導書を胸に強く抱きしめた。
「私はただ、閣下から『予言の時刻までに、部屋の結界の出力を最大にしろ』と命じられ、その通りに呪術回路を繋いだだけです……! まさか、結界そのものが閣下の命を吸い尽くすなんて……!」
「嘘を言うな! 男爵の流通ギルドの利権を狙う商人どもが、お前を買収したに決まっている!」
「あなたこそ、男爵閣下の商業ルートをずっと奪いたがっていたじゃないですか! 昨夜、裏の酒場で怪しげな黒服の男(黒のパレット)と密談していたのを、僕の助手が見ているんですよ!」
貴族、商人、魔導技師。
ボルゲーゼ男爵が築き上げた巨万の富と権力を前に、残された人間たちの欲望と保身のブレンド(ドロドロの人間模様)が、書斎の中で最悪の怒号となって飛び交う。誰もが他人のキャンバスに『犯人』という黒い絵の具を塗りたくろうと、醜く醜聞を暴き合っていた。
## 第六章:巨匠の眼、暴かれる筆跡のトリック
「ははは! 実に醜く、そして美しい人間ドラマ(レイアウト)だねぇ、お前さんたち」
怒号が飛び交う密室の中、俺は右手で床の灰をパラパラと弄びながら、不敵な笑い声を響かせた。
その場にいる全員の視線が、タキシード姿の俺へと一斉に集まる。
「何がおかしい、探偵! 男爵が死んで、頭の回路でも狂ったか!」
ロドヴィコ伯爵が声を荒げるが、俺はゆっくりと立ち上がり、眼鏡の奥の【画家】の左目を、爛々と黄金色に輝かせた。
「おかしいのは、お前さんたちの引いている『嘘の補助線』さ。ロドヴィコ伯爵、お前さんが男爵の利権を狙って裏でコソコソ動いていたのは事実だが……残念ながら、この密室殺人を描き出すほどの『繊細な筆癖』はお前さんにはない」
俺はマスター・ブラシを取り出し、床に落ちた男爵のローブの襟元を優しくなぞった。
「お嬢さん、お前のその優れた猫耳で、この部屋に残された『空気の波長』をもう一度よくデッサン(観察)しておくれ。本当に男爵は、午後九時にここで灰になったのかな?」
「え……?」
フランチェスカが驚き、白銀の猫耳をパタパタと動かして、部屋の四隅のノイズに集中した。
「ああ……! おかしいです。この部屋、男爵の『生体の魔力残渣』が……一週間以上前から、全く残っていません! 今日の午後九時にここで人が消えたなら、もっと生々しい命の絵の具(血液の魔力)が残っているはずなのに……!」
「その通り、正解だ。おじさんの【画家】の左目で、この灰の『筆跡魔力鑑定』をキメてみれば、一発でレイアウトが繋がるのさ」
俺はマスター・ブラシの先端で、へたり込んでいる青年技師ジュリアンの胸元の魔導書をピシャリと指差した。
「ジュリアン、お前さんだ。この灰は、ボルゲーゼ男爵の死体なんかじゃない。お前さんが一週間前に男爵を別の場所(黒のパレットの実験場)で処理し、そのあとで『男爵の魔力波長を混ぜ込んだ、ただの木炭の灰』をこの部屋の仕掛け床に仕込んでおいたのさ。そして、あの『予言画』を描いたのも、お前さん自身だ」
「なッ!何を根拠に……! 僕は、僕はただの技師で、絵なんて――」
ジュリアンの顔から、目を逸らしながら完全に血の気が引いていく。
「お前さんの抱えているその古びた魔導書、インクの調合成分が、あの受付にあった『予言画』の黒い絵の具のブレンドと、1ミリの狂いもなく完全一致(パースペクティブ補正)しているんだよ。お前さんは『闇の調律師』から与えられた時間差の発火術式を使い、午後九時に男爵の叫び声(偽の幻聴音)を再生すると同時に、仕掛け床から灰を噴出させた。誰もが入室できない密室だからこそ、死体の偽装が完璧に成立すると踏んだわけだ」
「お、おのれ……ダ・ヴィンチ……!」
ジュリアンは先ほどまでの弱々しい表情を一変させ、瞳をどす黒い反転魔力で染め上げると、魔導書から漆黒の『呪術の刃』を出現させ、俺の胸元目がけて狂ったように突き出してきた!
