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第二話:『二階の隣人の怪死、壁の向こうの盲点パースペクティブ』

新作二話目の投稿です。

誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。

途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。

作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。


では、参ります!!


前編:二階の隣人の怪死、壁の向こうの盲点パースペクティブ(事件勃発編)

第一章:真夜中のノイズ、壁一枚隔てた死のデッサン

「――ミャ〜オ」


おじさんの探偵事務所の古びたソファの上で、愛猫のウララが、真っ白な長い毛をパチパチと静電気で震わせながら、不機嫌そうに声を上げた。

時刻は午前2時。下町の喧騒はとっくに眠りに落ち、『跳ね馬亭』の一階の酒場も今は静まり返っている。ローマの夜霧が、二階の窓ガラスを白く濡らしていた。


「よしよし、ウララ。おじさんも今、この新しい油絵の具の調合比率レイアウトに頭を悩ませていたところさね。……おや、お前も何か『妙な違和感』を感じるかい?」


俺はヨレヨレのシャツの襟首をボリボリと掻きながら、手にした筆を止めた。

いつもなら、この時間でも、俺の部屋のすぐ真隣――引きコモリの老学者、ファブリ伯爵の部屋からは、古い羊皮紙をめくるシャリシャリという音や、彼が愛用する杖が床を突く規則的な『コツン、コツン』という足音が聞こえてくるはずだった。


だが、今夜は奇妙なほど静かだった。静かすぎて、逆に耳の奥が痛くなるような、そんな不穏なパースペクティブ(遠近感)。


(――おかしいねぇ。おじさんの『勘』が、さっきから妙な警報を鳴らしてやがる……)


固有スキル【画家】は、今は全く発動していない。魔力のスキャンも、色彩の強調も何もない、ただの30過ぎのおじさんの生身の五感だ。だが、長年カンヴァスに向き合い、世界の微かな『歪み』を観察し続けてきた俺の直感は、どんな魔法よりも正確に異常を察知する。


その瞬間だった。


「――う、あ、あぁぁっ……!」


隣の部屋の壁の向こうから、押し殺したような、しかし確実に絶望に満ちた【短い悲鳴】が聞こえた。

肉体が激しく床に衝突する、ドサリという鈍い音。そして、ガラガラとガラス瓶が割れる甲高い音が、静寂を切り裂いた。


「ウララ、ここにいなさい!」

俺は筆を投げ捨て、ヨレヨレのシャツを翻して部屋を飛び出した。廊下の冷たい空気が肌を刺す。隣のファブリ伯爵の部屋の前に立ち、真鍮のドアノブを激しく回したが、鍵は内側から固く閉ざされていた。


「おい、ダヴィンチ! 何事だ、こんな夜中に大騒ぎしやがって!」

一階の寝床から、寝巻き姿のマルコ店長が、寝癖だらけの頭を抱えて階段を駆け上がってきた。その手には、護身用の太い薪割り用の斧が握られている。


「店長、いいところに来てくれた! 伯爵の部屋が妙だ。御託はいいから、その斧でこの頑固な扉をぶち破っておくれ!」


「な、何だと!? クソッ、家賃を滞納するだけじゃなくて、今度は夜戦(大騒ぎ)かよ!」

マルコ店長が怒鳴りながら斧を振り下ろす。凄まじい衝撃音とともに、木製の頑丈な扉がバリバリと音を立てて内側へと弾け飛んだ。


俺たちが部屋の中へと突入した瞬間、鼻を突いたのは、甘ったるい、しかしどこか腐敗を予感させる『毒薬』の匂いだった。


第二章:完全密室の毒殺、自殺の色彩を拒絶する天才の目

「ひ、ひえぇぇ……っ! ファブリの親爺、一体どうしちまったんだよ……!」

マルコ店長が、手に持った斧を床に落とし、ガタガタと巨体を震わせた。


部屋の中央、大きな書斎机の前に、老学者ファブリ伯爵が崩れ落ちていた。

彼の顔は苦悶に歪み、唇は青紫色に変色している。机の上には、中身がぶちまけられた小さな薬品瓶と、彼が書きかけだった『古いローマの隠し通路の地図』が広がっていた。その地図の端には、彼の手からこぼれ落ちた羽ペンが、黒いインクの大きなシミを作っている。


窓はすべて内側から真鍮のかんぬきが厳重に落とされ、扉も今、マルコ店長が斧で壊すまでは完全に施錠されていた。

部屋への出入り口は他にない。絵に描いたような【完全密室】だ。


「おい、ダヴィンチ……。これ、どう見ても自分で毒を飲んだ(自殺)んじゃねえか? 窓もドアも閉まってたんだ。悲鳴だって、毒が回って苦しんだ時の声だろ……」

マルコ店長が、青白い顔で俺のヨレヨレの袖を引っ張った。


「いいや、店長。自殺(そんな安っぽい絵の具)じゃないさね。おじさんの『勘』が、これは完璧に、誰かが悪意を持って描いた【冷酷な他殺画】だって言ってるよ」


俺はしゃがみ込み、スキルを使わずに、ただの生身の目で現場の『デッサン』を開始した。

ファブリ伯爵の遺体。彼の右手は、何かを掴もうとするように虚空に伸ばされている。そして、その指先には、黒いインクではない、微かな『緑色の粉末』が付着していた。


「店長、見てごらん。伯爵の愛用していた杖が、机の向こう側……つまり、入り口のドアとは『真逆の方向』に不自然に転がっている。彼がもし、机の上の毒瓶を自分で掴んで飲んだのだとしたら、どうして杖がそんな遠くに飛ぶんだい?」


「そ、それは、苦しんで暴れた拍子に……」


「じゃあ、この『書きかけの地図』の線の歪みはどう説明する? 伯爵は死ぬ直前まで、極めて正確な直線パースペクティブを引いていた。その線が、最後の1センチだけ、まるで『外からの衝撃』に驚いたようにガタガタに乱れている。自分で毒を飲む人間が、線を引いている最中に突然飲むわけがないだろう?」


俺は立ち上がり、伯爵の部屋の壁――つまり、俺の探偵事務所とを隔てている『厚い木壁』に歩み寄った。

壁には、伯爵が趣味で集めていたと思われる、古い油絵が何枚も飾られている。そのうちの一枚、古代ローマの円形闘技場を描いた大きな絵画が、ほんの数ミリだけ、不自然に傾いていることに俺の目は気づいた。


「なるほどねぇ……。犯人は、この密室の『中』には最初からいなかったんだ。壁の向こう、あるいはこの建物の構造そのものの盲点を使って、伯爵に毒を飲ませた……。店長、この下町に、最近ファブリ伯爵と『古い地図の所有権』を巡って激しく争っていた奴はいなかったかい?」


「あ、ある、一人だけいるぜ……!」マルコ店長がハッと目を見開いた。「広場の向かいに店を構えている、偏屈な古美術商の男、チェーザレだ! 奴はファブリの親爺が隠し持っている『地下迷宮の財宝の地図』を、何が何でも手に入れるって息巻いてた!」


「チェーザレ……。よし、その男の顔を、おじさんの頭脳にデッサンしに行くとするかねぇ」

俺はヨレヨレのシャツの裾をワイルドに払い、深夜の闇の中へ、容疑者の影を追って一歩を踏み出した。


第三章:三人の容疑者と、沈黙する壁のパズル

翌朝、夜が明けると同時に、俺とマルコ店長は、『跳ね馬亭』の一階の談話室に、伯爵の死に深く関わっていると思われる【3人の容疑者】を呼び出していた。

まだお嬢さん(フランチェスカちゃん)はお留守番で不在。ここからは、おじさんの純粋な推理力と、容疑者たちの『表情のデッサン』だけが武器の、本格的な心理戦ゲームだ。


第1の容疑者、古美術商のチェーザレ。彼は仕立ての良い黒い上着を着て、終始不機嫌そうにパイプをふかしている。

「くだらん。ファブリの老いぼれが自殺したからと言って、なぜ私がこんな朝早くから呼び出されねばならんのだ。地図なら、奴が自分で死んだ以上、もう私には関係のない話だ」