「おじさんの大切なタキシードに、そんな汚い絵の具を付けさせないでおくれよ!」
俺がマスター・ブラシで呪術の刃を受け止める。
人間たちの嘘と欲望が完全に暴かれた瞬間、密室のキャンバスは、真犯人とのバチバチの戦闘レイアウト(戦場)へと塗り替えられたのさ――!
### 第四部:フリフリの色彩刃、ドレスを濡らす勝利のワイン(解決編)
## 第七章:密室の黒いキャンバス、ドレスを切り裂くインクの魔獣
「ははははッ! バレてしまっては仕方がない! だが、ダ・ヴィンチ、お前のその忌々しい左目ごと、この『闇の調律師』の特製絵の具で塗り潰してやるよ!」
正体を暴かれた青年魔導技師ジュリアンが狂ったように叫び、胸に抱えた古びた魔導書をガバッと見開き天へと掲げた。
その瞬間、魔導書のページから、ドロドロとした墨汁のような『黒の呪術インク』が滝のように溢れ出し、書斎の大理石の床を急速に侵食していく。黒いインクは意思を持つようにうねり、やがて数条の巨大な触手へと変化し、さらには男爵が灰になった革椅子を取り込んで、巨大な『インクの魔獣』へと急激に膨れ上がった。
「キュィィィィン!!!」
魔獣の全身から放たれる不気味な魔力の摩擦音が、密室の壁に反響し、フランチェスカの白銀の猫耳を激しく貫く。
「う、うあぁぁ! 助けてくれ!」
腰を抜かしたロドヴィコ伯爵が這いつくばって部屋の隅へと逃げ惑う中、魔獣の黒い触手が、鋭い槍のような形状に変形し、俺の胸元へと超高速で突き出された。
「おっと、おじさんの大切なタキシードに触るんじゃないよ!これしかないんだからね!」
俺は右腕の『マスター・ブラシ』を滑らかに一閃させ、魔力の『青い拒絶線』を展開して触手の直撃をギリギリで弾き返した。だが、水中とはまた違う、ドロドロとしたインクの密度の重さが、ブラシを通じて俺の左腕にズシリとのしかかる
「ダヴィンチさん、下がってください! その不気味な泥絵の具は、私が全部切り刻んでみせますから!」
一歩前へと躍り出たのは、高級ドレスに身を包んだフランチェスカだった。
彼女は「……まったく、この靴は騎士のステップの邪魔です!」と怒鳴ると、履いていたハイヒールを両足とも豪快に蹴り脱ぎ、裸足になって大理石の床へと力強く踏み込んだ。
さらに、ロングドレスの長い裾が戦闘の邪魔になると判断するや否や、ショートソードの刃を自らの太もものあたりに当て、純白のフリルが何重にも重なった美しいシルクの裾を、ザシュゥゥゥッ! と躊躇なく斜めに切り裂いたのだ!