第2の容疑者、伯爵の甥であり、借金まみれの若者ピエロ。彼はガタガタと貧乏揺すりをしながら、爪を噛んでいる。

「お、叔父さんは自殺だよ! 最近、研究が行き詰まって頭がおかしくなってたんだ! 僕は昨夜、ずっと自分の家で寝ていたんだ、アリバイなら完璧さ!」


第3の容疑者、建物の修繕を担当している大工のマルチェロ。彼は大きな体で腕を組み、泥のついた長靴を床に擦りつけている。

「俺は昨日、二階の廊下の建て付けを直していただけだ。夜の12時には仕事を終えて帰った。伯爵の部屋の鍵は内側から閉まっていたんだろ? 誰も入れるはずがねえ!」


「ははは! みんな、そうやって『完璧な絵画アリバイ』を主張する時ほど、構図の裏側に致命的な塗り残し(ミス)があるものさね」

俺はヨレヨレのシャツのポケットに手を突っ込み、3人の顔をじっくりと見つめた。

スキル【画家】が使えない今の俺には、彼らの上に魔力の色彩は見えない。だが、人間の『嘘』には、必ず肉体的なノイズが伴う。


「チェーザレさん、お前さんは『地図にはもう関係ない』と言ったねぇ。……だけど、どうしてお前さんの右手の人差し指だけが、伯爵の遺体の指先と同じ【緑色の特殊な顔料粉末】で、うっすらと汚れているのかな?」


「な、何だと……っ!?」チェーザレが慌てて右手を隠した。


「そしてピエロくん、お前さんは叔父さんが死んだ時間をなぜ『昨夜』だと知っているんだい? おじさんたちは、店長以外にはまだ【伯爵の死亡推定時刻】を1文字も話していないぜぇ?」


「あ、う……それは、その……!」ピエロの顔から一瞬にして血の気が引いた。


「さらに大工のマルチェロくん。お前さんは『廊下の建て付けを直していた』と言ったが……お前さんが本当に弄っていたのは、廊下じゃない。……おじさんの部屋と、伯爵の部屋を隔てている、あの【二階の壁の裏側の構造】だねぇ?」


「く、クソがッ!!」

マルチェロが突然椅子を蹴り飛ばし、談話室の窓を突き破って外へと飛び出そうとした!


「逃がすかよッ!!」マルコ店長が巨体を活かしてタックルをかまし、マルチェロを床へと組み伏せた。

これで容疑者たちの嘘のアリバイは、おじさんの生身の『推理力と勘』だけで、綺麗にベリベリと剥ぎ取られたわけだ!


だが、本当のサスペンスの迷宮はここからだ。

容疑者たちの嘘は暴いた。しかし、【完全密室の中で、壁の向こうからどうやって伯爵を毒殺したのか】という、物理的な密室トリックの謎は、まだ1ミリも解き明かされていない――!


全二部作の前編、終了。

スキル完全封印のヨレヨレおじさんは、たった3つの「生身の観察(杖、インク、指の汚れ)」から、3人の容疑者たちの心理的な嘘を完全に見抜いてみせた!

しかし、密室の壁の向こうから放たれた『見えない毒殺の手口』とは一体何なのか!?

物語はいよいよ、後編(解決編)へ向かって、おじさんの脳細胞1000%の極限のロジックが、壁の盲点を完全にぶち破る!


(第二話・前編 了)



第二話:『二階の隣人の怪死、壁の向こうの盲点パースペクティブ』

後編:二階の隣人の怪死、壁の向こうの盲点パースペクティブ(解決編)

第四章:傾いた闘技場、壁の裏に潜む『見えない筆跡』

「おい、ダヴィンチ! マルチェロの野郎の身柄は、俺がこの太い腕でガッチリ押さえてるぜ! だがよ、奴らの嘘が暴かれたからって、この完全密室の手口が解けなきゃ、お上の憲兵どもは納得しねえぞ!」


『跳ね馬亭』の一階談話室。床に組み伏せられた大工のマルチェロと、青ざめて震えるチェーザレ、ピエロの3人を前に、マルコ店長が鼻息荒く叫んだ。

外からは、下町の朝の喧騒が聞こえ始めている。お嬢さんがお留守番のこの事務所で、俺は一人、ヨレヨレのシャツの袖で額の汗を拭った。


「ははは! 焦るんじゃないよ、店長。パズルっていうのはね、ピースが足りないんじゃなくて、僕たちの『視点パースペクティブ』が固定されすぎているから解けないのさ。……さあ、もう一度、あの二階の伯爵の部屋へ戻って、壁のデッサンを仕上げようじゃないかい」


俺たちは再び、扉の壊れたファブリ伯爵の部屋へと足を踏み入れた。

朝の光が差し込み、老学者の冷たくなった遺体と、机の上の『書きかけの地図』を白々と照らし出している。


「いいかい、みんな。犯人はこの部屋の鍵を開けて中に入ったんじゃない。……最初から【壁の向こう側】、つまり、おじさんの探偵事務所の側から、この密室の罠を仕掛けたんだよ」


俺は壁に飾られた、あのほんの数ミリだけ傾いていた『古代ローマの円形闘技場』の大きな油絵の前に立った。

スキル【画家】は発動していない。だが、俺の『勘』と『画家の目』は、その絵画の額縁の裏側に、奇妙な連続性を捉えていた。


「大工のマルチェロくん。お前さんは昨日、廊下の建て付けを直すフリをして、おじさんの部屋とこの部屋を隔てる木壁の芯柱を一本、綺麗に切り抜いたねぇ。……そして、この重い油絵の額縁の裏に、一本の【細い真鍮製のパイプ】を通すための小さな穴を開けた」


「な、何を馬鹿なことを……!」床のマルチェロが声を枯らして遮ろうとする。


「しらばっくれても無駄さね。伯爵の指先についていた『緑色の顔料粉末』……それは、この油絵の闘技場の『草原の部分』を修復するために、古美術商のチェーザレさんが調達した、極めて特殊な毒性の強い鉱物顔料【砒素ひその緑】だ。お前たちは、その真鍮のパイプの先端に、この毒の粉末をたっぷり仕込んだのさ。……壁の向こう、おじさんの事務所の側からね」


「だがよ、ダヴィンチ!」マルコ店長が首を傾げた。「壁に穴を開けてパイプを通したって、机に向かってる伯爵の口に、どうやって正確に毒を飲ませるんだよ? 伯爵は動いてるんだぜ?」


「そこが、このトリックの最も美しく、最も冷酷な『構図パースペクティブ』なのさ、店長」


俺は伯爵が座っていた椅子に腰掛け、彼の死の瞬間を、自分の肉体を使って正確にトレース(デッサン)し始めた。


第五章:最後の1センチ、音と重力が引いた殺意の直線

「ファブリ伯爵は、極めて規則正しい生活を送る学者だった。毎晩、午前2時になると、この机に向かって正確な地図の線を引く。……そして、彼にはもう一つ、絶対に欠かせない『癖』があった。それは、集中が行き詰まると、愛用の杖で床を【コツン、コツン】と突いて、思考のリズムを整えることさ」


俺は床に転がっていた伯爵の杖を拾い上げ、床を二回、突いてみせた。

乾いた木音が、静かな部屋に響く。


「おじさんの部屋には、毎晩その音が壁を通じて聞こえていた。……ということは、壁の向こうにいるマルチェロくんたちにも、その音はクッキリと聞こえていたわけだねぇ。彼らは、その『音のパースペクティブ』を利用して、伯爵が今、机の上の【どの位置に頭を置いているか】を完全に把握していたのさ!」


「あ……!」マルコ店長が声を上げた。


「昨日、伯爵が地図の最後の直線を引いていたその瞬間。マルチェロくんは壁の向こうから、あらかじめ伯爵の『口元』の高さに合わせて設置していた真鍮のパイプに、大工用の【強力な空気圧の蛇腹ブロワー】を繋ぎ、一気に空気を送り込んだんだ! パイプの先端は、この傾いた油絵の『キャンバスのキャンバスの糸の隙間』に隠されていた。……そう、絵の中から突然、目に見えない【毒の突風】が、伯爵の顔面に向けて吹き付けられたのさ!」


「――っ!!!」

容疑者3人の顔が、完全に文字通りの『死相』へと染まった。


「伯爵は驚いて息を呑んだ。その瞬間に、空気中に飛散した【砒素の緑】が、彼の口と鼻から大量に肺へと吸い込まれたんだよ! 地図の線が最後の1センチだけガタガタに歪んでいたのは、突風に驚いて手元が狂ったからだ! そして、突然の劇薬の激痛に襲われた伯爵は、反射的に手に持っていた杖を犯人のいる『壁の方向』に向けて投げつけ、机の上の薬品瓶をひっくり返しながら、短い悲鳴を上げて絶命した……! 犯人は、伯爵が倒れた音を確認すると、壁の向こうからパイプをシュッと引き抜き、穴を隠すために油絵を少しだけ傾けた。……これが、お前たちが描いた『完全密室の毒殺画』の全貌さね!」