「お、お嬢さん、なんという大胆なリメイク(衣装破壊)だい……!」
俺が驚きの声を上げる中、フリルを失って大胆にスリットの入ったドレスから、彼女のしなやかで小麦色の脚が露わになる。背中が大きく開いたドレスの隙間から立ち上るのは、彼女の白銀のプライドが燃え上がらせた、圧倒的な『紅蓮の対魔闘気』だった。
「私の自慢の耳をこれだけキーンと鳴らしてくれたんです……ただで済むと思わないでください、このガラクタモンスターめっ!」
フランチェスカは裸足で床を爆発的に蹴り上げた。
ハイヒールという呪縛から解き放たれた彼女のスピードは、いつもの軽鎧姿の時すらをも凌駕していた。ドレスの残された紺色のシルクが、彼女の残像とともに夜空のカーテンのように美しく宙に翻る。
「ギシャァァァァッ!」
インクの魔獣が激昂し、十数本もの黒い触手を網の目のように展開し、彼女を四方八方から同時に串刺しにせんと襲いかかる。
「お嬢さん、おじさんの精密なデッサン(補助線)をその目に焼き付けな!」
俺はマスター・ブラシを高速で振るい、空気中に無数の『黄金の透視図』を走らせた。魔獣が放つ触手のすべての死角と、インクの術式が交差する『急所の結節点』が、彼女の視界に鮮やかな色彩となって浮かび上がる。
「見えました! 『第一楽章・緋色の輪舞曲』!!」
フランチェスカは空中で身を連続回転させ、ショートソードを嵐のような速度で振るった。
紅蓮の闘気を纏った刃が、迫り来る黒い触手を次々と一刀両断していく。切り落とされたインクの破片が、彼女の白い肌やドレスのフリルに飛び散り、紺と白と赤の、最高にバチバチな『戦闘のパレット』を空間に描き出していく。
「バ、バカな……! なぜ社交界のドレスを着た小娘が、我が『闇の調律師』の呪術魔獣と対等以上に渡り合えるんだ……!?」
魔導書を掲げたジュリアンが、驚愕で顔を歪めて後退りする。
「ははは! お前さんは芸術の本当の恐ろしさを分かっちゃいないねぇ、ジュリアン。お嬢さんのその一閃は、地道な修行のデッサンを何万回と積み重ねて得た、最高に泥臭い『真実の線』なんだよ!」
フランチェスカは魔獣の触手の網を完全に突破し、黄金の線が示す最短距離を、空中から魔獣の脳天へと真っ直ぐに急降下した。
「これで……終わりにしますッ!!! 『対魔・色彩両断』っっっ!!!!!」
彼女の両手から放たれた白銀と紅蓮の巨大な十字の斬撃が、インクの魔獣の巨躯を、その核であるジュリアンの魔導書ごと、真っ二つに完璧に切り裂いた!
**ズバァァァァァァァァァン!!!!!**
凄まじい衝撃波が窓の魔導結界を粉砕し、夜風が書斎の中へと一気に吹き込んできた。
切り裂かれた魔獣は、ただの乾いた黒いスミの粉へと変わり、夜風に吹かれてローマの夜空へと虚しく霧散していった。術式を破壊されたジュリアンは、その場に力なく膝をつき、完全に気絶して白目を剥いていたのさ。
月光が、ボロボロになったドレスを纏い、裸足で息を切らせながらも、勝利の剣を握りしめるフランチェスカの美しすぎる輪郭を、完璧な構図で照らし出していた。
## 第八章:社交界のカーテンコールと、暴かれた陰謀の残響
「ふぅ……実に見事なリペイントだ。お嬢さん、お前はドレスを着ていても、世界で一番強い見習い騎士だよ」
俺はタキシードの襟を正し、彼女の元へと歩み寄った。
「ふぇぇぇ……ダヴィンチさん、ドレスの裾を切っちゃったし、スミまみれになっちゃったし、何より……足の裏が冷たいですぅぅ……」
先ほどまでの鬼神のような強さはどこへやら、フランチェスカは一気にいつもの涙目に戻り、白銀の猫耳を恥ずかしさでパタパタと激しく痙攣させていた。
「伯爵、事件は解決(大団円)だ。男爵は別の場所で消されていたが、このジュリアンの身柄を聖騎士団へ引き渡せば、『闇の調律師』の流通ルートの陰謀もすべて洗い出せるだろう。……ところで、お前さんのその手に持っている、男爵のコレクションの『最高級ヴィンテージワイン』、男爵の冥福を祈って、おじさんたちが有効活用してあげてもいいんじゃないかい?」
俺が眼鏡の奥の目をギラリと光らせると、命を救われたロドヴィコ伯爵は「あ、ああ! 持っていってくれ! 好きなだけ呑んでくれ!」と、ガタガタ震えながらワイン樽の鍵を俺に差し出してきたのだった。
## 第九章:老いたる跳ね馬亭のどんちゃん騒ぎ、真夏の夜の最高のカンパニュラ
その一時間後。
下町の『老いたる跳ね馬亭』は、ボルゲーゼ邸の静まり返ったサスペンスとは正反対の、胃袋と魂がはち切れんばかりの**【特大の大宴会騒ぎ】**の渦に巻き込まれていた。
「――社交界の悪党どもをぶっ飛ばした、ダヴィンチの旦那とドレスの嬢ちゃんに……カンパーイァァァァァッ!!!!!」
マルコ店長の豪快な怒号とともに、店内に集まった宿場町の仲間たち、そして事件の報告を聞いて駆けつけた聖騎士団の面々が一斉にジョッキを掲げた。
**ガシャァァァァァン!!!**
「おいおい、お前ら! 伯爵の蔵からぶんどってきた百年前の『魔導ヴィンテージワイン』だぞ! 遠慮なく樽ごと空けちまいやがれ!」
マルコ店長が、普段の安酒とは違う黄金色の高級ワインを、贅沢に大ジョッキへとドバドバと注ぎ込んでいく。
カウンターの上には、マルコ店長が腕によりをかけて焼き上げた、大人の頭ほどもある『特大ローストビーフ』の山と、8月の熱気を吹き飛ばす冷やしスイカが、最高に美味しそうな色彩で並べられていた。
「にゃ〜お! 高級ワインの匂いだにゃ! ペロペロ……うにゃ〜、酔っ払っちゃったにゃ〜ん!」
ウララちゃんはワインの香りに当てられて、早くも床の上をごろごろと転がり回り、ドワーフの親方の髭を引っ張って遊んでいた。
「もーーーっ! ダヴィンチさん、お肉は美味しいですけど、このドレスのクリーニング代、絶対に伯爵の請求書に上乗せしておいてくださいね!」
スミを綺麗に洗い流し、マルコ店長から借りた大きすぎるエプロンをドレスの上に羽織ったフランチェスカが、大きなローストビーフを頬張りながら、白銀の猫耳をピコピコと嬉しそうに揺らしていた。裸足の足元には、冷たい氷水を入れたタライが置かれており、戦いの熱を気持ちよさそうに冷ましている。
「ははは、いいじゃないか、お嬢さん。お前さんのあのドレスの裾のカット(リメイク)、社交界の新しい流行の最先端になるかもしれないぜ? 8月の真夏の夜だ、これくらい泥臭く笑い飛ばさないと、次の事件のデッサン(計画)も描けないからねぇ」
俺は冷えた高級ワインをグイと煽り、極上の肉を口へと運んだ。真夏の夜風が、跳ね馬亭の特等席を心地よく吹き抜けていく。
『黒のパレット』、そして『闇の調律師』。彼らの引いた不気味な予言画の陰謀は、おじさんたちの万能の左目と、フランチェスカちゃんの泥臭くも美しいフリフリの一閃によって、最高に鮮やかな『勝利の色彩』へと塗り替えられた。
「あ! またダヴィンチさん、ワイングラスを傾けながら空(編集長)に向かって熱く語り合ってる! ほら、マルコ店長が次の特大ローストビーフを持ってきましたよ! 天才の胃袋で、残さず平らげてください!」
「ははは、お嬢さん、お前も一緒に、この終わらない真夏の熱い日常を、最高の笑顔で描き続けようじゃないかい!」
俺たちは高級ワインのグラスを高く掲げ、下町の賑やかな笑い声とともに、まだ見ぬ次のキャンバスへ向かって、どこまでも上げ上げの歓声を響かせるのだった。
完
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。