「う、うわあああああああッッッ!!!!」

甥のピエロが頭を抱えて叫び、古美術商のチェーザレは持っていたパイプを床に落としてガタガタと震え出した。


魔法も、スキルも、異能のインクも一切ない。

ただの音の響き、画材の毒性、そして人間の行動の規則性。それらを見事に繋ぎ合わせた、ヨレヨレ探偵の圧倒的な『純粋なる推理力』の前に、二階の壁を隔てた完全密室のペテンは、完全にその骨組みを白日の下に晒されたのだ!


第六章:未完のキャンバス、闇へ溶け去る黒い絵の具

「……見事だな、レオナルド・ダ・ヴィンチ」


床に組み伏せられていた大工のマルチェロが、突然、低く、冷酷な笑い声を漏らした。

彼の身体から、先ほどまでの「しがない大工」の気配が消え失せ、底知れない漆黒の魔力が、ドロドロと衣服から染み出し始める。


「な、なんだこの不気味な魔力は……!? マルチェロ、てめえ大工じゃねえな!?」マルコ店長が驚いて飛び退いた。


「フフフ……。まさか、魔法のスキルも持たないただの売れない絵描きに、ここまで完璧に我らの『パースペクティブ』を見破られるとはな。……だが、ファブリの老いぼれが死んだ以上、あの『地下迷宮の財宝の地図』の価値は失われた。我らの目的は、半分は達成されたのだよ」


「……おや。お前さん、第一話のあの『黒魔術の魔術師』と同じ【鏡の国の残響】の刺青が、首元にチラリと視えているぜぇ?」

俺はヨレヨレのシャツのポケットに手を突っ込んだまま、冷たい目でマルチェロを睨みつけた。


「そうだ。我らは闇の中に生き、ローマの古い血を入れ替える者。……万能の探偵よ、今回はその冴えた脳細胞に免じて、猫一匹の時のように大人しく退散してやる。だが、忘れるな。お前がそのヨレヨレのシャツを着て真実を追い続ける限り、我が組織の影は、いつでもお前のカンヴァスを黒く塗り潰しに現れるぞ!」


「――『強制転移・極夜ミッドナイト』!!」


マルチェロの身体が、突如として激しい漆黒の渦に巻き込まれた。

第一話の時と全く同じ、空間をベキベキと引き裂くおぞましい魔力の嵐。マルコ店長が斧を振り下ろしたが、その刃は空しく空を切る。

黒いインクが水に溶けるように、マルチェロ、そして共犯者であったチェーザレとピエロの3人の身体は、激しい光とともに、その場から完全に消え失せて(ワープして)しまった。


部屋に残されたのは、割れたガラス瓶の破片と、主を失った古い地図、そして傾いた油絵だけだった。


「クソがッ!! またあのトカゲ野郎ども、魔法で逃げやがったか!!」

マルコ店長が悔しそうに床をドンと踏みつけた。


「ははは、いいじゃないかい、店長。犯人どもは捕まらなかった(未完の傑作)が……おじさんたちの『二階の安心』は取り戻せたんだからねぇ」


俺はヨレヨレのシャツの裾をパタパタと振りながら、窓の外を見つめた。

ローマの街に、爽やかな朝陽が昇り始めている。お留守番をしているお嬢さんの、あの白銀の猫耳が、今頃「ダヴィンチさん、遅いです!」と怒ってピコピコ動いているのが、目に浮かぶようだ。


「さて、ウララ。おじさんはこれから、破られた扉の修理代をマルコ店長に請求される前に、お嬢さんの待つ事務所へ帰って、とびきり美味い朝飯のデッサンでも始めるとするよ……」


スキルも魔法もない世界で、純粋な知恵と勘だけで密室の壁をぶち破った名探偵。

彼の画筆は、ローマの街に蠢く巨大な闇の組織を捉えるまで、決して止まることはないのだ――。


(第二話:『二階の隣人の怪死、壁の向こうの盲点パースペクティブ』 ――完――)

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。

よろしくお願いします。

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